ジャッキー・チェン製作・監督・脚本・主演の『ライジング・ドラゴン』。2012年作品。
19世紀に外国の軍隊によって円明園から12体のブロンズ像「十二生肖」がうばわれ、世界じゅうに散り散りになっていた。マックス・プロフィット社にやとわれたトレジャーハンターのJC(ジャッキー・チェン)は、彼のチームとともに十二生肖の捜索にむかう。
『サンダーアーム/龍兄虎弟』『プロジェクト・イーグル』の続篇。
おなじみ石丸博也による吹替版にもそそられたけど、なにはともあれ劇場でジャッキー本人の肉声を聞こうと思って、字幕版を鑑賞。
「ジャッキー・チェン最後のアクション超大作」というふれこみの本作品。
僕がジャッキーの映画を観るのは2010年のリメイク版『ベスト・キッド』以来。
でもあの映画では彼はアクションをほとんど見せてはいないので(主演はジェイデン・スミスだし)、ジャッキー主演作品としては2007年の『ラッシュアワー3』以来かな。
僕がはじめて劇場で観たジャッキーの映画は『サイクロンZ』。
すべての出演作品を観たわけではないけれど、80年代からTV放映などで彼の作品に親しんできました。
熱狂的なファンではないものの、同世代の人たちとおなじぐらいにジャッキー映画にふれてきました。
そんな僕が観た感想。
…非常に困った。
ぜんぜん面白くない(>_<)
その理由についてはこれから述べていきますが、人によっては不快な気分になるかもしれないのでくれぐれもご注意ください。
以下、ネタバレありです。
なぜ面白くないのかといったら、まずジャッキーがいつまで経っても闘わないのだ。
映画がはじまって1時間ぐらい経っても、冒頭の坂をすべってくとことパラグライダーで犬と追っかけっこしてるだけ。
そのあいだは彼のチームの若手たちがかわりに敵と闘ったりしている。
もしかしたら、ジャッキーはもう身体動かないのかな、とさえ思った。
さらにブツ切れの編集。
すべてが妙にあわただしく、どんどん舞台が移っていっては登場人物たちがギャーギャーわめいてたりする。
そしてやっぱりジャッキーは闘わない。
この映画は全長版と国際版があって、もとは124分、日本で公開されてる国際版は113分なんだそうだ。
でもきっとカットされた部分ってのはアクションじゃなくて、登場人物たちのあのどうでもいいやりとりなんだろう。
そうじゃないなら、124分ぐらいぜんぶ上映すればいい。
足技がスゴい中国人のお姉さんが旦那とうまくいってないとか、ジャッキーがかみさんといつもケータイで言い争ってるとかいうのが途中で唐突に出てくるんだけど、ほんとにどーでもいい。
ほとんどキャラの判別もつかない若者たちもいらない。
俺はジャッキーのアクション映画を観にきたんであって、なんかよくわからん連中がずっとしゃべってる映画なんかに興味ないんだよ!!
韓国人俳優のクォン・サンウが出てることがわかってなんとなくヤな予感がしたんだけど、最後に「日本にうばわれていた古文書が無事、韓国に返還されました」というニュースが流れる。
どこの古文書が日本にうばわれたって?
この映画のストーリーに日本はなんの関係もないのに、海賊たちにわざわざヘンな日本語しゃべらせるとか(演じてるのは日中ハーフの俳優)、おまえらは泥棒だから盗んだものをかえせ、ってことですかい。
僕は“パイレーツなんちゃら”のパクリ(ハンス・ジマーは訴えていいレヴェル)を臆面もなくやってるような連中に、自分の故郷を泥棒よばわりされたくないよ。
ありもしないことを次々と捏造して、世界じゅうのものを盗みまくってるのはどっちなんだ。
僕はたまに韓国映画を観るし韓国の俳優さんたちだって「演技すげぇな」と思ったりしてるけど、しばしば彼らがカマす愛国心だかなんだか知らないけれど、映画を自分たちの主義主張に利用して他国(とゆーか日本)を執拗におとしめる行為がはらわた煮えくりかえるぐらいむかつくのだ。
この『ライジング・ドラゴン』は香港映画だけど、クォン・サンウたち韓国人俳優の出演と海賊たちが日本語しゃべることはあきらかに無関係ではない。
もちろん監督でみずからこの映画の脚本も手がけたジャッキーは、それをわかっててやっている。
人から金巻き上げておいて笑顔の影で客の悪口いってる。これが卑怯者の所業じゃなくてなんなのだろう。
日本やフランスが嫌いなんだったら、そんな相手と商売なんかしなければいい。
そういうのを“二枚舌野郎”というのだ。
映画というメディアは昔からプロパガンダに利用されてきた。
いまじゃその役割はネットとかTVに取って代わられてるけど、それでも使い方によっては政治的、宗教的に利用することだって可能だ。
今年アカデミー作品賞を獲った『アルゴ』だって、人によっては許しがたいプロパガンダ映画かもしれない。
でも『アルゴ』はまず映画として“面白かった”から評価されたんだよ。
この『ライジング・ドラゴン』は、なにより娯楽映画として決定的につまらない。
映画を観終わってから、ジャッキー本人が監督と脚本を担当したと知って目をうたがった。
あの『プロジェクトA』や『ポリス・ストーリー』を撮ったジャッキーが!?と。
『プロジェクトA』(1983) 出演:サモ・ハン・キンポー ユン・ピョウ 日本公開1984年
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985) 出演:マギー・チャン トン・ピョウ
僕はてっきりジャッキーは今回は出演に徹してて、これは才能のカケラもないほかの監督が撮ったもんだとばかり思っていたので。
ジャングルのくだりは「日本うんぬん」をおいといても不要に冗長で、あれでみんなが喜ぶと思ってんなら観客をナメすぎだろう。
いつものように女の子たちがジャッキーの足をひっぱる、という展開も80年代から進歩してないどころかスラップスティック・コメディとしてはむしろ退化している。
クスリとも笑えないんだもの。
円明園が諸外国によって破壊され、略奪行為があったことは歴史的事実だ。
中国政府が世界じゅうに散逸した宝物をとりもどそうとしていることも。
ジャッキー・チェンはそのことに触発されてこの映画のシナリオを書いたんだろうし、かつてブルース・リーが中国人としての誇りのために映画のなかで西洋人や日本人たちと闘ったように、ジャッキーには彼なりに思うところがあるのかもしれない(でも肝腎なのはリーの『ドラゴン怒りの鉄拳』は映画として面白い、ってこと)。
尖閣諸島は中国のもの、と主張するのもそれは彼の自由だ。
でもこの『ライジング・ドラゴン』でうばわれたとされている十二支像は、じっさいには略奪されてはいない。
つまりこの物語自体が根本のところでフィクションなんである。
「フィクション」によって作り手のメッセージを観客に伝えるのは映画にかぎらず多くのメディアがおこなっていることで、それ自体は良いも悪いもない。
映画とはすべて「作り物」なのだから。“ドキュメンタリー”と称されているものだって例外ではない。
だけど、それならば観客をおおいにだますだけの「物語」の力がなければ、それは単なるヘタクソなプロパガンダ映画でしかない。
北朝鮮のプロパガンダが僕にはすべて安っぽい厨二病患者の便所の落書きみたいな代物にみえるように、「俺がいってることは正しいんだから、おまえらも信じてしたがえ」と命令されたって、まともな人間ならば相手にしないだろう。
この映画はまさにそれなのだ。
劇中でさんざんなこといわれてるフランスの人たちは、この映画観てどう思うんだろうな。
出演したフランス人俳優たちは、はたしてこの映画に込められた意図を理解していたんだろうか。
字幕にもなってないし吹き替えでも訳されてないようだけど、中国娘ココによってフランス人のヒロインには中国語でずいぶんとひどい言葉が吐かれているようだ。
なんで映画館で金払って、自分たちのことを泥棒よばわりする奴の説教を聞かされなきゃならないんだよ。
自分の曽曽祖父や曽祖父は祖国のために正しいことをしたのだ、と信じていたフランス人の伯爵家の娘は、最後にココに謝罪して祖先が略奪した宝物をかえす。
めでたしめでたし。
って、アホか!!
もちろん、西欧列強諸国(日本含む)がかつて中国でおこなった侵略行為を正当化するつもりはないですよ。
ただね、さっきもいったように人を盗人よばわりして「おまえのものはもともとぜんぶ俺様のものなんだからかえせ」と気が狂ったジャイアンみたいなこといってる人間たちの主張にどれほどの説得力があるというのか。
なんだよ「良心の呵責」って。
なんでいま良心の呵責を感じなきゃいけないんだ、俺らが。
僕はこのじつに胸くそ悪いココという中国人ヒロインに対するJCのどっちつかずの態度に、途中まではむしろ頼もしさを感じていたんだよね。
ジャッキー・チェンの映画にナショナリズムやイデオロギーの押しつけは似合わない。
そんなものはねのけて軽々と国境を越えるのがジャッキー・チェンの映画なんじゃないか。
彼の先輩、ブルース・リーの映画がそうだったように。
だからJCは、「昔のことじゃないか」といってお茶を濁そうとする。
彼にとっては「お宝」や「金」が重要なんであって、国と国とのあらそいなどには興味がない。
僕は彼をそういうキャラだと思っていた。
しかし、同業者でライヴァルのハゲタカ(アラー・サフィ)が、戦争によって多くの人々が死ぬことに「知ったことか」と吐き捨てたことに対して「面汚しめ」と怒りをぶつける。
JCは金のためなら同胞が死んでも平気な守銭奴じゃない。愛国心もある。
そんなわけで、「うばった宝物を中国にかえせ」運動をしていて悪者に囚われた若者たちを助け、ジャッキーは仲間とともに闘う。
ついにここでジャッキーのバトルシーン。
…ここまで長すぎるよっ!!!
でも美術品の贋作工場での闘いはちょっと『サイクロンZ』をおもわせるところもあって、なんだか嬉しくなってきた。
お姉さん同士の闘いもかっこよかったし。
ここだけはよかった。あぁ、いつものジャッキーの映画だ、って。
もう最初や中盤のあたりはいらないから、ここから映画をはじめてほしかった。
JCが祖国の宝物を守るために空からダイヴして火山口に墜ちていくクライマックスやハゲタカとの邂逅も、僕はすなおに感動したんです。
たかがブロンズ像。
でもそれには祖国の人々の誇りや意地がこもっている。
だからこそJCはハゲタカの制止をふりきって命を賭けて飛んだのだろう。
そこにはジャッキーの映画に対する想いもかさなっていたはず。
その気持ちはさんざんこの映画をののしってきた僕にも伝わりました。
だからこそ、僕は「最後のアクション超大作」と銘打ったこの映画を、けっきょくは「僕たちは被害者だけど、加害者の君たちが反省して僕たちの持ち物をかえしたら許してあげるしすべてがまるく収まるんだよ」というつまらないプロパガンダ映画におとしめたジャッキーに対して失望を禁じえない。
くりかえすけど、十二支像は外国人によって“うばわれた”のではない。
おなじ中国人の手によって売られたのだ。
この映画はフィクションなんだから、外国人に祖国からうばわれたお宝を主人公がとりもどす話をでっち上げようがどうしようが、それは作り手の勝手だ。
しかし、フィクションを使って人をうそつきや泥棒よばわりするような輩を僕は軽蔑する。
ほんとうに不愉快な映画でした。
何度もいいますが、僕は少年時代からジャッキー・チェンの映画を観て育ちました。
彼の映画が好きだった。いまでも好きだ。
でもこの映画は大嫌い。
今年のワーストワン確定です。
ジャッキーさん、これまで愉しませてくれてほんとうにありがとう。
僕はいまでもあなたに感謝しているし、これからだって応援している。
でもこの映画はヒドかったです。
アクション映画をやめたというあなたが出演する映画をこれからも僕が観るかどうかは、正直わからない。
なにか、ひとつの時代が終わったような気がしています。
さよなら、ジャッキー。
ジャッキー・チェンという“スター”は確実に映画史に残る存在だし、そうでなくても世界じゅうの人々の記憶に残るだろう。
それは間違いない。
ジャッキー・チェンが作った映画や、彼の存在自体が「宝」だったのだ。
だからどうか「世界の宝」である自分自身をこれ以上汚さないでください、ジャッキー。
心からお願いします。
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