読書雑記 -15ページ目

読書雑記

読書日記。

ほとんど自分のためのものです。


☆☆☆★★
(ビジネスノウハウ本は実践しないと意味がないので、どんなに良くても本書に責任のないところで低めの評価になる)

マイクロソフトは、自社製品の「ワークプレイスアナリティクス」と「マイアナリティクスによって従業員の働き方を見える化し、そのデータを集積している。

その膨大な職場データから導き出された「職場の科学」を28の知見として紹介している。

そこから得られた知見は汎用性があるとのこと。

「働き方改革」は、単にスタイルや雇用制度の話ではなく、人材獲得力格差、ビジネスモデル格差、ひいては国力格差までつながる重要テーマであるという。

特に、マネージャー職、情報部門、人事部門に有用な知見だと思う。

☆☆☆★★

戦後最年少の直木賞作家によるエッセイ集。

子供の頃や大学時代の自分を面白おかしく揶揄するようなエピソードに富んでいるが、随所に将来小説家になるべく才能の片鱗を見せている。

小学校の卒業前に、原稿用紙100枚ほどの小説を書き、先生に渡すと、先生が「先生と生徒」でなく、ひとりの人間同士として、3枚の便箋にびっしりと感想を綴ってくれたという話。
その時、「文章をあいだに挟めば、「自分と違う」と思っていた人たちが、自分に向き合ってくれるのだ。ものすごい武器を手に入れた」と感じる著者は、ちょっと普通の小学校6年生とは違う。

疲れたとき、深く考えたくないとき、気落ちしているときに、元気になれそうな本。

☆☆☆☆☆

東京学芸大学個人研究員として美術教育を研究しつつ、中高の美術教師として教壇にも立つ著者は、「13歳」が美術を好きになるか、嫌いになるかの分岐点であり、「技術・知識」偏重型の授業スタイルが、中学以降の美術に対する苦手意識の元凶ではないかと考え、「美術=アート思考」は大人が「13歳」に戻り「最優先で学び直すべき科目」であると力説する。

「アート思考(アート的なものの考え方)」とは、
①「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、
②「自分なりの答え」を生み出し、
③それによって「新たな問い」を生み出す
思考プロセスだという。

VUCAの時代において、アート思考は、「自分のものの見方」「自分なりの答え」を手に入れるための考え方で、すべての人に役立ち得るものとしている。

19世紀のカメラの登場により、写実的な表現というアートの目的が見失われてしまった時代において、20世紀のアーティストたちは、自分自身のなかに「興味のタネ」を見出だし、そこから「探究の根」を伸ばすことで、「表現の花」を咲かせるというプロセスに自覚的に取り組むようになっている。

アート思考を育む題材にふさわしい、20世紀の代表的なアート作品を取り上げたエクササイズを通じて、「写実的な表現」「遠近法」「具象物を描くもの」「視覚で味わうべきもの」「イメージを映し出すためのもの」といったアートの常識が次々と覆され、「これがアートだ」と考える『確固たる枠組み』さえ存在しないのではないかというところまで行き着く。

「アートなんてものは存在しない。ただ、アーティストがいるだけだ」(歴史家・美術史家のエルンスト・ゴンブリッチ)
「自分の興味・好奇心・疑問」(=自分の愛すること)を皮切りに、「自分のものの見方」で世界を見つめ、好奇心に従って探究を進めることで「自分なりの答え」を生み出すことができれば、誰でもアーティストであると著者は言う。

アートに触れる敷居が下がると同時に、その奥深さにも気づかせてくれる。


☆☆☆☆★

昭和の未解決事件であるグリコ森永事件を題材にした長編ミステリ作品。

幼い頃の自分の声が脅迫事件に使われたことを知ったテーラーを営む曽根俊也と、新聞の年末企画のために事件を追う阿久津英士、それぞれが別々に事件の「真相」に迫る物語はやがて一つに収斂していく。

上質のノンフィクション作品を読んでいるかのよう。

☆☆☆☆★

華やかなホテルを舞台にした東野圭吾ミステリーの第三弾。

今回も潜入捜査のためホテルマンに扮する新田浩介とホテル・コルテシア東京の敏腕コンシェルジュ山岸尚美の活躍が楽しめる。

ホテルを訪れるすべての客が疑わしく思えてくる。
客は個人差はあれど日常とは違う「仮面」を被っている。「お客様の仮面」を尊重するのがホテルマンの務め。「お客様の仮面が外れたとしても、それに気づかないふりをするのがホテルマンの仕事」
一方、「仮面が外れていることに気づかないふりをして、さらに素顔に近づく」のが刑事の仕事。

事件が解きほぐされていく過程はもちろんのこと、お客様の依頼に口が裂けても「できない」「無理」と言えないコンシェルジュの仕事を全うするため、山岸尚美が客の無理難題に応えていく過程も本書の読みどころ。

☆☆☆★★

睡眠は哺乳類や鳥類が進化の過程でどうしても省くことができなかった非常に重要な機能である。

にもかかわらず、ヒトはなぜ眠るのか、この極めて単純な問いに、脳科学や神経科学は決定的な解答を出すことができないでいるそうだ。

それでも、睡眠は、単に脳や身体に休息を与えるだけでなく、記憶の固定化や脳のメンテナンスなど、能動的・積極的な役割を果たしていることが徐々にわかってきている。

睡眠が身体や脳の機能にどのように関わっているか、どのような役割を果たしているか、どのようなメカニズムで引き起こされているのか。

睡眠とは何かを知ることは、覚醒とは何かを知ることである。睡眠と覚醒の制御機構には、情動、意識、注意など様々な脳機能のシステムの理解に役立つ知見に溢れており、ヒトの心のメカニズムや精神疾患の原因などの解明にもつながるという。

睡眠を能動的なもの、積極的なものと捉え、脳の働きをよくして豊かな人生を送るために読みたい書。

☆☆☆★★

キャリア警察官僚・竜崎伸也を主人公とした隠蔽捜査シリーズ7作目(他にスピンオフ作品も2冊ある)。

サイバー犯罪と非行少年の殺害事件の解決に向け奮闘し、竜崎が大森署長として関わる最後の事件となる。

今回も印象に残るフレーズがいくつか。

「原因が不明ということは、あらゆる原因が考えられるということだ。」(16頁)

「日本の社会において、挨拶だの礼儀だのというのが、仕事の上でも潤滑剤になっていることは、心得ている。だが、警察の仕事は一刻を争うことが多い。竜崎としては、一秒も無駄にしたくないのだ。」(32頁)

「どうして管轄にこだわるのだろう。気がついたものが端緒に触れる。それでいいじゃないか。」(34頁)

「理不尽な命令には従ってはならない」(35頁)

「原理原則はすべての物事の中心軸だ。人体で言えば背骨で、最も大切なものだ。それを無視したら物事がまったく見えなくなる。問題に直面して右往左往している人は、原理原則を忘れているのだ。逆にそれをしっかりと押さえている人はどんな問題にも対処できる。」(48頁)

「未来に夢を持てないというのは、他人をあてにしているからだろう。漠然と、誰かが面倒をみてくれるかもしれないと思っているんだ。自分で自分の人生に責任を負おうとすれば、不満を世の中のせいにしたり、やりたいことがない、なんて言っている暇はないはずだ」(294頁)

以上は合理主義者である竜崎伸也ならではの発言だが、本書では大森署を去るにあたり、人間らしい感傷的な側面も見せている。


☆☆☆☆★

新型コロナウイルスについて、何がわかっていて、何がわかっていないのか。

ノンフィクションライターの河合香織氏が東京大学医科学研究所の河岡義裕教授にインタビューしたもの。

河岡教授は、ウイルス学の世界的権威であり、リバース・ジェネティクスという、ウイルスを人工的に作る技術を使って、世界で初めてインフルエンザウイルスを人工合成することに成功した。
現在も、新型コロナウイルス研究の最前線に立ち、メッセンジャーRNAを使った新型コロナウイルスのワクチン開発の陣頭指揮を取っている。

ワクチンはいつ実用化されるのか、治療薬の効果と限界、これからも流行を繰り返すのかなどの新型コロナウイルス研究の最前線や、我々がウイルスと共生していくために必要な知識を様々な角度から教えてくれる。

・新型コロナウイルスには季節性があるのではないか。
・新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスに比べて変異しにくく、短期間に抗体が効かないほどに変異するとは考えにくいので、陰性になった人が再び陽性になるのは、再感染ではなく、陰性となった検査で検体が取れず、サンプルにウイルスがいなかったことなどが理由として考えられる。
といった河岡教授の現段階での見立ては是非そうであって欲しい。

第3章「ウイルスと私」では、河岡教授が特にウイルスへの愛着があるわけではなく、研究対象は別にウイルスではなくても良かったし、たまたま出会ったのがウイルスだったという話もあり、肩の力の抜けた河岡教授の人間性にも惹かれる。
河岡教授のこれまでの研究生活を振り返りながら、ウイルスに対する理解がさらに深まる。

河岡教授は一貫して自然に対して謙虚であり、人間を特別視しない。
「ウイルスは戦わない」との言葉は印象的であった。戦いと思っているのは人間だけで、ウイルスに生存戦略などなく、ある特定の条件で生き残っていくというだけ。変異もウイルスが生き残るために選んだ手段ではなく、遺伝子が複製されるときの間違いである。
また、河岡教授は、何をもって「新型」というのかと言っている。もともとコウモリを宿主としていたウイルスがたまたま人間にも感染性を持つようになったということ。

動物の居場所をなくし、ウイルスを持つ動物との距離が近くなったこと、急激なグローバリズムの進展、これまでの働き方など、人間のこれまでの営みが問われている。