今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、意味不明の話の展開に、コオは平衡感覚を失う。

 莉子は叫び続ける。
 
 お姉ちゃんは何もわかってない。わかってて普通だ。これだけ、拒否してたんだから、わからないに決まってる。
 中途半端にかかわるな、。最後までやれ。匙を投げるな。
 事務的にやるな。
 
 これをすべて同時に。
 めちゃくちゃだ、ということがケースワーカーの浅見にはわからないのだろうか?
 全く相反することで責め立て、相反する要求をする。
 (くっそ、身分証手に入れるために、なんでこんなバカな話に付き合わなくちゃいけないわけ?)
 コオは自分がみじめに思えてくるほどだった。 
 
 「結局・・・いったい・・・何をしてほしいわけ?」
 
 莉子の【なんでお姉ちゃんは】とか【どうしてお姉ちゃんは】に一つ一つ答えたところで、
ただエネルギーを消耗し、無駄な時間を使うだけだ。
 だってコオを責めたいだけなのだから、とコオは思った。
 だから、莉子自身の女の望みを聞く方が早いと思った。
 しかし、こういうコオの計算は、莉子を相手にした場合、ことごとく裏目どころか、
 全く想定外の結果となって帰ってくる。
 
 「どうして話を遮ったの!?私が一生懸命浅見さんに話をしてるのに!!」
 
 何をしてほしい、と聞いているのに、どうして話を遮ったの?という返答。
 同じ言語で話しているとはもはや思えない状態だった。