Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになり最後の施設をコオは気に入った。

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 交通が不便な事。

 投薬管理を、機械を使っていること。

 安普請とまでは行かないが、作りが少々、低予算な感じがすること。

 コオは、値段が安い理由がそこにあることで安心した。人手に低価格のしわ寄せがいっているよりずっといい。

 施設長の温かい感じ、本を読むだけでも、共通の部屋に人が集まる雰囲気は、コオはとても気に入った。

 

「今空き待ちの方が5人いる状態なんです。…まだ5人いるかどうかはわからないんですけど」

 

 面会部屋での説明に、コオが『?』となったが、施設長は丁寧に説明してくれた。

 

 「つまり、待機者リストには載ってるんですが、お待ちいただいている間に別の施設に決められかもしれないし、病院に入られたかもしれない。それはわからないんです。こちらは空きが出た時に、待機者リストの上から順にご連絡するだけなんです。変に期待させたりしたら申し訳ないですから、定期的なこちらからの連絡もしてませんし。」

 

 なるほど。合理的だ。

 

 「こちらから、時々、待機の人数とか空き状況を伺うのはアリですか?」

  「それはもう。全然構いません。とりあえず、空き待ちに入ってもらって、やっぱり他に決めました、って言うのでも構いませんし。」

 

 若い施設長は眼鏡の奥でくるりと目を回してにこにこ笑った。

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになったが、1番目の施設でコオはネガティブな印象しか持てなかった。

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「それでは...最後ですが、コスモスホームです。場所は正直かなり不便です。バス停も少しばかり離れています。」
「そうですか…お値段はかなりお安いのはそのせいですか…」

2件目の見学はスキップして、3件目のコスモスホームは、

寿市の中ではかなり西のはじっこ、県境の河川敷にほど近いごちゃごちゃとした住宅街にあった。


 「こちらです。」

 「あ、すごく…新しく見えますけど。」

 「確か3年前にたったので、確かにまだ新しいです。低層住宅地名の中なので、日当たりも悪くないですね。」


 少し前に見た”GKみや”は暗いばかりだったから、コオは気分がよくなってきていた。

 多分”GKみや”の方が特別違っていたのかもしれない。以前見学した他の施設と同じく、コスモスホームは、施設長をはじめとした数名のスタッフが、出迎えてくれた。

 

 入口から近いところに、壁にはめ込み式の大きなテレビ。8人ほどが腰かけらるテーブルとイス。

テレビを見ている年寄りたちのそばに、テレビを見ずに本を読んでいる老人がいた。

 

 「ああ、松本さん、何読んでるの?」

 

 施設長に声をかけられた松本老人は目を上げて、本を見せた。 施設長はにこにこしながら少し会話を交わし、コオと藤堂に施設を案内して回った。コスモスホームは以前父が希望したホームに比べると、全体的に普請がすこし安上がりであるようには見えた。それでも、コオは、施設の明るさと、スタッフの暖かな感じに、もうその時点でほとんどこのホームに決めていいのではないか、と考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになったが、

1番目の施設でコオはネガティブな印象しか持てなかった

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「いかがでしたか?」
「…」

見学を終えて次の施設に向かう途中、車の中で藤堂が声をかけた。コオは、逡巡した。

 「あの…説明してくださった方って、施設の方なんですか?施設長さんとか?」
 「ああ、後藤さんは、営業です。」
 「営業!?」

コオは驚いた

 「なんか…是非入居してくださいって感じじゃなくて、ちょっと驚きました(本当はすごく)。今まで見学してきた施設はどこも・・・その・・・いいところを色々説明してくださってたけど、今回は…そのう・・・」
「ああ、GKグループさんは、そういう感じなんですよ。どこも。多分、特に宣伝しなくても、価格と立地で、入居者さんが次々いらっしゃるからでしょうね。実際お安いですし…」

 ・・・つまり足元を見てるってことか。コオは舌打ちしたくなった。
 コオがネガティブな印象しか持てなかったことを、藤堂はすぐに見抜いたように思えた。もっともあの説明の場でのコオの様子を見れば、今までのコオを知っている藤堂なら気づかないわけはない。いつも見学時に持ち歩いて、山のようにメモしていたノートは開きもしないし、空き部屋の見学だけはしたけれど、実際の使用中の部屋の見学は断ったくらいだったから(もう充分です、とか言って)。


「2件目の ”GKおの” なんですが、正直、”GKみや” より、ちょっとレベルは落ちると思います。どうされますか?断ることもできますが。」
「すみません。申し訳ないですが、お断りしてもいいですか? 私、”GKみや” は、正直好きになれませんでした。それより落ちる、と藤堂さんがおっしゃるなら、きっとそうなんだと思います。私なら…あそこには入居したくない。」

 コオはきっぱりといった。

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

藤堂は3つの施設を選び出し、見学をすることになった。

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高齢者住宅紹介業者の藤堂は3つの施設を選び出し、最初の施設の見学が始まった。

コオと、藤堂は、迎えたスーツ姿の男性に小さな部屋に案内された。
 

「都心の方がこっちまで来て、駅からそのままバスに乗って来れますのでここは地元の方は意外に少ないですね。」

 

 後藤、というその担当者は言った。

 正直、コオはこの施設でその担当者が語ったことをほとんど覚えていない。

 というのは、

 もう最初の数分で、コオは、

 

 この施設(老人ホーム)絶対選ばない。ここなら老人保健施設でつなぐ方がまだまし!!!!

 

 という結論を出していて、担当者が語る金額やら、何やらを、一切メモしなかったからだ。

 メモに値することを言っている、と感じることもなかった。

 

 今まで言った施設はどこも、見学時に

 施設としては、どんなふうにケアしているのか、

 こんなところがこの施設のいいところですよ、というような、説明があった。

 ところが、 

後藤と名乗ったスーツ姿の男は一切そういう説明をしなかった。
 

 コオが覚えているのは、都心に家族が住む人が多く、地元の人は少ない。

金額の説明(それはパンフレット見ればわかる)。

建物は、リノベーション工事が入っている。

 そんなことだけ。

他は、この後藤、という男性の、奇妙に尊大に見える態度と、お世辞にも心地いいとは言い難い、いやむしろ不快な臭いだけが記憶に残っている。

 (もし、私がここに入居しろと言われたなら、全力拒否だな…)

コオはそんなことを思った。
 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂を頼る。

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高齢者住宅紹介業者の藤堂は3つの施設を選び出し、見学が決まった。

 


「やはり、とても難しかったです。なんといっても、この辺は・・・首都圏の(老人)ホームでは、価格が高すぎて無理、という都内の方が、結構流れ込んできているので、激戦区なんです。その中で、3つ選びました。」

 高齢者住宅紹介業者の藤堂は、見学日当日、今回行く施設について説明をしてくれた。

 藤堂は、いつものように土曜日、職場までコオを車で迎えに来てくれ、この日、車はすでに遼吾に返してしまっていたコオには、ありがたかった。

「そうですよね…」
「2つは、同じGKグループの老人ホームでして”GKみや”と”GKおの”・・・場所が違います。こちら”GKみや”は駅から遠いですが、バス一本なので、交通は便利です。」
藤堂は説明しながらいつものように、車を施設の駐車場にいれ、コオの乗る後部座席のドアを開けてくれた。

 ”GKみや”。外観のレベルが前回見学した施設より落ちるのは仕方ない。
 しかし、施設の人に、中に招き入れられて、コオは顔をしかめそうになった。

 

 臭い。何だこの臭いは。
 

 なんだか・・・大学の地下道みたいな、カビ臭い、というか古い臭い?でも建物自体はまぁまぁ新しく見えるのだが。

「では、こちらでご説明いたしますので、どうぞ。」

コオと、藤堂は、迎えたスーツ姿の男性に小さな部屋に案内された。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは、新たに条件を設定し老人ホームを探したい、と高齢者住宅紹介業者の藤堂に連絡を取る。

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「かしこまりました。・・・それではご希望を。」
藤堂は、いつものように柔らかく、優しい声で即答してくれた。


「まず、価格。これを・・・さすがに現在の老健のレベルは難しいと思うのですが、それにプラスX万円、上限XX万円で。それから、場所ですが、もう、市内全域に全体に広げてください。交通の便があまりに悪いと考えちゃいますけれど、あの子2週に一度しか今までも行っていないし、老人保健施設のように洗濯物を取りに行くのが必須でないのなら、ちょっと遠くてもいいと思います。食事はもちろん、前、希望していたところのようなものだと嬉しいけれど、贅沢は言いません。行事系は、ある程度充実していてほしいです。」

「かしこまりました。すぐにお調べして・・・見学の段取りもつけますか?」
「もちろん・・・お願いできますか?」

「はい、できる限り早く。前回と同じく、見学は基本土日希望、ということでよろしいでしょうか。」
「はい、何から何まで、本当にありがとうございます。」

 

 てきぱきと、しかし、決してドライで冷たくはなく、藤堂は話を進めた。それがコオにはありがたかった。
 
 間を置かず、藤堂は3つの施設を選び出し、2週間後の見学が決まった。

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

コオは状況を整理し、行き詰った現状を打破しようと考える。

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 「藤堂さん?嶋崎です。」


 コオが電話をかけた先は、高齢者住宅紹介業者の藤堂だった。
 

 「先日は本当にご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」
 「いえいえ、嶋崎さんのせいではないので、そんなことおっしゃらないでください。」
 「あの、それで厚かましいんですけど、またお願いがあってお電話しました。」

コオが考えたのは莉子がNoという理由をなくせばいい、ということだった。
 莉子が・・・支払いができない、ということで前回、施設入居をキャンセルした。でも今いるのこの北寿老人保健施設はちゃんと支払ってる。それなら、その範囲内なら、払える、ということになるのではないか?

 「それで・・・前に藤堂さんもおっしゃってましたけれど、妹が自転車で通える範囲、となると、月額利用料(つまり家賃)を抑えるのが難しい、というお話でしたよね。」
 「ええ、あの辺は一番、価格が高い地域ですね。」
 「それで、私、いくつか条件出して探していただきましたけれど、新たにそれを設定しなおして、探していただけないかと思って。本当に・・・厚 かましくて申し訳ないのですけれど。」
 「かしこまりました。・・・それではご希望を。」

藤堂は、いつものように柔らかく、優しい声で即答してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

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老人ホームへの入居自体は莉子も賛成ではあるものの、支払いができないということで今回、コオと父がきめた老人ホームへの入居はできないという。支払うのは父のはずなのに。

 そして、莉子は期限内に結論は出したのだから、次を考えてほしい、と父は言った。

 コオが実家の財政状況に向き合わざるを得ない日が近くなっていた。

 もう、自分には無関係だと思っていたのに。
 しかも、今回の事があってもやはり、莉子は父の年金の情報を持ってくるでもない。

 父は相変わらず私を便利屋として使うことしか考えていない。
 
 この状況を打破するにはどうしたらいいのだろう?

 コオは考えた。改めて状況を整理する。父が永住型老人ホームに移るのに必要なもの,足りないものは何か。

 これは考えると、コントロール不能な《莉子の意志》だけが足りないということになってしまい、行き止まりだ。


  では、なにが、父の老人ホームへの入居を阻んでいるのか。
莉子がキーパーソン(キーパーソンとは 参照)であることが問題だ。

 

 キーパーソンは北寿老健との連絡窓口になり、情報を家族・親族と共有する、ということになってるが莉子はそれがない。むしろそれは現状コオが担っている。
 問題は【キーパーソンは介護保険の認定申請、介護サービス事業者との契約をする人】というところだろう。

 コオがそれを担うためには、父の身分証明書が必要だが、現在父の身分証明書は、保険証のみ。あるかはわからないけれどマイナンバー。いずれも莉子が握っている。
 重要なお金の件もそうだ。現在の老健施設料の支払いは父の年金からされているはずだが、その年金の入金される通帳もカードも、父が持たず、莉子が持っている。年金手帳も年金の証書も莉子だ。

 (ここもどん詰まりか・・・)
 
 メモ書きをしていたノートをにらみつけて、コオはため息をついた。

 

 (いや、逆手にとれるかも?)

 

 コオは、電話を手に取った。

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「ノー」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


老人ホームへの入居自体は莉子も賛成ではあるものの、支払いができないということで今回、コオと父がきめた老人ホームへの入居はできないという。支払うのは父のはずなのに。

 そして、莉子は期限内に結論は出したのだから、次を考えてほしい、と父は言った。

 コオが実家の財政状況に向き合わざるを得ない日が近くなっていた。

 もう、自分には無関係だと思っていたのに。
 しかも、今回の事があってもやはり、莉子は父の年金の情報を持ってくるでもない。

 父は相変わらず私を便利屋として使うことしか考えていない。
 
 この状況を打破するにはどうしたらいいのだろう?

 コオは考えた。改めて状況を整理する。父が永住型老人ホームに移るのに必要なものは何か。

 これは考えると、コントロール不能な《莉子の意志》だけが足りないということになってしまい、行き止まりだ。

 この時のコオを救ったのは先の夫・遼吾ではなく、友人たちの言葉と、 コオが参加を決めた上廣代表の主催する自己啓発セミナーのカウンセリングで言われた言葉の数々だった。

 (あきらめるな)
 (私は、悩みたいんじゃない。進みたいんだ)
 (少しずつでいいから、絡まった糸をほぐしていくんだ)

 毒親たちは小さい頃から莉子ばかり見ていたかもしれないが、私はその間に戦う力をつけていたと考えるんだ。

 コオは歯を食いしばって、考え続けていた。

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

父は、莉子は期限内に、「no」という結論を出したのだから、コオに次を考えてほしいという。

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 本当はあまり根拠はなかったのだけれど、父の移り先の老人ホームさえ決まれば別れた夫・遼吾と、次男健弥の所に帰れる、

 そう思っていたコオの落胆は、あきらめへと変わっていた。

 

 同時に、嫌な予感がしていた。

 妹の結論はno. 理由は支払いができないという。

 試算がただしければ、できないことはないはずなのに

 でも、施設に入れたい、ということも言っていた。

 

 とても嫌な予感がした。

  

 「あの子・・・父の年金にぶら下がって生活してるんじゃないんだろうか。」

 

 コオは別れた夫・遼吾に言った。

 

 「あり得るだろうね。今仕事・・・パン屋だったっけ?星空ショッピングモールの。」

 「私が最後にきいたときは・・・ね。」

 

 9時から5時まで、週に5回働いても、時給850円では税金を引かれて月に10万円がいいところだ。

 休みがあったりしたら、その分は着かないから、平均すると8-9万というところ。保険がついていればありがたいが

  これはコオがかつてバイトで暮らした1年間の経験からの試算で、大きく外れているはずはないと思った。

 

 「週に3回半日じゃ、月収入3万でところでしょ。実家暮らしだからそんな舐めた仕事のやり方できるんでしょ。でも服とかさ・・・

 あの子、贅沢だから・・・3万の小遣いじゃ、外食と服両方それで賄ってるって考えにくい気がする。

 曲りなりも勤めてた時があったから実家暮らしなら貯金してたと思うし、それを崩しながらやってる、っていう事も考えられるけど。」

 「そうだな。貯金って言ったって、そんなにないだろ?音楽教師じゃ。」

 「父が妹の名義で株を運用してたから、そっちかな」

 

 遼吾はうなずいて、コオを、アパートまで送る、と言って立ち上がった。

 遼吾は別れてからも、ちょくちょくコオに車を貸してくれたし、時々会ってはいたが、決して戻ってこいとは言わなかった。

 

 莉子が父の年金にぶら下がっている、という最終結論にコオが向き合うのはまだ難しかった。