今までのあらすじ

 コオは約束の30分前に北寿老健についた。
 妹・莉子に会う前に父と、立ち会ってくれるケースワーカーとも会っておきたかった。
 父は、いつもの丸首のスウェットではなく、カラーのついたシャツを着ていた。
 
 「ああ、俺も、行くからな。」
 「いや、パパは・・・」いない方がいい。という言葉をコオは飲み込んだ。

 「きてほしい感じだったら、浅見さんに読んでもらうけど、最初は、いない方がいいかも。興奮すると、脳によくないし。」

 コオは言った。
 父は素直に、そうか、といった。

 「浅見さん、今日は、よろしくお願いします。」
 「あのぉ・・・私、そばで聞いてるだけでいいんですよね?」

 ケースワーカー浅見は言った。コオはうなづいた。

 「ええ、浅見さんがいてくだされば、妹もむやみにヒステリー起こしたりすることはないと思うんで。」

 時計は、すでに約束の時間を指していた。




今までのあらすじ
直前までのあらすじ


 コオに最後通牒を突きつけられ、父はもうこれ以上事態を引き延ばせないことを悟ったのだろう。
 1年と1ヶ月ぶりに、コオは莉子と会うことになった。父の担当ケースワーカー浅見の立ち会いの元に、父のいる北寿老人保健施設で会う。
 ケースワーカー浅見の出勤日でなければならないので平日だ。
 表向きは父の親戚からのお金の振込先を作るために保険証が必要なので、渡してもらうため、ということになっている。
 
 コオは仕事は半休をとり、北寿老健に向かった。こういうとき、ある程度時間の自由が利くのは助かる。(といってもツケは後に回ってくるのだが)
 仕事を休む気はなかった。
 莉子が指定してきた時間は昼。例によってドタキャンする可能性もあるが、保険証を受け取るだけなら、5分もあれば済むはずだ。

 そしてもちろん、そんな簡単に終わるわけはなかった。


Battle  Day380-Day499あらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

更にコオは莉子と向き合わない父にコオは最後通牒を突きつけ、父は改めて今後のことをコオと前夫の遼吾に任せたい、という。別れた夫、遼吾と共にコオは父とあらためて、話をし、今後のことを話しあい、事態は動き始める

 


 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

更にコオは莉子と向き合わない父にコオは最後通牒を突きつけ、父は改めて今後のことをコオと前夫の遼吾に任せたい、という。

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  結局、遼吾とコオを呼んだからといって大きく自体が動いたわけではない。

 ただ、確認をしたまでだった。

 

・父は老人ホームに移りたい

・金銭的なことは前金については、親戚に貸したお金の返済を含め、コオが管理

・親戚のお金を返してもらうにあたって、父の身分証明がどうしても必要なので、1日も早く莉子に連絡をすること

・莉子の自立を必ず促すこと。具体的には、1年以内に安定した職につく努力をすること。

 

 1年前と何が変わってるのか。うんざりはするが、強いて言えば、親戚に貸したお金の返済を【コオにすすめてほしい】と父が言った、という確認をとったところは、大きく前進というべきか。少なくとも遼吾の前でいったのは意味があるだろう。そして莉子に、父の身分証明をもってきてもらう、という約束をしたことも。

 コオは水面下での一気に事をすすめる決心をした。

 父の保険証を手に入れる。

 そして。

 そして、何よりもまず、父、深谷はじめの財政状況を把握するところから始めるのだ。

 

 父が倒れてから、1年半。遼吾と別れてからほぼ1年が経っていた。

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

老人ホームに行きたいという一方で、再び現在の施設に居たほうがいい、莉子を納得させるのに時間がかかると一向に話を進めない父にコオはついにキレた。

父はコオの別れた夫に電話をして二人で会いに来てくれ、と頼む

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  結局のところ。

 父だってわかっているのだとコオは思う。父が亡くなった後も莉子の人生は続いていくこと。莉子が自立しなければいけないこと。しかし、同じ娘であるコオがいくらいったところで、父にとっては姉妹間のはりあい、あるいは姉妹喧嘩の延長のような感覚だったのではないだろうか。いや、そう思いたかったのか。

 

  もう一つ密かにコオが危惧していたことがあった。

 父は、いいときに退職し、それなりの年金額をもらっているはずだった。概算ではあるが、老人保健施設の大部屋ならば、入居もできる。加えて、各種税金、固定資産税や自宅の維持費も払える。。

 しかし。コオや莉子の世代は、もらえる年金額は微々たるものだ。

 しかも、もらえる歳だって父の時と同じ60歳でなはい。

 莉子は・・・

 そういうことがわかっているのだろうか??

 年金がもらえる(と彼女が思っている)までの短くはない10年、20年という年月をアルバイトで食いつなげばいい。そう思っているのではないだろうか?

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

老人ホームに行きたいという一方で、再び現在の施設に居たほうがいい、莉子を納得させるのに時間がかかると一向に話を進めない父にコオはついにキレた。

父はコオの別れた夫に電話をして二人で会いに来てくれ、と頼む

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 「お義父さん、もう全部コオと俺に任せたいから、一度北寿老健に来てくれって。」 

 コオに最後通牒を突きつけられて、父はとうとう避け続けた莉子との対話をする気になったのかようだった。

 

 「お義父さん、お久しぶりです。」

 「ああ、遼吾君悪いね。」

 

 コオに、もう来ない、自分にもう何も頼むな、と言われたのが少し堪えたのか、遼吾を迎えた父の表情は硬かった。それでも、コオがいつものようにおやつを差し出すと嬉しそうな顔をした。

 

 「あの、陽の当たるところに行こう。」

 

コオは言った。 北寿老人保健施設の、面会が可能なスペースは個人の部屋と、食堂の他に、テレビとソファとテーブルのあるスペースが一箇所あって、そこはコオのお気に入りだった。父のベッドのある大部屋は、南向きだけれど日当たりが悪いので、コオはあまり好きではない。

 

 コオは父のペースの合わせてゆっくりとあるいて、その陽だまりのスペースまで歩いた。

 

 「それで・・・ともかく、莉子がね、頑固なもんで・・・甘ったれだし。何もできないから、今後のことをお願いしたいんだ。」

 「今後?」

 「つまり、私の移る先のホームの決定とか、家の管理とかだね。」

 「それはいいですけど、莉子さんも大人ですからね。ちゃんと自立してくれないとお義父さんも困るんじゃないですか?」

 

 遼吾に忖度という言葉はない。

 結婚前から、そして結婚してからも、そして別れてからも思う。

 多分遼吾が普通に(聞こえるように)話すときは、多分恐ろしく気を使ってるのだ、とコオは思っている。

 自分には関係ない、とか、自分はこの人には気を使う必要はないと思ったときの遼吾のドライなものいいは、【私だったら、立ち直れないかも】とコオが思うほどの、木で鼻を括ったような、言い方だ。

 父に向かって遼吾が言った言葉は、そこまでひどくはなかったけれど、いってみれば

 

身もふたもない

 

そんな感じだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

老人ホームに行きたいという一方で、再び現在の施設に居たほうがいい、莉子を納得させるのに時間がかかると一向に話を進めない父にコオはついにキレた

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 「もう、このまま莉子だけ大切にして、好きにすればいい。莉子に全部やってもらえばいい。パパ。もう、会いには来れないよ・・・さよなら。残念だったよ。」

 コオは父のいる北寿老人保健施設を後にした。

 

 コオは疲れていた。病院も、施設もキーパーソンではないから、とコオがやることに色々な制限をつける。でもそのキーパーソンと連絡が取れないと、結局はコオに連絡が来て尻拭いをさせられる。父には便利屋扱いされる。介護疲れというけれど、こういう疲れは介護疲れに入らないのだろうか?そんな事を考えた。

 

 数日後。

 別れた夫・遼吾から、コオのもとに電話が入った。

 

 「お義父さんから電話があった。」

 

 父にはコオが遼吾と別れたことは知らせていなかった。

 

 「…私ね、キレた。こないだの週末。父はまた、莉子にお金を残すためにはこのまま老人保健施設にいるとか言うから、もう、勝手にしてって。莉子だけ大切にしたいなら、もう、何も頼まないでって。」

 「うん…知ってる。それでさ、お義父さん、もう全部コオと俺に任せたいから、一度北寿老健に来てくれって。」

 

 コオに最後通牒を突きつけられて、父はとうとう避け続けた莉子との対話をする気になったようだった。

 

 「俺、行くよ。」

 「いいよ。あなたはもう戸籍上関係ないんだから。」

 「いいんだよ。」

 

 遼吾は言った。

 コオは遼吾が父のことを手伝ってくれるより、私への気持ちを言ってほしいのに、とこんなときも密かに思っていた。単なる手伝いなら、いらない。また一緒に歩いていく気があるのかどうか知りたい、そんなふうに。

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

老人ホームに行きたいという一方で、再び現在の施設に居たほうがいい、莉子を納得させるのに時間がかかると一向に話を進めない父にコオはついにキレた

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  

 「考えたんだけどな、やはりこうやって、老人保健施設に・・・居たほうがいいんじゃないかと思うんだ。」

 「一体何のつもりで言ってるの?」

 

 この日、コオは、静かに決心を持って、キレた。

 

 「あのね、それなら、なんのために、私に施設を移りたいから探してくれとか、和香子さんに会ってお金を返してほしいなんて言わせたの?いつまで莉子を、甘やかして子供扱いするの?おかしいよ!!」

 「あの子は、ともかく時間がかかるから…」

 「いつもそう言うよね。でも世界はパパや莉子のペースで回ってるんじゃない。莉子は普通に大人なんだよ。みんなと同じように24時間持ってる大人。私と同じだけの時間を持っていて、私はその中で仕事も目一杯して、子育てだってしてきた。なんで莉子だけ甘やかすの?」

 「うるさい!!」

 「そうやっていつも、私のことは怒鳴るよね。莉子が間違ってても怒らない。…もう私はパパが言うこと全部やってきたよ。一生懸命、施設を探すためにケースワーカーに相談して、会社を紹介してもらって、見学も行ってパパを見学にも連れて行った。和香子さんにだって会って話をした。これ以上私はできないよ。」

 「ああ、それなら、もういい、やらんでいい!!」

 「うん、私はもうできない。そうやって莉子ばっかり大切にするのは昔からだよね…いつだってそうだった。お母さんも。結局、私なんてどうだっていい。便利屋としか思ってないんだもんね。」

 「ああ、そうだよ!!」

 

 コオはつばを飲み込んだ。こんな事言われるのなんて、大したことじゃない。私は自分の家族も失ってしまった。父だけでも取り戻せるなんて思ったのは、ただの夢。ただの幻。私は、便利屋だったんだ。やっぱり。そんなの・・・今更じゃないか。

 

 「もう、このまま莉子だけ大切にして、好きにすればいい。和香子さんにも、自分で連絡して。私はもう関わらないから、莉子に全部やってもらえばいい。パパ。もう、会いには来れないよ・・・さよなら。残念だったよ。」

 

 これでたとえ父が倒れても、もう、仕方のないことなんだ。

 コオは後ろを見ず、父のいる北寿老人保健施設を後にした。

 

  

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

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 コオが親戚の和香子さんにあって、父の貸したお金の返済について話をつけてから1ヶ月半の間。

 ただ、ひたすらにほとんど同じ会話の繰り返し。

 

 老人ホームには行きたい。

 ならば父の身分証明がどうしても必要だ。

 莉子を納得させるのは時間がかかる。

 甘やかしすぎだ。もうすでに父が倒れてから1年以上立っている。十分時間は立っているし、決断しなければならない。

 もう少し、待ってやってほしい。

 

 父も、おそらく莉子も、現状を打破するだけのエネルギーを持っていない。

 しかし、ゆるゆると時間は過ぎていくし、世界は止まってはくれないのだ。

 

 「考えたんだけどな、やはりこうやって、老人保健施設に・・・居たほうがいいんじゃないかと思うんだ。」

 

 父がこの北寿老人保健施設にはいってから何度目かの、同じ父の言葉。

 これは永住型の老人ホームに入りたい、ということと真逆だ。

 コオに永住型の老人ホームを探してくれ、と頼んだ父。それに応え、コオは、老人ホームの見学を重ね、親戚に会い、老人ホームに入る前金調達を兼ねた借金の返済計画をたてた。それらを父は一体何のつもりでコオにさせているのか。

 

 「一体何のつもりで言ってるの?」

 

 この日、コオは、静かに決心を持って、キレた。

 

  

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

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父は、老人ホームに移る際必要な前金の額も、コオが出す、ということも忘れてしまっている。

 コオは素早く話を合わせることにした。


「待ってもらえる訳ないじゃない。だから、ホームに空きが出た時点で、それまでに返済してもらったお金と、足りない分は私と莉子が出すしかないでしょ。」

「ああ、そうしてもらうかな。でも莉子ちゃんはお金がないと思うんだ。」


 ち、とコオは舌打ちをしそうになった。

 また莉子ちゃんは、だ。莉子がお金がないなんて言うのは、コオだって薄々、というよりほぼ確信に近い形でわかってる。

 ただ、あらためて父に【莉子ではなくコオが出す】ということを認識させたかっただけだ。


 「そしたら、仕方ない。私が銀行から借りるなりなんなりで調達するよ。」


 これも嘘だ。とっくに前金の確保はできてる。母が、曲がりなりにもコオの名義で作っていた通帳の中の全額。そして、ブラック企業で長く働いてきてたくわえた貯金。


 感謝なんて、されなくったっていい。

 コオにはちゃんとそれだけのお金を調達する能力がある。

 でも、決してそれは簡単なことではない。

 

 それを父に認めさせたくてついた嘘だった。