今までのあらすじ
コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、意味不明の話の展開に、コオは平衡感覚を失う。

 
 コオはいらいらとボールペンをノックしながら、
 何故、ケースワーカーの浅見は、おかしいことをおかしいと言わないのだろう、と思っていた。
 立場としてどちらの味方もできないだろうが、明らかに変なことはその場で第3者として訂正してくれなければ、
 オブザーバーとしての意味もない。
 
 正直、この浅見というケースワーカーは使えない。
 
 コオは思った。
 莉子とこうして話すのが嫌でたまらなかった。
 5分で終わるような話を何故こんなに長く、しかも理不尽に責め立てられながらしなければいけないのか。
 
 (イカレてる)
 
 もう何度目か、コオは席を立ってこの場を離れたい、と思った。
こんなイカれた女相手にしたくない。
 
 莉子:「パパがなんで親せきにお金返してもらうが必要かって、お姉ちゃんその辺知らないでしょ!?お姉ちゃん言ってること分かる!?わかんないでしょ!」
 コオ:「全くわからないね(莉子に言ってることが)、じゃ、教えてよ。」
 莉子:「当り前じゃない!なんでわかんないの!?普通はわかるよね?!」
 コオ:「お姉ちゃんはわかってない、っていうから聞いてるの。なんで?」
 莉子:「あーもう!!浅見さん、普通はわかりますよね?」
 まただ。わかってない、と言った次の瞬間に、では教えてというと、普通はわかる、という。
 
 (イカレてる) 
 
 いったいいつまでこの不毛なやり取りを続けなければいけないのだろう。
 浅見が一言、
 【お姉さんが手続きしてくださるってことですから、お渡ししてもいいと思いますけど。】
 とかなんとか、いってくれればいいのに、。
 
 莉子のゆがんだ世界が、ブラックホールのように無限にコオのエネルギーを吸い上げていく。
 
 コオはそんな情景を頭の中で思い描いていた。