Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言.

 その意思表明は一定の効果はあったものの、結局莉子は、期限ぎりぎりに設定した見学日をドタキャンした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 期限ギリギリに月末に見学予定を入れた妹・莉子は、例によって、この日ドタキャンした。

  高齢者住宅紹介業者の藤堂に連絡を入れ、コオはもう頭を下げるしかなかった。

 (それはコオのせいではないのだが)

 

 「すみません。ここまでしていただいたのに・・・」

 「いいえ。嶋崎さんもおっしゃってたじゃないですか。ドタキャンされる可能性があるって。」

 「この後・・・父と話します。ともかく、本当に申し訳なかったです。」

 

 コオは、その週の父との面会で、言った。

 

 「莉子、見学キャンセルしたって。」

 「ああ…まぁ、しかし莉子ちゃんなりに、ちゃんと考えて、結論出したんだな。金額が、高い、と言っていた。」

 

 父の主張は、期限内に見学の予定も入れた。しかしその前にパンフレットをみて、莉子が支払いを無理だといったという。そして

ちゃんと期限内に結論を出したのだから、次をコオが考えてほしい、そういう事だった。

 

 (甘かった)

 コオは歯噛みした。めまいも感じた。

 莉子は父を施設に入れたがっている、とケースワーカーは言っていた。

 母が残したお金に、姉妹で少し足すことで前金は払える。

 年金を使えば、月額は支払えない額ではない(ただし試算だったけれど)

 そして何よりも父が入所したがっている。

 

 まさか、莉子が、ここにきてNOを突き付けてくるというのはまったくの予想外だった。

 見学のキャンセルは、予想していた。

 しかしそれは莉子は、

 コオの設定した期限内に行く気になるとは限らない、というだけの事だった。

 少なくとも父が倒れたこの1年、莉子の役所や病院、施設のケースワーカーとのやり取りを聞き及ぶ限り、

 莉子は

 予定を立てられない。立てたくない。気が向いたときにだけ、刹那的に動く。

 ということだったから。

 

 

 

 

 

 

 

Day380-ここまでのあらすじ

 コオは、

莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 そして、期限までの2週間日間。

 

 コオの手を引く宣言は、それなりの効果を及ぼした。

 父は自分から、高齢者住宅紹介業者の藤堂に、もう一度パンフレットを持ってきてほしいと頼み、

藤堂は2回目であるにもかかわらず、丁寧に、資料を付けたものと、連絡先を含めたものをもう一度届けてくれた。

 

 そして父の担当ケースワーカーの浅見からは、パンフレットを妹・莉子に渡した、と連絡があった。そして、その後、藤堂から見学の予定も決まった、と連絡があった。

 ようやく事が進むのか、とコオは少しホッとした。

 

 しかし。

 

コオは、まだ甘かった。

期限ギリギリに月末に見学予定を入れた妹・莉子は、例によって、この日ドタキャンしたのだった。

 

 

 

 

 

Day280-Day379 あらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。

 

 

 

 

 

Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。

そしてコオは、

莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオは

次の月の末までに、莉子が施設を見学し、意思をはっきりさせるとこ。さもなければ、手を引くことを父に宣言する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 父が納得して永住型老人ホームに移るためには、莉子から直接、父が施設に行くことについて賛成である、という答えを聞かない限り、無理だということが分かっていた。

 そもそも、ここまで、話が進まないのは、莉子のせいではあるとともに、莉子と向き合って話をしない父の責任でもある。

 コオはとばっちりを食らっているに過ぎない。

 父の事で、父の要望通りに動いただけのコオが、聞きたくもない莉子のヒステリーを聞かなければいけないいわれはない。

 

 だから、莉子ではない、父を動かそうとした。

 父には穏やかでいてほしい、とは思っていた。

 でも、だからと言って何故、私がこんな辛い目に合わなければいけない?

 

 私は、関係ない。ただ、父に頼まれた通りのことをしただけだ。

 

 ・・・そう考えられるようになった。

 少しの痛みを伴いながら、ほんの少し、前に進んだ。

 

 それは、自己啓発セミナーの上廣代表が、実際のセミナー開始前に開いた、勉強会、そして個別のカウンセリングのおかげだと、コオは思っている。ものすごく高額な勉強代ではあるが、少なくとも、今こうして効果が出てるんだ。

 

 コオは、思った。爪の先ほどの小さな一歩だった。

 

 

 

 

 

 

Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。

そしてコオは、

莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオはキレた。

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 「私が最初の職場で鬱になった時あの子なんて言った?私に向かって『誰だって、仕事で鬱になんてなるよ。自分だけ大変だと思ってそういうこといわないでくれる?』って言ったんだよ?」

 

 忘れられない。忘れられるものか。あの辛かった時。2日で4時間ずつしか眠れない日が2週間にわたって続いたあの時,

 救いを求めて週末、2時間以上かけて自宅に行ったコオに、莉子が言った言葉。

 

 「それが、前の仕事辞めたのは精神的につらかったから?は?午後からはじめて6時くらいまでしか働かないような仕事の仕方してたくせに、何舐めたこと言ってくれんのってはなしでしょ!?」

 

 《私は午前中は練習に充てたいから》 莉子の言い訳はいつもただ聞いているだけだと正しく聞こえる。それが余計苛立たしかった。

 

 「莉子ちゃんは、まぁ、甘いんだよ。確かにな。音楽なんかやらせたから…」

 「そんなことは、もうどうでもいいんだよ!!」

 

 コオは叫ぶように言った。

 

 「言いたいのはね、莉子はもういい大人で、私より頭もよくて、病気を持ってるわけじゃ無い。大人なら、ちゃんと締切や約束を守らなくちゃいけない。締め切りがあれば・・・期限があれば、期限内に仕事は終えなければならないってことなんだよ!!」

 

 頭はいい。だから自分の弱点を、綺麗に言葉でカバーして、正当に見せることはできる。だから余計頭に来るんだ、とコオは思った。

 父も母も喜んでそれに乗っかってたじゃないか。

 

 「だから今、言ったこと、パパのノートにちゃんと書いて。そして、ちゃんと期限内に、やらないなら、

私は手を引く。ともかくそれだけ。」

 

 コオは、父がノートにゆっくりと、”莉子、ホームを見学に行くこと。決定すること。締め切り、〇月末”と書くのを見届け、ひどくぐったりとして、一人きりのアパートへと帰っていった。

 

 

 

Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。

そしてコオは、

莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオはキレた。

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 「莉子ちゃんを説得する。こういうことはゆっくりと…莉子ちゃんはともかく時間がかかるから。」

 というどこまでも、妹・莉子をまるで小さい子を守るかのような父の言葉に、コオは急速にイラついた。

 

 「ふざけないで。莉子はいくつだと思ってるの?どこまで甘やかすの?莉子は理解力がないわけじゃ無い。私よりずっと頭はいいけど、ただ甘ったれなだけじゃない。プライドばっかり高くてさ。」

 

 コオは、冷えた頭の片隅で、いったい何がこんなに自分をイライラさせているのだろう、と分析しようとした。けれど、胸の中にたまった熱いドロドロしたものは、頭の中で冷えることなく、外に流れ出してしまった。

 

 「一流国立大学に入ったけど、人の忠告無視して就職活動に失敗してさ、

 それでも大きい企業にはいったくせに気に入らないからってすぐやめて。その後散々私の生活踏み荒らして念願の音楽の先生になったのに、それだって甘ったれた仕事の仕方して結局は辞めて。そのくせいつも偉そうだよ。

 私が最初の職場で鬱になった時あの子なんて言った?私に向かって『誰だって、仕事で鬱になんてなるよ。自分だけ大変だと思ってそういうこといわないでくれる?』って言ったんだよ?」

 

 コオは、ジャッジを求めていた。

 喧嘩両成敗なんていらない。莉子は間違っている。どうして、莉子は間違ってるのに、何故父も、母も、莉子の肩を持って私には我慢しなさい、っていうの?何故お姉ちゃんでしょう、なんていうの?

 子供の頃、ぼんやり理不尽だと感じても言えなかった.。

 

 けれど、言葉にしても同じことなのだ。

 父の、母の妹莉子に対する盲愛は、理屈などではないのだから。

 

 

 

 

 

Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。

そしてコオは、

莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」

と父に伝えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「私も、藤堂さんも、できる限り動いた。パパのために。でも、こんなこと繰り返すなら、私も藤堂さんももう関われない。」

 

コオは、父に言った。

 

 「どうしたら・・・いい。」

 「パパがどうしたいかだよ。

 話はシンプル。パパは施設を移りたい。お金はパパの年金で何とかなるところを選んだ。あとは移るだけ。それを複雑にしているのは、パパなんだよ。何故ここで莉子の意志がでてくるのか、私はまったく理解できない。そもそも、じゃあ、莉子が嫌だ、って言ったら移らないいわけ?」

 「いや、施設は移る、移りたい。」

 「それなら、莉子には事後承諾で十分でしょう。莉子に面倒見てもらうわけじゃ無い。」

 「だから・・・その時は莉子ちゃんを説得する。こういうことはゆっくりと…莉子ちゃんはともかく時間がかかるから。」

 

 コオは急速にイラついた。

 

 「ふざけないで。」


 

 

 

Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。

そしてある決心をする。莉子のYesを確認したいなら、莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」

と父に伝える

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「そんなに、莉子のYesを確認したいなら、莉子にちゃんと施設に確認に行ってもらって。業者には、とっくの昔に莉子から連絡が来たら見学に連れて行ってもらえるように話はつけてある。見学を済ませる期限は来月末。」

父に負担がかかるのは嫌だった。でも、もしかしたら、厳しいことを言って父に嫌われたくなかっただけかもしれない。

 

「それから・・・」

 

もっと大事なのはここからだ。コオは苦しい、と思った。

でも、ここを越えなければ。

 

「莉子が来月末までにそれを済ませないなら、もう私はこの、老人ホームに移る件からは一切手を引く。

もう無理だよ。いくら藤堂さん(高齢者住宅紹介業者)や私が手はずを整えたって、莉子がすべてをひっくり返すんだったら、

私や藤堂さんが消耗するだけだもの。何も決まらない。

本来、パパの年金でパパが施設に移る。何故そんなに莉子に遠慮するのか私には理解できない。」

「そんなこと言ったって・・・あの子がへそ曲げてヒステリー起こすとどうなるか知ってるだろう。」

 

父は弱々しく言った。

 

「知ってるよ。だから言ってるじゃない。話をするときはケースワーカーの浅見さんを呼んで。

 彼女のいるところで話すの。莉子は見栄っ張りだから、絶対他人のいるところじゃ、みっともないヒステリー起こしたりしない。」

 

それは少しばかりコオの読みは甘かったのだが。

 

 「ともかく、私も、藤堂さんも、できる限り動いた。パパのために。でも、こんなこと繰り返すなら、私も藤堂さんももう関われない。」

 

コオがようやく上げた反撃ののろしだった。

 

 

 

 

Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。

そしてある決心をする。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「パパ、こないだの施設の事だけど、どうしたいの?」

 

 いつものように、父は週末の面会時間、コオが買ってきたおやつを楽しみ、ひとしきり昔話をした後だった。

 

 「あれは、莉子ちゃんがYesって本当に・・・」

 「莉子はどうでもいいの。」

 

コオは食い気味に言った。

 

 「パパは、どうしたいの?家に戻りたいの?ここにはずっといられない。いずれは家に帰って莉子と暮らすか、永住型の施設に移るか、どっちかになる。」

 「移りたい。それは決まっとる。何度も何度も、移動するのもかなわんしな。」

 「それでもね、もうこの状況で私が、もうできることはないと思う。」

 

 父の表情が硬くなる。

 ひるんでるわけにはいかない。あとからあとから現れてくる問題は、現れる問題に個々に対処するだけでは、永遠に終わらない。問題を生み出す元を断てばいい。しかしその問題元へのアクセス権を、あくまで最終的に莉子だけが持っているから、コオは永久に終わらない、対処係。いってみれば、粗悪品を売り続ける会社のクレーム処理係みたいなものだ。

 

 「そんなに、莉子のYesを確認したいなら、莉子にちゃんと施設に確認に行ってもらって。業者には、とっくの昔に莉子から連絡が来たら見学に連れて行ってもらえるように話はつけてある。見学を済ませる期限は来月末。」

 「でもあの子がすぐやるとは・・・」

 「今までも十分時間はあった。それをやらなかったのは莉子だよ。

 私が動き出して、業者に連絡取って、莉子からの連絡を待つって最初に話をしてからは4か月たってる。」

 

 そうなのだ。

 

 「たとえあと半年あったって、あの子はやらない。わかってるでしょう?だから期限を切るの。」

 

 父に負担がかかるのは嫌だった。でも、もしかしたら、厳しいことを言って父に嫌われたくなかっただけかもしれない。

 

 

 

Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹だけが大事なのだ、としみじみと思った。

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 コオは自己啓発セミナーでの上廣代表の言葉を思い出していた

 

 「よく言われることですが、人は、現状を変えることに不安を覚える。ホメオスタシス、です。」

 「・・・」

 

 自己啓発セミナーの上廣代表は、スライドに移しながらそう言った。

 仕事で使う専門用語をここで、こんな形で聞くと思わなかった、とコオはその時、ちょっとむず痒い思いでその言葉を聞いた。

 

 「辛い辛い、って言ってますけど、辛い状態にいたいんですよ。状況を変えたくないんです。」

 

 上廣代表はそういった。

 コオは考えた。

 何故私はこんな辛い思いをしているのだろう。

 父のために動いているのに、それが全く報われないから。

 一方、全く動かない莉子は、2週間に一度の洗濯をするだけで、父が気を使ってくれる。

 私はこの状況が好き?

 

 好きなわけない。

 

 コオは、友人響子の言葉も思い出した

 『期限を切るのよ』

 

 この先の見えない状況を、私は選ばない。

 そして、父には選択をしてもらう。

 コオは決めた。