本広克行監督、百田夏菜子有安杏果玉井詩織佐々木彩夏高城れに黒木華ムロツヨシ志賀廣太郎天龍源一郎清水ミチコ出演の『幕が上がる』。

原作は平田オリザ同名小説



静岡県の富士ヶ丘高校。地区大会止まりのまま3年生が引退した演劇部で、さおり(百田夏菜子)は新しい部長に選ばれる。新入生オリエンテーションでシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」をやるものの閑散とした客席に気落ちしたさおりは演劇部を辞めようとさえ思うが、新任の美術教師・吉岡先生(黒木華)のアドヴァイスで部員たちの実生活での家族との関係を取り入れて芝居を作ったところ、かなりの手応えを得る。次第に彼女や部員たちに県大会、ブロック大会、そして全国大会に出たい、という想いが募ってくる。


リーダー・百田夏菜子を筆頭に“ももいろクローバーZ”のメンバーが出演する青春映画。

新部長役の百田夏菜子が主演で、あとの4人が同じ演劇部の部員として脇を固める。



 


といっても今回この映画を観ようと思ったのは僕がモノノフ(ももクロの熱心なファンのこと。Wikipediaで学習)だから…では全然なくて、これが「高校演劇」を描いた物語ということだったから。

実は僕は高校時代に演劇部に所属してまして、でも高校演劇の「大会」をメインに扱った映画ってこれまで観たことがなかったので、そういう題材になんだかピンときたのです。

高校演劇といえば「銀河鉄道の夜」ってのも、あるある~ってw

まぁ、演劇部に入部したきっかけは演劇が好きだからとか将来そちらの方向に進みたかったからとかではなくて、中学の時から憧れてた女子の先輩がそこにいたからっていう、純情かつチェリー臭溢れる理由からなんですが(同じ理由でその高校に入学した。いやぁ、若いってイイですね)。

僕が3年の初めに引退した直後に他の子たちが県大会に行って、地味にヘコみましたけど(+_+)

だから特に演劇にのめりこんでいたのではなくて、どこか引いた目で「高校演劇」というものに接していた。

そういうこともあって熱心にプロの劇団の芝居を観ていたわけでもなく、昼でも夜でも「おはようございます」と挨拶する業界の習慣の受け売りみたいなのにも当時からずっと違和感があった。

レジュメ」とか意味もわからず使ってたし。

そういう、もともと別に芝居に興味があるわけではなかったところなんかは、この『幕が上がる』の主人公さおりに似てるかもしれない。

でも彼女はあっという間に当時の僕を追い抜いていくんだけど。

やっぱり何かに力一杯打ち込める人は、何やったってその分野で頑張れるのだ。逆も然り。

そーいえば、僕が1年生だった時の部長も「さお先輩」だったなぁ。

「演劇部」って文化会と体育会的な部分、その両方を併せ持っているところが他のクラブとちょっと違っててユニークだったんですよね。

緞帳が上がる前に、舞台でみんなで輪になって小さく掛け声出したり、終わって抱き合って泣いたり。

夏はクソ暑く冬はクソ寒かった体育館や作業衣(つなぎ)と衣裳類でゴッタ返しててカビ臭い部室、ミーティングや作業場に使ってた視聴覚室や家庭科室、文化祭公演のために夜遅くまで大道具作りや芝居の稽古してて、座ったまま居眠りしてる僕に先輩が毛布をかけてくれたり…ひたすら懐かしい想い出や恥ずかしすぎて思いだすたびに死にそうになる記憶などが一杯…って、だいぶ忘れてますけど。

この『幕が上がる』について語られる時にしばしばタイトルが挙がる中原俊監督の『櫻の園』も当時ヴィデオで観ました。あれは女子校の話で僕は共学だったんで環境はだいぶ違うけど、でもなんかちょっと箱庭めいた世界での少女たちの物語とそこで描かれた「イメージの中の乙女たちの園=演劇部」に惹かれて、結構好きでした(って、内容ほとんど覚えていませんが)。

『櫻の園』(1990) 出演:中島ひろ子 つみきみほ 白島靖代



そんなわけで一応演劇部員だったので平田オリザさんの名前ももちろん知ってたけど、ただ以前TVで平田さんの劇団のお芝居を観て、出演者たちの終始テンションの低い演技と劇的なことが一切起こらないストーリーにビタ一文面白さを感じられず、「役者にいかにもな演劇的な演技をさせない、これは映画でいうとロベール・ブレッソンみたいなもんか」などと一人ごちつつも、あまりに退屈だったんで途中で観るのやめてしまったのでした。

それでもたまにTVや文章で平田さんのドキュメンタリーやインタヴューなどを目にすると見入っちゃったりして、ちょうど野田秀樹と並んで「俺にはよくわからないけどスゴい人なんだろう、きっと」という印象を勝手に持っています。

そんな人が書いた青春小説というのはどういうものなんだろう、と興味をそそられたのと、あとこの映画の脚本家が『桐島、部活やめるってよ』の人だというので、これは期待できるのでは?と。

そういえば、脚本を書いた喜安浩平さんって『デメキング』で老け顔の中学生演じてた人なんだなw

そんなわけで、好きなタイプの映画かも、とは思っていたのです。

ただ一つだけ大きな懸念材料があって、それは監督が本広克行さんだったこと。

いや、同じ監督の『サマータイムマシン・ブルース』は結構好きだったから(今回も冒頭でちょっとお遊びしてたけど)すべての作品が受けつけなかったわけじゃないんですが、以前『少林少女』と『踊る大捜査線3』をそれぞれ劇場公開時に観てからというもの、僕は「今後は本広監督の映画は絶対に観ない」と決めてたんですよね(理由はご想像にお任せします)。

あの2本を観て「この監督は観客を完全にナメてる」と思ったんで。

前にどっかで書いたかもしれないけど、僕は日本には“3大要注意映画監督”がいて、その中の一人が本広監督という認識を持っていたんです(あとの二人は『SPACE BATTLEナントカ』の人と『20世紀カントカ』の人)。

だから正直な話、せっかく興味持った映画を撮ったのが本広監督だと知って観るのかなり躊躇したんですが(ご本人並びにファンのかたがた、ゴメンナサイ。実際にはほとんど原作者からの指名みたいな形だったようです)、ちまたで特にアイドル映画に一家言あるような人たちが絶賛してたり、ももクロのファン以外にも青春物として評判がいいようなので、これはもう『桐島』の時みたいに観ずにあとで後悔するよりも当たって砕けろ、と。

本広監督がアイドル映画の大先輩として大林宣彦監督に接触した、というエピソードも妙に本気度を感じさせたし(なんかさっきから上から目線でほんとにゴメンナサイ)。

アイドルの分野は疎いんでまったくわかりませんが、僕は大林監督の『青春デンデケデケデケ』が好きで、あれはバンド活動の話だけど似たように3年間という限られた時間の中で高校生たちが全力で自分たちがやりたいことに取り組む、というとこなんかも共通点がありそうだなぁ、って。

あと、主人公のモノローグ(独白)で映画が進行していくのも似ている。

『幕が上がる』の方は、原作がそうだからってのもあるけど、ちょっとさおりの独白が饒舌すぎるきらいもあって、そこは言葉で全部説明せずに役者の「芝居」で見せてほしいなぁ、と思うところもなくはなかった。

でも、結論からいうと僕は肯定派です。

前置きが長くなりましたが、それでは以下、ストーリーのネタバレも含みますのでご注意ください。

それと何度もしつこいですが、僕はほんとにアイドルの方面は門外漢なので、出演している女の子たちはアイドル歌手じゃなくてあくまでも若手の“女優”として見ています。

ももクロのメンバーも百田さん以外知らなくて、何人かいる部員役の誰が“ももクロ”で誰がそうじゃないのかも判別できないまま映画を観始めました。

なのでファンのかたからしたら常識的なことを理解していないままいろいろ書くかもしれませんが、そのあたりはご容赦ください。これはこの映画の“主役たち”のことをもともと何も知らない人間が書いた感想です。逆にいえば、こちらにとって贔屓もいなければアンチもいないまっさらな状態での鑑賞だったということ。



最初に、本広監督、どうも失礼なことばかり言って申し訳ありませんでした。おみそれいたしました(『少林少女』と『踊る3』の評価を撤回する気はありませんが…)。

この映画、僕は好きです。

パンフレット(税込1080円)も買っちゃった。




最初に書いたように個人的な想い出がフラッシュバックしたから、というのもあるけれど、でもアイドルや演劇に興味がある人限定ではなくて、これは至極真っ当な青春映画じゃないだろうか。

青春映画の秀作として今後も記憶されていく作品だと思う。

「アイドル映画」っていうジャンル自体僕はよく知らないんですが、たとえばこの『幕が上がる』は映画として綻びだらけでもとりあえずお目当ての子を眺めていられればいい、彼女たちが頑張ってる姿が観られればオッケーな、出演者たちの演技のポンコツぶりを寛容な心で愛でるタイプの作品、ではないんですよね。

原作者も太鼓判を押したぐらい劇映画としてしっかり作られていて出演者たちも好演、クライマックスでは思わず胸が熱くなる。

ハッキリいってかつて観た80~90年代の映画にはこの作品の出演者のアイドルたちとは比べ物にならないぐらい大根な女の子たちは何人もいたから、ことさら“ももクロ”のメンバーたちの演技力にケチつける気はないです。もっとはるかに困った仕上がりを想像していたので。

主演の百田夏菜子はアイドル云々以前にハッキリとその魅力が伝わるし、地方の等身大の女子高生を自然体で演じている。いい意味でアイドルアイドルしてない。

演出担当になるさおりが母親(清水ミチコ)に宮本亜門蜷川幸雄に例えられて「なんでおじさんばっかなの」とツッコむとことはツボでしたw ああいう自然なやりとりとかちょっとしたツッコミのタイミングなんか巧いなぁ、って。

他のメンバー、演劇の強豪校からの転校生・中西悦子役の有安杏果、さおりと中西さんに嫉妬する親友ユッコ役の玉井詩織、後輩でやがてはさおりのあとを継ぐ明美ちゃん役の佐々木彩夏、賑やかなムードメイカーである“がるる”役の高城れにと、誰もが適材適所で初々しくて眩しくて、確かに『櫻の園』をはじめかつて観た何本もの青春映画を連想させた。

ももクロ以外の女の子たちもみんなよかったなぁ。眼鏡っ娘のあの子(吉岡里帆)とか、関西弁が達者だったあの子(伊藤沙莉)とか。

追記:さらに部員の一人を2016年下半期のNHKの朝ドラ「べっぴんさん」のヒロイン役の芳根京子が演じていたのだけれど、同作には百田夏菜子も出演。ももクロ主演の『幕が上がる』で芳根京子は他の若手女優たちと同様に劇中では目立たなかったが、「べっぴんさん」では晴れて主役なわけで、百田さんはそんな芳根さんを脇で支える役回り。映画やTVドラマって作品によって互いのポジションがこれほど変わってしまうってこと。ほんとに面白いな。



「走れ!-Z ver.-」




劇中で少女たちが高校演劇の全国大会を目指すように、演じる彼女たちは「演技」というもので真剣勝負している。

 


まず、わざとらしくない。出演者たちの演技を観ていて恥ずかしくならない。それどころかほんとの現役高校生に見えたもの。僕がこの映画に入り込めた大きな要因でした。

演劇部に実際にいそうなんだよね。ってゆーか、いたよ、ああいう子たち。

ガルルって唸るから“がるる”とか、昭和テイストなニックネームの付け方なんかもw

そして、そういうリアルさの追求は原作者で劇作家・演出家の平田オリザさんのメソッドでもあるから、本広監督はそれに忠実に映画化したということ。

この映画で本広監督は若い女優たちからヴィヴィッドな演技を引き出すことに成功していて、つまりそういう演出力がある人、ということですね。平田さんのワークショップの成果もかなり功を奏したんでしょうけど。

この演劇部員役の女優さんたちも、そして彼女たちが劇中でお芝居をする時の「演劇部員の演技」も、どちらにも僕は拙さを感じなかった。

これは劇中でのお芝居の「演技」についてですが、さおりたち富士ヶ丘高校演劇部は「弱小演劇部」ということになってるけど(部員数は確かに廃部ギリギリなのかもしれないが)、リアルな元ダメ演劇部員から言わせてもらうと、あんなの全然「弱小」じゃないっスよσ(^_^;)

実際にやってみたらわかるけど、たとえば教室のあんな至近距離のお客さんの目の前で全員が堂々と演技できるのは、彼女たち演劇部員がそれだけでも高校生としては上級者の証拠だ。

だってこれは全国大会を目指す女の子たちの物語なんだから、あの時点で彼女たちはある程度の実力はあるんだよね。その辺が最初から微妙な子たちなら、吉岡先生の指導だけであんな短期間に演技力が急激にアップするとはちょっと考えられないんで(実際演技がほとんど未経験だった“ももクロ”のメンバーは、短期間であそこまで上達したわけだけど)。

もっとね、もっと弱小の演劇部はあるんですよ一杯。

地区大会であんなにミスが目立ってた富士ヶ丘高校にさえ負けた高校とかさ…^_^;

それにほんとに弱小だったら生徒会から運営費をあまり回してもらえないし、部員数が少なければ部費も集まらないからその部は貧乏なのです。

富士ヶ丘高校演劇部はまだ地区大会すら勝ち上がる前に合宿のために部員全員で静岡から東京に行けちゃったりずいぶんと恵まれた環境だなぁ、なんて思ってしまうんですが。わりとゆとりのある家庭の子が多いんだろうか。ってゆーか、それ以前に全国大会のボランティア・スタッフとして静岡から茨城まで女子高生2人きりで行くとか、ありえなくねぇか?(;^_^A 結構距離ありますが。

※原作の舞台は北関東(「私たちの県には海がない」とあるのと、高崎駅を経由して東京に行ったり県南の「F市」というのは藤岡市のことではないかと思われるので、おそらく群馬)で、さおりと中西さんがボランティアで参加した前年の全国大会の決勝があったのは甲府(山梨県)。

映画では物語の舞台を静岡に変えてあるので、地理的に若干無理が生じたのかも。


ほんとは道中のバスや電車の中とか、そういう合間合間にこそ青春の想い出エピソードは詰まってたりするんだけど、その辺は原作でも映画でも省略されてる(映画版には、さおりと中西さんが夜空を見上げながら心を通じ合わせる、とてもいいシーンがありますが)。

上映時間の都合もあるだろうから、わりと慌ただしいな、と。

かなりトントン拍子に進んでいくんですよね。

でもこれはけっして恵まれた形で芸能活動を始めたわけではない(らしい)“ももクロ”の少女たちがトップアイドルに登りつめるまでの過程を見てきたファンが、劇中で彼女たちが演じるキャラクターたちにそれを重ねられるようにもなっているのだろうし、“女優”としてはほとんど実力が未知数の彼女たちがそれに挑戦する、その試み自体をハラハラしながら見守ることもできるという、さまざまな位相のリアリティが交錯している、なかなかスリリングな映画であることは確か。

しばしば最近の日本映画で作り手が内輪ウケでやりがちな(そして観客の怒りを買う)エンドクレジットで映しだされる出演者たちがカチンコを持っておどける撮影現場での風景も、この映画では効果的でした。

鶴瓶さんやあの“黒い人”の登場は心底いらなかったけど(あのお二人がももクロのメンバーといろいろかかわりのある人たちだということはあとで知ったけど、でもそれはやっぱり内輪ウケなわけで、映画だけ観た人にはわからない)。

あと、映画観ていて「あっ」と思ったのは、わずかな出演時間ながら吉岡先生がクライマックス近くで挨拶する演劇界のヴェテラン女優を、80年代に小劇場演劇界のアイドルだった美加理が演じていたこと。

僕は美加理さんの生のお芝居を観たことはないけれど、昔、彼女が出演した演劇舎蟷螂による芝居「聖ミカエラ学園漂流記」の作者、高取英さんの戯曲集を読んだり、美加理さんが出演していた流山児祥監督の映画『血風ロック』をヴィデオで観たことがあったので、なんだか懐かしかった。

演劇舎蟷螂は今はもうないけれど、月蝕歌劇団は現在も10代の現役アイドルたちが出演している劇団で、そういう意味では今回のももクロとも通じるところがある。

このあたりもしっかり演劇界の文脈を踏まえていて好ましかったですね。


ところで、僕は映画の最初の頃から「勝つ」ことにこだわってるさおりに当初違和感を覚えたんですよね。だって「演劇」って勝ち負けなのかな?って。

もちろん映画にも演劇にも賞レースというのはあるけれど、それを目標に芝居をする、って何か本末転倒ではないだろうか。

まぁ、スポ根物の一種として観ればいいのかなぁ、と思っていたんだけど。

でも次第に、それがさおりが書いた劇中劇「銀河鉄道の夜」で“宇宙の果て”に想いを馳せるカンパネルラやジョヴァンニの姿と重なって、将来のことはわからない、なんの保証もない、でもそんな未知の世界、宇宙の果てを目指してやり抜きたい、というさおりの気持ちがなんだかスッと抵抗なく入ってきたのです。

世の中には自分などよりももっともっとスゴい人たちがいて、とてもかなわないようなスゴいモノを創造し続けている。

圧倒されて落ち込んだりもするけれど、でもみんなで力を合わせて挑戦したい。

演劇を始めた理由はたいしてない。でもやめる理由はもっとない。

コンクールそのものは非情で、1年間頑張って準備してきたものがわずか1時間の実演によって判定が下される。

予選に通過できなかったらそれまでで、せっかく作り上げてきたものはお客さんたちの前で発表することすらできない。

しかも、仮にめでたく全国大会への出場を果たしても決勝は1年後なので3年生たちは出場できないという、「高校演劇」特有の過酷で理不尽極まりないシステム。

「そこ」にいられるのは本当に短い間なのだ。

それは膨張し続ける宇宙の果て目指して飛び続け、やがて力尽きて消えていくような行為なのかもしれない。

実は勝敗は重要ではない。

だから映画はあだち充の「タッチ」の最終話のように決着はわからないまま幕を閉じる。

彼女たちは果たして全国大会に行けたのだろうか。それはまた別の話。実は映画で描かれているのは、ようやく県大会に出場するところまで。

これからもまだ彼女たちの物語は続くのだ。


中盤でいかにもな「おちゃらけ場面」(国語担当のおじいちゃん先生役の志賀廣太郎の“壁ドン”とかw)もあるんだけど、しつこ過ぎずちょうどいいバランスで組み込んでるし、ももクロの歌の挿入もファンではない観客にも抵抗がないぐらいにとどめてある。

すべてにおいて程がいいんですね。

…私は一体誰を怖れて必死にこの映画や“ももクロ”をフォローしまくってるんでしょうか^_^;

いやいや、観る前に彼女たちの演技に対してわりと辛口の感想も読んだのでどんなんだろう、と若干不安でもあったんだけど、なかなかどうして皆さん演技が達者じゃないですか。

ってゆーか、明らかにひと昔、ふた昔前のアイドルよりも彼女たちは器用だと思う。

原作者の平田オリザさんのワークショップに通って二ヵ月間みっちり映画に集中していたということだから、撮影が終了するまでの間にきっと彼女たち一人ひとりにほんとに目覚しい進歩があったんでしょうね。

 


原作には登場する男子部員が軒並みオミットされてるようで(舞台となる高校は共学だが、この映画には主要登場人物に男子生徒が一人もいない)、そこは原作のファンは複雑なところでしょうが、2時間の映画に収めるためには「何に絞るか」極力吟味した上での選択でしょう。

『桐島』も絶賛されていた中森明夫さんがラジオでこの映画について「女性客狙いのイケメン男子」が一切出てこないことを評価されてましたが、僕も同感。

アイドル映画としては、余分なイケメン要素に拒否感を持つ男性ファンのニーズに応えた部分もあるんだろうけど。見事なまでに男子成分がカットされてて、女の子たちは恋バナの一つもしない。

まぁ、ほんとは演劇一筋の女子高生にだっていろいろ雑念は入り込むでしょうが、元「学生演劇の女王」だった吉岡先生を含めて女の子たちだけの物語に限ったことで、すごく純化されたものになったと思う。

百合百合しい場面もしっかり入ってますし(^o^)ジブリの『思い出のマーニー』よりもよっぽど百合映画でもある。しかも節度があるから「こういうことやっときゃ男どもは喜ぶんだろ」的な下品さがない。

学校の“憧れの先輩”って、ようするに“アイドル”ということでもあるんですよね。強引なこじつけだけど。

なんかそういう、忘れかけていた純粋な「憧れ」という感覚に久方ぶりに触れた気がしました。

顧問の溝口先生役のムロツヨシが冒頭からいつものヘンなテンションで演技しているのでハラハラしたけど、そこもぎりぎりのところで抑えてて。シリアスなところではしっかりリアリズムの演技に徹している。

そのメリハリがよかったし、失礼ながら初めてムロさんの演技がイイと思いましたw

そして何よりも、吉岡先生役の黒木華にましたね。




僕は黒木さんが出演している映像作品はこれまで山田洋次監督の『小さいおうち』や朝ドラ「花子とアン」ぐらいしか観ていなくて(あとは民放の連ドラの再放送ぐらい)、テレビでの高めで可憐な声と控えめな雰囲気というイメージしかなかったので、この映画のちょっと低めで落ち着いた声と気の強そうな先生役はかなり新鮮でした。しかも無理して演じてる感じがしなくて、僕は一度も観たことがないけれど舞台での彼女はこういう役も結構やってたりするのかな。

実際に高校時代に演劇部に所属していたという黒木さんはまさにリアル吉岡先生なわけで、そんな彼女が演劇部員たちの前で髪をほどいて演じてみせる即興芝居や頼りがいのある副顧問ぶりなど、「あぁ、こういう先生いそう!」っていう説得力抜群の役作りでした。

彼女が演じる吉岡先生は、映画の後半でかなり大胆な行動に出る。それは教え子である演劇部員たちを裏切る行為でもあった。

だからそこだけ取り出すと、あれだけ生徒たちに熱く語ってたのに無責任だな、っていう印象を受けるし観客としてガッカリもするんだけど、でも卒業して演劇の道に進んだ先輩がさおりの前で見せた涙のように、吉岡先生がたとえ母親が泣いても教職を捨ててまで自分の望む道を突き進む姿勢というのは一つの「業」でもあって、ただひたすら宇宙の果て目指して飛んでいくように無謀であり自分勝手でさえもあるのだけれど、だからこそ美しくもある(ちなみに演じる黒木さん自身は、パンフのインタヴューでは「もし自分がその立場なら、生徒たちに演劇を教える道を選ぶ」と語っている)。

演劇かどうかはわからないが、さおりもやがてそういう道を進んでいくのかもしれない、と思わせられる。

黒木華と“ももクロ”のメンバーとのコラボレーションが素晴らしくて、他の部員役の子たちもそうだけど、「アイドル映画」というカテゴライズに納まらない作品になってる。

物語自体はそんな突飛なこともなく非常にオーソドックスな作りで、でもだからこそ、ちょっと懐かしくもあったのです。

リアルタイムで映画館で観てるのになんだか懐かしい。

舞台になってるのがほとんど学校の中だから、ってのもあるだろうし、それにスポーツもそうだろうけど、何かに打ち込む若者の姿って今も20年前もそんなに変わらないんじゃないかな。

だからこれは『櫻の園』がそうだったように、時代を越えて残っていく作品だと思う。

ハッキリいえるのは、『櫻の園』当時には僕は少女たちに近いところから映画を観ていたのが、今回の『幕が上がる』ではムロツヨシの視点で観ていたこと。

演劇部の顧問だけど演劇の知識や経験があるわけではなく、部員たちもそれを知ってるから別に頼りにしてないし(吉岡先生の前で顧問としてないがしろにされまくりな姿に涙)、この映画における俺の立ち位置はムロツヨシだよなぁ、と(T_T)

そこには別の切なさがあった。

だけど10人以上いる部活の生徒たち全員にファミレスで気前よく特大の“げんこつハンバーグ”(静岡の名物ハンバーグ。食いてー!)おごってくれる顧問なんて、きっとイイ人だぞw

この映画、もう一回観たいなぁ(※2回目観てきました!)。


珍しく原作小説買ってしまいました。これから読みます(感想はこちら)。




※3/11(水)から、この映画のメイキング映画『幕が上がる、その前に。彼女たちのひと夏の挑戦』が公開されるんだけど、観にいくべきか。気になるなぁ(※観てきたよ!!)。



※志賀廣太郎さんのご冥福をお祈りいたします。20.4.20



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