医療系情報に特化したサイトから毎日配信されてくるニュースは、ブログを書く上で参考になりますが、『AIツールによる病歴分析 – 最適な抗うつ薬選択を支援』というニュースが配信されてきました。

私は、安易にAIという言葉は使わないという方針を持っていますが、それは、現在/近未来の技術、研究では、人間のように自律的に自学・自習・経験し生活する中で得られた知識と見解(人生観、価値感、姿勢)に基づいて回答を出すような本物の人工的な知能は作れないだろうと判断しているからです。今回配信されてきたニュースは、AIツールが分析したとなっていますが、多くの患者データを統計的に処理して得られた傾向、因果関係を使ったこの患者にはこの薬が有効だろうというお勧めが提案されるという仕掛けだと思います。

 

私がやったことがあるのは、多変量解析手法の一つのステップワイズという統計手法を使って、ある製品の需要を先行的に予測するために、当該製品の需要に先立って変化する指標を見つけるというものでした。ステップワイズにはいろいろな批判があるようですが、目的とする指標(私の場合は、冷凍空調機の出荷台数)に対して先行して影響を与えるものは何かをこの方法で見つけました。見つけたのは、小形棒鋼、アルミサッシ、板ガラス、コンクリートの生産高、小型エレベータの出荷台数、3千㎡前後の建物の建築確認申請数、景気動向指数などでしたが、それぞれの変数の寄与率が多項式の係数となって示されるので、それが変わるとどの位のタイムラグどの程度の影響を及ぼすか(=先行指標)が分かる優れた分析手法だったと思います。実際、この予測モデルを使って過去の出荷台数を計算するとよく合っていて、生産管理、経理部門が驚いていたことを記憶しています。昭和48年の第一次石油ショックの時でしたが、遅いCPUと少ないメモリしかなかった当時の汎用コンピュータでは、解析に多くの時間を要し、他のジョブの邪魔にもなるので、誰も使わない深夜から明け方にかけて使いましたが、今では膝の上に置いたノートパソコン程度の性能でも、アッという間に処理してしまうでしょう。技術の進歩はスゴイ・・・

 

話を元に戻します!

さて、今回紹介されたのは、米国のジョージ・メイソン大学の研究成果です。うつ病患者の症状に合った適切な抗うつ薬を見つけるまで、幾つかの薬を投薬してその結果をフィードバックして最終的に薬を決めるという手間があるようです。同大学では、患者に試してもらう薬の数を減らすことができないかを研究。患者の属性/患者の症状/最終的に適合した薬という因子間の相関を調べ、その患者に推奨する薬を提案できるとのレポートを発表しました。統計処理の対象として使ったのは2001/1/1~2018/12/31までの367万8082人ものうつ病患者のデータでした。大数の法則を持ち出すまでもなく、調査対象が多ければ多いほど、統計処理した結果は、真実に近づくことが知られています。360万人ものデータが集まれば、当たらずとも遠からず(雖不中不遠矣/四書五経/大学)どころか、ピタリと当たるのではないかと思われるくらいのデータ(症例)量です。彼らが使ったのは、統計解析の手法はラッソ回帰(LASSO:least absolute shrinkage and selection operator)という回帰分析手法の一種とのことなので、AIツールによるという日本語のタイトルはいささかおかしいと思います。そもそも論文のタイトルは、Effectiveness of Antidepressants in Combination with Psychotherapyとなっていて、どこにもAI(Artificial Intelligence)とは書いてありません!

 

TVのバラエティ番組に出てくる素人コメンテータはもちろん、専門家として登場する方も、本当のAIを理解しているのか疑問に思うことが多々あります。TV局のシナリオに沿ってコメントしなければならないのでしょうが、このニュースタイトルを見てあらアシストトレースめて安易にAIを冠するべきではないと思った次第です。

 

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