石原さんが知事時代、都庁の管理職に対する情報システム関連の基礎教育を引き受けていた時期があります。受講生の中には、各局のシステム担当になる者もいましたが、都庁には総務局総務部の中にシステムの専門部署はあったのの実務経験はなく、技術に疎い。そこを狡猾なシステムベンダに赤子の手をひねるようにされても気が付かないどころか、専門用語が分からず曖昧な返事しかできないのに『さすがに〇〇さん、よく理解されていますね!』などと煽てられてその気になるのが都庁のエリート役人。そのシーンを幾度となくみてきました。彼らに欲しいのは、付け焼き刃で臨むHowtoではなく、どうしてそのシステムが必要なのか、そのシステムがあると何がどう改善されるのかという、Why、Whatを議論できる能力です。私は基礎教育の中に、業務分析とそれから得られた結果を元に改善改革をするという方法(BPR:Business Process Re-engineering)を入れていました。都議会の議事録の中に、同じことを言っている都議がいるという話を聞いたことがあり、早速調べたところありました。

ある監査法人のレポートに『コスト削減業務改善改革によって実現した部分が8割、ITの貢献は2割に留まる』という書かれているものを見たことがありますが、核心を突いたこの都議の鋭い質問には驚きました。なおこの都議は今、足立区長です。業務改善改革すなわち、BPRです。

 

そこで、今日は病院のシステム開発プロジェクトのメンバにBPRの基礎を教えたものを紹介します。

BPR とは

BPR(Business Process Re-engineering)、MITのマイケル・ハマー教授が提唱し、アカデミックな定義がありますが、実務家の我々は、シンプルに❝過去に引きずられず、原点に立ち返って業務の内容、手順を見直し、改革すること❞と理解しています。
同じ仕事、環境に長い間ひたっていると、意識・無意識を問わずそれが当たり前となり、常識を形成してしまいます。この常識が、その世界にいない人には非常識に映ります。常識の逆転現象ですが、病院関係者に『この常識を変えなければ、サービスレベルを維持・向上しつつ、病院スタッフの負荷軽減、患者満足度向上は実現できない、だから変えましょう』と提案しても、なかなか受け入れてもらえません。BPR の前に意識改革が必要な所以です。どうして非効率な仕事は引き継がれてしまうかを過去のコンサルティグ経験から考えてみると、おおよそ以下のような経過をたどっているようです。
 ①何も分からない
 ②教えてもらい、少しずつ業務が分かるようになる
 ③何でこうなっているのか?と疑問に思うことがある
 ④発言してみるが取りあってもらえない、あるいは生意気と思われるので止める
 ⑤不本意に思いつつも、そのまま流される
 ⑥そのうち、慣れてくる
 ⑦慣れてくると、別段問題がないように思えてくる
 ⑧非効率な仕事のやり方がそのまま温存される
 ⑨自分が教える立場になるが、そのまま教える
 ⑩非効率な仕事のやり方が継承される
また、次の様な問題もあります。
・医師を頂点とする権威のピラミッド構造から来る、言っても無駄、言うだけ損という雰囲気の中で事なかれ主義が蔓延

・物言えば唇寒し秋の風
・今の仕事のやり方を考えてきたプライドを持つベテラン層(牢名主?)の存在
・BPRによって既得権を制限される層の存在  
これらが、改革の足を引っ張ることはしばしば経験するところです。しかしながら、これらを排除しなければBPRを成功裏に終わ
らせることはできません。小泉内閣が医療制度改革、後期高齢者医療制度発足などの受診抑制策、診療報酬改定をしましたが、その影響で、閉鎖せざるを得なかった民間病院が出たことがありました。その事象を危機と捉えるかどうか、実行可能な具体策を採るか採らないかで明暗が分かれます。この危機を敏感にキャッチしてBPRを進め、BPR済みの業務の中からコンピュータで処理して効果が期待できるものを選んでシステムを整備した病院があります。この病院は、他院が深刻な来院者減になっている状況下で、逆に増えたという実績があり、BPRとシステムが具体的な効果をあげた事例として知られています。これは日経コンピュータの情報システム大賞を受賞しました。

 

意識改革とBPR

情報システムを導入すると、そのシステムがカバーする業務が効率よく処理され、人が減る、あるいは余った要員を忙しい部門に再配置できるという期待があります。昭和40年代後半から50年代後半にかけた大型汎用コンピュータを使った黎明期の情報システムは、確かに目に見える量的な効果がありました。それは、大量/一括/繰り返しという、コンピュータが最も得意とし、人間には不得意な単調な作業を繰り返す業務がシステム化の対象だったことが大きな理由だと思われます。しかし、今までの仕事の仕方を見直さないままシステムに写し取ってコンピュータで処理するという単純な発想で効果が出るような業務のシステム化は、製造業など他業種では、経営層が無関心、無理解でない限り、もはや残されていないでしょう。一方、医療機関には、依然として多種多様な各種帳票、伝票、メモがあり、これを人間力で処理する業務がたくさん残っていて、システム化による効果が期待できます。しかし、昔の様な単純な発想で、今の仕事の仕方を変えずにそのままシステム化することは避けたいとことです。意識改革をした後、BPRを実施しなければならない所以です。
 

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