業務改革改善とそれを踏まえたシステムの設計をして来た経験から、いろいろなテーマで講義、講演をする機会がありました。心がけてきたのは、できるだけ質問の時間をとることです。講義では当然ですが、数百人の大人数はともかく、このくらいの規模の講演では質問時間はできる限り確保しました。

質問が多くて時間切れになることもありましたが、それだけ真剣に聞いている方が多いことの裏返しなので、遣り甲斐を感じたものです。なお、時間切れになった場合には、メールで質問を受け付け回答するようにしました。また、講演に先立って講演内容のサマリーを公開し、それを見て事前に質問を受け付けることもしました。これによって、講演を聞いただけでは吸収できなかった知見を得られるようにしました。

 

そんななかで、ほぼ共通して出てくる質問があります。今日はそれを紹介します。

 

Q1:システム導入で効果が出るでしょうか? 

業務をシステムに載せると、そのシステムがカバーする業務が効率よく処理され、人が減る、あるいは余った要員を忙しい部門に再配置できるという期待があります。昭和40年代後半から50年代後半にかけた大型汎用コンピュータを使った黎明期の情報システムは、確かに目に見える量的な効果がありました。それは、大量/一括/繰り返しという、コンピュータが最も得意とし、人間には不得意な単調な作業を繰り返す業務がシステム化の対象だったことが大きな理由ではないかと思います。しかし、今までの仕事の仕方を見直さないままシステムに写し取ってコンピュータで処理するという単純な発想で効果が出るような業務のシステム化は、製造業など他業種では、経営層が無関心、無理解でない限り、もはや残されていません。一方、自治体や医療機関には依然として多種多様な各種帳票、伝票、メモがあり、これを人間力で処理する業務がたくさん残っていて、システム化による効果が期待できます。しかし、今の仕事の仕方を変えずにそのままシステム化することは避けなければなりません。システムを導入効果を実感、手間の軽減を実感するにはどうしたら良いのでしょうか。最初にやるべきは、その業務をシステムに載せる必要があるか否かを検討することです。次に必要なのは、システム化対象業務が関連する業務を含めて整理整頓されているかです。都庁の管理職教育をしている時に知り得たある都議会議員の質問にこんなものがありました。

これをやらないと、時間と少なくない額の予算を投じてシステムに載せても、費用に見合う効果は期待できないということです。システム化して効果を期待するなら、まずは業務分析して無駄な作業を排除し、整理整頓してから見直すことです。見直し?この機能(作業)は何のために必要なのか、この情報、データはどんな時に何のために使われるのか、その頻度は等、先入観なしに様々な角度で見直すということです。十年一日の如く、長い間疑問に感じることなくやってきたことを改めて見直しのは、その仕事の仕方を続けて来た先輩にケチをつけることになるのではないかという懸念を持っていては、改善・改革はできません。私は、業務改善改革の前に意識改革が必要だと言い続けてきましたが、特に旧態依然とした仕事をしてきた自治体、医療機関には、その傾向が強いと思いますが、これをやらないとシステム化して効果を実感できるようにはなりませんこれとは、意識改革、業務分析、業務改善・改革のことですが、これらを総称してBPR(Business Process Re-engineering)と言います。なお、これに付随して、権限の最適再配分を行い、それを踏まえた指揮命令系統を整備します。ここには、既得権とか見直されずに昔から続いていた仕事の仕方を、そのまま継承する発想はありません。

 

Q2:新技術は必要か? 

システムを企画、設計する際、最初に行うべきは、BPR(Business Process Re-engineering)が必須であることは上述のとおりで、技術の話はこの作業の後の実現方法の段階で出て来ます。とかく、耳障りよく、何となく格好良いトレンドになっている技術の話を持ちだしがちです。例えば、クラウドという言葉がはやったのは数年前ですが、この発想と具体的な製品、実は30年以上前からありました。当時の提案書には、今でいうクラウドの「雲」と、「雷(回線)」の絵が描いてありました。GEのMARKⅢと呼ばれていたものです。ビッグデータなどという言葉にも気をつけましょう。そう呼ばないものの、昔から多くの情報を処理して様々な用途に使っていました。実現方法は奇をてらう必要はなく、また、早期の技術的な変化、陳腐化に気を付けながらですが、いたずらに新技術、新構想を採用するのは不要だと思います。枯れた安全確実な技術の存在を忘れないようにしましょう。ただし、ドッグイヤーどころかマウスイヤーと言われる今、ハードルの高かった技術や、コスト的に採用を見送っていた製品が、利用可能になっている場合が少なからずあります。アンテナを高くして情報を収集すると共に、システムを構築するうえで、その技術、製品が必要か否かを検討し、採否を決める評価能力が求められます。昔、IT業界紙と組んで3年に亘り、一部上場企業を含む約150社のCIOに取材し、連載記事を書いたことがあります。下表はその一部です。

その結果、情報システム整備に最先端の技術が必要だった例はわずか3社でした。ブームに踊らされることなく、落ち着いて技術、製品選択をしている賢明な判断が見て取れました。

 

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