Day280-ここまでのあらすじ
コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。
まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。
老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は
『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。
水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。
そしてコオは、
「莉子のYesを確認したいなら、まずは莉子が施設に確認に行くこと、見学を済ませる期限は来月末。」
「それをやらないなら、私は、もう、この老人ホーム探しの件からは手を引く」
と父に伝えた。父は、「莉子を、ゆっくり時間をかけて説得する」といい、コオはキレた。
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「莉子ちゃんを説得する。こういうことはゆっくりと…莉子ちゃんはともかく時間がかかるから。」
というどこまでも、妹・莉子をまるで小さい子を守るかのような父の言葉に、コオは急速にイラついた。
「ふざけないで。莉子はいくつだと思ってるの?どこまで甘やかすの?莉子は理解力がないわけじゃ無い。私よりずっと頭はいいけど、ただ甘ったれなだけじゃない。プライドばっかり高くてさ。」
コオは、冷えた頭の片隅で、いったい何がこんなに自分をイライラさせているのだろう、と分析しようとした。けれど、胸の中にたまった熱いドロドロしたものは、頭の中で冷えることなく、外に流れ出してしまった。
「一流国立大学に入ったけど、人の忠告無視して就職活動に失敗してさ、
それでも大きい企業にはいったくせに気に入らないからってすぐやめて。その後散々私の生活踏み荒らして念願の音楽の先生になったのに、それだって甘ったれた仕事の仕方して結局は辞めて。そのくせいつも偉そうだよ。
私が最初の職場で鬱になった時あの子なんて言った?私に向かって『誰だって、仕事で鬱になんてなるよ。自分だけ大変だと思ってそういうこといわないでくれる?』って言ったんだよ?」
コオは、ジャッジを求めていた。
喧嘩両成敗なんていらない。莉子は間違っている。どうして、莉子は間違ってるのに、何故父も、母も、莉子の肩を持って私には我慢しなさい、っていうの?何故お姉ちゃんでしょう、なんていうの?
子供の頃、ぼんやり理不尽だと感じても言えなかった.。
けれど、言葉にしても同じことなのだ。
父の、母の妹莉子に対する盲愛は、理屈などではないのだから。

