物理ネコ教室263半導体素子 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

 

 高校の物理の教科書には登場しないエルヴィン・シュレーディンガーは、波動方程式で有名な量子力学の建設者の一人。シュレーディンガーは、オーストリアのウイーン生まれです。

 

 粒子の力学を、波動性による波動力学へと変えるべきだと主張し、プランクの光子、ド・ブロイの電子波を光学の方程式に適用して、シュレーディンガー方程式をつくり、様々な問題解決の糸口を作った人です。量子力学の基本的道具の一つである「波動関数」は彼の創案。

 

 波動関数の記号をギリシャ文字の「Ψ」を用いて表すのは、シュレーディンガーがやったのを今でもまねているわけですね。

 量子力学は研究されるやさっそく技術面で応用されましたが、このスピードは他の分野ではなかなか見られないものではないでしょうか。

 

 さて、ショックレーの点接触型トランジスタは、後のNPNトランジスタやPNPトランジスタの原型ですが、それまで使われていた真空管と同様な性能を、はるかに小型の部品で可能にするものでした。真空管のふるまいは古典理論(つまりそれまでの物理学)で完全に説明できたのですが、半導体を用いたトランジスタのふるまいは、古典理論では歯が立ちません。ボーア、シュレーディンガー、ハイゼンベルクらの作り上げた新しい量子力学でなければ、理解できないのです。

 

 特に化学の分野では実際に様々な材料を扱いますから、物理を専門にする人以上に、量子力学が必要となります。物理を専攻する人はまず古典理論をじっくり学び、3年生くらいから量子力学に入っていくのですが、化学を専攻する人はそんな悠長なことをやっていられません。最初から、わかるわからないにかかわらず、量子力学の結果がどんどん入ってきます。

 

 高校でも状況は似ています。化学の授業では、原子の軌道のK核とかL核とかが登場しますが、これは本格的な量子力学の結果わかったことで、高校の物理のレベルをはるかに超えています。つまり、化学の授業では物理の授業よりも進んだ物理学の結果を学んでいることになります。

 

 さて、そろそろ本題にもどりましょう。

 

 記事の更新をもっとひんぱんにたくさんやってほしいと要望を受けたのですが、なにぶん、こちらもこの時期は、テスト問題を作ったりして手が空きません。

 

 できる範囲で更新しますね。なるべくすみやかに。でも、のんびりと。

 

 さあ、半導体の続きです。

 まず、プリントの前半後半をまとめて見てもらいましょうか。

 

 1はダイオードの原理。ダイオードで、なぜ一方通行にしか電流が流れないのかを、高校生にわかるレベルで説明しています。

 2はトランジスタの紹介。

 3がトランジスタの原理です。

 4は集積回路の簡単な紹介ですが、このへんの記述は最近の教科書でもあまり変化がなく、どうかなと思います。まあ、情報という授業がありますから、最近の技術については、そちらでということなのでしょうか。

 

 ぼくのプリントは、生徒が混乱しないように、なるべく教科書の内容につかず離れずつくるようにしています。いまどきICとかLSIでもないと思うのですが・・・

 

 では、書き込みを見ながら、少し解説しておきます。

 

 

 1はダイオードの原理。

 

 再結合というのは、わかりやすい考え方です。空席(正孔ホール)と客(電子)が出会う(再結合する)と、客が席について、空席が消えるという発想ですね。

 

 この例え話は、次のトランジスタの原理で、かなり有効に働きます。

 

 ダイオードに逆方向の電圧をかけると、空乏層が境界面にでき、それがコンデンサーとなって電池の電圧とつりあい、電流が流れなくなるという説明は、昔の教科書には書いてなかったので、ぼくのプリントでは独自に取り上げていました。

 最近は教科書にこういう記述を見かけるようになりましたので、一安心です。

 

 (例)の整流のグラフ問題は、センターレベルでもよく見かけます。そんなに難しくないのですが、ダイオード自体についてちゃんと学んだことがない生徒には、キビシイ出題ですね。

 

 2はトランジスタの紹介。

 

 そもそも最初のトランジスタは、ショックレーの点接触型トランジスタ。

 

 N型半導体の両端に電圧をかけ、半導体の真ん中にピンの先を押し当てて、ピンと半導体の一端の間に電圧をかけてみたら、現在のトランジスタと同じ働きをするものができた・・・というものです。

 

 これは、ピンの先端部にふれている半導体がP型になり、結果的にNPNトランジスタができたのですね。

 

 ピンを接触させるタイプの初期トランジスタは安定性が悪く、よく故障したといいます。

 

 その後、真ん中のP型半導体の層を非常に薄く作って、その両側をN型半導体ではさむNPNトランジスタが作られ、動作が安定しました。(PNPとはさむタイプもあります)

 

 

 

 書き込みといっても、プリントの後半は書き込む場所がありません。ちょっとマーカーで色をつけるくらいです。

 

 もはや、半導体素子の基礎技術も時代遅れですので、入試でもあまり登場しなくなりました。

 

 時代と共に消えていく項目もあるということです。(ぼくの場合は、高校生時代に半導体トランジスタのかわりに、真空管の電流増幅器の原理を学びました。今の物理教科書には跡形もありません)

 

 3のトランジスタの原理で、ベース電流を流すと本体のNPNに今まで流れなかった電流が流れることを解説しています。

 

 これは、P→Nの向きには電流が流れることをうまく利用したしくみで、さきほどダイオードのところで触れた「空席とお客さんの出合い」を逆用した装置です。

 

 (b)の図を見てください。

 

 真ん中のベースBと右側のエミッターEの間にB→Eと電流が流れるように電池をつなぐと、P型半導体のベースB内では、過剰な正孔(ホール)つまり空席が電場の向きつまりB→Eの向きに動き、N型半導体のエミッターE内では、過剰な電子つまりお客が電場と逆向きつまりE→Bの向きに動きます。

 当然、接合面でホールと電子が出会って再結合し、消えることになるのですが・・・

 

 ここで、ベースBを非常に薄く作ってあることに気をつけて下さい。

 

 正孔と電子が出会うことで再結合が起こり、どちらも消滅するんですが・・・

 

 ベースBがあまりにも狭いので、ベースに飛び込んだ電子の中には、出会うはずの正孔を見つけられず、そのまま勢い余って向こう側、つまりコレクタCに流れ込んでしまうものが現れます。

 

 陸上競技でも、バトンを受け渡せる場所はごく狭い範囲になっていて、ときどき受け渡しできなくなることがありますね。あれと同じです。

 

 空席を見つけようと勢いよく飛び込んできたお客さんたちの中には、この狭い幅の間では、自分が座れる空席を見つけられる幸運に恵まれる人は少ないでしょうね。空席を見つけられなかったお客さんは、そのまま勢い余って、向こう側へ出て行ってしまうこともあるでしょう。

 

 CとBの間には電位差の壁のようなものがあるのですが、勢いよくやってきた電子はそれを超えてしまいます。

 

 堤防も、一箇所が決壊するとまたたくまに全体が崩れますが、ここでも同様な現象が起きます。

 

 接合面の壁を勢い余った電子が乗り越え出すと、その壁が低くなり、乗り越えやすくなります。そうすると、もともと全体にかかっていた電圧により移動したがっていた電子が次々に移動し始めます。

 

 ベースBエミッターE間に電流を流すことで、コレクタC〜エミッターE間にも電流が流れるようになります。こちらは、BE間より強い電池がつないでありますから、流れる電流も大量です。

 

 しかし、BE間に流れる電流(ベース電流といいます)の量により、堤防の決壊の仕方が決まるので、CE間に流れる電流(コレクタ電流といいます)の量はベース電流の量に敏感に反応します。

 

 コレクタ電流が(電流の量はベース電流の何十倍も大きいのですが)ベース電流の変化をそもまま再現できるほどです。

 

 この性質は、増幅器(アンプ)として使われます。

 

 また、ベース電流のオンオフで、コレクタ電流のオンオフも左右できます。つまり、電流制御ができますね。いいかえると、入力の信号が、出力の信号を制御できていることになります。

 

 トランジスタをうまく組み合わせれば、二つの入力信号がオンなら出力がオンになるが、それ以外では出力がオフになる装置が作れます。

 これが、論理回路の「アンド回路」です。同様に「オア回路」もできますから、これらの組み合わせで、コンピューターのような論理演算が可能になりますね。

 

 なお、最初に書いたように、増幅器の機能も電流制御の機能も、もともとは真空管やリレー(電磁石を用いたオンオフ装置)が担っていたものです。

 

 最初のコンピューターは体育館ほどある巨大なもので、何万個もの真空管やリレーの一つ一つに不備がないかどうか、点検にひどく時間がかかりました。

 

 半導体の登場で、それが小型化され、やがて非常に安定するようになったのですね。

 

 ぼくたちが今、スマホをコンピュータ代わりに使っているのも、量子力学のおかげというわけです。

 

 

関連記事

 

交流<物理ネコ教室3年>

255交流

257交流回路

258交流回路と共振

260(補)交流の発生

261(補)交流回路の理論〜微分積分による

262半導体

263半導体素子

 

 

〜ミオくんと科探隊 サイトマップ〜

このサイト「ミオくんとなんでも科学探究隊」のサイトマップ一覧です。

 

 

***   お知らせ   ***

 

日本評論社のウェブサイトで連載した『さりと12のひみつ』電子本(Kindle版)

Amazonへのリンクは下のバナーで。

 

 

 

『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。

 

 

『いきいき物理マンガで実験〜ミオくんとなんでも科学探究隊・実験編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。