今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
 

 
  莉子は15分遅れてやってきた。
 
 「ああ~すみませ~~ん!」
 
 という甲高い声は、よそ行きでケースワーカーの浅見に向けられた声だ。
 
 「いいんですよぉ、こちらの小部屋へどうぞ!!」
 
 浅見は、5人位が入れる小さな部屋へ、コオと莉子を案内した。
 莉子のほぼ隣に浅見は座り、テーブルを挟んで向かいに、コオは座った。
 
 コオは、莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れていた。
 ボイスレコーダーは、莉子がヒステリーをおこし、コオを実家から叩き出したのをきっかけに1年前購入したのだ。父と面会するときや役所と連絡を取るとき、必ず音声を録っていた。
 あのとき、コオは行政に助けを求めた。
 妹はおかしい、
 その妹に軟禁状態にある父を、なんとかしなければならない、どうしたらいいのか、相談にのってほしい、と。
 
 その時電話に出た、行政の窓口担当はいった。
 
 「暴れてたり、自傷とか、お父さんを傷つける恐れがあれば、妹さんを保護できますけど、それはないんですか?」
 
 父を傷つけてはいませんが、私には掴みかかり、痣だらけになり、擦り傷もひどかったので、写真にそれを撮っています、といったコオにそいつは言ったのだ。
 
 「でも、お父さんを傷つけたり、自分を傷つけたりすることはないんですよね?あなたはそこから出てくればいいだけですが。」
 
 そして、録音でもあれば、保健所が動くかもしれないが、今は何もできないといった。
 
 コオはボイスレコーダーを買った。ふざけた行政の対応も電話音声もその後は録音していった。