Day280-ここまでのあらすじ
コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。
まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。
老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は
『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。
水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。
そしてコオは、
「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」
「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」
と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオはキレた。
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「私が最初の職場で鬱になった時あの子なんて言った?私に向かって『誰だって、仕事で鬱になんてなるよ。自分だけ大変だと思ってそういうこといわないでくれる?』って言ったんだよ?」
忘れられない。忘れられるものか。あの辛かった時。2日で4時間ずつしか眠れない日が2週間にわたって続いたあの時,
救いを求めて週末、2時間以上かけて自宅に行ったコオに、莉子が言った言葉。
「それが、前の仕事辞めたのは精神的につらかったから?は?午後からはじめて6時くらいまでしか働かないような仕事の仕方してたくせに、何舐めたこと言ってくれんのってはなしでしょ!?」
《私は午前中は練習に充てたいから》 莉子の言い訳はいつもただ聞いているだけだと正しく聞こえる。それが余計苛立たしかった。
「莉子ちゃんは、まぁ、甘いんだよ。確かにな。音楽なんかやらせたから…」
「そんなことは、もうどうでもいいんだよ!!」
コオは叫ぶように言った。
「言いたいのはね、莉子はもういい大人で、私より頭もよくて、病気を持ってるわけじゃ無い。大人なら、ちゃんと締切や約束を守らなくちゃいけない。締め切りがあれば・・・期限があれば、期限内に仕事は終えなければならないってことなんだよ!!」
頭はいい。だから自分の弱点を、綺麗に言葉でカバーして、正当に見せることはできる。だから余計頭に来るんだ、とコオは思った。
父も母も喜んでそれに乗っかってたじゃないか。
「だから今、言ったこと、パパのノートにちゃんと書いて。そして、ちゃんと期限内に、やらないなら、
私は手を引く。ともかくそれだけ。」
コオは、父がノートにゆっくりと、”莉子、ホームを見学に行くこと。決定すること。締め切り、〇月末”と書くのを見届け、ひどくぐったりとして、一人きりのアパートへと帰っていった。

