【概要】 少しの調整で双三極管 6CG7、6FQ7、6N1P、6N6P の差し替え実験のできる、A2級シングル・ミニアンプを作ってみました。

 

【動機】 先日、実家の物置にあるジャンク箱を何年かぶりで引っ掻き回し、真空管を何本か救出して来ましたが*、その中に双三極管の 6CG7 と 6FQ7 が含まれていましたびっくり。これらは、手持ちの 6N1P、6N6P とピン配置が同じで、ヒーターがどれも 6.3Vです。動作特性は異なりますが、差し替え実験も不可能ではないだろうと考えました。

 先に 12AT7、6414W、12AU7 の差し替え実験用ミニアンプ(ヒーター電圧12.6V)を作りましたが、A2級プッシュプルでした。今回は、A2級「シングルエンド」アンプで実験します。「三極管A級シングルアンプ」って聞こえが良いですしねニヤリ

【終段回路】 最近のマイブームは、オペアンプ直結で終段管をドライブする、バイアス・ゼロの A2級アンプです。バイアス・ゼロ(カソードをグランドに接地、Eg = 0Vのゼロクロスのドライブ)なので、Epの設定だけで動作点を決めることができます。B電源用に電圧可変型の DC-DCコンバータ(12Vからの昇圧)を使っているので、管球の交換に伴う Ep調整が容易です。今回もこの手を使いたかったのですが・・・ 下記の通りそう簡単ではありませんでしたえーん

 まず、規格表の Ep-Ip特性と最大プレート損失から、バイアス・ゼロ(Eg 0V)の A2級動作を見積もってみました。規格表に Eg > 0V 領域の詳しいデータがないので、おおよその推定となります。

 

 6CG7 と 6FQ7 は Pd(max) 2.5/2.85W、最大カソード電流が20/22mAです。6FQ7 動作点を、Eg 0V、Ep 150V、Ip 19mA、負荷 7kΩ とすれば、比較的リニアリティの良さそうな Eg ±10V以内で出力 900mW程度でしょうか。Eg ±15Vくらいからはクリッピングが始まりそうな感じです。

 6N1P は Pd(max) 2.2W、最大カソード電流 25mAです。動作点 Eg 0V、Ep 115V、Ip 18mA、負荷 7kΩ とし、リニアリティの良さそうな Eg±5V以内を使って Po 500 ~ 600mWと言ったところでしょうか。Eg±8Vくらいでクリッピングが始まりそうです。

 

 他方、6N6PはPd(max) 4W、Ip(max) 40mAで、動作点 Eg 0V、Ep 100V、Ip 37mA、負荷 3kΩ とすると Eg ±12Vの時に Po 1.5W程度が期待されます。手持ちの出力トランスが東栄 T-1200なので 7kΩと 3kΩの繋ぎ変えは可能なのですが、最大直流電流が 25mAと言う制限があります。

 トランスを新規購入をせず T-1200を使うということであれば、6N6Pで Epを75Vに下げ Ipを25mAに抑えて作動させる必要があります。もう一つの手は、6N6Pだけバイアス・ゼロをあきらめて、Eg -6V、Ep 175V、Ip 23mA程度とすることです。Ep-Ip特性の詳細データがないので外挿ですが、負荷 7kΩで Eg -18 ~ +6V(AF 24Vpp)まで振ったとして、最大で Po 1.5W程度ではないでしょうか。

 

 

 普通に鳴ってますが、性能保証はありませんグラサン オペアンプドライブの参考文献はこちら

 

 バイアス Eg -6Vを得るためには、自己バイアス(カソードバイアス)にするのが普通です。しかしながら 、A2領域(Eg > 0V)でグリッド電流がカソード電流に加算される時に、バイアスがどうなるのか?不安が出てきます。Rkに十分なパスコンを抱かせたとしても、大音量時の A2領域で平均カソード電流が増えるような状況では、バイアスが深くなるような気がします(AB級?)。良くわかりませんが。。。びっくり

 固定バイアスにすればカソードを直接グランドに落とせるので、グリッド電流重畳によるバイアス変化(動作点変動)の心配はなくなるでしょう。作成するアンプとして Eg 0Vと 固定バイアス -6Vを選択できるようにしておけば、6CG7/6FQ7/6N1P と 6N6P とで切り替えれば良いわけです。この条件なら、上述の通りどちらも 負荷 7kΩが良さそうなので、トランスの繋ぎ変えをしなくても大丈夫そうです。

 

【励振回路】 今回もオペアンプの直結でやります。6CG7/6FQ7の場合、Eg 0Vで最大励振AF電圧が30Vpp(±15V)ほどあれば良さそうです。最大入力AF電圧 0.5Vrmsとすると、30Vpp(出力) ÷ 1.41Vpp(入力) = 21.3倍で、NFB込みの実利得 26.6dBとなります。6N1Pは高感度なので、励振AF電圧が20Vpp(±10V)で十分でしょう。

 6N6Pの時は、バイアス電圧 Eg -6Vを中心に最大励振AF電圧 24Vppほど、Eg範囲としては -18V ~ +6V程度あれば十分かと思います。

 

 バイアス電圧 Eg -6Vを作り出すために、オペアンプの反転入力にオフセット調整回路を付けて、オフセットをずらすことで DC-6Vを出力することを考えました。オペアンプに NJM2114DD を使い電源を±21Vとすれば、オフセットなしで最大AF出力電圧38Vpp(±19V)くらいは得られそうです。このままで 6CG7/6FQ7を十分ドライブできます。オフセットをずらして DC-6Vを出力する場合、負側のAF出力振幅は制限されますが、Eg範囲としては -19Vくらいまでは振れることになり(Eg -19 ~ +7V、振れ幅~26Vpp)、6N6Pのドライブでも十分カバーできそうです。

 

【電源回路】 最近は電源トランスを使わずに、ACアダプターからの12V入力で DC-DC conv を使うのがお気に入りですニヤリ。安価で手軽で重量も軽くなります。B電源には、AMAZONやaitendoなどでよく見かける高電圧用DC-DC conv(出力可変)を使って、100~200Vを得ています。今回3機目の搭載ですが、今のところトラブルはありません。ただ、ボクの入手した基板はどれも正負電圧を出力するタイプなので、出力トランスにつながっている負電圧側の整流ダイオードと電解コンデンサを極性逆転させ、両波整流で正電圧のみを出力するよう改造して使っています。

 オペアンプ用の正負電源は、秋月電子などで売っている±15V出力のMINMAXが便利なのですが、今回は±21VがほしいのでStrawberry LinuxのLT3580SEとLT3580INVを使いました。

 インバータ/コンバータからのEMIが心配なので、上述の電源基板はシャシ上部のシールドケースに入れ、手持ちのRFCを挿入して配線しました。ヒーター用には、三端子REGの7806で6Vを得ています。

 

【結果】 6CG7 と 6FQ7 はよく似た管球のようです。どちらも数十年前の使い古しの管球でしたが、Ep 140V、Eg 0Vで差し替えて、普通に使えました。12AT7、12AU7、6414Wの時と同じように EgゼロクロスでA2級の使い方(Eg > 0V側だけで Igが流れる)をしても、”ダイオード・クリッパ”みたいにはならないことが分かりました。(そう言えば、バイポーラTRのベース・エミッタ間もダイオードですよね、関係ないけどニヤリ

 6N1Pは 出力~500mWと、ボクが最近作った中では最も非力かもしれませんが、それでもBGM用途には十分な気がします。音も普通です。

 6N6Pの固定バイアス(Eg -6V)が心配でしたが、オペアンプのオフセット調整を使ったDC重畳でもちゃんと機能することが判明しました。これ、今回のメイン・チャレンジでしたが、上手くいってとても嬉しい爆  笑です。ただ、A2級領域(Eg > 0V)は評価できていない可能性が高いです。ボクの工房のある八畳の部屋では最大音量にはとてもできないので、A1級領域だけで聴いているかと思われます。ま、違和感なく聞こえているのでどちらでも良いのですが。。。ニヤリ

 励振電圧をあまり必要としない高感度な管球なら、オペアンプ直結ドライブがお手軽で良いですね。今回、DC重畳による固定バイアスが可能なことも確認でき、巾が広がりました。ただ汎用のオペアンプでは出力電圧が最大で 35~40Vpp 程度なので、大きな励振電圧の必要な管球に適応できないのが残念です。

 以前にも書きましたが、ネット上に広がるミニワッターと言う文化を知らなければ、双三極MT管でパワーアンプを作ろうなどとは思わなかったでしょうねニヤリ ボクが作った中では最小パワーと思われる 6N1Pシングル(~500mW)でも工房のBGM用途には十分な役割を果たしてくれています。

 

 ボクのアンプ評価基準は、「ベースとハイハットが違和感なく聞こえ、八畳の部屋で最大音量にできないくらいのパワーがあればそれで良し」と言う ”甘い” ものです。この条件では、”思い付きの回路” と ”適当な管球” でアンプを作っても、難なくクリアしてしまいました爆  笑。性能のハードルが低いと、アナログ回路は許容度が大きいですね。今回、馴染みの双三極MT管を色々と試してみましたが**、すべて合格でした びっくりびっくりびっくり  めでたし、めでたし。

 

双三極MT管 差し替え実験用アンプ

左:6Vヒーター管のシングルアンプ  右:12Vヒーター管のPPアンプ

 

* 実家のジャンク箱からは、6AR5、6BQ5、6BM8、12BH7 なども救出して来ましたが、真空管アンプ製作もちょっと飽きてきたから、またしばらくお休みしててもらいましょう。なお、歴戦の勇士、UY-807、6JS6A、2E26、6146B、S2001、12BY7A などは、まだ実家のジャンク箱でお休み中ですニヤリ

 

** 工房では BOSE と Behringer の小さなモニタースピーカーでBGMを流していますが、音の個性は スピーカー >> アンプ(トランス?) > 真空管 の順で決まってるように感じています。逆に言うと、スピーカーの個性をかき消すほどの大きな個性は、アンプにも管球にもないように思います。もちろん「老人の劣化した耳」による判定ですので、当てにはなりませんがグラサン

 

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