メインフレーム時代、技術者としてOSの設計、SEへの技術支援をした後、コンサルタントして国鉄民営化直後のJR、資生堂、上場前企業の業務分析とそれを踏まえたシステム化などを経験してきましたが、並行して国税庁や都庁の管理職教育も行ってきましたが、2000年からは病院の業務改革とそれを踏まえたシステム化に特化してきました。診察の仕方、救急搬送されてきた患者の対応など、現場主義のコンサルタントとしては現場と一体になってのBPRとシステム化はやりがいのある対象でした。その経験を踏まえ、今回の医療系ニュースで配信されてきた日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院で起きた『救急外来を1日2回受診も誤診 男子高校生が死亡』を今日のブログにします。

本件に該当する毎日、朝日新聞紙面、テレ朝のニュース、および日赤ホームページの本件顛末を記したpdfを調べ、経緯、原因を列挙すると以下のとおりです。

 

経緯

2023/5/28:腹痛や下痢などを訴え、日赤病院救急外来受診(2年次の研修医対応)

②CT、血液検査を実施。脱水を示す数値が出ていた

③同研修医は急性胃腸炎と診断し、帰宅させる

④症状が改善しないため男子高校生は同日日赤病院2回目の受診

家から電話相談2回(対応は同研修医)

⑥同研修医は、かかりつけ医の受診を勧める

2023/5/29:患者はかかりつけ医受診、緊急対応必要と診断

⑧同院、消化器外科を紹介され、受診

⑨消化器外科は、上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)、腸閉塞と診断

⑩消化器内科を紹介、入院となる

脱水症状が著明&炎症反応の上昇を認める
⑫電解質異常はないので、胃管挿入はせず
⑬絶食と補液の治療にし、改善がなかったら後日追加検査をする
⑭入院から3時間後、患者は冷汗、脈拍蝕知微弱、大量嘔吐となる
⑮点滴と胃管挿入を施行することにする
⑯しかし、この時点で患者が過活動性せん妄状態になる
⑰未梢静脈ルート自己抜去、医療スタッフへの危険行為、院内徘徊などが予想され治療困難
⑱家族に来院依頼
⑲来院後、点滴ルートを確保し脱水の補正を図る
⑳過活動性せん妄状態は一旦収まったが、易怒性が残っていた
㉑当番医は鎮静剤を通常の半分を投与
㉒再度せん妄症状が現れる恐れがあるので、胃管挿入せず
㉓患者が発熱したので、解熱剤投与
㉔看護師は患者が眠れていないので、残りの鎮静剤を投与
㉕体動制限される心電図モニタは、せん妄状態を助長する懸念があるので装着せず
㉖患者は2023/5/30深夜、心停止

2023/6/15:SMA症候群による腸閉塞、高度脱水で死亡

※病院側の主張なので、上述の中の懸念がある、予想される、恐れがあるetcの真偽のほどは不明。

 

原因(病院発表)

①重症度を軽く見積もった

②脱水症の評価が不十分

③②のため、治療の開始が遅れた

④研修医は上司に相談しなかった(研修医のサポート体制の不備)

⑤急性胃腸炎と診断して重症度を軽く見積もり、患者の苦しみに耳を傾けなかった

その他

・CT 画像の評価が不十分で、急性胃拡張に対する減圧治療ができていなかった。

・脱水症の評価が不十分で、治療の開始に遅れが生じていた。

・救急外来において研修医が診療する場面での報告・相談体制に不備があった。

・職員間において患者さんの情報を正確に共有できていなかった。

・患者さんの容態変化時に、院内で定められた緊急体制が活用されなかった。
 

いずれも、研修医が指導医に指示を仰がず、指導医(病院)は研修医に救急外来を診させる際の手順(プロトコル)を徹底していないことが最たる問題。同じ患者が同じ主訴で同日に2回も救急外来を受診してくるのは異常だとして、指導医にコンサルトをお願いするのが普通ですが、そう思わず『かかりつけ医(近医)で診てもらうように』という指示で対応した研修医の鈍感ぶりには呆れるしかありません。

 

病院以外の他の業界では、新人はもちろん、経験の浅い者のサポートはチュータと呼ばれる指導者がついたり、上司が気を配って育てます。私が在籍していた会社では、育っているかを会社幹部の前で研修員発表を行い、幹部の批評をもらいます。その際、指導員だった者も同席し、どの様に教育したかを質問され、発表内容の質が低かった場合には、指導員はこっぴどく叱られます。今回は、生命をあずかる病院が舞台です。研修医をフォローし育てる環境がないとは驚くしかありません。なお、新人、経験の浅い者が、質問しやすい雰囲気が醸成されていたかが気になります。

 

病院は、今回の事件を受けて再発防止策を挙げていますが、時間の経過と共に緊張感が薄れてしまう『~すべき』という精神論ではなく、研修医の教育プログラムを作り、細かくフォローする教育制度を作らなければならないでしょう。もし既にあるとしたら、それが有名無実になっていた原因を突き止め、能書きを羅列するのではなく、前途ある16歳の若い命が失われたことを受け止め、実行可能な対策にしなければなりません。

 

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