こちらはテスラを配した科学者タロットの「13 死神」。大鎌を持つガイコツの死神のイメージは、キリスト教的なものではなく、ヨーロッパの民間宗教、つまり、キリスト今日以前のイメージでしょう。
テスラの様々な研究テーマの中には「地震誘発器」や「殺人光線」があったといわれますから、「死神」のカードにふさわしい(?)トリックスター的科学者ですね。
さて、交流回路の理論は、高校物理では扱いに困るテーマですね。本格的に扱うには微分方程式が必要ですが、それは高校では扱えません。でも、それを使わないと理解しづらいコンデンサーやコイルで電流と電圧の位相がずれる性質は、当たり前のように登場し、詳しい計算も行われます。
さらに、交流回路の理論は三角関数の重ね合わせが基本ですが、これを動径ベクトルの合成という方法で行うやりかたもあります。インピーダンスの式は、このどちらでも理解できますが、以前の教科書はその詳しい説明が書かれていませんでした。ぼくのプリントではもうずっと前からこの説明をきちんと行っていますが、教科書にそれが載るようになったのは、スギさんたちが書いた教科書あたりからでしょうか。(この教科書にはぼくのプリントの内容がけっこう使われていますが、ぼくは直接タッチしていません)
では、プリントを見ながら、簡単に解説していきます。
前回のプリント「交流」で説明した内容を、1の「抵抗」のところでまとめ直しています。
2の「コンデンサー」では、コンデンサーの極板に電荷が溜まるのに時間がかかることから、電流の動きに対して電荷(したがって、V=Q/Cであらわされる電圧V)の変化が少しおくれる、という物理イメージでの説明を行っています。もう少し詳しくいうと、電流の出入りにより極板の電荷が変化する関係です。もちろん、その遅れがなぜ4分の1周期になるのかは、定性的に説明することができません。
したがって、電圧がサインで変化する場合、それより4分の1周期はやく揺れる電流はコサインの変化になります。
これらをきちんと理解するには、やはり、微分を使う必要が出てきます。(理系の3年生ですので、ぼくはオマケとして、微分を使って教えていますが)
高校レベルでは、これらの定性的なイメージを用いて、コンデンサーでは電圧が電流より位相が2πの4分の1、つまりπ/2だけおくれることを用いられれば、よしとしましょう。
ところで、のちのRLC直列回路の理論につなげるためには、このグラフと式のままではマズいのです。
直列回路では、抵抗、コンデンサー、コイルには共通の電流が流れますので、電流の揺れをサインで共通にあらわす必要があります。
そこで、電圧と電流の三角関数のグラフを見て、電流がサインであらわされるとき、電圧がなにになるかを示す必要があります。(のちの書き込みプリントをごらんください)
同様に、3のコイルも、電圧に対し電流の位相がずれます。この場合はコンデンサーの逆で、電流が電圧より揺れが4分の1周期(つまり位相では2πの4分の1、つまりπ/2)おくれます。電流の変化により起電力が生じるので、電圧と電流の変化が関連しています。
この位相のずれも、微分を用いないと理解は難しいでしょう。
高校物理では、これらの位相の変化についての解説はあきらめ(微分を用いておまけとしてやることはできます)、その結果だけを用いて、交流回路の理論を学びます。
RLC直列回路ではさきほど書いたように、電流が共通なので、電流をサインであらわしたとき、コンデンサーとコイルの電圧がなにになるかが重要です。
では、書き込んだプリントを見ながら、説明していきます。
1は抵抗Rと交流。
(1)電圧と電流に位相差は生じません。また、オームの法則によりV=RIとなります。
(2)消費電力は電圧と電流の最大値をかけた値の半分になります。
2はコンデンサーCと交流。
(1)電流と電圧の位相差はπ/2で、電流の方が電圧より進んでいます。数式で、電圧vがサインのとき、電流iはコサインとなります。それをグラフで書くと、右側の三角関数グラフ。原点をずらしてiがサインになるようにすると、vはマイナスコサインになります。
数学的には、単振動は等速円運動の射影であらわすことができます。ここでは、vとiの最大値を動径ベクトル(回転する矢印)として、グラフの左側の円に描いてあります。それぞれのグラフの時刻0のところが、それぞれの動径ベクトルの出発点になります。円の動径を見ると、電流の動径の方が、電圧の動径より角度にしてπ/2(つまり90度)先を進んでいるのがわかります。つまり、電流の方が電圧より「π/2進んでいる」わけです。
さらに、オームの法則に似た関係も登場します。V=(1/ωC)I。この(1/ωC)はリアクタンスといい、交流回路でのコンデンサーの抵抗値にあたるものになります。
この値は、コンデンサーの回路について微分方程式を解かないと出てきません。
(2)消費電力はグラフのように刻一刻変化しますが、1周期にわたって平均をとると0になります。つまり、理想的なコンデンサーでは電力を消費して熱などが発生することはありません。(現実のコンデンサーは内部抵抗を持っていますから、発熱します)
3はコイルと交流。
(1)電流と電圧の位相差はπ/2で、電流の方が電圧よりおくれています。数式で、電圧vがサインのとき、電流iはマイナスコサインとなります。それをグラフで書くと、右側の三角関数グラフ。原点をずらしてiがサインになるようにすると、vはコサインになります。
動径ベクトルの図を見ると、電流の動径の方が、電圧の動径より角度にしてπ/2(つまり90度)後を進んでいるのがわかります。つまり、電流の方が電圧より「π/2おくれている」わけです。
コイルでも、オームの法則に似た関係も登場します。V=(ωL)I。この(ωL)はリアクタンスといい、交流回路でのコイルの抵抗値にあたるものになります。
この値は、コイルの回路について微分方程式を解かないと出てきません。
(2)消費電力はグラフのように刻一刻変化しますが、1周期にわたって平均をとると0になります。つまり、理想的なコイルでは電力を消費して熱などが発生することはありません。(現実のコイルは内部抵抗を持っていますから、発熱します)
4は抵抗・コンデンサー・コイルの直列回路と交流。
(1)直列回路でまとめて考えるための基礎として、2と3のグラフをiをサインであらわしたときのvのグラフとして書き直す作業を、グラフを選ぶ問題として扱っています。もちろん、自分で判断した方が理解につながるからです。
(2)これらのグラフを一つにまとめます。これはキルヒホッフの法則でいえば、全体の電圧vが、それぞれの電圧の和になるからです。しかし、直列回路と違い、それぞれの電圧は三角関数で振動する単振動の変位を持っているので、単純な足し算にはならず、三角関数の和になります。グラフでは、それぞれの電圧のグラフの重ね合わせとなります。
これらの重ね合わせ作業(グラフでも、実際の計算でも)は、けっこう大変で、見通しがつきにくいので、動径ベクトルを使った方が簡単です。それが、左側の円。それぞれの単振動が数学的に動径ベクトルであらわされることから、右のグラフでの三角関数の重ね合わせは、数学的には左の円の動径ベクトルの合成に当たります。これなら、簡単ですね。
これらの作業を実際に行うことでRLC直列回路の電流と電圧の位相差や、抵抗にあたるインピーダンスという値を知ることができます。これは、次のプリントで行いましょう。
では、このへんで。
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