イラストは量子論の先駆者、デンマークのニールス・ボーア。ぼくの『いきいき物理マンガで実験』『いきいき物理マンガで冒険』にも登場してもらっています。マンガ版のキャラは、また別の記事で登場してもらいましょう。
量子力学の始まりはプランクとアインシュタインによる光量子(光子)がきっかけですが、原子のエネルギーが連続ではなく、とびとびの定常状態からなるという類い希な発想は、ボーアの創案です。量子力学の本格的な夜明けはボーアによってもたらされたといえるでしょう。
この量子論の研究は、すぐに半導体の技術に応用されるようになりました。それまで主流だった真空管技術に変わり、半導体技術が急速な勢いで発展します。それを学んだ日本の研究者がトランジスタラジオを作り、世界中に広めたことが、日本経済の復興を支えたのは有名な話です。
本当は半導体の話は、ボーアの水素原子モデルが終わってから扱うべきです。でも、電気回路を扱うときにダイオードが登場するため、やむをえず、電気回路が終わった時点で扱うようにしています。
量子力学の結果である「エネルギーバンド理論」も話の都合上、登場しますが、ここではその背景については語れません。ボーアの水素原子モデルを扱った後なら、だいたいのイメージがつかめるのですが。
262半導体、263半導体素子の2枚が続きになっています。
まず、262半導体は、半導体についての基本的知識が中心です。
まずは不純物半導体の説明です。一口に半導体といいますが、実際に電子部品として使われている半導体は、ほとんどすべて不純物の混じった半導体です。不純物を入れることで電気をはこぶ「キャリア」が生まれ、それによりさまざまな性質が生まれるのです。
キャリアが電子なのがネガティブタイプつまりN型の半導体。キャリアが正孔(ホール)なのがポジティブタイプつまりP型の半導体です。ホールという概念はなかなか分かりづらいのですが、電子が動くことで空席が電子と逆向きに動くので、その空席が正電荷の粒子のように見えることから、正孔(正電荷をもつ穴)と呼ばれるのです。
エネルギーバンド理論もちょっとだけ紹介。純粋な半導体は熱など外部からエネルギーをもらうと、エネルギーの高い伝導体へ電子が移ることができます。半導体の「半」は、導電性が絶縁体と導体の中間ということではなく、条件次第で絶縁体にも導体にもなるという意味としてとらえた方が、半導体の性質がよくわかるでしょう。
最後のダイオードについては、簡単な性質を紹介していますが、そのメカニズムについては、次の263半導体素子で扱っています。P型半導体とN型半導体を組み合わせた装置ですが、P→Nの向きにしか、電流が流れません。
では、書き込みを見ていきましょう。
2.の電気抵抗による分類は、半導体の性質を理解する上で重要です。通常の金属は熱運動する原子(陽イオン)が自由電子の流れをジャマすることで電気抵抗が生じますから、温度が上がると電気抵抗が大きくなります。
しかし、半導体では温度が上がると充満帯のエネルギーバンドにあった電子が少し上にある伝導体のエネルギーバンドへ遷移して、電流が流れやすくなりますから、電気抵抗が小さくなるんですね。
電子の電導についてのしくみがまったく異なるので、注意して下さい。
不純物を入れると、電子対を作って結合するとき、不純物が5価のイオンの場合は電子が1個あまります。この余った電子が自由に動けるようになって、電流のキャリアになります。電子は負電荷を持っているので、ネガティブ(マイナス)のキャリアです。
不純物が3価のイオンのときは、電子対を作ったとき、電子が1個足りなくなるので、電子対の場所に空席が1つできます。近くの電子がこの空席に移ると、空席は電子と逆向きに動くことになりますね。空席の動きは電子の動きと逆で、電場の向きに移動するので、まるで正電荷のように振る舞います。だからポジティブ(プラス)のキャリアなんですね。
最近の教科書には、技術の進歩に合わせて、化合物半導体も紹介されています。こちらは、なんと半導体をいっさい使いません。3価と5価の原子をほぼ半々に結合させることで電子対を作り、4価の半導体だけで電子対を作ったときの状態に近づけます。3価の原子数と5価の原子数をほんのすこしバランスを崩すことで、N型、P型の半導体と同様に、電子もしくは正孔(ホール)をキャリアとすることができます。
半導体を使わずに半導体の役割をさせるというのは、面白い発想ですね。
量子力学的な説明を詳しくするわけではないので、ここでは特にN型半導体、P型半導体の基本知識を得ることが目的になります。授業自体は、エネルギーバンド理論に深入りせず、かる〜く行うのがよいでしょう。
では、このへんで。次の263では、ダイオードとトランジスタの原理を扱います。
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