Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹・莉子だけが大事なのだ、としみじみと思った。

そしてある決心をする。

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 「パパ、こないだの施設の事だけど、どうしたいの?」

 

 いつものように、父は週末の面会時間、コオが買ってきたおやつを楽しみ、ひとしきり昔話をした後だった。

 

 「あれは、莉子ちゃんがYesって本当に・・・」

 「莉子はどうでもいいの。」

 

コオは食い気味に言った。

 

 「パパは、どうしたいの?家に戻りたいの?ここにはずっといられない。いずれは家に帰って莉子と暮らすか、永住型の施設に移るか、どっちかになる。」

 「移りたい。それは決まっとる。何度も何度も、移動するのもかなわんしな。」

 「それでもね、もうこの状況で私が、もうできることはないと思う。」

 

 父の表情が硬くなる。

 ひるんでるわけにはいかない。あとからあとから現れてくる問題は、現れる問題に個々に対処するだけでは、永遠に終わらない。問題を生み出す元を断てばいい。しかしその問題元へのアクセス権を、あくまで最終的に莉子だけが持っているから、コオは永久に終わらない、対処係。いってみれば、粗悪品を売り続ける会社のクレーム処理係みたいなものだ。

 

 「そんなに、莉子のYesを確認したいなら、莉子にちゃんと施設に確認に行ってもらって。業者には、とっくの昔に莉子から連絡が来たら見学に連れて行ってもらえるように話はつけてある。見学を済ませる期限は来月末。」

 「でもあの子がすぐやるとは・・・」

 「今までも十分時間はあった。それをやらなかったのは莉子だよ。

 私が動き出して、業者に連絡取って、莉子からの連絡を待つって最初に話をしてからは4か月たってる。」

 

 そうなのだ。

 

 「たとえあと半年あったって、あの子はやらない。わかってるでしょう?だから期限を切るの。」

 

 父に負担がかかるのは嫌だった。でも、もしかしたら、厳しいことを言って父に嫌われたくなかっただけかもしれない。