メインフレーム全盛時代にOSの設計、それを踏まえてのSEへの技術支援をしていましたが、マニュアルが付いて回りました。書く側でもありましたが、如何に正確に書くかが問われました。マニュアルのチェックをする専門の部署までありましたが、ユーザーのシステム部門がマニュアルを見て操作したのにトラブルが起きたとなれば、その責任を問われるからでしょう。マニュアルは製品の一部という標語まであったくらいです。

 

中国人民銀行、中国銀行のシステム部門への技術支援で一時期北京に駐在していましたが、中国人技術者の中の優秀な人物が、マニュアルに書かれていることを全て実際にやってみたことがありました。この時、マニュアルに書かれていたようにやったのに、書かれているような結果が得られなかったという問題が出たことがありました。原因は、ピリオドがなかった、『,』がなかったというアセンブラ言語ならではの問題でしたが、パソコンが目の前にある今とは違い、メインフレームの時代に例としてマニュアルに載っているコードを実際に書いて動かしてみるとは思わなかった・・・これをきっかけにマニュアルはおまけについてくるものではなく、ハードウェア、ソフトウェア同様に製品であるという意識を持とうということになり、マニュアルの専門部署ができたきっかけの一つになりました。

 

そのマニュアルですが、朝日の朝刊題字下に毎回掲載される折々のことばというコラムにこんなものがありました。

正確さばかりを求めると記述が増え、分厚くなって読む気が失せる。知り合いに聞いた方が早い!マニュアルを読み込むよりも良い友人を持つ方が大事という評論家らしい主張です。彼の主張のうち、後者はその通りですが、明らかに間違っているのは後者の読む気が失せるです。

 

彼のいうように、分厚いマニュアルを見るといささか戦意を消失しますが、マニュアルはその性質上、小説のように全部を読むのではなく、知りたいところだけを読めば済みます。ただし、問題発生時の言い訳のために免罪符的にあれもこれもと書くと膨れてしまいます。歯切れよく要点を書き表せる文章力が求められますが、全てを文字で言い表そうとするとかなり大変です。私は、適宜絵やグラフを使いました。もちろん文章にも気を使ったのはいうまでもありません。てにをは/適切な接続詞/形容詞の位置/文章の長さは、特に気を使いました。マニュアルは小説や評論ではないので、情緒的な言い回しや冗長な表現は避けました。

 

もっともこれは、マニュアルに限りません。仕様書を書くときも同じです。SIerに渡した仕様書が誤解されないように書きますが、下手な文章では意図が伝わらないばかりか、誤解を招いてしまう怖れがあります。例えば、ある薬剤を処方しようとした時、その薬剤がシステムに組み込まれた薬剤マスタにないものだった場合の処理をどうするかを図解すると下図のようになります。この図が持っている情報量(エントロピ)を文章だけで誤解なく説明するのは至難の業、私には自信がありません。

 

マニュアルに話を戻します。配信されてくる様々なニュースがありましたが、こんなものがありました。

作業手順書、業務手順書などと言われるマニュアルですが、品揃え的に作ることが多々あります。品揃え的と呼ばれるのは、一度作ってお終いというお飾りと言う意味です。『マニュアルはあるか』に対して『あります』という程度の位置づけで、業務、作業の変更など、本来マニュアルに反映すべき事柄が発生しても反映せず、実際の業務/作業とマニュアルに記載されている内容との齟齬が発生していることが少なからずあります。それでも日々の作業は問題なく処理されているので、誰も気にせず放置されているのが現状のようです。『うちはしっかりやっている』というところも、タイムリな更新をしているかは疑問です。もちろん、作業変更などマニュアルに反映すべきことが生じた際の手順に『マニュアルに反映すること』と明記されていて、そこに✔が入らないと変更が最終承認されないというフローがあり、順守されていれば完璧・・・ではありません。❝後でやる❞ので、✔をつけておこうという場合です。

 

マニュアルを書く人には、次のことを旨とし、以下の項目に習って血の通ったマニュアルを書いて欲しいものです。

①現場を観察する

②現場の作業実態を理解する

③現場からヒアリングする

④ヒアリングしたことを現場に確認する

⑤現場の人に伝わる書き方をする

⑥マニュアルから逸脱すると起こり得る可能性のあるリスクに言及する

 

これ以外にもありますが、少なくとも、現場を知らずに机上から現場を想像して書いてはいけません。信頼し、使ってもらえる実用的なマニュアルを作れるようになりましょう。

 

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予約制を敷いているにも拘わらず、病院の診察予約時間は当てにならず、長い待ち時間をイライラしながら待つことを強いられます。そうならないようにリソースマネジントの発想で開発した総合予約システムは日経の情報システム大賞を受賞しましたが、これについては既に幾度となく紹介しているのでそちらを参照してください。さて、その長い待ち時間をどうつぶすか?老若男女の人間観察するのも面白いですが、私は文庫本を何冊か用意しておき、適当に選んで持っていきます。

今日は・・・

著者はカーネギーメロンの金出先生、恐れ乍らこの『素人の様に考え』という発想は私も同じです。それは、変な先入観がない素人の方が、フィルタがかからない視野視点から自由に発想が湧いてくるからです。言い方を変えれば中途半端な知識・経験はない方がマシということです。


私は、今までそれで製造業、小売業、自治体、サービス業、病院などのシステムの仕様を決めてきましたが、仕様を検討する際に心がけてきたのは、素人の様に新鮮な発想で考えることでした。まさに金出先生のように『素人のように考え、玄人して実行する』を実践してきましたが、素人のように新鮮な気分で臨んでも、知らず知らずのうちに経験がそれを邪魔していることに気が付くことがありました。この場合はこの方が良いだろう、そうすべきだ等という過去の経験からいえるステレオタイプな仕様になってしまう場合です。

 

病院の統合情報システムの仕様決めをやっていた際にも、外来の看護師、手術室の看護師から、思いがけない仕様を提案されたことがありました。そのアイデアで、私の考えた仕様よりも同じ機能をシンプルに実現するユーザインターフェイスを実装することができました。その様な提案を気兼ねなくできる雰囲気を作っておくことの重要性を改めて認識したシーンでもありました。『遠慮せず何でも言って』と風通しの良さをアピールするものの、いざ言われると不機嫌になるという人物の下で仕事をしてきた彼らは、言っていいものかどうかを躊躇しがちだったことを知っているので、雰囲気作りに時間と気持ちを割いたことを思い出します。

 

差別用語で申し訳ありませんが『めくらヘビにおじず』という言い方があります。『怖いもの知らず』という言い方もできますが、目が不自由で直面するものが何であるかが分からないので、一般的には怖いヘビが前にいても怖がらないという比喩です。これはある意味で、知識・経験を持たない素人と同じです。だから、何も恐れずに自由に意見を述べたり提案ができるわけです。ただし、究極の素人である赤ちゃんとは違い、他の分野では知識経験を持っています。例えば、私に提案をしてきた上述の外来看護師、手術室看護師は、医師の介助はじめ外来業務を熟知しているし、手術プロセスを熟知していて執刀医が手を出すと、次の手術パスに進むために必要なメスなどの器具を医師の手に渡すことができます。情報システムの設計開発に関わることを知らないだけです。そもそも、それは職種として要求されているものではないので全く問題ありません。

 

私のいう素人とは情報システムの企画・設計・開発・運用・保守という分野での素人ということで、彼らは一般常識はもちろん担当業務に関しては玄人(プロ)なわけです。その素人が、知識経験のある業務や常識に照らし、

・この方が良いのではないか

・業務遂行上、こちらの方がシンプルで間違えにくい

・画面遷移はこちらの方が作業実態を踏まえていると思う

などという意見や提案をし、それを踏まえた仕様にすることで現場の皆さんが使いやすいシステムができあがります。

 

もちろん、技術的、製品的に実現できない提案もあるし、他の機能との整合性、統一した設計思想に合わない提案、要求もあります。その場合は、どうして採用できないのかを、彼らの理解できる言葉を使って同じ目線で丁寧に説明するよう心掛けました。一番いけないのは、問答無用で頭ごなしに拒否することです。それをすると、次から新鮮な提案、質問が出て来なくなってしまいます。

 

プロジェクトを取りまとめる皆さんには、素人の発想を受け入れる度量、雰囲気を作る努力をして欲しいと思っています。

 

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電子処方箋は8年前の2016/4から解禁され、医療情報のネットワーク環境が整った地域から順次運用することになっていました。

しかし、普及率は病院1.5%、診療所2.1%、歯科0.1%、薬局31.7%(2024/05/29現在)となっています。意外に薬局の導入率が高いものの、医療機関での導入率は極めて低い状況になっています。その状況下で石川県白山市の松任中央病院が、電子処方箋に全面移行したというニュースが入ってきました。

念のため、石川県にある薬局の電子処方箋導入率を調べたところ40.6%(厚労省:都道府県の薬務関係主管課長会議資料)となっていて、全国1位とのこと。これもあったので踏み切ったのかもしれません。しかし、40.6%導入ということは60%の薬局は未導入!つまり、3分の2近くの薬局が未導入ということです。この状況(電子処方箋に対応していない薬局があることを承知)で全面的に電子処方箋に切り替え、紙の処方箋は出さないと決めた背景はなんなのか分かりません。300床ある地方ではこの大きな病院の患者をお客にして商売が成り立っている薬局は、お客を獲得するために電子処方箋のシステムを導入しなければならず、町の小規模薬局は淘汰されてしまうことになるでしょう。

 

核廃棄物を処理する場所が見つからない政府が、文献調査を受け入れるだけで交付金が最大20億円、概要調査までいけば最大70億円受け取れるインセンティブを示し、高齢化、過疎化が進む地方自治体の中には、目の前にぶら下げられた人参欲しさに調査を受け入れるところがありますが、松任中央病院の決断もそんなところでしょうか?決断の是非を検討するブログではないので、この話はここまでで終わりますが、釈然としません。

 

さて、そもそも電子処方箋とはなんでしょう。おさらいしてみましょう。医療機関と薬局で処方薬情報をやり取りするのが処方箋、医師が処方した薬が印字されています。

薬局は、過去の薬歴が記載されたお薬手帳を見て、飲み合わせや重複などをチェックしながら、処方された薬を患者に渡します。この時、従来は紙の処方箋を見ながらでしたが、今度は紙ではなく画面を見ながらになります。そこでマイナバカードの出番です。これを使って本人確認を行い、病院で処方された薬を薬剤師の画面に表示できれば、処方に必要な情報は得られます。しかし、前提条件があります。それは、病院の電子カルテの処方薬情報が、薬局から患者のマイナンバをキーにして参照できるようになっていることです。病院のサーバに直接アクセスするとは考えにくく、一定範囲の地域単位でサーバを置いて電子処方箋管理システムを運用し、ここに病院からの情報を書き込んでおき、ここにアクセスするものと思います。電子処方箋が取り沙汰された2016年に描いた図がありますが、こんな感じです。

石川県の状況がどうか分かりませんが、厚生労働省の病院報告(2020年度)によれば、全国の病院の1日平均在院患者数は116万5389人。これに一日平均40人と言われる全国の診療所/クリニック(104292ヶ所)を約400万、更に67899ヶ所という歯科と61791ヵ所の薬局を併せたら、この数をタイムオーバや送信抑止にならずに捌く性能を持ったサーバを用意し、運用するのはかなり大変です。JRの指定席券を主として、乗車券類・企画券などの座席管理・発行処理および発行管理行う巨大なオンラインシステム(MARS)やJR東日本のSUICAの処理を行うシステム、東証のシステムなど高トラフィックを捌く証券取引システム同等以上のトラフィックになるかもしれません。

 

処方薬という生命、QOLに関わる情報を扱うことになるこのシステム(電子処方箋管理システム?)はMARSやSUICA、東証のシステム以上に気を使って作られていなければなりません。技術革新が続くハードウェアは費用面を度外視すれば何とかクリアできるとは思うものの、富士通japanの様な日本を代表するSIerが作ったマイナンバを利用するシステムでは、トンデモナイ品質が問題になり、河野デジタル相に怒られたことがありました。

マイナンバ証明書では別人の情報が出て来たリ、別人になっていたマイナンバ保険証では高額な自主診療費を請求されたりしましたが、電子処方箋管理システムで別人に間違われたら症状に合わない薬だったり、禁忌になっている薬を処方してしまうことになります。このブログではしばしば医療ミスを取り上げ、その原因と再発防止策を取り上げてきましたが、電子処方箋管理システムの不具合による医療ミスとして取り上げることになるかもしれません。富士通japanのような日本を代表するSIベンダが重大なミスを犯し、修正版が再度ミスを起こすような体たらく!そんな中で、バグ0の電子処方箋管理システムを作れるのか心配です。アッ、作れるのかではなく既に2023/1/26から稼働しています。

 

一年経ってまだ事故の報告はありませんが、病院1.5%、診療所2.1%、歯科0.1%、薬局31.7%(2024/05/29)という電子処方箋システムの導入率をみると、事故はこれから出てくると思います。また、忘れてはいけないものに、セキュリティがあります。徳島県のつるぎ町立半田病院が攻撃されて診療できなくなったランサムウェア攻撃は記憶に新しいものですが、電子処方箋管理システムがアタックされたことを想定した有効な防御をしているのかどうか。起きてからでは遅いので、念には念を入れ再度レビューをしておくことを勧めます。

 

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メインフレーム時代、技術者としてOSの設計、SEへの技術支援をした後、コンサルタントして国鉄民営化直後のJR、資生堂、上場前企業の業務分析とそれを踏まえたシステム化などを経験してきましたが、並行して国税庁や都庁の管理職教育も行ってきましたが、2000年からは病院の業務改革とそれを踏まえたシステム化に特化してきました。診察の仕方、救急搬送されてきた患者の対応など、現場主義のコンサルタントとしては現場と一体になってのBPRとシステム化はやりがいのある対象でした。その経験を踏まえ、今回の医療系ニュースで配信されてきた日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院で起きた『救急外来を1日2回受診も誤診 男子高校生が死亡』を今日のブログにします。

本件に該当する毎日、朝日新聞紙面、テレ朝のニュース、および日赤ホームページの本件顛末を記したpdfを調べ、経緯、原因を列挙すると以下のとおりです。

 

経緯

2023/5/28:腹痛や下痢などを訴え、日赤病院救急外来受診(2年次の研修医対応)

②CT、血液検査を実施。脱水を示す数値が出ていた

③同研修医は急性胃腸炎と診断し、帰宅させる

④症状が改善しないため男子高校生は同日日赤病院2回目の受診

家から電話相談2回(対応は同研修医)

⑥同研修医は、かかりつけ医の受診を勧める

2023/5/29:患者はかかりつけ医受診、緊急対応必要と診断

⑧同院、消化器外科を紹介され、受診

⑨消化器外科は、上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)、腸閉塞と診断

⑩消化器内科を紹介、入院となる

脱水症状が著明&炎症反応の上昇を認める
⑫電解質異常はないので、胃管挿入はせず
⑬絶食と補液の治療にし、改善がなかったら後日追加検査をする
⑭入院から3時間後、患者は冷汗、脈拍蝕知微弱、大量嘔吐となる
⑮点滴と胃管挿入を施行することにする
⑯しかし、この時点で患者が過活動性せん妄状態になる
⑰未梢静脈ルート自己抜去、医療スタッフへの危険行為、院内徘徊などが予想され治療困難
⑱家族に来院依頼
⑲来院後、点滴ルートを確保し脱水の補正を図る
⑳過活動性せん妄状態は一旦収まったが、易怒性が残っていた
㉑当番医は鎮静剤を通常の半分を投与
㉒再度せん妄症状が現れる恐れがあるので、胃管挿入せず
㉓患者が発熱したので、解熱剤投与
㉔看護師は患者が眠れていないので、残りの鎮静剤を投与
㉕体動制限される心電図モニタは、せん妄状態を助長する懸念があるので装着せず
㉖患者は2023/5/30深夜、心停止

2023/6/15:SMA症候群による腸閉塞、高度脱水で死亡

※病院側の主張なので、上述の中の懸念がある、予想される、恐れがあるetcの真偽のほどは不明。

 

原因(病院発表)

①重症度を軽く見積もった

②脱水症の評価が不十分

③②のため、治療の開始が遅れた

④研修医は上司に相談しなかった(研修医のサポート体制の不備)

⑤急性胃腸炎と診断して重症度を軽く見積もり、患者の苦しみに耳を傾けなかった

その他

・CT 画像の評価が不十分で、急性胃拡張に対する減圧治療ができていなかった。

・脱水症の評価が不十分で、治療の開始に遅れが生じていた。

・救急外来において研修医が診療する場面での報告・相談体制に不備があった。

・職員間において患者さんの情報を正確に共有できていなかった。

・患者さんの容態変化時に、院内で定められた緊急体制が活用されなかった。
 

いずれも、研修医が指導医に指示を仰がず、指導医(病院)は研修医に救急外来を診させる際の手順(プロトコル)を徹底していないことが最たる問題。同じ患者が同じ主訴で同日に2回も救急外来を受診してくるのは異常だとして、指導医にコンサルトをお願いするのが普通ですが、そう思わず『かかりつけ医(近医)で診てもらうように』という指示で対応した研修医の鈍感ぶりには呆れるしかありません。

 

病院以外の他の業界では、新人はもちろん、経験の浅い者のサポートはチュータと呼ばれる指導者がついたり、上司が気を配って育てます。私が在籍していた会社では、育っているかを会社幹部の前で研修員発表を行い、幹部の批評をもらいます。その際、指導員だった者も同席し、どの様に教育したかを質問され、発表内容の質が低かった場合には、指導員はこっぴどく叱られます。今回は、生命をあずかる病院が舞台です。研修医をフォローし育てる環境がないとは驚くしかありません。なお、新人、経験の浅い者が、質問しやすい雰囲気が醸成されていたかが気になります。

 

病院は、今回の事件を受けて再発防止策を挙げていますが、時間の経過と共に緊張感が薄れてしまう『~すべき』という精神論ではなく、研修医の教育プログラムを作り、細かくフォローする教育制度を作らなければならないでしょう。もし既にあるとしたら、それが有名無実になっていた原因を突き止め、能書きを羅列するのではなく、前途ある16歳の若い命が失われたことを受け止め、実行可能な対策にしなければなりません。

 

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私は経験を踏まえて毎日ブログを書いていますが、IT系サイト、医療系サイトなどからのニュースをブログのネタにすることがあります。今回、あり得ない医療ミスが配信されてきました。担当医の指示を受けた研修医が患者本人でない別人のカルテを参照して処方ミス。患者が、施行しようとした看護師に主治医の指示とは違うと言っても、看護師は(研修医が)処方した画面を確認し、そのまま施行。このため、患者が低血糖状態に陥ってしまったというものです。

 

経緯を少し詳しく挙げます。

①患者は、糖尿病合併妊娠(2型糖尿病合併妊娠

②分娩前は、インスリンリスプロとレベミル注し、血糖コントロール中

③糖尿病内科医は、分娩終了後はインスリン中止を指示

④その旨、カルテに記載

⑤患者にも説明

⑥産婦人科医は、患者持参薬(インスリンなど)の服用を研修医に指示

⑦研修医はインスリン投与の入力方法がわからず、その方法を産婦人科医に質問

当該患者の糖尿病内科のカルテを参照し、投与量と表記方法を確認するよう回答

研修医は当該患者ではなく、他の誰かの糖尿病患者のカルテを参照するものと認識

⑩研修医は、別の患者のインスリン投与の指示を参照し、投与量と表記方法を確認

⑪研修医は、分娩前と同一量のリスプロおよびレベミル注の投与指示を電子カルテで入力

⑫看護師は、電子カルテを参照し、指示内容を確認。

⑬夕食前にインスリン投与を患者に説明

⑬患者は、糖尿病内科医からインスリン投与をしなくていいと言われている旨を看護師に伝えた

⑭看護師は、電子カルテ上の指示(⑪)を別看護師と共に再確認

⑮患者に説明のうえ、インスリン投与施行

患者は、気分不快出現
⑰患者の自己判断で血糖測定を実施したところ64mg/dL(
低血糖状態

持参薬のブドウ糖を摂取し、低血糖症状から回復(88mg/dL)

看護師は指示されている通り朝食前のインスリン投与施行

昼食前血糖値が44mg/dLと低値になってしまった⇒産婦人科医報告

㉑電子カルテのインスリン指示が間違い発覚

㉒インスリン投与中止

㉓昼食を摂取し、低血糖症状は解消された

 

幸いにも、障害残存の可能性なしとされていますが、別患者のカルテを見て処方してしまうとんでもない研修医はともかく、糖尿病内科医は指示した相手が研修医であり、且つ電子カルテ上での処方入力方法が分からずに聞いてくるほどだったのにフォローをしなかったのは指導者として不親切。また、主治医である産婦人科医は持ち患が糖尿病合併妊娠であることを気にしていれば、糖尿病内科医がインスリン停止をしてことを電子カルテで確認すべきでした。持ち患カルテに主治医である自分以外の者がアクセスした場合には、その旨を知らせる機能(ポップアップメッセージ)があればbetter。なお、糖尿病内科医から『分娩後はインスリン投与を中止』と聞いているという患者の訴えを聞いた看護師は電子カルテだけではなく、患者の言っていることと指示内容が異なっていることを疑問に思い、糖尿病内科医に確認すべきでした。更に言えば、インスリンの処方をした医師が研修医だったことが分かるはずなので、患者の主張と異なっている場合には、念のため糖尿病内科医に確認すべきでした。『~すべき』では早晩忘れてしまうので、これをサポートするシステムの機能は以下のとおりです。

関係する他の科の医師から持ち患に関する指示があった場合、主治医がそれを確認するために、主治医がエントリしている画面に『患者名:〇〇様に××科◎◎医師からの書き込みがあります』というメッセージがポップアップして表示されるようにします。今は忙しくて見られないということを考慮して、応答には『後で』を選択できるようにします。もちろん、後でと言って忘れてしまうことを考え、当該患者のカルテを見るまではメッセージを表示し続けるという機能です。

 

研修医、主治医、関係医、看護師、それぞれの立場で改善点が必要になったこの病院の再発防止策は以下のとおりです(原文のまま)。

~~~~~~~~~

患者から指示違いの訴えを聴取した際には、立ち止まって内容を確認し、指示の妥当性について疑問が生じた場合は医師や別の看護師にも再確認することを周知した。

~~~~~~~~~

『立ち止まって内容を確認』などという精神論を持ち出すようでは、時間の経過と共に緊張感が薄れ、再発の危険性が増してしまうでしょう。以前のクライアントで患者間違えがあった際の再発防止策を見る機会がありましたが、こんな感じでした。

実効性のない『忙しい時ほど、よく確認しましょう』には笑ってしまいますが、大なり小なりこの程度の常套句で終わってしまうのではないでしょうか。私が、これを解決するために用意した機能は、RFIDによる患者識別です。

 

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ある病院が、院内のシステムを充実させるために『システム開発経験(目安2年以上)』として募集。それに応募した〇〇さんは、『社内SEとして解析、基本設計、詳細設計などの業務を担当してきた』と記載した業務経歴書を提出、面接を経て採用されシステム開発室に配属されました。しかし全然仕事ができず、試用期間終了と同時に辞めてもらったそうです。〇〇さんは、これを不服として裁判に持ち込んだというニュースが飛び込んできました。

結論を先に言えば裁判所は『解雇しても構わない』とのこと。お試しのニュアンスがある試用期間でも、終了後に自由に解雇することはできないという法的な問題があるようですが、それはともかく、一般常識から言っても看板に偽りありなのでアウトなのは当然でしょう。そもそも、『社内SEとして解析、基本設計、詳細設計などの業務を担当しきた』とした業務経歴書を提出した当人は恥ずかしくないのか?と思うのが普通です。もっとも、面接の際に評価できなかった採用する側にも問題があります。しかし、自治体、病院などにはSEとしての能力を評価できるだけの人がいないのが実情で、そこを突かれたのかもしれません。どの様な仕事をさせてみた結果なのか分かりませんが、試用期間は3ヵ月もあったので、

〇期待した以上

〇期待したとおり

〇期待に応えることはできなかったがまぁまぁ

〇不合格

〇話にならない(論外)

などの評価はできると思います。システム部門があるくらいの病院だし、病院業務をシステムに載せて効率を上げたいという意識を持った経営陣がいることを考えると、この人物は『経歴の虚偽記載』と評価されても仕方がなかったでしょう。

 

あちこちでDXDXと騒がれ、開発要員が足りず、2025年の崖とか壁とか呼ばれている状況なので、売り手市場なのはわかりますが、こういう箸にも棒にも掛からない人物が、仕事をやらせたら分かってしまう業務経歴書を出し『入社してやる!』的な姿勢で偉そうに入って来ることは十分考えられます。

 

思い起こせばバブル真っ盛りの頃、大手SIベンダは人手が不足し、外注から人を派遣してもらってしのいでいた時期がありました。外注(協力会社)は人集めに奔走し、1、2週間の粗製乱造の教育をしてから派遣してきましたが、はっきり言って戦力になる人材は皆無でした。手取り足取り教えつつアシスタントとして使えるレベルにまで引き上げますが、前職を聞いてみると、なんと板前という人まででてきて驚いたことを記憶しています。無責任な派遣元にはあきれるばかりでしたが、猫の手も借りたい当時はそれがまかり通っていました。

 

今回の件は、そこまでひどくなかったようですが、働き始めておよそ1か月半後、能力が不足しているとの理由で、3か月の試用期間が終了した後は本採用しないと通告。能力が不足していると判断した理由は以下のとおりでした。

 

①業務に関する研修等を行ってきたが、当院が求めるレベルに達する見込みがない

②提出された業務経歴書に虚偽の疑いがある

③この状況では、信頼関係を築くのが難しい

④しかし、試用期間終了まではJavaの課題を与えるなど、研修の形で勤務させる

 

これに対し、納得できなかった○○さんは、メールで『これは事実上の解雇通知であると存じます。ついては本日を最終出社として、以後、試用期間終了までの給与を規定どおり支給していただきたい』と伝えたそうです。そして・・・

 

①○○さんはメールした翌週(月曜)に出勤

②仕事をすることなく、私物を持って帰ろうとした

③上司は『このまま帰ると無断欠勤になる』と伝えた

④○○さんはこれを無視して退社

⑤上司は以下のメールをしました。

 ー 試用期間終了までは、就労の義務があり、無断欠勤している状況となる

 - 欠勤なので給与は支払わない

 - Javaの研修機会も与えているので自身のスキルアップのためにも出勤した方がいい

⑥○○さんは、以下の返信

 - 無断欠勤ではない

 - 承服しかねる  

⑦これを踏まえ、病院は○○さんを『7日間の出勤停止の懲戒処分』とした

⑧○○さんは、解雇無効/出勤停止処分無効/賃金を払えとして提訴

⑨裁判所は『解雇も出勤停止処分もOK』と判断

 

雇用契約などの難しい法的な解釈は分かりませんが、裁判所は当然の判断をしたと思います。それにしても○○さんの強気の背景は何か分かりません。穿った見方をすると、

〇最初から嫌がらせをするつもりで応募

〇能力不相応なプライドがある

〇メンツを保つために強くでた

のかもしれませんが、実際に仕事をやらせればすぐわかってしまうのに業務経歴に事実と異なることを書いたことも、能力不相応なプライドのなせる業かもしれません。私も、そうのような業務経歴書を見たこともあり、見破った経験があります。診療情報管理士という誰でも取得できる民間団体認定の資格を持っている人に会ったこともありますが、業務も技術も中途半端でした。どちらかがプロでなければなりません。人材不足にかこつけてこの様な皆さんが応募して来ることに注意しましょう。

 

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医療系情報に特化したサイトから毎日配信されてくるニュースは、ブログを書く上で参考になりますが、『AIツールによる病歴分析 – 最適な抗うつ薬選択を支援』というニュースが配信されてきました。

私は、安易にAIという言葉は使わないという方針を持っていますが、それは、現在/近未来の技術、研究では、人間のように自律的に自学・自習・経験し生活する中で得られた知識と見解(人生観、価値感、姿勢)に基づいて回答を出すような本物の人工的な知能は作れないだろうと判断しているからです。今回配信されてきたニュースは、AIツールが分析したとなっていますが、多くの患者データを統計的に処理して得られた傾向、因果関係を使ったこの患者にはこの薬が有効だろうというお勧めが提案されるという仕掛けだと思います。

 

私がやったことがあるのは、多変量解析手法の一つのステップワイズという統計手法を使って、ある製品の需要を先行的に予測するために、当該製品の需要に先立って変化する指標を見つけるというものでした。ステップワイズにはいろいろな批判があるようですが、目的とする指標(私の場合は、冷凍空調機の出荷台数)に対して先行して影響を与えるものは何かをこの方法で見つけました。見つけたのは、小形棒鋼、アルミサッシ、板ガラス、コンクリートの生産高、小型エレベータの出荷台数、3千㎡前後の建物の建築確認申請数、景気動向指数などでしたが、それぞれの変数の寄与率が多項式の係数となって示されるので、それが変わるとどの位のタイムラグどの程度の影響を及ぼすか(=先行指標)が分かる優れた分析手法だったと思います。実際、この予測モデルを使って過去の出荷台数を計算するとよく合っていて、生産管理、経理部門が驚いていたことを記憶しています。昭和48年の第一次石油ショックの時でしたが、遅いCPUと少ないメモリしかなかった当時の汎用コンピュータでは、解析に多くの時間を要し、他のジョブの邪魔にもなるので、誰も使わない深夜から明け方にかけて使いましたが、今では膝の上に置いたノートパソコン程度の性能でも、アッという間に処理してしまうでしょう。技術の進歩はスゴイ・・・

 

話を元に戻します!

さて、今回紹介されたのは、米国のジョージ・メイソン大学の研究成果です。うつ病患者の症状に合った適切な抗うつ薬を見つけるまで、幾つかの薬を投薬してその結果をフィードバックして最終的に薬を決めるという手間があるようです。同大学では、患者に試してもらう薬の数を減らすことができないかを研究。患者の属性/患者の症状/最終的に適合した薬という因子間の相関を調べ、その患者に推奨する薬を提案できるとのレポートを発表しました。統計処理の対象として使ったのは2001/1/1~2018/12/31までの367万8082人ものうつ病患者のデータでした。大数の法則を持ち出すまでもなく、調査対象が多ければ多いほど、統計処理した結果は、真実に近づくことが知られています。360万人ものデータが集まれば、当たらずとも遠からず(雖不中不遠矣/四書五経/大学)どころか、ピタリと当たるのではないかと思われるくらいのデータ(症例)量です。彼らが使ったのは、統計解析の手法はラッソ回帰(LASSO:least absolute shrinkage and selection operator)という回帰分析手法の一種とのことなので、AIツールによるという日本語のタイトルはいささかおかしいと思います。そもそも論文のタイトルは、Effectiveness of Antidepressants in Combination with Psychotherapyとなっていて、どこにもAI(Artificial Intelligence)とは書いてありません!

 

TVのバラエティ番組に出てくる素人コメンテータはもちろん、専門家として登場する方も、本当のAIを理解しているのか疑問に思うことが多々あります。TV局のシナリオに沿ってコメントしなければならないのでしょうが、このニュースタイトルを見てあらアシストトレースめて安易にAIを冠するべきではないと思った次第です。

 

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業務改革改善とそれを踏まえたシステムの設計をして来た経験から、いろいろなテーマで講義、講演をする機会がありました。心がけてきたのは、できるだけ質問の時間をとることです。講義では当然ですが、数百人の大人数はともかく、このくらいの規模の講演では質問時間はできる限り確保しました。

質問が多くて時間切れになることもありましたが、それだけ真剣に聞いている方が多いことの裏返しなので、遣り甲斐を感じたものです。なお、時間切れになった場合には、メールで質問を受け付け回答するようにしました。また、講演に先立って講演内容のサマリーを公開し、それを見て事前に質問を受け付けることもしました。これによって、講演を聞いただけでは吸収できなかった知見を得られるようにしました。

 

そんななかで、ほぼ共通して出てくる質問があります。今日はそれを紹介します。

 

Q1:システム導入で効果が出るでしょうか? 

業務をシステムに載せると、そのシステムがカバーする業務が効率よく処理され、人が減る、あるいは余った要員を忙しい部門に再配置できるという期待があります。昭和40年代後半から50年代後半にかけた大型汎用コンピュータを使った黎明期の情報システムは、確かに目に見える量的な効果がありました。それは、大量/一括/繰り返しという、コンピュータが最も得意とし、人間には不得意な単調な作業を繰り返す業務がシステム化の対象だったことが大きな理由ではないかと思います。しかし、今までの仕事の仕方を見直さないままシステムに写し取ってコンピュータで処理するという単純な発想で効果が出るような業務のシステム化は、製造業など他業種では、経営層が無関心、無理解でない限り、もはや残されていません。一方、自治体や医療機関には依然として多種多様な各種帳票、伝票、メモがあり、これを人間力で処理する業務がたくさん残っていて、システム化による効果が期待できます。しかし、今の仕事の仕方を変えずにそのままシステム化することは避けなければなりません。システムを導入効果を実感、手間の軽減を実感するにはどうしたら良いのでしょうか。最初にやるべきは、その業務をシステムに載せる必要があるか否かを検討することです。次に必要なのは、システム化対象業務が関連する業務を含めて整理整頓されているかです。都庁の管理職教育をしている時に知り得たある都議会議員の質問にこんなものがありました。

これをやらないと、時間と少なくない額の予算を投じてシステムに載せても、費用に見合う効果は期待できないということです。システム化して効果を期待するなら、まずは業務分析して無駄な作業を排除し、整理整頓してから見直すことです。見直し?この機能(作業)は何のために必要なのか、この情報、データはどんな時に何のために使われるのか、その頻度は等、先入観なしに様々な角度で見直すということです。十年一日の如く、長い間疑問に感じることなくやってきたことを改めて見直しのは、その仕事の仕方を続けて来た先輩にケチをつけることになるのではないかという懸念を持っていては、改善・改革はできません。私は、業務改善改革の前に意識改革が必要だと言い続けてきましたが、特に旧態依然とした仕事をしてきた自治体、医療機関には、その傾向が強いと思いますが、これをやらないとシステム化して効果を実感できるようにはなりませんこれとは、意識改革、業務分析、業務改善・改革のことですが、これらを総称してBPR(Business Process Re-engineering)と言います。なお、これに付随して、権限の最適再配分を行い、それを踏まえた指揮命令系統を整備します。ここには、既得権とか見直されずに昔から続いていた仕事の仕方を、そのまま継承する発想はありません。

 

Q2:新技術は必要か? 

システムを企画、設計する際、最初に行うべきは、BPR(Business Process Re-engineering)が必須であることは上述のとおりで、技術の話はこの作業の後の実現方法の段階で出て来ます。とかく、耳障りよく、何となく格好良いトレンドになっている技術の話を持ちだしがちです。例えば、クラウドという言葉がはやったのは数年前ですが、この発想と具体的な製品、実は30年以上前からありました。当時の提案書には、今でいうクラウドの「雲」と、「雷(回線)」の絵が描いてありました。GEのMARKⅢと呼ばれていたものです。ビッグデータなどという言葉にも気をつけましょう。そう呼ばないものの、昔から多くの情報を処理して様々な用途に使っていました。実現方法は奇をてらう必要はなく、また、早期の技術的な変化、陳腐化に気を付けながらですが、いたずらに新技術、新構想を採用するのは不要だと思います。枯れた安全確実な技術の存在を忘れないようにしましょう。ただし、ドッグイヤーどころかマウスイヤーと言われる今、ハードルの高かった技術や、コスト的に採用を見送っていた製品が、利用可能になっている場合が少なからずあります。アンテナを高くして情報を収集すると共に、システムを構築するうえで、その技術、製品が必要か否かを検討し、採否を決める評価能力が求められます。昔、IT業界紙と組んで3年に亘り、一部上場企業を含む約150社のCIOに取材し、連載記事を書いたことがあります。下表はその一部です。

その結果、情報システム整備に最先端の技術が必要だった例はわずか3社でした。ブームに踊らされることなく、落ち着いて技術、製品選択をしている賢明な判断が見て取れました。

 

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ブログのネタにYahooニュースを参考にすることがあります。今日もそれです。タイトルは『中途採用の3割が経歴詐称? 「部長職10年」ではなくアルバイトを転々…それでも簡単に解雇できない企業の防衛策』というものです。

 

信用して一旦雇用関係が結ばれると、ウソをつかれていたとしても簡単には解雇できない法的な問題があるようですが、経歴詐称をして採用されても仕事をしている中で、業務経歴に書いてあるような能力を発揮できていないことが分かれば立場が悪くなることは自明!それをどうしてやってしまうのか?Yahooニュースに載っていたケースはこんなものでした。

・勤続10年で部長職だった⇒部長経験はなく、3カ月で退職。その後アルバイト

・有名大学を卒業⇒高校中退

・外資系コンサル勤務の経験⇒アルバイトで職を転々

・特許所有⇒特許の詳細を聞くと返信なし

・現在所属している大きな団体⇒当該団体に照会すると、該当者なし

面接すれば即座に見抜けますが、それを見抜けない雇用側の評価能力にも問題があります。大手企業の人事部門なら、この程度のことは簡単に見抜けるので、引っかかるのは中小中堅企業ではないかと思います。私は2回、経歴詐称に遭遇したことがあります。一つは小売業のコンサルをしていた時、二つ目は友人からの評価依頼でした。簡単に紹介します。

 

その1(特許所有)
バブル崩壊初期でアチコチで倒産が相次ぐ中、売り上げを伸ばして注目を浴びた年商約400億の新興ディスカウント会社のコンサルをしていた時です。当時、メディアが頻回に取り上げ、独特な社員教育がTVで紹介されていましたが、この会社に小売業のプロを自称するコンサルタントが社長を訪ねてきたことがあります。社長は大いに気に入ったらしく『私に会ってくれないか』とのこと。初対面でも服装/顔つき/仕草/受け答えの的確さで、本物か否かが分かりますが、この人物はレジの機能、社員の指導法に関する特許を持っていると言いました。レジはともかく、指導法の特許?私は以前在籍していた会社では部の特許委員をしていたので、多少は特許に関する知識を持っていて、特許、実用新案などを持っていますが、指導法のようなもので特許が取れるとは知りませんでした。

その点を確認したところ取れるとのこと。では、特許証を見せてもらいますか?と聞いたところ『疑うのか』という態度になりました。この時点で大体の察しがつきましたが、社長が気に入っていて会って欲しいとのことだったこともあり、それ以上追及することはなく終わり、私はその後しばらくしてその会社のコンサルを辞めました。この人物が入ったせいかどうか分かりませんが、その会社はその後資金繰りが厳しくなり、会社を整理することになりました。新聞にも載りましたが、特許という言葉で信用させようとしても、特許証を確認されれば終わりだということに気が付かないか?と思った次第です。

 

その2(業務経歴詐称)

友人が病院業務と医療情報システムのプロと自称する人物の真贋を確認して欲しいと依頼してきたことがあります。なんでも、大きな総合病院のシステムを数多く手がけたという人物だそうです。友人は、私が病院の業務改革(BPR)、それを踏まえたシステム化プロジェクトを経験してきていることから聞いてきたものと思います。
友人から送られてきたメールには、病院業務と医療情報システム構築に関して大きな病院を担当してきたという業務経歴が書かれていましたが、即座にオカシイと直感しました。どうしてでしょう。単科病院でさえ大変なのに、多種多様な診療科のある総合病院の業務分析、システム化は簡単ではなく、それを幾つもこなすことができないと思ったからです。これは実際にやったことがある人なら誰でもわかることです。そもそも、プロと称する人には何人も遭遇しましたが、プロであったことは皆無です。プロは自称ではなく他称なはずです。友人には、直感的に怪しいと思っていること、およびやってきたと称する医療機関名、時期、コンサル内容の一覧を教えて欲しいと連絡しました。その人物は友人が私に相談していることを知らず、早速一覧表を作り、友人に送ってきました。友人から転送されて来た業務一覧を見て、予想が当たったと思いました。完全にウソで塗り固められたものでした。

門外漢は素晴らしいコンサル経歴と思ってしまうでしょうが、少し見ただけで以下のとおりたくさんの問題点が出てきます。

これでバレないと思ったのが不思議なくらいです。巧くゴマかせたとして、実務になったらどうするのか心配になるほどです。友人には、より厳しく詳細なコメントをして返送しましたが、もちろん、その人物はそれ以降、姿を見せなかったということです。実際に現場に入ってコンサル業務をしてきた人なら誰でも分かるはずですが、そのインチキコンサルタントの最大の誤算は、彼がやったとする都立東部療育センタは、私が都の検討メンバとして直接関わったことを知らなかったことでしょう。私の知る限りそんな人物はいなかった!

 

以上、経験した経歴詐称例を紹介しました。詐称とは詐欺ですが、こんなことをして採用されても毎日冷や冷やするだけです。

 

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石原さんが知事時代、都庁の管理職に対する情報システム関連の基礎教育を引き受けていた時期があります。受講生の中には、各局のシステム担当になる者もいましたが、都庁には総務局総務部の中にシステムの専門部署はあったのの実務経験はなく、技術に疎い。そこを狡猾なシステムベンダに赤子の手をひねるようにされても気が付かないどころか、専門用語が分からず曖昧な返事しかできないのに『さすがに〇〇さん、よく理解されていますね!』などと煽てられてその気になるのが都庁のエリート役人。そのシーンを幾度となくみてきました。彼らに欲しいのは、付け焼き刃で臨むHowtoではなく、どうしてそのシステムが必要なのか、そのシステムがあると何がどう改善されるのかという、Why、Whatを議論できる能力です。私は基礎教育の中に、業務分析とそれから得られた結果を元に改善改革をするという方法(BPR:Business Process Re-engineering)を入れていました。都議会の議事録の中に、同じことを言っている都議がいるという話を聞いたことがあり、早速調べたところありました。

ある監査法人のレポートに『コスト削減業務改善改革によって実現した部分が8割、ITの貢献は2割に留まる』という書かれているものを見たことがありますが、核心を突いたこの都議の鋭い質問には驚きました。なおこの都議は今、足立区長です。業務改善改革すなわち、BPRです。

 

そこで、今日は病院のシステム開発プロジェクトのメンバにBPRの基礎を教えたものを紹介します。

BPR とは

BPR(Business Process Re-engineering)、MITのマイケル・ハマー教授が提唱し、アカデミックな定義がありますが、実務家の我々は、シンプルに❝過去に引きずられず、原点に立ち返って業務の内容、手順を見直し、改革すること❞と理解しています。
同じ仕事、環境に長い間ひたっていると、意識・無意識を問わずそれが当たり前となり、常識を形成してしまいます。この常識が、その世界にいない人には非常識に映ります。常識の逆転現象ですが、病院関係者に『この常識を変えなければ、サービスレベルを維持・向上しつつ、病院スタッフの負荷軽減、患者満足度向上は実現できない、だから変えましょう』と提案しても、なかなか受け入れてもらえません。BPR の前に意識改革が必要な所以です。どうして非効率な仕事は引き継がれてしまうかを過去のコンサルティグ経験から考えてみると、おおよそ以下のような経過をたどっているようです。
 ①何も分からない
 ②教えてもらい、少しずつ業務が分かるようになる
 ③何でこうなっているのか?と疑問に思うことがある
 ④発言してみるが取りあってもらえない、あるいは生意気と思われるので止める
 ⑤不本意に思いつつも、そのまま流される
 ⑥そのうち、慣れてくる
 ⑦慣れてくると、別段問題がないように思えてくる
 ⑧非効率な仕事のやり方がそのまま温存される
 ⑨自分が教える立場になるが、そのまま教える
 ⑩非効率な仕事のやり方が継承される
また、次の様な問題もあります。
・医師を頂点とする権威のピラミッド構造から来る、言っても無駄、言うだけ損という雰囲気の中で事なかれ主義が蔓延

・物言えば唇寒し秋の風
・今の仕事のやり方を考えてきたプライドを持つベテラン層(牢名主?)の存在
・BPRによって既得権を制限される層の存在  
これらが、改革の足を引っ張ることはしばしば経験するところです。しかしながら、これらを排除しなければBPRを成功裏に終わ
らせることはできません。小泉内閣が医療制度改革、後期高齢者医療制度発足などの受診抑制策、診療報酬改定をしましたが、その影響で、閉鎖せざるを得なかった民間病院が出たことがありました。その事象を危機と捉えるかどうか、実行可能な具体策を採るか採らないかで明暗が分かれます。この危機を敏感にキャッチしてBPRを進め、BPR済みの業務の中からコンピュータで処理して効果が期待できるものを選んでシステムを整備した病院があります。この病院は、他院が深刻な来院者減になっている状況下で、逆に増えたという実績があり、BPRとシステムが具体的な効果をあげた事例として知られています。これは日経コンピュータの情報システム大賞を受賞しました。

 

意識改革とBPR

情報システムを導入すると、そのシステムがカバーする業務が効率よく処理され、人が減る、あるいは余った要員を忙しい部門に再配置できるという期待があります。昭和40年代後半から50年代後半にかけた大型汎用コンピュータを使った黎明期の情報システムは、確かに目に見える量的な効果がありました。それは、大量/一括/繰り返しという、コンピュータが最も得意とし、人間には不得意な単調な作業を繰り返す業務がシステム化の対象だったことが大きな理由だと思われます。しかし、今までの仕事の仕方を見直さないままシステムに写し取ってコンピュータで処理するという単純な発想で効果が出るような業務のシステム化は、製造業など他業種では、経営層が無関心、無理解でない限り、もはや残されていないでしょう。一方、医療機関には、依然として多種多様な各種帳票、伝票、メモがあり、これを人間力で処理する業務がたくさん残っていて、システム化による効果が期待できます。しかし、昔の様な単純な発想で、今の仕事の仕方を変えずにそのままシステム化することは避けたいとことです。意識改革をした後、BPRを実施しなければならない所以です。
 

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