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読書雑記

読書日記。

ほとんど自分のためのものです。


☆☆☆☆★

華やかなホテルを舞台にした東野圭吾ミステリーの第三弾。

今回も潜入捜査のためホテルマンに扮する新田浩介とホテル・コルテシア東京の敏腕コンシェルジュ山岸尚美の活躍が楽しめる。

ホテルを訪れるすべての客が疑わしく思えてくる。
客は個人差はあれど日常とは違う「仮面」を被っている。「お客様の仮面」を尊重するのがホテルマンの務め。「お客様の仮面が外れたとしても、それに気づかないふりをするのがホテルマンの仕事」
一方、「仮面が外れていることに気づかないふりをして、さらに素顔に近づく」のが刑事の仕事。

事件が解きほぐされていく過程はもちろんのこと、お客様の依頼に口が裂けても「できない」「無理」と言えないコンシェルジュの仕事を全うするため、山岸尚美が客の無理難題に応えていく過程も本書の読みどころ。

☆☆☆★★

睡眠は哺乳類や鳥類が進化の過程でどうしても省くことができなかった非常に重要な機能である。

にもかかわらず、ヒトはなぜ眠るのか、この極めて単純な問いに、脳科学や神経科学は決定的な解答を出すことができないでいるそうだ。

それでも、睡眠は、単に脳や身体に休息を与えるだけでなく、記憶の固定化や脳のメンテナンスなど、能動的・積極的な役割を果たしていることが徐々にわかってきている。

睡眠が身体や脳の機能にどのように関わっているか、どのような役割を果たしているか、どのようなメカニズムで引き起こされているのか。

睡眠とは何かを知ることは、覚醒とは何かを知ることである。睡眠と覚醒の制御機構には、情動、意識、注意など様々な脳機能のシステムの理解に役立つ知見に溢れており、ヒトの心のメカニズムや精神疾患の原因などの解明にもつながるという。

睡眠を能動的なもの、積極的なものと捉え、脳の働きをよくして豊かな人生を送るために読みたい書。

☆☆☆★★

キャリア警察官僚・竜崎伸也を主人公とした隠蔽捜査シリーズ7作目(他にスピンオフ作品も2冊ある)。

サイバー犯罪と非行少年の殺害事件の解決に向け奮闘し、竜崎が大森署長として関わる最後の事件となる。

今回も印象に残るフレーズがいくつか。

「原因が不明ということは、あらゆる原因が考えられるということだ。」(16頁)

「日本の社会において、挨拶だの礼儀だのというのが、仕事の上でも潤滑剤になっていることは、心得ている。だが、警察の仕事は一刻を争うことが多い。竜崎としては、一秒も無駄にしたくないのだ。」(32頁)

「どうして管轄にこだわるのだろう。気がついたものが端緒に触れる。それでいいじゃないか。」(34頁)

「理不尽な命令には従ってはならない」(35頁)

「原理原則はすべての物事の中心軸だ。人体で言えば背骨で、最も大切なものだ。それを無視したら物事がまったく見えなくなる。問題に直面して右往左往している人は、原理原則を忘れているのだ。逆にそれをしっかりと押さえている人はどんな問題にも対処できる。」(48頁)

「未来に夢を持てないというのは、他人をあてにしているからだろう。漠然と、誰かが面倒をみてくれるかもしれないと思っているんだ。自分で自分の人生に責任を負おうとすれば、不満を世の中のせいにしたり、やりたいことがない、なんて言っている暇はないはずだ」(294頁)

以上は合理主義者である竜崎伸也ならではの発言だが、本書では大森署を去るにあたり、人間らしい感傷的な側面も見せている。


☆☆☆☆★

新型コロナウイルスについて、何がわかっていて、何がわかっていないのか。

ノンフィクションライターの河合香織氏が東京大学医科学研究所の河岡義裕教授にインタビューしたもの。

河岡教授は、ウイルス学の世界的権威であり、リバース・ジェネティクスという、ウイルスを人工的に作る技術を使って、世界で初めてインフルエンザウイルスを人工合成することに成功した。
現在も、新型コロナウイルス研究の最前線に立ち、メッセンジャーRNAを使った新型コロナウイルスのワクチン開発の陣頭指揮を取っている。

ワクチンはいつ実用化されるのか、治療薬の効果と限界、これからも流行を繰り返すのかなどの新型コロナウイルス研究の最前線や、我々がウイルスと共生していくために必要な知識を様々な角度から教えてくれる。

・新型コロナウイルスには季節性があるのではないか。
・新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスに比べて変異しにくく、短期間に抗体が効かないほどに変異するとは考えにくいので、陰性になった人が再び陽性になるのは、再感染ではなく、陰性となった検査で検体が取れず、サンプルにウイルスがいなかったことなどが理由として考えられる。
といった河岡教授の現段階での見立ては是非そうであって欲しい。

第3章「ウイルスと私」では、河岡教授が特にウイルスへの愛着があるわけではなく、研究対象は別にウイルスではなくても良かったし、たまたま出会ったのがウイルスだったという話もあり、肩の力の抜けた河岡教授の人間性にも惹かれる。
河岡教授のこれまでの研究生活を振り返りながら、ウイルスに対する理解がさらに深まる。

河岡教授は一貫して自然に対して謙虚であり、人間を特別視しない。
「ウイルスは戦わない」との言葉は印象的であった。戦いと思っているのは人間だけで、ウイルスに生存戦略などなく、ある特定の条件で生き残っていくというだけ。変異もウイルスが生き残るために選んだ手段ではなく、遺伝子が複製されるときの間違いである。
また、河岡教授は、何をもって「新型」というのかと言っている。もともとコウモリを宿主としていたウイルスがたまたま人間にも感染性を持つようになったということ。

動物の居場所をなくし、ウイルスを持つ動物との距離が近くなったこと、急激なグローバリズムの進展、これまでの働き方など、人間のこれまでの営みが問われている。
☆☆☆☆★
新型コロナウイルスは人類にどんな影響を及ぼすのか。政治体制、AI、人生100年時代、認知科学、GAFA、経済対策をキーワードに世界を代表する知識人6人から世界や日本の行く末を問う。

本書は、コロナ以前の2019年11月から12月にかけて行われたインタビューをもとにまとめられていたが、年が明けで猛威を振るい始めたコロナの影響を無視することができないため、2020年5月から6月にかけての追加取材を経て完成したものである。

したがって、コロナの影響に関する記述の量も人によって異なるが、識者が展望する、AIの活用、人生100年時代の働き方、GAFAのパワー、世界経済のリスクなどの未来は、コロナによっても方向性は変わらず、より強化・加速されることがうかがえる。

個人的には、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者であるスコット・ギャロウェイの章が一番面白かった。
新型コロナウイルスのパンデミックにより、GAFAをはじめとするビッグテック企業がますますパワフルになっており、Apple、Facebook、Amazonはいずれも株価の過去最高値を更新しているらしい。
政府をも動かす資金力を持つGAFAは我々の生活を豊かにしてくれるが、彼らの目的は詰まるところ金儲けなので、生活の多くをGAFAに頼ることには慎重にならなければならないと警鐘を鳴らしている。

また、5月25日に起きた白人警官による黒人男性の暴行殺害事件を受け、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンが本書に「追記」を寄せ、「やればできるはずの国がパンデミックに対処できない国になり、自由世界のリーダーが国際機関の破壊者となり、近代デモクラシー生誕の地が独裁主義を志向する者に支配されて」いると自国アメリカの先行きを相当の危機感をもって憂いていたのも印象的だった。

6人の他の著作との重複感もあるかも知れないが、新書一冊で今後の世界の見方の参考となる知見を得られて大変ありがたい。



☆☆☆☆★
人間は、伝染病を防ぐため、病原体の伝播経路を突き止め断ち切る清潔化の歴史を歩んできたが、人が激しく往来するグローバル社会においては、飛沫や空気を媒介する新型インフルエンザ、潜伏期間が長いために感染が広がるエイズなど、新たな感染症の脅威にさらされていることについて解説されている。

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない今、伝播が起こりにくい社会をつくっていくためには、日本の強みである清潔行動文化を個々人が再認識し、効率的に活用していくべきであると著者は主張している。


☆☆☆★★

2012年6月30日、エンジェル投資家、京大客員准教授などの肩書を持つ瀧本哲史氏が、次代を担う10代、20代に限定して東大で行った講義の記録。

日本の現在・未来に危機感を持つ瀧本氏は、カリスマを待望せず、いかに皆が自分で考え自分で決めていく世界をつくっていくか、そのための「武器」を若者に与えていく。

・最重要の教養は「言語」である、言葉マニアになれ。
新しくて正しい考え方を選べば、最初は少数派でも、何十年か経って世代交代さえすれば、必ずパラダイムシフトは起こせる。
・交渉はいかに相手の利害に沿った提案ができるか。
・人生はいかに多くのチャレンジをし「分母の数を増やし)、そこから2、3の成功例をつかみ取るか。
・その人が過去に生きてきた人生はその人にしかないユニークさでだれにも盗まれない唯一無二なもの。

時には厳しく時には温かく、若者に「檄」を飛ばしていく。

音源は聞いていないが、実際の講義は文字では伝えきれない迫力があり聴衆の心に刺さったであろう。その興奮や氏が与えた武器を少しでも本書で味わいたい。

講義が行われた8年後、皆がどう取り組んできたか、宿題の答え合わせをするために、「2020年6月30日にまたここで会おう」と瀧本氏は締めくくった。

しかし、この約束は果たされなかった。
氏は病により2019年8月に永眠する。
それぞれが自分で答え合わせをし、瀧本氏の遺志を受け継いで、自分自身で考え決め世の中を変えていけるのかが問われている。

☆☆☆★★

新型コロナウイルスに関する知識は、コロナ時代を生きる我々にとって必須の教養といえる。

京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授が自身の新型コロナウイルスに関する情報発信サイトで紹介されていた書籍。

専門外の者には本書を完全に理解するには別の書籍やネットの情報を借りないと難しいが、細部を気にせず基本的な知識を得るには良い本だと思う。



殺伐とした英国社会を象徴するような「元底辺中学校」に通う息子と母ちゃん(著者)が、人種差別、ジェンダー、貧富の格差などの問題にぶち当たりながらも前へ進んでいくノンフィクション。

英国の階級社会、格差社会はここまで行っているのかと驚かされる。

・人気の高い学校には応募者が殺到するので、定員を超えた場合、地方自治体が学校の校門から児童の自宅までの距離を計測し、近い順番に受け入れるというルールになっているため、そうした地区の価格は高騰し、富者と貧者の棲み分けが進んでいる(ソーシャル・アパルトヘイト)。

・人種の多様性があるのは優秀でリッチな学校。それに対して、元底辺中学校のようなところは白人労働者階級が多い。

・昔なら、勉強のできない子はスポーツができるとか、労働者階級の子どもが金持ちになりたいと思ったらサッカー選手か芸能人になるしかない、と言われた時代もあったが、今や親に資本がなければ、子どもが何かに秀でることは難しい。

もう授業やクラブ活動のためだけに学校予算を使える時代じゃない。貧困地区にある学校は、子どもたちの基本的な衣食住から面倒をみなければいけない(スクール福祉)。

・英国では、認められていない理由で子どもが学校を欠席したりすると、親が地方自治体に罰金を払わなければならない。デモに行くと『ずる休み』とみなされて罰金を払わされるかもしれないので、裕福でない家庭の子どもはデモに参加するのを躊躇する(そもそも子どもがデモに参加しようとするところが日本では稀だが)。

そんな中でも、息子と母ちゃんはたくましく、そしていつも冷静だ。

母ちゃん「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃない方が楽よ・・・多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどうくさいけど、無知を減らすにはいいことなんだ」

息子も含め様々な家族形態をもつ学校の子どもたちについて、「彼らは自分の家族が他の子の家族と違うことをまったく気にしていなかった。それぞれ違って当たり前で、それを悪いとも良いとも、考えてみたことがないからだ。」

「よく考えてみれば、誰だってアイデンティティが一つしかないってことはないはずなんですよ」という中学校の校長の言葉を受け、著者(母ちゃん)は「分断とは、そのどれか一つを他者の身にまとわせ、自分の方が上にいるのだと思えるアイデンティティを選んで身にまとうときに起こるものなのかもしれない」と考える。

「学校は社会を映す鏡なので、常に生徒たちの間に格差は存在するものだ。でも、それが拡大するままに放置されている場所には勢いがない。陰気に硬直して、新しいものや楽しいことが生まれそうな感じがしない。」

多様性やダイバーシティの推進をイメージや口先だけで唱えるのは簡単だが、実際の大変さと大切さが本書を通じて理解できる。