今までのあらすじ

コオはついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会うことになった。
莉子が来る少し前にボイスレコーダーの録音スイッチを入れた。
コオは父の身分証が必要なわけをわずか3分ほどで話し終わったが
莉子の、破綻した論理展開、通じない会話に、コオは困惑し、
いらいらする。
 

 
 莉子は、マウントを取ろうとしているようにコオには思えた。
あるいはほんとに母が乗り移っていたのかもしれない。
「約束ね?」とか「お姉ちゃんが必ず一緒に行くのね?」「わかるよね?」という言い方は、
まるで小さい子に言い聞かせるような言い方で、コオを、気が狂いそうなほどイライラさせた。
 (何、勘違いしてるの?何もわかってないのは莉子のほうじゃないの)
 
 (浅見さんは・・・ケースワーカはどう思ってるんだろう?)
 
莉子はその後、も何度も何度も
「じゃぁ、身分証が必要なのは銀行だけね」「それでおしまいね。」「それが終わったら返してくれるのね。」「あくまでも銀行だけってことね」
 としつこく同じ質問を繰り返し、コオは心の中で
酔っぱらったときの父みたいだ、と思った。そして、(浅見さん、うるさいって思ってるだろうな)そう思いながらも、コオはボールペンをノックしては芯を戻すという行為をやめられずにいた。貧乏ゆすりみたいなもので、イライラするとやめられない。(となったのはこの時が初めてなのだが)
 
 それでも、莉子が取り出した、父の身分証にもう少しで手が届く。
 あれを、手にするまでの辛抱だ、
 手にしたら。
 手にしさえできたら、一言文句を言ってやる。
 
 コオは窓の外を眺めなら、ひたすら耐えていた。
 
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