演芸場からテレビへ、
時代の移り変わりをノスタルジックに描いた傑作

 

 

★★★★★

 

劇団ひとり(脚本と家督)の見事な手腕!

 

 

<ストーリー>

1974年、売れない漫才コンビのたけし(柳楽優弥)ときよし(土屋伸之)は古巣の浅草に思いを寄せる。

2年前の浅草。ストリップ劇場の浅草フランス座で、エレベーターボーイとして働くたけしは、フランス座でコントをしていた深見師匠(大泉洋)の芸にほれ込み、芸人を目指していた。深見から「何か芸を磨け」とアドバイスを受け、タップダンスを教わる。

フランス座の観客は年々減少中で、経営状況は厳しくなっていたが、たけしの才能を感じ取った深見は、たけしに「全てを笑いに変えろ」と教え続けた。

どんどん笑いややコントが上達していくたけし。

ある日、きよしがたけしに一緒に漫才をしないかと誘ってきた、フランス座で芸人として成功することの限界を感じていたたけしはフランス座を辞めて漫才師を目指すことを決意する。

 

再び、1974年。このままではだめだと思ったたけしは、新しい漫才をしたいと、コンビ名をツービートと改名し、きよしと再始動。みるみるうちに人気が出る。

 

一方、フランス座の観客はどんどん減っていき芸人では食べていけなくなった深見は工場で働くようになっていた。

観客席が客で埋まっている1972年

 

客がほとんどいなくなった1970年代後半

 

 

 

 

現在のたけしがテレビの本番前の楽屋で受けとった花束を持って、深みの墓参りに行き、古巣のフランス座を訪れる。合間に1974年の売れない漫才師時代のたけし、さらにさかのぼって2年前のフランス座での師匠こと深見千三郎との出会いと別れ、その後のツービートの大成功と深見の没落をはさんで描くという多重構造の脚本だが時系列の混乱はあまりない。

 

 

この作品のもっとも秀逸なオリジナリティは、修行時代のたけしが心を通わせる女性として歌手を夢見て挫折してストリッパーををしている千春(門脇麦)という踊子を登場させたことだ。

 

舞台に立てずにひたすらタップの練習に励むたけしと歌手になる夢をあきらめてストリッパーとして踊る千春が、フランス座の屋上で話している時に千春が「タケはいいな、これから始まるんだもんね。」というセリフがある。

フランス座の舞台で歌ってみてもストリップ目当ての客に全く相手にされず夢破れたことが決定的になる千春と、逆に代役で舞台に立つチャンスを掴み、のびていくたけしの“その後”を暗示していてこのセリフは非常に印象的だった。

「タケはいいな」

 

お互いの夢の実現を応援しあう二人

 

 

たけしと別れる時も成功しても「(セックスを)やらせないよ」と言った後に涙声で「ほら、早くいく。はいはい、さっさと行く」とたけしの背中を押し出す門脇麦の演技が絶品。

 

寄席の観客席でたけしの漫才を泣き笑いしながら聞いている時の表情も上手い。

 

フランス座以降にこの二人の接点がないが、その後、千春が普通の主婦になって影ながらたけしを応援し、その成功を喜んでいる姿にも心が温まる。

 

 

たけしが初めて代役でコントに出るチャンスを掴んだ時に、師匠の深見が言う「笑われるんじゃねえぞ。わらわせるんだよ。」は名セリフ。

 

そして、その後、たけしはフランス座を辞めて漫才に転向して成功していくが、ここから物語の中心は落ちぶれていく師匠の深見に移っていく。

フランス座は客が入らなくなり工場で働くようになった深見

 

 

上り調子のたけしと落ちぶれた深見が久々に再開したときの飲み屋:捕鯨船(実在する)での捧腹絶倒の掛け合いと赤いハイヒールの泣かせるエピソード。

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りのタクシーの別れの場面で「それ余ったらよ、ちゃんと釣り返しに来いよ」というセリフでお互いに再開を約束するが、その日の夜にタバコの不始末が原因の火事で深見は死んでしまう。

 

 

最後に金も名誉も得た現在のたけしがフランス座に入っていくと昔の仲間が、迎えてくれる長回しのエンディングも秀逸。

 

 

当時のフランス座の闇の部分(ヒロポン中毒の蔓延や自殺未遂したたけしの最初の相方など)は恐らく意識的に省かれており、ノスタルジックで心地よい話だけで構成したのも成功の要因だろう。

 

 

深見千三郎役の大泉洋は年齢的には若すぎる感じだが、ほとんどテレビに出なかったため、その人柄や芸風は謎の部分が多い深見が、こんな感じだったんだろうなと観客に思わせるのは大泉洋の演技力だろう。

 

たけしがフランス座を去る時の大泉のなんとも言えない表情もよい。

 

 

 

柳楽優弥は時としてたけしの癖の演技が物真似風になりすぎだが、失敗したらキャリアのリスクになりかねない難役を見事に勤めている。(ただし現在のたけしのメイクは微妙)

 

このメイクは微妙

 

 

脇役もそれぞれいい仕事をしている。

きよし役のナイツの土屋伸之は地味だけど暖かく柔らかい何とも言えないいい雰囲気で、漫才シーンが上手いのは当たり前だが、芝居も上手く、この人は役者としての才能もあるのではないか。この作品後に役者としてのオファーが殺到したはずだが、安易に恋愛ドラマなどに出ない所が良い。

 

 

兄弟子の高山役の古澤裕介の芝居もうまかった。たけしが深見の指がない左手をネタにした時の驚きの表情や、コント前のメイクで「化粧を落とせ!」と叱られているたけしの横でそっとメイクを落とす姿、たけしがフランス座を去る時のリアクションなども良かった。

深見の左手をネタにし始めたたけしを見る(やばい!)

 

たけしがヘンな化粧で深見に怒られている横でそっとメイクを落とす

 

「さんざん世話になった師匠に対してそれはないだろう」

 

 

決して好みの女優ではなかった鈴木保奈美を初めていいと思った。笑顔が魅力的。「あんたの普段のどこを好きになんのさ」深見との夫婦関係も微笑ましい。

 

 

 

 

唯一の欠点はつまみ枝豆の登場で、実在のたけしの弟子の出演はしらけてしまう。たけしと深見の師弟関係は魅力的だが、たけしの金と名声に群がった大量の弟子たち(たけし軍団)は、三流芸人以上の存在にならず、将来、お笑いの世界を引っ張っていくような大物になりそうな芸人は一人もいない。

現実のたけしの弟子は出てほしくなかった

 

 

 

深見の弟子はツービーチ、コント55号、などその後のお笑い界のトップを走っていく芸人が目白押しだったのに・・・。

たけしの不幸は漫才のみならず様々なエンターテイメントの分野でそn才能を開花させ、巨万の富を得たが。自分の弟子には若き有能な才能が終結することもなく、映画製作のパートナーとも別れて愛人との事務所を構えて晩年に近い今、“裸の王様”状態になってしまったことだろう。

 

 

今や大人気のクリーピーナッツだが、この人たちのゲスト出演も不要だと思う。

 

 

 

浅草の街並みやフランス座の再現もCGで少しきれいすぎる感はあるが見事でした。

 

 

 

 

 

この名作がNETFLIXでしか見れないのが残念。

NETFLIX制作の映画「ROMA」のように映像ソフトを発売して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラー122分

 

【鑑賞方法】配信 NETFLIX

【制作会社】NETFLIX

 

【監督】劇団ひとり

【脚本】劇団ひとり

【原作】ビートたけし

【撮影】高木風太

【音楽】大間々昴

【主題歌】桑田佳祐「Soul コブラツイスト~魂の悶絶」

【編集】穂垣順之助

【美術】磯田典宏

【ビートたけし所作指導・たけしの声】松村邦弘

 

 

【出演】

大泉洋:深見千三郎

柳楽優弥:ビートたけし

土屋伸之:ビートきよし

門脇麦:千春

古澤裕介:高見(先輩芸人)

中島歩:井上(コント作家志望の先輩)

大島蓉子:塚原(受付のおばちゃん)

尾上寛之:東八郎

風間杜夫:田山淳

鈴木保奈美:麻里(深見の妻)