電子処方箋は8年前の2016/4から解禁され、医療情報のネットワーク環境が整った地域から順次運用することになっていました。

しかし、普及率は病院1.5%、診療所2.1%、歯科0.1%、薬局31.7%(2024/05/29現在)となっています。意外に薬局の導入率が高いものの、医療機関での導入率は極めて低い状況になっています。その状況下で石川県白山市の松任中央病院が、電子処方箋に全面移行したというニュースが入ってきました。

念のため、石川県にある薬局の電子処方箋導入率を調べたところ40.6%(厚労省:都道府県の薬務関係主管課長会議資料)となっていて、全国1位とのこと。これもあったので踏み切ったのかもしれません。しかし、40.6%導入ということは60%の薬局は未導入!つまり、3分の2近くの薬局が未導入ということです。この状況(電子処方箋に対応していない薬局があることを承知)で全面的に電子処方箋に切り替え、紙の処方箋は出さないと決めた背景はなんなのか分かりません。300床ある地方ではこの大きな病院の患者をお客にして商売が成り立っている薬局は、お客を獲得するために電子処方箋のシステムを導入しなければならず、町の小規模薬局は淘汰されてしまうことになるでしょう。

 

核廃棄物を処理する場所が見つからない政府が、文献調査を受け入れるだけで交付金が最大20億円、概要調査までいけば最大70億円受け取れるインセンティブを示し、高齢化、過疎化が進む地方自治体の中には、目の前にぶら下げられた人参欲しさに調査を受け入れるところがありますが、松任中央病院の決断もそんなところでしょうか?決断の是非を検討するブログではないので、この話はここまでで終わりますが、釈然としません。

 

さて、そもそも電子処方箋とはなんでしょう。おさらいしてみましょう。医療機関と薬局で処方薬情報をやり取りするのが処方箋、医師が処方した薬が印字されています。

薬局は、過去の薬歴が記載されたお薬手帳を見て、飲み合わせや重複などをチェックしながら、処方された薬を患者に渡します。この時、従来は紙の処方箋を見ながらでしたが、今度は紙ではなく画面を見ながらになります。そこでマイナバカードの出番です。これを使って本人確認を行い、病院で処方された薬を薬剤師の画面に表示できれば、処方に必要な情報は得られます。しかし、前提条件があります。それは、病院の電子カルテの処方薬情報が、薬局から患者のマイナンバをキーにして参照できるようになっていることです。病院のサーバに直接アクセスするとは考えにくく、一定範囲の地域単位でサーバを置いて電子処方箋管理システムを運用し、ここに病院からの情報を書き込んでおき、ここにアクセスするものと思います。電子処方箋が取り沙汰された2016年に描いた図がありますが、こんな感じです。

石川県の状況がどうか分かりませんが、厚生労働省の病院報告(2020年度)によれば、全国の病院の1日平均在院患者数は116万5389人。これに一日平均40人と言われる全国の診療所/クリニック(104292ヶ所)を約400万、更に67899ヶ所という歯科と61791ヵ所の薬局を併せたら、この数をタイムオーバや送信抑止にならずに捌く性能を持ったサーバを用意し、運用するのはかなり大変です。JRの指定席券を主として、乗車券類・企画券などの座席管理・発行処理および発行管理行う巨大なオンラインシステム(MARS)やJR東日本のSUICAの処理を行うシステム、東証のシステムなど高トラフィックを捌く証券取引システム同等以上のトラフィックになるかもしれません。

 

処方薬という生命、QOLに関わる情報を扱うことになるこのシステム(電子処方箋管理システム?)はMARSやSUICA、東証のシステム以上に気を使って作られていなければなりません。技術革新が続くハードウェアは費用面を度外視すれば何とかクリアできるとは思うものの、富士通japanの様な日本を代表するSIerが作ったマイナンバを利用するシステムでは、トンデモナイ品質が問題になり、河野デジタル相に怒られたことがありました。

マイナンバ証明書では別人の情報が出て来たリ、別人になっていたマイナンバ保険証では高額な自主診療費を請求されたりしましたが、電子処方箋管理システムで別人に間違われたら症状に合わない薬だったり、禁忌になっている薬を処方してしまうことになります。このブログではしばしば医療ミスを取り上げ、その原因と再発防止策を取り上げてきましたが、電子処方箋管理システムの不具合による医療ミスとして取り上げることになるかもしれません。富士通japanのような日本を代表するSIベンダが重大なミスを犯し、修正版が再度ミスを起こすような体たらく!そんな中で、バグ0の電子処方箋管理システムを作れるのか心配です。アッ、作れるのかではなく既に2023/1/26から稼働しています。

 

一年経ってまだ事故の報告はありませんが、病院1.5%、診療所2.1%、歯科0.1%、薬局31.7%(2024/05/29)という電子処方箋システムの導入率をみると、事故はこれから出てくると思います。また、忘れてはいけないものに、セキュリティがあります。徳島県のつるぎ町立半田病院が攻撃されて診療できなくなったランサムウェア攻撃は記憶に新しいものですが、電子処方箋管理システムがアタックされたことを想定した有効な防御をしているのかどうか。起きてからでは遅いので、念には念を入れ再度レビューをしておくことを勧めます。

 

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