今までのあらすじ

コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、破綻した論理展開、通じない会話に、コオは困惑し、
いらいらし、ひたすら耐えた。

 
  
 「やー、ごめんごめん、待たしたね~~、とりあえず駅近ファミレスでいいよね?」
 
 その日の夜、もう8時も回った頃、コオは高校時代からの友人、美奈と待ち合わせていた。
 
 「ごめんね、急に呼び出して。」
 「いいよ、いいよ。ひっどい声してたから、なんかあったな~って思ったんだぁ。」
 
 美奈の仕事は不定期で、この日は遅番だから7時過ぎにしか終わらないと言ってたのに、
コオが、連絡をするとほとんど何も聞かずに待ち合わせ場所と時間を指定した。
 美奈は、コオが離婚して一人暮らしをしていることを知っている数少ない友人だ。コオの会社の最寄り駅から一駅離れたところに彼女のマンションがあり、一緒に時折ランチをする、間柄だ。父が倒れてからの事を、ほとんどリアルタイムで知っている彼女は、コオと莉子のこじれた関係も知っている。
 
 「で、何があったの?なんか、顔色も悪いよ。」
 「実は・・・父の身分証。ついに手に入れたの。」
 「うわ、莉子ちゃん、届けてくれたわけ?」
 「いや、もう二人で会うのは絶対いやだったからさ、父のいる施設のケースワーカーに立ち会ってもらって・・・渡してもらうだけのつもりだったら、もう、なんていうか・・・」
 
 コオは言葉に詰まった。
 
 「私ね、もう、なんか自分の中の世界観ていうのか、何が正しくて何が間違ってるのか、
全然わからなくなっちゃったの。だからお願い。美奈。
 教えて。何がおかしくて、なにが正しいのか。客観的に、教えて。」
 
 コオはICレコーダーを差し出した。