********************* 

Battle Day0-Day231までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 

Day232-これまでのあらすじ

 ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが、期待に反して電話は、T大学病院。コオの同僚ソフィ李が事故を起こし、救急車で運ばれた連絡だった。

*********************

 

 「事故って・・・」

 「自転車の横で倒れているのを発見されたんです。かなりひどいけがで血だらけです。それで、意識は戻られているんですが、何せ外国の方なので…」

 「あー、でも彼女、日本語は話せないけど、聞く方は大丈夫ですよ?」 

 

 コオはそう言ったが外国人だというだけで、腰が引けてしまう日本人がたくさんいることもよく知っていた。ただ、T大学病院・・・東京の大学病院なのに、英語を話す人がいない、というのも奇妙だと思った。

 

 「彼女の上司の方がいらっしゃるようでしたらそちらに連絡取ってもらえませんか?」

 

 病院のスタッフは、コオとソフィの上司と連絡を取りたいようだった。しかし、上司は今日は確か他県に泊まっていて、しかも不便なことに携帯を持っていないのだ。大概はe-mailで事足りるのだがこういう時は困る。コオは言った。

 

 「上司は・・・無理です。今他県ですし・・・連絡が簡単に取れる状況にないんです。」

 「それでは、ともかく嶋崎さん、お願いします。電話はソフィさんに代わりますから。」

 「はい。」

 

 コオだって、英語が自由自在なわけじゃない。ただ、職場には多くの外国人がいるから、慣れているだけだ。

 

 「はい、ソフィー、大丈夫?何があったの?」

 「わからない。わからないの。気が付いたらベッドの上で。」

 

 ソフィの口調ははっきりしてはいたが、混乱しているようだった。

 

 「親切な人が、あなたが倒れててるのを発見して救急車を呼んでくれたのよ。もう、電車がないし、私今車がないから迎えには行けない。でも明日にはいくからね。」

 「嶋崎さん、アレルギーがないか聞いてください。これから、傷を縫いたいんですが、局所麻酔をしたいので。」

 

 とちゅうで病院スタッフの声が割り込んでくる。

 

 「ソフィ?あなたけがしてるの。だから傷を縫いたいんだって。麻酔をかけるけど、あなたアレルギーとか持ってる?」

 「ううん、何もない。」

 「わかった。じゃ、これから麻酔かけるそうだから。」

 

 これくらいの事は大学病院なんだから、しゃべってくれよ。コオは夜中、薄いアパートの壁の向こう側を気にしながら、声を押し殺して話続けていた。

 

 

 

 

 

********************* 

登場人物は右サイドに紹介があります、

 

BattleDay170-Day231 

 

コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。

父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識するが、莉子を経由しなければならず、いつまでたっても情報は手に入らない。コオは父と同年代の親戚をもつ職場の長田から得た情報をもと検討をつけたところで、コンタクトを取った業者のうちの一つと連絡をとり、候補施設を見学を3件すませた。コオは藤堂に、1件目が気に入ったこと、次は父に実際に見てもらいたいということを話す。

 担当業者の藤堂は、コオが、妹・莉子と事情を聞いた後尋ねる。『それでいいのですか?』コオは『父には最後まで穏やかに過ごしてほしい』という。

 

 

********************* 

********************* 

これまでの話

Battle Day0-Day169 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

登場人物は右サイドに紹介があります、

 

Day170- 231

コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。

父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識するが、莉子を経由しなければならず、いつまでたっても情報は手に入らない。コオは父と同年代の親戚をもつ職場の長田から得た情報をもと検討をつけたところで、コンタクトを取った業者のうちの一つと連絡をとり、候補施設を見学を3件すませた。コオは藤堂に、1件目が気に入ったこと、次は父に実際に見てもらいたいということを話す。担当業者の藤堂は、コオが、妹・莉子と事情を聞いた後尋ねる。『それでいいのですか?』コオは『父には最後まで穏やかに過ごしてほしい』という。

 

 ****************************

 

 コオはこの年、太陽の昇りきるまえ、まだ薄暗いうちに職場に出かけ、シャワーを浴び、着替えて、仕事を始めていた。

 仕事場の上司は、すでに別の遠くの関連会社に栄転が決まっており、留守がちだった。タイムカードのない他の職員たちは時差通勤で10時を過ぎることが多く、コオが仕事を始めるのと同時くらいに職場に来るのは、吉本という年配の男性社員くらいだった。

 

 コオが老人ホームの見学に行って1週間くらいしたときだったろうか。

 夜中にコオの電話が鳴った。

 

 何か子供にあったのか。それとも遼吾に。

 いや、傍まで来ていて私を迎えに来てくれたのか。

 

 そんなことをとっさに考えるほど、コオは、家族の元に戻りたくて、でも戻れなかった。

 しかし、コオの電話に表示されたのは、職場の韓国人系の女性 ソフィー ・ 李の名前だった。

 (遼吾が・・・迎えに何て来てくれるわけないのに) がっかりしながら、そしていぶかしく思いながらコオは通話ボタンを押した。

 

 「Hellow....?」 

 「もしもし、嶋崎さんの携帯でよろしいでしょうか?こちらはT大学病院です。李ソフィーさんをご存じですね?』

 

 ソフィーではない。日本人の男性の声だった。すこし、遠く、聞こえづらかった。

 

 「はい…?えーと、同僚、です。デスクが・・・私の隣で・・・」

 

 寝入りばなを起こされ、ましてや遼吾からの電話を期待していたコオはまだ頭が動かない。

 

 「李さんが、自転車で事故を起こされて、救急車でこちらに運ばれました。電話の中にある日本人の番号はあなただけでしたので、かけさせていただきました。」

 

 電話の向こうの声は少し遠く、コオはひどく自分からは遠くで起こっていることのようにそれを聞いていた。

 

 

 

 

********************* 

これまでの話

Battle Day0-Day169 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

登場人物は右サイドに紹介があります、

 

Day170- あらすじ

コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。

父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識するが、莉子を経由しなければならず、いつまでたっても情報は手に入らない。コオは父と同年代の親戚をもつ職場の長田から得た情報をもと検討をつけたところで、コンタクトを取った業者のうちの一つと連絡をとり、候補施設を見学を3件すませた。コオは藤堂に、1件目が気に入ったこと、次は父に実際に見てもらいたいということを話す。担当業者の藤堂は、コオが、妹・莉子と事情を聞いた後尋ねる。『それでいいのですか?』

 ****************************

 

 「でも…嶋崎様はそれでよろしいのですか?」

 「・・・ええ。父が穏やかに暮らすためにはそれ以外の選択肢はないと思ってます。妹とは・・・話しあうにしても、ともかく言葉が・・・日本語なのに、言葉が通じない。意志の疎通がないので。・・・でも、もう父の前で争うのを見せるのも嫌なんです。父には、最後まで穏やかな日を送ってもらいたいです。長いこと・・・2時間も片道かけて通勤して、文句も言わず働いていたんですから。」

 

 そうですか、と藤堂は言った。

 

 「それでは、老健から妹様に私もらうためのパンフレットも用意いたしましょうか?」

 「そう、ですね。よろしくお願いします。」

 

 コオは、この時点で夢を見ていたのだった。

 父はあの、老人ホームにはいる。比較的元気な人たちと、囲碁を楽しんだり、テレビを見て談笑したりできるようになるだろう。支払いは、コオがいくらか援助することは、父から莉子に伝えてもらえればいい。今日の説明だと、業者に頼めば定期的に莉子が洗濯物を取りにいったりすることもしなくてもいいようだ。莉子は洗濯物を取りに行く、というプレッシャーからは解放され、父に時々会いに行くだけでいい。コオも、老健や病院にいるときと同じように時々会いに行くことができるだろう。もしかしたら、いつかはコオが施設を決めたことが耳に入り、莉子がコオに感謝する日もやってくるかもしれない。

 そして、もしかしたら、父が施設で落ち着けば。コオはまた自分の家族、遼吾と遼太と建弥との生活を取り戻せるような、そんな夢を、見ていた。

 

 いつかはくる最後の日まで、穏やかに、父に暮らしていってほしい。同じくらい強く、コオは自分の家族を取り戻したい、そう思っていたのだった。

 

 

 

 

********************* 

これまでの話

Battle Day0-Day169 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

登場人物は右サイドに紹介があります、

 

Day170- あらすじ

コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。

父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識するが、莉子を経由しなければならず、いつまでたっても情報は手に入らない。コオは父と同年代の親戚をもつ職場の長田から得た情報をもと検討をつけたところで、コンタクトを取った業者のうちの一つと連絡をとり、候補施設を見学を3件すませた。コオは藤堂に、1件目が気に入ったこと、次は父に実際に見てもらいたいということを話す

 ****************************

 

 「それで・・・藤堂さん、お願いがあります。」

 コオは言った。自分がキーパーソンでないことはすでに知らせてあった。そしてコオはもう、他の高齢者紹介業者を回る気は全く無くなっていたので、詳細を知らせるべきだと思った。
 

 「家族の事情なんですが、私は、妹と関係がよくありません。今は全く連絡が取れないし、取りたくないです。それでも、キーパーソンは妹なんです。施設でもお話しましたが、支払いは、つまり父の年金の管理は、妹がやることになります。」

 コオは父が入院した時の話をした。莉子が手続きができず、コオがやったこと。やるべきことリストをFAXで送ったこと。しかし、全く話が通じなかったこと。父が1度退院したときのこと。コオが遼吾と別れるきっかけになったあの日のやり取りのこと。そして再入院のこと。自分は離婚したこと。

 「・・・私は、父には何も知らせていません。それでいいと思ってます。父は85歳を超えてます。脳出血を2回も起こして、麻痺も認知の問題もなくいるのが奇跡なくらいです。あと10年もつものは難しいでしょう。大学院まで出してもらった。だから・・・もう、あとは最後まで穏やかに過ごしてほしいんです。今回のことで表に出るつもりはありません。今回のホームの件も、老健が、期限があるので父に頼まれて探してもらったという形にしてもらい、妹に知らせる。そうしてほしいんです。」

 「かしこまりました。」

 

 よどみのなく藤堂は言ったあと、ぽつりと付け足した。

 

 「でも…嶋崎様はそれでよろしいのですか?」

 

 

 

 

 

********************* 

これまでの話

Battle Day0-Day169 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

登場人物は右サイドに紹介があります、

 

Day170- あらすじ

コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。

父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識するが、莉子を経由しなければならず、いつまでたっても情報は手に入らない。コオは父と同年代の親戚をもつ職場の長田から得た情報をもと検討をつけたところで、コンタクトを取った業者のうちの一つと連絡をとり、候補施設を見学を3件すませた。

 ****************************

 

 「私は・・・1件目が、ホントはいいです。ですから、順番待ちに入れていただきましたけど、2軒めは、もういいかなって思います。」

 「了解いたしました。」

 「それで、この2件、父に見てもらおうと思います。父と、北寿老健に父の外出許可を取れる日を聞いて・・・つまり、できれば入浴日とかは避けたいから。」

 「はい、それではご予定がお決まりになりましたら、ご連絡頂いてもよろしいでしょうか。」

 「もちろんです。その時は・・・よろしくお願いします。」

 

 少し、先の予定が決まったので、コオは落ち着いた気持ちになった。

 後は、父の年金額を確認して、できれば自分と莉子が月々援助する額もきまれば父はあの食事が美味しくて、自宅からもまぁまぁ近い、介護者の人たちの目が届くところで、穏やかに暮らしていけるだろう。今の老健でのように。

 今より少し元気な人がいれば一緒に囲碁をやったり話ができるだろう。見学したところでは、老健よりはずっと元気な人が多い印象だった。

 前金は結構辛いものがあるが、最後の親孝行だ。

 父には、大学院まで出してもらった恩がある。(それに・・・)コオはひっそりと思っった。

 

 (私には、もう、家族はいないから。子供たちが後数年で仕事を持つようになったら、私の役割はもう終わり。いつ死んでも、いいよね)

 

 仕事をし、子供を育て、父とは最後に穏やかに話ができた。この時点で、全てに全力を尽くしながらも、、コオは、もう、自分自身の未来には明るい希望を持っていなかった。

 

 

 

********************* 

これまでの話

Battle Day0-Day169 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

登場人物は右サイドに紹介があります、

 

Day170- あらすじ

コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。

父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識するが、莉子を経由しなければならず、いつまでたっても情報は手に入らない。コオは父と同年代の親戚をもつ職場の長田から得た情報をもと検討をつけたところで、コンタクトを取った業者のうちの一つと連絡をとり、候補施設を見学を2つ済ませ、3件目に向かうところで、紹介業者の藤堂が自分の施肥説を選ぶ一つの基準はにおいだ、という。

 ****************************

 

 そして3件目。

 

 「できて・・・まだ3年たちません。ですから一番新しいですが交通の便がよろしくないので、最初の施設と基本同じですが少しお安いです。」

 

 幹線道路から少し入ったところなので、思ったよりは静か。見た目は普通の低層マンションのように見える3件目のホームは、確かに新しかった。 天井が高く、開放感があった。

 部屋の間取りは1件目と変わらない。経営母体が一緒だからかもしれない。

 違いといえば、ウオシュレットが標準装備ではなくて、購入する必要があることだろうか。 

 

 「ここに入所されているのは元気な方が多いですよね、平均の介護度は…」

 「1.4ですね。」

 「1.4!」

 

 所長はここも女性だった。1つ目の施設よりはかなり年配で・・・給食のおばさんみたいだな、とコオは思った。

 聞いた藤堂が驚いた。

 

 「それはまた・・・お元気な方が多いんですね。」

 「ええ、まだ要介護もつかないけれど、一人暮らしで不安、という、要支援の方もいるんですよ。」

 「嶋崎さんのお父様は、お元気で自立歩行も問題ない方ですから、いいかもしれませんね。」

 

 藤堂は言った。

 

 3件の全ての見学が終わり、コオは藤堂にまた送ってもらって帰ることになった。

 遼吾や健弥のいるところを通り過ぎて、またなにもない部屋に帰るのだ。コオは胸がチクリとした。

 ここからだとこの混む時間だと1時間弱というところだ。

 

 「それで、いかがでしたか?」

 「私は・・・金額はともかく、やはり1番目の施設が気に入りましたね、なんだか・・・雰囲気が暖かかったし。」

 「私もそうです。手厚ですしね。一人の職員あたりに2.5人の入所者、という割合は、老健と同じです。他の2つの施設は、一人の職員で3人の入所者を見ることになっていますから。この0.5人の差は結構大きいかもしれないです。」

 

 藤堂は運転しながら、全く変わらない柔らかな声でそういった。 

 

 

 

 

 

********************* 

これまでの話

Battle Day0-Day169 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

登場人物は右サイドに紹介があります、

 

Day170- あらすじ

コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。

父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識するが、莉子を経由しなければならず、いつまでたっても情報は手に入らない。コオは父と同年代の親戚をもつ職場の長田から得た情報をもと検討をつけたところで、コンタクトを取った業者のうちの一つと連絡をとり、候補施設を見学を2つ済ませ、3件目に向かうところで、紹介業者の藤堂が自分の施肥説を選ぶ一つの基準はにおいだ、という。

 ****************************

 

 「施設の臭い、ということですよね。」

 

 「ええ・・・もちろん職員の方が一生懸命、下の世話までされているのはわかっているのです。それでも、施設の廊下を歩いているときにどんな匂いがするのかがとても大事だと思っているんです。」

 

 実は、2件目の施設の部屋を見学しているとき、明らかに排泄物の匂いがした。偶然、入所者が粗相をしたときにあたってしまったのかもしれないし、あるいは偶然処理している傍を通ってしまったのかもしれない。いずれにしても、下の世話をしてくれる人がいる、それに対して、臭いが・・・というのはコオにはためらわれたのだ。

 

 「私も、介護の現場で働いておりました。その時の実感です。ちゃんと臭いにまで気を使えるのかどうか。それは私の中では大きな施設選びの基準になっています。」

 

 藤堂は言った。

 コオは藤堂の言うことは多分本当だろうな、と思った。排泄物の臭いそのものを言っているのではないのかもしれない・・・

 これから数カ月後、コオはしみじみと、この藤堂の言葉を思い出すことになる。

 

 「最後のホームですが1件目と同じ経営母体です。違いは、元気な方が比較的多いっていうことでしょうか。あと・・・そのせいでしょうが、症状によってのフロア分けは一応してありますがあまりはっきりしていません。」

 

 

 3件目は1,2件目より、ずっと寿市の西側だった。寿市の西部は土地が低く、開発が遅れた。コオが小さい頃は、不便で陸の孤島、と呼ばれていたこともうっすら覚えている。今は輸送道路、幹線のバイパスが通っていて、鉄道が通ってからは、一気に無秩序とも言える開発が始まったようだが、未だ不便なことには変わりない。

 

 「Oバイパスの本当に側です。」

 「ええ、地図で見ました。まぁ、不便な地域の中では・・・まだ、便利な方ですよ。駅までほぼ一本だし。」

 

 コオは言いながら、莉子が父のところに自転車で行くのに、行きはいいけど帰りは上りだな、と考えていた。