予約制を敷いているにも拘わらず、病院の診察予約時間は当てにならず、長い待ち時間をイライラしながら待つことを強いられます。そうならないようにリソースマネジントの発想で開発した総合予約システムは日経の情報システム大賞を受賞しましたが、これについては既に幾度となく紹介しているのでそちらを参照してください。さて、その長い待ち時間をどうつぶすか?老若男女の人間観察するのも面白いですが、私は文庫本を何冊か用意しておき、適当に選んで持っていきます。

今日は・・・

著者はカーネギーメロンの金出先生、恐れ乍らこの『素人の様に考え』という発想は私も同じです。それは、変な先入観がない素人の方が、フィルタがかからない視野視点から自由に発想が湧いてくるからです。言い方を変えれば中途半端な知識・経験はない方がマシということです。


私は、今までそれで製造業、小売業、自治体、サービス業、病院などのシステムの仕様を決めてきましたが、仕様を検討する際に心がけてきたのは、素人の様に新鮮な発想で考えることでした。まさに金出先生のように『素人のように考え、玄人して実行する』を実践してきましたが、素人のように新鮮な気分で臨んでも、知らず知らずのうちに経験がそれを邪魔していることに気が付くことがありました。この場合はこの方が良いだろう、そうすべきだ等という過去の経験からいえるステレオタイプな仕様になってしまう場合です。

 

病院の統合情報システムの仕様決めをやっていた際にも、外来の看護師、手術室の看護師から、思いがけない仕様を提案されたことがありました。そのアイデアで、私の考えた仕様よりも同じ機能をシンプルに実現するユーザインターフェイスを実装することができました。その様な提案を気兼ねなくできる雰囲気を作っておくことの重要性を改めて認識したシーンでもありました。『遠慮せず何でも言って』と風通しの良さをアピールするものの、いざ言われると不機嫌になるという人物の下で仕事をしてきた彼らは、言っていいものかどうかを躊躇しがちだったことを知っているので、雰囲気作りに時間と気持ちを割いたことを思い出します。

 

差別用語で申し訳ありませんが『めくらヘビにおじず』という言い方があります。『怖いもの知らず』という言い方もできますが、目が不自由で直面するものが何であるかが分からないので、一般的には怖いヘビが前にいても怖がらないという比喩です。これはある意味で、知識・経験を持たない素人と同じです。だから、何も恐れずに自由に意見を述べたり提案ができるわけです。ただし、究極の素人である赤ちゃんとは違い、他の分野では知識経験を持っています。例えば、私に提案をしてきた上述の外来看護師、手術室看護師は、医師の介助はじめ外来業務を熟知しているし、手術プロセスを熟知していて執刀医が手を出すと、次の手術パスに進むために必要なメスなどの器具を医師の手に渡すことができます。情報システムの設計開発に関わることを知らないだけです。そもそも、それは職種として要求されているものではないので全く問題ありません。

 

私のいう素人とは情報システムの企画・設計・開発・運用・保守という分野での素人ということで、彼らは一般常識はもちろん担当業務に関しては玄人(プロ)なわけです。その素人が、知識経験のある業務や常識に照らし、

・この方が良いのではないか

・業務遂行上、こちらの方がシンプルで間違えにくい

・画面遷移はこちらの方が作業実態を踏まえていると思う

などという意見や提案をし、それを踏まえた仕様にすることで現場の皆さんが使いやすいシステムができあがります。

 

もちろん、技術的、製品的に実現できない提案もあるし、他の機能との整合性、統一した設計思想に合わない提案、要求もあります。その場合は、どうして採用できないのかを、彼らの理解できる言葉を使って同じ目線で丁寧に説明するよう心掛けました。一番いけないのは、問答無用で頭ごなしに拒否することです。それをすると、次から新鮮な提案、質問が出て来なくなってしまいます。

 

プロジェクトを取りまとめる皆さんには、素人の発想を受け入れる度量、雰囲気を作る努力をして欲しいと思っています。

 

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