伝統的な任侠映画に終止符を打った1作目「仁義なき戦い」、そして番外編的な2作目「広島死闘篇」と実質的な最終作の4作目「頂上作戦」にはさまれる形のつなぎ的な役割の3作目だが、この群像劇がシリーズ中もっとも面白い。
<ストーリー>
昭和35年、広島最大の能力男村岡組の実力者・杉原が九州のやくざに殺された。杉原の兄弟分の打本組組長の打本昇(加藤武)がきちんと落し前をつけなかったために村岡組の跡目をめぐって熾烈な抗争が起きることになった。
打本は広能(菅原文太)を介して日本最大の暴力団・明石組組長の明石辰男(丹波哲郎)の舎弟・相原と兄弟盃を交わした。
一方、松永(成田三樹夫)、武田(小林旭)、江田(山城新伍)らも山守(金子信雄)を村岡組の跡目に押していた。
明石組の勢力をバックに村岡組の跡目を習う打本の思惑は村岡の気分を害することになり、跡目は山守に譲られ山守組は広島最大の暴力団組織になった。
そのころ、山守組の槇原(田中邦衛)の舎弟分と打本の舎弟分が岩国でもめていた。打本は指を詰めて明石組へと逃れた。
明石組は早速、最高幹部の宮地(山本麟一)や相原を広島に送り、やむなく広能たちは打本に詫びを入れた。打本は明石辰男から盃を受け、明石組は遂に広島に勢力を拡大することになった。
山守は、明石組に対抗できる唯一の暴力団、神戸の信和会と兄弟盃を交わした。
これによって広島において二大勢力の対決となり、昭和38年、ついに広島抗争事件の幕が切って落とされた。(KINENOTEより抜粋)
ストーリーを追っていってもわけがわからない。ひたすら盃を交わしたり、返したりの繰り返し。
実録路線でおなじみの手持ちカメラのバイオレンスシーンも少ないが、群像劇としてはシリーズ中最高傑作だろう。
登場人物も多くキャラクターも多彩。演じる俳優も名優揃いで見ごたえがある
◎広能組
このシリーズの主人公で孤高のアウトロー:広能昌三(菅原文太)
鉄砲玉:倉本(渡瀬恒彦)
指詰めならぬ腕詰めの西条(川谷拓三)
◎山守組
卑怯・自己保身でカリスマ性ゼロの親分:山守義雄(金子信雄):右
山守の腰巾着の槇原(田中邦衛):左
◎村岡組
初登場の切れ者:武田明(小林旭)
お調子者の江田(山城新伍)
本作で退場がおしいクールな松永(成田三樹夫)
◎明石組
いかにも特別出演枠の大親分:明石辰男(丹波哲郎)
眉毛を剃った岩井信一(梅宮辰夫)
相原(遠藤辰雄:左)と宮地(山本麟一:右)の名コンビ
◎その他
万年長老役:大久保(内田朝雄)
ザ・ヤクザの女(池玲子)
教え子にやくざの就職を斡旋するトンデモ教師(汐路章)
◉そして、本作のもう一人の主人公
絵にかいたような小心、弱腰、優柔不断の打本昇(加藤武)
幹部は会議ばかりで下っ端は現場で命を削る。
会議ばかり映っている映画なんてつまらなそうだが、この作品の場合は幹部を演じる俳優が曲者ばかりで、葬儀や料亭や組事務所でこれらの面々がああでもないこうでもないと延々とつづく会話や駆け引きに目が離せず、裏切りと陰謀が渦巻く中、結局は皆、山守の手のひらの上で踊らされているだけのずっこけ喜劇なのが面白い。
やくざ映画のスターたちがずらりと並ぶシーンの構図は素晴らしい。
想えば、この映画で幹部を演じている菅原文太、梅宮辰夫なども1作目では若手だった。
バイオレンスの巨匠・深作欣二が監督しているにも関わらず、ドンパチの少ないやくざ映画だが、脚本と演出しだいで面白い群像劇が作れることがわかった。
ARROW VIDEOのブルーレイで鑑賞
特典映像はピラニア軍団のドキュメント
1973年 日本 カラー100分
【鑑賞方法】ブルーレイ ARROW
【原題・英題】BATTLE WITHOUT A HONOR AND HUMANITY : PROXY WAR
【制作会社】東映
【配給会社】東映
【監督】深作欣二
【脚本】笠原和夫
【原作】飯干晃一
【撮影】吉田貞次
【音楽】津島利章
【編集】堀池幸三
【美術】雨森義允
【出演】
菅原文太:広能昌三
川谷拓三:西条勝治
渡瀬恒彦:倉本猛
金子信雄:山守義雄
田中邦衛:槇原政吉
小林旭:武田明
成田三樹夫:松永弘
山城新伍:江田省三
鈴木康弘:杉原文雄
内田朝雄:大久保憲一
曽根晴美:上田年男
加藤武:打本昇
室田日出男:早川英男
丹波哲郎:明石辰男
山本麟一:宮地輝男
遠藤辰雄:相原重雄
梅宮辰夫:岩井信一
汐路章:青木彦次郎
中村英子:江奈
池玲子:富江
名和宏:村岡常夫