今までのあらすじ
Day500-今まで
ついにケースワーカー立ち合いの元、妹・莉子と、北寿老健で会ったコオ。
父の身分証を手に入れるため耐えた、不毛な話し合いで消耗したコオは友人美奈に会う。
美奈はコオの録音した莉子との話し合いを聞き…『アタオカじゃん、無視無視』という。
「あのさ、ケースワーカーの正しい態度だったのかどうかはわからないけど、その人立場を守ったんだと思うよ。でもこれ、莉子ちゃんの言ってるの、まちがいなくアタオカじゃん。悪いけどさ。こんなの無視よ。無視無視。」
この時の美奈をコオは一生忘れることはないだろう。
価値観が揺らぐ、というのがここまで人にダメージを与える、ということをコオは知らなかった。
この時まで、まるで自分が溶けていってしまうかのような、恐怖と不安の中にコオはいた。
莉子はおかしい、と思っていた。
コオは自分が正しいと思うことをしてきたつもりだった。
それになのに、たったこの1日でコオの自尊心も、価値観も、自信もなにもかもズタズタになり、今まで信じていたルールが何一つ通用しない異世界に迷い込んでしまった。
美奈の言葉は、その異世界からコオを引き戻してくれた。
いわゆる『まっとうな現実』に。
コオがルールを知っている世界に。
「かなうわけ、なかったんだと思う。」
コオはつぶやいた。

