今までのあらすじ

ついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会ったコオ。
父の身分証を手に入れるため耐えた、不毛な話し合いで消耗したコオは友人美奈に会う。
 

 
  真面目な顔をして、美奈はICレコーダーから伸びたイヤホンを耳に当てた。
 コオは、目がくらみそうだった。
 
「お願い、美奈。莉子の方が正しいと思うなら、そう言って。ただ、私がどうしたらいいのか教えて」
 美奈は、頷きながら、ときおり
「ここ、どれくらい続く?少し飛ばそうか」
といったりする。
 コオは慌ててレコーダーを早送りする。
 
 このとき、コオの”価値観”は完全に崩壊していたのだと思う。
 莉子がおかしい、
 かなりそれを確信していたにもかかわらず。
 味方になってくれなかった別れた夫
 莉子だけが心配だと言い続ける父
 莉子の個人情報を守るだけの行政
 そして、今日の浅見ケースワーカー。
 悪いのは、おかしいのは私なんだろうか?
 
 心臓がバクバクする。
 私がおかしくても。
 美奈はそれを、私にわかるように言ってくれるはず。
 美奈とだって、いつだってべったりと仲良くしていたわけじゃ無い。
 それでもコオの中には、美奈への確たる信頼があった。
 
 はぁっと、美奈はため息をつきイヤホンを外した。
 
 「悪いけどさ。莉子ちゃん、〇たま、おかしいわ。めちゃくちゃ。あんた、なんでこんなのにショック受けてんの。」
 
 美奈は言った。