交流回路で一番重要なのは、キルヒホフの電位に関するルール(回路に沿った電位の合計が0になる)が、単純なスカラー和でなく、三角関数の和、つまりベクトル和になっていることです。
例えば、交流100(V)の電源にコイルと抵抗が直列で連結されているとき、コイルの両端の電圧が60(V)なら、抵抗の両端の電圧は何(V)でしょうか?
100=60+40だから、40(V)と答えると、×です。
正しい答は次の通りです。
横向きに抵抗の電圧のベクトルを描き、縦向きにコイルの電圧60(V)のベクトルを描き、その合成した斜めのベクトルを全体の電圧100(V)として書き込みます。
この図から、横向きのベクトルの大きさが80(V)だとわかりますね。
交流では100=60+80が正しいのです。
より正確に書けば、
ななめに100=横に80+縦に60
ですね。
これが、交流での電圧の足し算になります。
どういうことか、順を追って説明していきましょう。
交流回路の理論は、高校普通科では三角関数の重ね合わせ(合成)により教えるのが標準的です。大学入試でも当然、この方法に準じた出題がなされますから、受験生のみなさんは三角関数の扱いに慣れておく必要があります。
ただ、三角関数の合成を用いた場合、計算に時間がかかり、見通しもたちにくいという難点があります。また、最終的なインピーダンスの式は合成の最終段階で登場するので、具体的な回路の問題を解くには不向きです。
最近の大学入試では交流回路の計算問題の出題率は低いので、交流回路が苦手でもそれほど気にすることはありません。
しかし、絶対出題されないとはいいきれませんので、余裕があれば身につけておくとよいですね。じつは、三角関数の重ね合わせでなく、数学的に同等な動径ベクトルの合成を用いれば、交流回路の問題は非常に簡単に解けます。
その両方の方法を確認していきます。
プリントの前半では、三角関数の重ね合わせ、動径ベクトルの合成、両方のやりかたでインピーダンスの式を求める方法を学びます。
どちらも数学的に同等なのですが、動径ベクトルを用いた方がはるかに簡単です。
プリントの後半では、以前発信回路を扱ったときに登場した固有振動数(周波数)の式を、RLC直列回路の共振周波数として求める方法を扱っています。また、交流回路の実際の計算例や、並列回路のときの扱い(難しいので、めったに受験で扱われることはありません)を紹介しています。
では、書き込みを見て行きましょう。
<方法A>単振動(三角関数)の重ね合わせ
asinθ+bcosθの和は数学の授業でとっくに習得済みのはずですが、念のため紹介しています。(書き込みの右側)
これを応用して三つの電圧の足し算を実行します。(書き込みの左側)
これは計算をみていただければ一目瞭然ですので、ここで重ねて解説することは省きます。
<方法B>動径ベクトルの合成
三つの電圧の動径ベクトルRI、ωLI、(1/ωC)Iをベクトル合成することで、全体の電圧V=ZIを簡単に求められます。さらにうれしいのは、電流と電圧の位相差αについて、どちらがどれだけ進んでいるか(おくれているか)、図を描くとすぐにわかることですね。
なお、大学で回路の理論を学ぶと、動径ベクトルの合成を複素数を利用して実行するという第3の方法も登場します。数学的に複素数でベクトルの代用ができますから、それをうまく利用した方法ですね。(さすがにそこまでは紹介していません)
3共振では、インピーダンスの式で振動数を変化させたとき、最大電流が流れる振動数がいくらになるかを求めています。この結果の式を覚えるより、ωL=(1/ωC)となるωが共振角振動数であると、物理現象として理解しておいた方がいいでしょう。
4例題は普通の解き方を紹介していますが、本当は(5)に描いたように動径ベクトルの図を最初から描いて求めた方がラクです。実際、位相差はこのやり方で求めた方が圧倒的にラクチンですね。
(2)のZの値も、横に2000、縦に2000なのですから、図を描けば斜めのZは2000√2であることはあきらかですね。
5の並列回路のインピーダンスは、R、L、Cすべてに共通するのが電圧なので、電圧をサインであらわしたときのそれぞれの電流をサイン、コサインであらわして重ね合わせる作業により求めることができます。
並列回路の問題が大学入試で問われることはめったにないので、一応オマケとして紹介しています。この場合も、動径ベクトルを使えばより簡単に求められます。
一番最初に例としてあげた、100=60+80の謎が、これで解けたと思います。
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