ご無沙汰しております

相棒のKが、鬱になってどうにもこうにもならなくなってほぼ1年経ちます。
生きて
仕事をこなす
という2点のみに全エネルギーを注ぐしかなく、
ブログの中身を見てもらう余裕もなく…


そしてこの1年、realは大きく変わりました。
鬱状態になったKの足掻く様は
見ていて痛々しい。
そして、Realの変化はある意味
この数年間のゴタゴタの収束でもありました。

Kが復活する(と信じてる)まで今しばらくかかりそうですが
半年以内には再開したいです

今までのあらすじ

ついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会ったコオ。
父の身分証を手に入れるため耐えた、不毛な話し合いで消耗したコオは友人美奈に会い、録音した莉子との話し合いを聞いて客観的な感想を言ってくれ、と頼んだ。美奈は『おかしいいのは莉子』といい、コオの泣きながら話す言葉を受け止める
 

 
 「でさ…とりあえずこれで手に入れたわけだよね、お父さんの身分証。これからどう動く?」
 
 美奈は口調を変えてそう尋ねてきた。
 
「…そういうとこだよ。」
 
 コオは涙を拭いて破顔した。
 
「何よ」
「次へ向かわせてくれるところ。」
「ばかね。これが私達、I高のカラーじゃないの。」
 
 コオと美奈は二人で笑い出した。
 
 美奈は、私の高校時代からの友達は、こうやって私をいつも救ってくれる。
 いつもいつもベッタリと仲がいい訳じゃない。
 喧嘩だってしてきた。
 モヤモヤとして、距離を取るときだってあった。
 それでも、大事なときコオを救ってくれるのは、いつでも高校時代からの友人たちだ。
 家に帰りたくなかった高校時代のコオを、部員でもないのに受け入れてくれた、美恵子や愛美といった同級生たち。
 介護システムが全くわからなかったコオに、丁寧に教えてくれた京子。
 そして、混乱したコオに、何も問いただすことなく会いに来てくれた美奈。
 
 「あのさ、コオ。」
 
 美奈は、ごくごくワインを飲むと、口調を変えた。
 
 「昔は知らないよ。コオとは高校からの付き合いだからそれより前は知らない。でもさ、少なくとも、その後はあんたはちゃんとやってきたじゃない。順風満帆とはお世辞にも言えない、波乱万丈だったけど。でも、仕事して。結婚して。子供育ててさ。あたし達と友達付き合いずっと続けてさ。あんたは…世間の全人口から言えば、トップ10%くらいのちゃんとうまくやってきた人なのよ?あんまり自分を卑下するもんじゃないよ。」
 「トップ10%は…言い過ぎだと思う…」
 「ま、ま、100歩譲ってもさ、30%には入ると思うけど?あたしら、I高に行って、大学入ったっていうだけで半分より上にいたと思うし。そこまでは・・・あれだよ。親がやってくれた面が大きいけどさ。そっからあと仕事してー、子育てしてーしかもちゃんと子供が高校入るまで育ててさ、それはうちらの力じゃない?しかもあんたには、ちゃんと、友達がたくさんいる。」 
 
 ちゃんとやってきたじゃない。
 うまくやってきた人なのよ。
 あんたには友達がたくさんいる。
 
 それがどれだけコオの心にしみたことか。
 コオの心は、安定を取り戻していた。
 あれだけ、混乱して、そのまま線路に飛び込みかねないほど自分を見失っていた数時間前が嘘のように。
 

今までのあらすじ

ついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会ったコオ。
父の身分証を手に入れるため耐えた、不毛な話し合いで消耗したコオは友人美奈に会い、録音した莉子との話し合いを聞いて客観的な感想を言ってくれ、と頼んだ
 

 
 「美奈、ありがとうね」
 
 コオは心の底から、感謝した。
 
 「私、莉子になんでこんな責められ方してるのか、全然わからなくて、
ケースワーカーはそれを止めることもなくって、ほんとに何もわからなくなってた。価値観が…めちゃくちゃになって。
足元がグラグラになったみたいで。美奈が、『莉子かおかしい』っていってくれて、今どれだけホッとしてるかわからないよ。
ありがとう。無理させちゃったね。仕事から直接きてもらったりして。」
 
 「ひどい声してたからねぇ…こりゃやばい、と思ったわよ。」
 
 美奈は涙を止められないコオにティッシュを差し出した。
 
「出口を塞がれるの。お姉ちゃんにはわからないでしょ、っていうから、分からないから説明して、って言っても説明しないの。でも、責任持ってやれ、とか命令するの。」
 
「うん、うん」
 
「もう、そんなにディスるんだったら、もう私はやらないからそっちで全部やってっていうと、『お姉ちゃんてそうやってかけひきするの。お姉ちゃんはいつもそう!!私はこんなに大変なのよ、そんな中でやってるのよ、って、そういうのお姉ちゃん得意だよね?』 っていうの」
 
「うん、うん」
 
「何を言っても、ただ責められて否定されるだけで」
 
「うん、うん」
 
「でも、私、たしかに子供のときいろんなこと大げさに言ってたと思う。
だって、親に、気にしてほしかったから。」
 
 「わかってるよ。」
 
美奈はいった。
 
「高校の時さ、親は妹ばっかりだから、家に帰りたくないって言ってさー、うちらの部室に入り浸ってたよね。」
 
 美奈は、少しいたましそうに言った。
 そんなこと・・・言ったっけ?
 確かに、『下校拒否症』と笑われるくらい、家に帰りたがらなかったけど。
 
 
 コオは思い出せなかった。
 
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今までのあらすじ

ついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会ったコオ。
父の身分証を手に入れるため耐えた、不毛な話し合いで消耗したコオは友人美奈に会い、録音した莉子との話し合いを聞いて客観的な感想を言ってくれ、と頼んだ
 


 「かなうわけ、なかったんだと思う。」
 
 コオはつぶやいた。
 
 「だって2対1だったから。」
  
 「ケースワーカーは莉子ちゃんに味方したわけじゃないでしょ.」

 「違うの。莉子は…母の亡霊を背負ってた。母が私に言ってたような言葉で、私を攻撃してた。前…最後に会った時もそうだった。莉子は…母の亡霊と一緒に私を攻撃するの。2対1。
 だから…エネルギーの総量だけでももうかなうわけなかったんだよ…」

言いながらコオは、ああ、そうだったんだ、と自分の言葉に納得していた。


マキアレイベル 薬用クリアエステヴェール
 
 
   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

今までのあらすじ

ついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会ったコオ。
父の身分証を手に入れるため耐えた、不毛な話し合いで消耗したコオは友人美奈に会う。
美奈はコオの録音した莉子との話し合いを聞き…『アタオカじゃん、無視無視』という。
 

 
 「あのさ、ケースワーカーの正しい態度だったのかどうかはわからないけど、その人立場を守ったんだと思うよ。でもこれ、莉子ちゃんの言ってるの、まちがいなくアタオカじゃん。悪いけどさ。こんなの無視よ。無視無視。」
 
 この時の美奈をコオは一生忘れることはないだろう。
 価値観が揺らぐ、というのがここまで人にダメージを与える、ということをコオは知らなかった。
 この時まで、まるで自分が溶けていってしまうかのような、恐怖と不安の中にコオはいた。
    莉子はおかしい、と思っていた。
 コオは自分が正しいと思うことをしてきたつもりだった。
 それになのに、たったこの1日でコオの自尊心も、価値観も、自信もなにもかもズタズタになり、今まで信じていたルールが何一つ通用しない異世界に迷い込んでしまった。
 美奈の言葉は、その異世界からコオを引き戻してくれた。
 いわゆる『まっとうな現実』に。
 コオがルールを知っている世界に。
 
 「かなうわけ、なかったんだと思う。」
 
 コオはつぶやいた。
 
 
 
   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

今までのあらすじ

ついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会ったコオ。
父の身分証を手に入れるため耐えた、不毛な話し合いで消耗したコオは友人美奈に会う。
美奈はコオの録音した莉子との話し合いを聞き…
 

 
 「悪いけどさ。莉子ちゃん、〇たま、おかしいわ。めちゃくちゃ。あんた、なんでこんなのにショック受けてんの。」
 
 美奈は言った。
 コオは吹き出した涙を止めることができなかった。
 
 「だって、ね、ケースワーカー…そこにいたケースワーカー、全然止めなかった。いくら莉子が、バカみたいなこと言っても…」
 「そりゃぁさ、向こうも立場ってもんがあるからね。」
 「それに・・・莉子がいなくなったあと…録音はもう止めてあったけど…私に『妹さん、思いのたけをぶつけてらっしゃいましたね』って…そう言った。』
 
 美奈はやれやれという顔をになり、もう一度ため息をついた。
 
 「あのさ、ケースワーカーの正しい態度だったのかどうかはわからないけど、その人立場を守ったんだと思うよ。でもこれ、莉子ちゃんの言ってるの、まちがいなくアタオカじゃん。悪いけどさ。こんなの無視よ。無視無視。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

今までのあらすじ

ついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会ったコオ。
父の身分証を手に入れるため耐えた、不毛な話し合いで消耗したコオは友人美奈に会う。
 

 
  真面目な顔をして、美奈はICレコーダーから伸びたイヤホンを耳に当てた。
 コオは、目がくらみそうだった。
 
「お願い、美奈。莉子の方が正しいと思うなら、そう言って。ただ、私がどうしたらいいのか教えて」
 美奈は、頷きながら、ときおり
「ここ、どれくらい続く?少し飛ばそうか」
といったりする。
 コオは慌ててレコーダーを早送りする。
 
 このとき、コオの”価値観”は完全に崩壊していたのだと思う。
 莉子がおかしい、
 かなりそれを確信していたにもかかわらず。
 味方になってくれなかった別れた夫
 莉子だけが心配だと言い続ける父
 莉子の個人情報を守るだけの行政
 そして、今日の浅見ケースワーカー。
 悪いのは、おかしいのは私なんだろうか?
 
 心臓がバクバクする。
 私がおかしくても。
 美奈はそれを、私にわかるように言ってくれるはず。
 美奈とだって、いつだってべったりと仲良くしていたわけじゃ無い。
 それでもコオの中には、美奈への確たる信頼があった。
 
 はぁっと、美奈はため息をつきイヤホンを外した。
 
 「悪いけどさ。莉子ちゃん、〇たま、おかしいわ。めちゃくちゃ。あんた、なんでこんなのにショック受けてんの。」
 
 美奈は言った。
 
 
 
 
 
 
 
 

今までのあらすじ

コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、破綻した論理展開、通じない会話に、コオは困惑し、
いらいらし、ひたすら耐えた。

 
  
 「やー、ごめんごめん、待たしたね~~、とりあえず駅近ファミレスでいいよね?」
 
 その日の夜、もう8時も回った頃、コオは高校時代からの友人、美奈と待ち合わせていた。
 
 「ごめんね、急に呼び出して。」
 「いいよ、いいよ。ひっどい声してたから、なんかあったな~って思ったんだぁ。」
 
 美奈の仕事は不定期で、この日は遅番だから7時過ぎにしか終わらないと言ってたのに、
コオが、連絡をするとほとんど何も聞かずに待ち合わせ場所と時間を指定した。
 美奈は、コオが離婚して一人暮らしをしていることを知っている数少ない友人だ。コオの会社の最寄り駅から一駅離れたところに彼女のマンションがあり、一緒に時折ランチをする、間柄だ。父が倒れてからの事を、ほとんどリアルタイムで知っている彼女は、コオと莉子のこじれた関係も知っている。
 
 「で、何があったの?なんか、顔色も悪いよ。」
 「実は・・・父の身分証。ついに手に入れたの。」
 「うわ、莉子ちゃん、届けてくれたわけ?」
 「いや、もう二人で会うのは絶対いやだったからさ、父のいる施設のケースワーカーに立ち会ってもらって・・・渡してもらうだけのつもりだったら、もう、なんていうか・・・」
 
 コオは言葉に詰まった。
 
 「私ね、もう、なんか自分の中の世界観ていうのか、何が正しくて何が間違ってるのか、
全然わからなくなっちゃったの。だからお願い。美奈。
 教えて。何がおかしくて、なにが正しいのか。客観的に、教えて。」
 
 コオはICレコーダーを差し出した。
 
 

今までのあらすじ

コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、破綻した論理展開、通じない会話に、コオは困惑し、
いらいらする。
 

 
 莉子は、マウントを取ろうとしているようにコオには思えた。
あるいはほんとに母が乗り移っていたのかもしれない。
「約束ね?」とか「お姉ちゃんが必ず一緒に行くのね?」「わかるよね?」という言い方は、
まるで小さい子に言い聞かせるような言い方で、コオを、気が狂いそうなほどイライラさせた。
 (何、勘違いしてるの?何もわかってないのは莉子のほうじゃないの)
 
 (浅見さんは・・・ケースワーカはどう思ってるんだろう?)
 
莉子はその後、も何度も何度も
「じゃぁ、身分証が必要なのは銀行だけね」「それでおしまいね。」「それが終わったら返してくれるのね。」「あくまでも銀行だけってことね」
 としつこく同じ質問を繰り返し、コオは心の中で
酔っぱらったときの父みたいだ、と思った。そして、(浅見さん、うるさいって思ってるだろうな)そう思いながらも、コオはボールペンをノックしては芯を戻すという行為をやめられずにいた。貧乏ゆすりみたいなもので、イライラするとやめられない。(となったのはこの時が初めてなのだが)
 
 それでも、莉子が取り出した、父の身分証にもう少しで手が届く。
 あれを、手にするまでの辛抱だ、
 手にしたら。
 手にしさえできたら、一言文句を言ってやる。
 
 コオは窓の外を眺めなら、ひたすら耐えていた。
 
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今までのあらすじ

コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、破綻した論理展開、通じない会話に、コオは困惑する。
莉子は【自分の状況は普通じゃない】【身分証を渡すのに証書が必要】などという。

 世間知らずの、莉子は、銀行のシステムをほとんど知らないようだ。銀行の口座開設に必要なものすら、知らない。
 今も上っ面だけで、証書、などと言ってるに過ぎない
 
(舐めるなよ・・・!)
 私は・・・一人暮らしで、失敗を重ねながら学んできた。
 あんたに家族を破壊されるまで、フルタイムで仕事をし、新しい家族を持ってそれを守ってきた。
 友人を持ち、ネットを駆使し、思いつく全てで家族を支えてきた。
 父が倒れてからだって、過去の毒家族への想いを封印し、父を支える努力をしてきたんだ。
 
 コオ:「・・・いや。本人いないとダメだから、父も連れていくよ。 通帳作るのに銀行行っても、身分証明だけでもだめ。本人もいないとダメだからね。」
 
 莉子:「 じゃあさ、ちょっと約束してほしんだけど、お姉ちゃんが、必ず一緒に行くのね?」
 コオ:「(何偉そうに言ってんだ死ね!!)だって他に誰が行くのよ?」
 莉子:「 ちゃんとそれこそ、シンプルに言ってよ。行くのね?ちゃんとお姉ちゃんが?必ず一緒に行くのね?」
 コオ:「(だから偉そうに言うな!!)だから、行きますって何度も行ってる。私が連れて行くの。」
 
 コオは激しくイラついた。
 
 莉子:「その場に、和香子さん以外がいる可能性・・・」
 コオ:「 和香子さんはいない!!私と父だけ!通帳を作ったらその番号を和香子さんに知らせる、それだけ!!」
 莉子:「・・・それは銀行に行くっていう事?」
 
 これが、あの、莉子だろうか?
 
 コオと莉子は同じ高校だった。莉子が1年生。コオが受験を控えた3年生だった1年間。
 成績は限りなく最下位に近かったコオと違い、莉子は上から数えた方が早かった。
 『お前、これ見て言う事ないのか!!』 莉子の成績と並べてみせられ、そんなふうに職員室で怒られたこともあった。
 気は合わなかったけれど、話の仕方はいつもコオのやり方とは違っていたけれど…
 頭は良かったはずなのに・・・ 
 
 莉子は、今までの話を一体どれくらい理解してたのだろうか?