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これまでの話

Battle Day0-Day169 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

登場人物は右サイドに紹介があります、

 

Day170- 231

コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。

父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識するが、莉子を経由しなければならず、いつまでたっても情報は手に入らない。コオは父と同年代の親戚をもつ職場の長田から得た情報をもと検討をつけたところで、コンタクトを取った業者のうちの一つと連絡をとり、候補施設を見学を3件すませた。コオは藤堂に、1件目が気に入ったこと、次は父に実際に見てもらいたいということを話す。担当業者の藤堂は、コオが、妹・莉子と事情を聞いた後尋ねる。『それでいいのですか?』コオは『父には最後まで穏やかに過ごしてほしい』という。

 

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 コオはこの年、太陽の昇りきるまえ、まだ薄暗いうちに職場に出かけ、シャワーを浴び、着替えて、仕事を始めていた。

 仕事場の上司は、すでに別の遠くの関連会社に栄転が決まっており、留守がちだった。タイムカードのない他の職員たちは時差通勤で10時を過ぎることが多く、コオが仕事を始めるのと同時くらいに職場に来るのは、吉本という年配の男性社員くらいだった。

 

 コオが老人ホームの見学に行って1週間くらいしたときだったろうか。

 夜中にコオの電話が鳴った。

 

 何か子供にあったのか。それとも遼吾に。

 いや、傍まで来ていて私を迎えに来てくれたのか。

 

 そんなことをとっさに考えるほど、コオは、家族の元に戻りたくて、でも戻れなかった。

 しかし、コオの電話に表示されたのは、職場の韓国人系の女性 ソフィー ・ 李の名前だった。

 (遼吾が・・・迎えに何て来てくれるわけないのに) がっかりしながら、そしていぶかしく思いながらコオは通話ボタンを押した。

 

 「Hellow....?」 

 「もしもし、嶋崎さんの携帯でよろしいでしょうか?こちらはT大学病院です。李ソフィーさんをご存じですね?』

 

 ソフィーではない。日本人の男性の声だった。すこし、遠く、聞こえづらかった。

 

 「はい…?えーと、同僚、です。デスクが・・・私の隣で・・・」

 

 寝入りばなを起こされ、ましてや遼吾からの電話を期待していたコオはまだ頭が動かない。

 

 「李さんが、自転車で事故を起こされて、救急車でこちらに運ばれました。電話の中にある日本人の番号はあなただけでしたので、かけさせていただきました。」

 

 電話の向こうの声は少し遠く、コオはひどく自分からは遠くで起こっていることのようにそれを聞いていた。