今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、破綻した論理展開、通じない会話に、コオは困惑する。

 莉子:「まず、繰り返しになっちゃうんだけど、私の今の状況って言うのは普通じゃないの!」
  また出た。【普通じゃない】。だから、あんたの状況関係ないんだけど。
 
莉子:「だから親戚からの約束が証書として目の前にないと、なにか起きた時にそうですか、で終わっちゃうのよ!それが私の状況なのよ。状況が原因なの!」
 
 
 
 ???????????
 全くわからない。
 証書?お金を借りるならともかく、返してもらうのに証書??
 
 莉子:「だから証書みたいなものがないと、身分証明だけ置いていくとかって言うのが私にはでできない!それが私の状況なのよ!お姉ちゃんが信用できないとか言ってるんじゃなくて・・・」
 
 やっぱりわからない。
 保険証を渡すのに証書が必要と言ってるのか?・・・何の証書だ、それ?
 
 コオ:「それ・・・身分証、和香子さんに渡すわけじゃ無いのに?」
 莉子:「だって、パパがやるわけじゃ無いでしょ?」
 コオ:「・・・いや。本人いないとダメだから、父も連れていくよ。 通帳作るのに銀行行っても、身分証明だけでもだめ。本人もいないとダメだからね。」
 
 なるほど。
 この歳になっても世間知らずの、莉子は、銀行のシステムをほとんど知らないようだ。
 そういえば、コオの長男・遼吾も
 銀行の口座開設に必要なものすら、知らない。
 上っ面だけだ。

 

今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、破綻した論理展開、通じない会話に、コオは困惑する。

 
  「こうやって久しぶりに会って話しないで帰るんだったら、もう健弥や遼太、甥っ子たちに頼んでいけばいいわけで・・・ポストに入れて。お姉ちゃんよくやるけど。大事なものでもそういうことするけど、それでいいわけでしょ?でもそれではいけないから、こうやって時間とってもらってきたんだからちょっと聞いてもらってもいい? その後で、なんか文句があれば言ってくれていいから。」
 
 だから!ケースワーカー相手に離してた今までの20分が無駄だろう。
イカれた展開の話しかしない癖に、巧みに、コオを非難する言葉を交えるとこが、狡猾だ。
ほんと、こいつ、妹じゃ無かったら、絶対友達にもならないし、口もききたくないタイプ。 最悪。
実際、身分証だけ、ポストに入れくれればその方がずっといいんだけど。【それではいけないから】って、いけないのはあんたの頭でしょ?
 
 コオが、返事をする前に、莉子は話し出した…
 
 「まず、繰り返しになっちゃうんだけど、私の今の状況って言うのは普通じゃないの。普通であれば普通に成り立っていくことが成り立たないのよ!」
 
 また出た。【普通じゃない】。
 だから、あんたの状況関係ないんだけど。
 あんたの頭の中が普通じゃないのが分かってるんだったら、大事な書類は普通の人に任せろよ。余分な決定権振り回されると迷惑だ。
 
 

 

今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、破綻した論理展開、通じない会話に、コオは困惑する。

 
 「結局・・・いったい・・・何をしてほしいわけ?」
という問いに
 「どうして話を遮ったの!?私が一生懸命浅見さんに話をしてるのに!!」
という返答を返してきた莉子。コオには同じ言語で話しているとはもはや思えない状態だった。
 
コオはため息をついた。答えざるを得ないだろう。ここは。
 
 コオ:「浅見さんに話しても意味がないから。」
 
何故ケースワーカーの浅見に向かって話すのか、コオにはまったく理解できなかった。
オブザーバーは、立会人だ。話し合いに参加するわけではないのだ。
とはいえ、あまりにムチャな事を言う莉子を軌道修正してほしいとは思ったが。
 
 莉子: 「はー、もうだめだ。どうしたらいいんだろう…」
 
莉子は大きくため息をつきながら天井を仰いで独り言のように、言った。
 ため息つきたいのはこっちだよ、とコオは思った。
 大体何?その被害者面。被害者はこっちだよ。日本語理解しない奴と会話しなくちゃいけないとか、最悪。
 胸の中で毒づいていないと、頭がおかしくなりそうだ。
 いや、頭がおかしいのは莉子だ。
 何故、ケースワーカーの浅見はこれを放置しているのだろう?
 
莉子:「ちょっとお姉ちゃん!!色々文句張るんだろうけど、話だけ聞いてくれる!?」
コオ: 「は?それ、どれくらいかかる・・・?私、仕事が・・・」
 
 とたんにとがった声で莉子はコオの言葉にかぶせてきた
 
莉子: 「だから私は話をするために来たんでしょ!?意味ないでしょ、話ししないで帰るなら。」
 
 だったら、ケースワーカーにだらだらしゃべってんじゃないよ、バカ。
 意味がないのはお前の言葉だ。
 
 

 

今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、意味不明の話の展開に、コオは平衡感覚を失う。

 莉子は叫び続ける。
 
 お姉ちゃんは何もわかってない。わかってて普通だ。これだけ、拒否してたんだから、わからないに決まってる。
 中途半端にかかわるな、。最後までやれ。匙を投げるな。
 事務的にやるな。
 
 これをすべて同時に。
 めちゃくちゃだ、ということがケースワーカーの浅見にはわからないのだろうか?
 全く相反することで責め立て、相反する要求をする。
 (くっそ、身分証手に入れるために、なんでこんなバカな話に付き合わなくちゃいけないわけ?)
 コオは自分がみじめに思えてくるほどだった。 
 
 「結局・・・いったい・・・何をしてほしいわけ?」
 
 莉子の【なんでお姉ちゃんは】とか【どうしてお姉ちゃんは】に一つ一つ答えたところで、
ただエネルギーを消耗し、無駄な時間を使うだけだ。
 だってコオを責めたいだけなのだから、とコオは思った。
 だから、莉子自身の女の望みを聞く方が早いと思った。
 しかし、こういうコオの計算は、莉子を相手にした場合、ことごとく裏目どころか、
 全く想定外の結果となって帰ってくる。
 
 「どうして話を遮ったの!?私が一生懸命浅見さんに話をしてるのに!!」
 
 何をしてほしい、と聞いているのに、どうして話を遮ったの?という返答。
 同じ言語で話しているとはもはや思えない状態だった。
 
 

 

今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、意味不明の話の展開に、コオは平衡感覚を失う。

 
 コオはいらいらとボールペンをノックしながら、
 何故、ケースワーカーの浅見は、おかしいことをおかしいと言わないのだろう、と思っていた。
 立場としてどちらの味方もできないだろうが、明らかに変なことはその場で第3者として訂正してくれなければ、
 オブザーバーとしての意味もない。
 
 正直、この浅見というケースワーカーは使えない。
 
 コオは思った。
 莉子とこうして話すのが嫌でたまらなかった。
 5分で終わるような話を何故こんなに長く、しかも理不尽に責め立てられながらしなければいけないのか。
 
 (イカレてる)
 
 もう何度目か、コオは席を立ってこの場を離れたい、と思った。
こんなイカれた女相手にしたくない。
 
 莉子:「パパがなんで親せきにお金返してもらうが必要かって、お姉ちゃんその辺知らないでしょ!?お姉ちゃん言ってること分かる!?わかんないでしょ!」
 コオ:「全くわからないね(莉子に言ってることが)、じゃ、教えてよ。」
 莉子:「当り前じゃない!なんでわかんないの!?普通はわかるよね?!」
 コオ:「お姉ちゃんはわかってない、っていうから聞いてるの。なんで?」
 莉子:「あーもう!!浅見さん、普通はわかりますよね?」
 まただ。わかってない、と言った次の瞬間に、では教えてというと、普通はわかる、という。
 
 (イカレてる) 
 
 いったいいつまでこの不毛なやり取りを続けなければいけないのだろう。
 浅見が一言、
 【お姉さんが手続きしてくださるってことですから、お渡ししてもいいと思いますけど。】
 とかなんとか、いってくれればいいのに、。
 
 莉子のゆがんだ世界が、ブラックホールのように無限にコオのエネルギーを吸い上げていく。
 
 コオはそんな情景を頭の中で思い描いていた。
 
 

 

今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子は、何故かケースワーカーに自分語りをはじめ、コオは平衡感覚を失う。

 
 このミーティングの間中繰り返された莉子の論理展開。
 いや、論理と言えない、彼女の話の進め方は、激しくコオを混乱させた。
 
 それは、コオが1年前、離婚のきっかけになった莉子とのやり取りの時と全く同じ、
 コオのやったことに対し、入り口も出口も否定し、ふさいでいくようなやり方だ。
 
 莉子:「あれだけ実家を拒否しておいて、なんで老人ホーム事なんて今更、やるの!?」
 コオ:「父に頼まれたから。頼まれなかったらわざわざやらないよ。」
 莉子:「私なら、ここまで拒否してたらやらないよ!」
 コオ:「じゃあ、父に言えばいいじゃないの、自分がやるからお姉ちゃんに頼まないでって。」
 莉子:「ほら、そうやって、放り出す。やるなら最後までやってよ!!」
 
 そんなふうに。
 やることを責めながら、じゃあ、やらないといえば、放り出した、と言って責める。
 莉子の話の展開の仕方は全て同じだった。
 
 そしてさらに、コオが、事務的だ、とあらゆる場面で責めた。
 莉子: 「いつもお姉ちゃんはそう!!事務的にそうやって・・・人間じゃない!!」
 コオ: 「事務的に進めたいの。この件は、だって、事務だから。」
 莉子: 「お姉ちゃんに頼みたいって、パパの気持ちは私はわかるよ。だから私だって、パパの気持ちを尊重してそうしたければ、って思ってたけど、お姉ちゃんが娘としてやるんじゃないんだったら、私が、すっごい大変だけど私がやる。すっごい大変だけど、絶対・・・私はお姉ちゃんとちがうから・・・大変だけど・・・」
 そして涙声になる。茶番だ。意味もない。
 コオ: 「じゃあ、あとはそっちでやって。私は父に頼まれたことを全部こなした。あとは、ともかく身分証がないと次には進めない。なんで渡せないって叫ぶのか理解でいないし、渡してくれないなら、私はこれ以上進められないから。」
 莉子: 「ほら!またそうやって、いつも自分はやった、ここまでやったって被害者みたいな顔して!!」
 
どうしろっていうんだ???????
 コオは人生の中でここまでうんざりしたことがあっただろうか、
 と考えながら、ボールペンをノックし、またパチンと戻す、という行為を繰り返していた。
 うるさいのはわかっていたがやめられなかった。
 
くだらなすぎる。莉子は変だ!!
 
 
 
 

 

今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。


  莉子がしゃべりはじめてから15分後。
 コオはすでに平衡感覚を失いつつあった。

  (なんだ、これは。)

 単純な話だったはずだった。
 父が親戚に貸したお金を返してもらう。月々決まった額を振り込んでもらう。そのための振込口座を作る。そのために父の身分証明が必要。それを渡してほしい。
 that's it.

 莉子が嫌に攻撃的に(しかも偉そうに)

「お姉ちゃんの口から説明して。」

 といったが、3分もかからず、コオは説明を終えた。間に莉子の余計な横やりを入れてくるのを、コオは「今はそれ関係ないから。」とぶった斬り、話しきった。なのに・・・

それが、なんなんだ??今のこの状況??

「・・・ともかく、私のことを理解していただくって言うのは、とても大変なんですけど、それで父も、本当にもう昔のように物事を整理してできなくなってるんですね、それで、今回、老人ホームに移るのに、前金を用意するのに、親戚に貸したしたお金の事を思い出したんだと思うんですよ....」

 何故莉子がケースワーカー相手に自分のことを語り出してるんだ?しかも例によってまったく何がいいたいのかわからない。話の着地点も見えない。そもそも、オブザーバーに何故語る必要がある?
 
 世界がグニャグニャとゆがんでいくような感覚だった。


 莉子は、変だ。




 

 

今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。

莉子:
「私から話すね?パパからも何となくは聞いてるけど、パパ経由で大事な書類を渡すって言うのはできない、っていうのは、パパにはっきり言っていたの。
 ちゃんとどう言うことか話を聞いてからでないといつ戻ってくるのか、とか、ちゃんとした形で戻してもらえるようにしないと、こういう大事な書類ってなにかあったら必要になるし・・・、いろんなところで前みたいに整理できる人でないから、それでもうね、ずっといってたんだけど、ただ預けていくってことはできないって・・・」

 ああ、もう。
 なんだこのわかりにくく、回りくどく、余計なことだらけのことばは!
 しかも途中からコオではなくオブザーバーの浅見に向かって話し始めて、まだ続けてる。
 
 コオならこの内容を5秒以下で言える。

【父経由だとよくわからないから、この書類が必要だって言う理由を直接教えて?】

 (こいつは…信じられないくらい長くかかるかもしれないな)

 だらだら無意味に続く莉子の言葉を聞きながら、コオは窓の外をみていた。



 

 

 

今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。

 
 莉子は老けたな、とコオは思った。口元がたるんでいる。人のことは言えないが。
白い薄手のワンピースを着た莉子は、相変わらず、丘の上で花束を抱えた夢見る少女を気取っているようで、ちょっとイタイ。そんなことをコオはは考えた。
 
 コオは、いつも手元においている手帳を取り出し、メモができるようにテ-ブルに広げた。
 
「あの、浅見さん、ほんとごめんなさい、書くもの持ってきてなくて、ホント、ごめんなさい~」
 
莉子はケラケラと笑いながら、浅見に鉛筆とメモ用紙を借りている。
 
(こういうところが嫌いなんだよ)
 
コオは既にイライラしていた。
他人には調子良くあたるから、みんな気づかないよく考えてみて欲しい。
 無音声の映画の1シーンだとしたら。

 テーブルについた後、ノートとボールペンを広げるコオ。一方、笑顔で浅見から紙と鉛筆を受け取る莉子

 真剣なのはどっちだ?


 

 

今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
 

 
  莉子は15分遅れてやってきた。
 
 「ああ~すみませ~~ん!」
 
 という甲高い声は、よそ行きでケースワーカーの浅見に向けられた声だ。
 
 「いいんですよぉ、こちらの小部屋へどうぞ!!」
 
 浅見は、5人位が入れる小さな部屋へ、コオと莉子を案内した。
 莉子のほぼ隣に浅見は座り、テーブルを挟んで向かいに、コオは座った。
 
 コオは、莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れていた。
 ボイスレコーダーは、莉子がヒステリーをおこし、コオを実家から叩き出したのをきっかけに1年前購入したのだ。父と面会するときや役所と連絡を取るとき、必ず音声を録っていた。
 あのとき、コオは行政に助けを求めた。
 妹はおかしい、
 その妹に軟禁状態にある父を、なんとかしなければならない、どうしたらいいのか、相談にのってほしい、と。
 
 その時電話に出た、行政の窓口担当はいった。
 
 「暴れてたり、自傷とか、お父さんを傷つける恐れがあれば、妹さんを保護できますけど、それはないんですか?」
 
 父を傷つけてはいませんが、私には掴みかかり、痣だらけになり、擦り傷もひどかったので、写真にそれを撮っています、といったコオにそいつは言ったのだ。
 
 「でも、お父さんを傷つけたり、自分を傷つけたりすることはないんですよね?あなたはそこから出てくればいいだけですが。」
 
 そして、録音でもあれば、保健所が動くかもしれないが、今は何もできないといった。
 
 コオはボイスレコーダーを買った。ふざけた行政の対応も電話音声もその後は録音していった。