Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”父の希望している施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。

老人保健施設ケースワーカー・浅見、友人響子、高齢者住宅紹介業者・藤堂さらには転居予定だった施設まで巻き込んだ結果、父は

 『莉子のYESはほんとうのYESではないから、入居はできない』という奇妙な主張で新施設入居を見送った。

水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹だけが大事なのだ、としみじみと思った。

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 コオは自己啓発セミナーでの上廣代表の言葉を思い出していた

 

 「よく言われることですが、人は、現状を変えることに不安を覚える。ホメオスタシス、です。」

 「・・・」

 

 自己啓発セミナーの上廣代表は、スライドに移しながらそう言った。

 仕事で使う専門用語をここで、こんな形で聞くと思わなかった、とコオはその時、ちょっとむず痒い思いでその言葉を聞いた。

 

 「辛い辛い、って言ってますけど、辛い状態にいたいんですよ。状況を変えたくないんです。」

 

 上廣代表はそういった。

 コオは考えた。

 何故私はこんな辛い思いをしているのだろう。

 父のために動いているのに、それが全く報われないから。

 一方、全く動かない莉子は、2週間に一度の洗濯をするだけで、父が気を使ってくれる。

 私はこの状況が好き?

 

 好きなわけない。

 

 コオは、友人響子の言葉も思い出した

 『期限を切るのよ』

 

 この先の見えない状況を、私は選ばない。

 そして、父には選択をしてもらう。

 コオは決めた。