Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

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 「パパの口座なら、ちゃんと公正証書もあるんだし、返済金、ってことで贈与にはならないでしょ。」

「それでいくら払ってもらえるんだ。」

「月々10万。余裕があるときはもう少し払ってくれるって。」

「でも、それじゃ、貸したお金の半金だって帰ってくるのに1年以上かかるな。」


父は倒れて以来、計算ができなくなったと嘆いていたが、こう言うときはぱっと出てくるんだな、とコオは思った。


「うん。でも今、和香子さんの会社の融資を申し込んでて、それが通れば少し余裕ができるから、残りをいっぺんに返せるって。でも半金だけどね。それで残りの半金は、家売って、息子たちと同居するときに返すっていってた。」

「それで・・・移り先のホームはそのお金が返ってくるまで待ってくれるのか?」


 やれやれ。

 計算はできるが、記憶はやはりダメになっている。コオが前金を出すといったことも、その額も忘れているようだ。

 しかし、これは、いい機会だ。コオは素早く話を合わせる事にした。

 




 

  

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんに会い父のお金の返済に関する取り決めをしたことを父に伝える。

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  莉子に奪われた、実家のお金の管理する手段を取り戻す。和香子さんとの話し合いは、1年以上にわたって悩まされた、莉子が握る父の身分証の件を解決するブレークスルーになる。


「和香子さんと、会って話してね、お金、半額だけになるけど、月々決まった額返してもらうことにした。」


コオは父に伝えた。


「それで、新しい銀行口座をね、返済用に開くことになったから、身分証とか持ってくるように莉子に言ってほしいんだけど。」

「おまえの口座に振り込んでもらえばいいんじゃないか?」

「何いってんの。そんなわけいかないでしょ。贈与税とかかってきちゃうよ?」


 贈与税は年間110万を越えるとかかる。10%だ。もちろんそうならないように、トータルの金額を調整するのは簡単なのだが、大切なのは、父名義の口座を開くことそのものより、それを口実に身分証を手に入れることにあるのだ。


 もちろん、コオはそんなことを父に伝えるつもりもなかった。



 

 

  

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探し、新たな施設を選び出す.父は動くことを現実的に考え出し、お金を貸していた親戚から、少し返してもらうことを考える。会うことコオがその親戚の和香子さんと話をし、父のお金の返済に関する取り決めをした。、

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 コオが親戚の和香子さんに会ってから。

実はコオは、本格的にある計画を実行に移そうとしてた。

 その計画は、一言で言うなら、父の本人証明書奪還計画。実際は保険証だ。マイナンバーを、父はとったと言っているので、そのカードがあれば一番いい。なんといっても今は免許証明と同じくらい身分証として有効なのだ。それがないのなら健康保険証。介護保険証も使えるようだが、これは健在父のいる施設が預かっているから、事情を話して渡してもらえばいい。


 そう、コオは、親戚からの返済金を入金する銀行口座開設のためだけではなく、いままでありとあらゆる場面で父の身分証明が無いためにできなかった手続きを進めようと考えていた。


いや、はっきり言ってしまえば莉子に奪われた、実家のお金の管理する手段を取り戻す。それが隠された最終目的だった。



 

 

  

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになり最後の施設をコオは気に入ったが、前回とおなじことが怒るのを恐れ、

コオは何もしないことにした。そんなときに、父に頼まれ、お金を貸していた親戚に会うことになる

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 このときの、コオは、少し上ずっていたが、ともかく、話の早い親戚、和香子さんと次のようなことを話し、決めたのだ。

 

・ コオの父には、借りたお金の半金150万ほどを、まずは返す。残りは家が売れたときに返す。

・ 半金であっても一括ではすぐに返せないので、分割で月10万程度ずつ。

・ 現在銀行に融資を頼んでいる。それが通れば、仕事が回るのでもうちょっとまとめて返せる。

・ そのために父名義の振り込み用の銀行口座を開いて、口座番号を知らせる。

 

 これが、コオと和香子さんが決めたことだった。

 

(細かいこと言うと突っ込みどころがないわけじゃないけれど)

 

 とコオは思った。

 何にしても150万超えのお金はありがたい。母の残したお金と合わせれば、老人ホーム、コスモスホームの前金の8割位がまかなえる。

 コスモスホームは、最初に父が希望したところに比べると、断然月額は安かったが、その分、前金がかなり高かった。1.8倍。それでも月額は10万近く安い。年金で月額を賄うことを考えていたから、これはオーケー。それでも前金にできる資金はあればあるほどありがたい。

(どうせ莉子は頼りになんてならないし)と心のなかで思いながら、コオは建設的な話ができたことに満足した。

  

 そして、和香子さんとはなした返金用に、

 【新たに父名義の銀行口座を開く】

 

 コオはこれを利用できるのではないかと考えていた。

 

  

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになり最後の施設をコオは気に入ったが、前回とおなじことが怒るのを恐れ、

コオは何もしないことにした。そんなときに、父に頼まれ、お金を貸していた親戚に会うことになる

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 和香子さんとの会話は、すんなりと老人ホームの話になった。

 

 「私は・・・お金のことは全然知らなくて、ただ、父が、おじさんにお貸しした分があるとかないとか・・・」

 

もう少し細かく聞いてはいたのだけれど、コオは頷きながら聞いていた。


「...コオちゃんが学生の時っていつくらいだっけ?」

「和香子さんとこの...3番目の絵美子が4歳...だったかな。」

「そうかぁ、絵美子がね高校に入った後にね、うちの家族、青森の、おばあちゃんの近くで、仕事を始めたの。」


和香子さんと叔父の家族は、叔父の兄弟たちにその事業資金として、お金を貸してほしいと頼んだのだという。


「ありがたいことにね、(コオの)お父さんにもたくさん貸していただいて。それで、三沢の本家の叔父さんと、東京にいる行子叔母さんの3人とで、公正証書もつくったのね。それで、兄弟の中だけど、今住んでる家を、いずれ私も子供のところに行くからそのとき家を売って、ちゃんと生最終的にお返ししますっていうふうに。」


...コオが聞いていたのとは微妙に違うが、大事なのは、お金を貸して、そのことを、ちゃんと公正証書という公的書類の形で残したのだ、ということだけはわかった。


 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、老人ホーム探しから手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになり最後の施設をコオは気に入ったが、前回とおなじことが怒るのを恐れ、

コオは何もしないことにした。そんなときに、父に頼まれ、お金を貸していた親戚に会うことになる

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 和香子さんと会うことになったのは平日だった。

 離婚したことを言っていないことと、彼女が出張中の滞在先に近いということで和香子さんが指定したのは、

 前・夫 遼吾と、次男・健弥のいるマンションにほど近い駅だった。

 

 「久しぶりね。コオちゃん。」

 

 和香子さんは笑った。最後に会ったのは大学に入学して間もない頃だったから、和香子さんはしわも増え、おばあちゃんになっていた。でも孫も生まれたそうだから当然だろう。それでも、元気な明るい話し方は前とおなじだった。

 駅の中にある和食のレストランに入り、和香子さんは、最初に自分の3人の子供たちの近況を語った。コオが知っているのは3人目の娘までだったが、その後、4人目の男の子も授かり、全員今は独立していること、3人目の娘は結婚して海外にいること、自分は出張中は次男の所に滞在していることなどを語った。ただ、コオが学生時代にお世話になった叔父、和香子さんの夫は闘病の末何年も前に亡くなっていた。

 

 「お父さん、どう?」

 「ええ、脳出血2回も起こして、麻痺も認知症もないなんて奇跡的です。自分でちゃんと動けてるので、今のうちに安心して滞在できる施設に移れたら、と。」

 「おうちに帰りたいって言わないの?」

 「本心はわかりません。ただ、妹が、もう自分の世話は無理だから、と。今いる施設は・・・期限付きの施設でずっと居られませんけれど・・・まぁ、ご飯は決まった時間に出てくるし、基本的な面倒を見てくれるので気に入ってるみたいです。こういうところなら、もう、家に帰らずにずっといてもいいかもしれないって、それで、永住型の老人ホームを探してくれっていわれたんです。」

 

 割とすんなり、老人ホームの話にすすめたので、コオはほっとした。

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになり最後の施設をコオは気に入ったが、前回とおなじことが怒るのを恐れ、

コオは何もしないことにした。そんなときに、父に、お金を貸していた親戚にあってほしいと頼まれ、コオは電話をかける。

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 電話に出た和香子さんは話が早かった。

 

 「本来は父と同居している妹の莉子がお話しすべきなんでしょうが、なかなか連絡が取れなくて・・・

 父が私に、というので、すみませんがよろしくお願いします。」

 「私もねぇ、一度お電話したのよ。ご自宅の方に、お父さんが倒れたって伺ったときに。」

 

 父が紅病院に入院しているころ、何度か、父は自分の兄弟に連絡を取っている。和香子さんは近所に住んでいるから、多分そこから聞いたのだろう。

 

 「でも、なんか、莉子ちゃんねぇ、ショック受けてたからかもしれないけど、大丈夫です、大丈夫です、っていうばっかりで全然話が通じなかったの。その後は何度かけても電話も取ってもらえなくてね。」

 

 (ああ、やっぱり)

 とコオは思った。何か決断や対処が必要な電話は極力避ける、気に入った電話の相手もしくは緊急ということがわからない限り、電話にはでない。

 

 「それは・・・すみませんでした。ともかく母が亡くなってから、私も莉子とは話があまり通じなくて困ってはいたんです。事務的な処理がともかくできないみたいですし。父もそれをわかっていて、私が和香子さんと話すようにと頼まれました。」

 

 余計な周辺情報から話す莉子より、ずっと話がサクサク進む・・・とコオは考えていた。

ずっと、『お姉ちゃんは人の気持ちがわからない、話が通じない!!』と叫ぶ莉子に、コオはうんざりすると同時に、母と、母が乗り移ったような莉子の言葉

 コオは人づきあいができない、コミュニケーションができない

という言葉に、私が悪いのだろうか、と思っていたが、この時は

 

 (和香子さんには、ちゃんと通じてるじゃん)

 

そんな風に思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになり最後の施設をコオは気に入ったが、前回とおなじことが怒るのを恐れ、

コオは何もしないことにした。そんなときに、父に、お金を貸していた親戚にあってほしいと頼まれる

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 「 親せきの和香子さんに貸したお金の件で、会ってほしい。」

 

そう言われて、コオは父の義理の妹、和歌子さんと連絡をとった。

 大学の頃、ちょっとばかりお世話になったことがある。明るくて元気な人だった。

 あの人なら、久しぶりに話してもいいかな、とコオは思ったのも、会うことを決心した理由だ。

 和香子さんは、コオが電話すると結構すぐ、電話に出た。

 

 「はい?」

 「こんにちは。深谷はじめの娘の、こおです。」

 「あらぁ、こおちゃん!!元気?お父さん、大変だったわね。でもお電話ではお元気そうだったわ。」

 「ええ、運がよかったみたいです。脳出血あったのに麻痺も認知症も出てないんで。」

 「それは良かったわねぇ。お電話もらったわ。・・・それで、お金の話だし、一度直接会えないかしら?私仕事でそっちの方にちょこちょこ行くのよ。」

 「あ、ああ、ええ、それは助かります!!」

 

 和香子さんは話が早かった。自分からお金のことを言いださないで済んだことに、コオはほっとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになり最後の施設をコオは気に入ったが、前回とおなじことが怒るのを恐れ、

コオは何もしないことにした。

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 「 親せきの和香子さんに会ってほしい。」

 

 父に言われたのは、それから間もなくだった。

 父も見学をして、まぁまぁ、こんなものだろう、と受け入れる気になっていたようだし、

 金額もこれ以下のものは探せないと、コオが言ったので、

 一歩進んだ現実的なことを言うようになっていた。

 

 「和香子さんの旦那が、パパの弟なんだけど・・・お金をね、貸してるんだ。」

 

 父の話では、父の弟・五郎が、独立して仕事を始めるときにその資金を兄弟数名から

出したのだという。その額、300万。

そのお金を、父は、半額でもいいから返してもらい、自分が入る老人ホームの入居の前金の足しにしようと考えたようだった。

五郎叔父は数年前に亡くなっており、その妻である和香子叔母が叔父の会社も含めて引き継いでいる。

 小さな吹けば飛ぶような有限会社だが、和香子叔母は商才があるらしくそれなりにやっているらしい。

 

 「パパの兄弟も100万くらいずつ出して、トータル500万以上にはなったかな。大きいお金だったから、ちゃんと公正証書も作ったんだよ。」

 

 父は言った。

 

「和香子叔母さんには・・・電話をして、ちょっとこの話をもうしてあるんだ。それで、詳しいことは、和香子さんとお姉ちゃんで話してくれないかな。いきなり全額というわけにはいかないだろうから、半額だけ、返してもらえるだけで助かるからな。」

 

 嫌だなぁ、と思った。

 それでも、コオはやはりここでも、親せきに、『自分は、莉子よりもちゃんと使える姪だ』と思ってほしい、

と思ってしまった。

 極端な承認欲求だ、ということが分かっていても止められなかった。

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになり最後の施設をコオは気に入った。

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 コスモスホームは、とてもコオは気に入った。

 そして、帰りの自動車の中。

 

 「もう、あのコスモスホームより安いとなると・・・」

 「ええ、最初に嶋崎さんが見学されたGKグループの老人ホームより、ランクはどうしても落ちることになりますね。・・・市内なら。」

 「ここしかもう選択肢は、もうないと思います…」

 

 そう、コオは、空きの順番待ちの列にさえ入らなかった。

 現在5人の空き待ち。

 

 「でも、もう、前の施設の時みたいなこと嫌なので・・・妹に知らせて、見学して、妹がいいと思えば決めればいい。そう思います。」

 「そうですよね…」

 「何度も・・・何度も本当に申し訳なかったです。でも、私はあの施設はいい、と思います」

 「いいんですよ。ただ、列に入ったとしても5人お待ちになってるということで、少し難しいかもしれませんね。コスモホームさんは、お元気な方も多いし、いいとは思うんですが。この10ヶ月で一人しか、実は順番待ちが進んでないので。」

 「ええ。」

 

 今考えると奇妙な感覚だった。

 コオの中には、奇妙なあきらめ、妹・莉子へのある闘志のようなものが同時にあった。

 父へ認めてもらいたいという思いは、父の施設を決め、自分の方を向かせたい、自分が決めたのであって莉子が決めたのではない、ということを認めさせたい、というものに変化していた。

 

 そう、どう動いても、何をやっても『莉子ちゃんが、いいなら僕はいい』という父の言葉を何としても取り消させたかった。

 父が莉子に向かって

 「お前は全然使えないけど、お姉ちゃんがちゃんとやってくれた。」

 と言って、コオにだけ向ける笑顔を手に入れたかった。