城定秀夫監督、小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、平井珠生、山川琉華、目次立樹 出演の『アルプススタンドのはしの方』。

 

原作は籔博晶(兵庫県立東播磨高等学校演劇部)。

 

 

埼玉県立東入間高校3年の演劇部員のあすは(小野莉奈)とひかる(西本まりん)、そして元野球部の藤野(平井亜門)は母校の野球部の甲子園出場に全校生徒で応援に来ていた。その近くにはやはり同じ学校の生徒・宮下恵(中村守里)が立って試合を見つめている。学業優秀な宮下だったが、吹奏楽部部長の久住智香(黒木ひかり)に成績で学年1位の順位を奪われていた。三ヵ月前に赴任したばかりの教師・厚木(目次立樹)は、応援に身が入らないあすはたちに「腹から声を出せ」と檄を飛ばす。

 

すでに鑑賞されたかたに向けて書いていますので、まだご覧になっていないかたはお読みになってもよくわからないかもしれません。すっごくわかりづらい文章になってしまって申し訳ありません。ネタバレもありますのでご注意ください。

 

 

よく行くシネコンで予告篇をやっていて、いつだったか、たまたまNHKのEテレあたりでこの映画の原作である高校演劇版をやっていたのを思い出して、興味をそそられたのでした。

 

以前、ももクロ出演の映画『幕が上がる』の感想の中で述べたんですが、僕は高校時代に演劇部に所属していたので、演劇部員が登場する芝居というのがちょっと面白いな、と思って。

 

 

『アルプススタンドのはしの方』の物語のメインはあくまでも高校野球で、高校演劇の活動の様子が直接描かれるわけじゃないですが、ここで語られる高校野球が、あすはとひかるがやっている高校演劇とも重なるようになっていて、確かにあの時期にしか存在し得ない時間がそこにあった。もっと輝いてると思っていた高校三年生。わかる~(^o^)

 

甲子園にはみんな試合観にいくのに高校演劇の全国大会はそれほどでもない、という演劇部あるあるに頷きながら、 『アルプススタンドのはしの方』が面白かった人たちはぜひ『幕が上がる』も観てみてくれよな!と思ったり。別のタイプの映画だけど、通じるものもあると思う。高校演劇を描いた映画ってほとんどなくて貴重な作品だし、普通にいい青春映画だと思うんだよね。今をときめくアノ人アノ人アノ人も出てますよ(^-^) よく見てないと気づかないけどw

 

ただ、Eテレでの高校演劇版『アルプススタンドのはしの方』の放送は深夜だったのと(僕が観たのは多分、再放送。もしかしたら映画の公開に合わせての再放送だったのかな)映画化のことはその時点では知らなかったからあまり集中してなくて他の作業をしつつの「ながら観」だったんで、なんか野球の観覧席で延々会話してたよなぁ、ということぐらいしか内容を覚えてなくて。もう一度再放送してくれないかなぁ。

 

それで、あぁ、あの作品が映画化されたんだ、と。

 

 

 

もっとも、僕がそのお芝居を集中して観られなかったのには別の理由もあって、なぜなら「高校野球」についての話だったから。

 

前にもどっかに書いたけど、僕は高校野球が大嫌いなのです。いい印象がまったくない。

 

なので、今回も高校野球について好意的なことは書きません。

 

世の中には高校野球が好きな人と全然興味がない人とに分けられると思うんですが、興味がないのはもちろんのこと、大嫌いな奴もいるんだということを今日は知っていただければ幸いです。

 

この『アルプススタンド~』の劇中では野球のルールを知らないあすはひかるがトンチンカンなやりとりをしているけど、実は僕も彼女たちのことを全然バカにできなくて、野球のルールをよく知りません(Wikipediaで「犠牲フライ」の項目を何度読んでも意味がわからない。だから「ボールをキャッチしたのにどうして相手チームに点数が入るの?」という彼女たちの疑問には共感するw)。

 

“アルプススタンド”という呼び名が甲子園だけに使われるということも今さらながらにして知った。

 

 

 

バットでボールを打って一塁から二塁、三塁を回ってホームベースまで走ったら点数が入る、ボールをノーバウンドで獲られたりストライク三回でアウトとか、その程度のことしか知らなくて、専門用語も知らないから実況アナウンサーの言ってることもよく理解できないし(ある時期まで「強肩」のことをずっと「狂犬」だと思っていたほど^_^;)、テロップで表示されてる言葉の意味もわからない。

 

とりあえず、TVつけて野球をやってるといつもチャンネルを替える。

 

まじかΣ(・ω・ノ)ノ!と思われるかたもいらっしゃるでしょうが、四十路のおっさんでも野球の知識もなければそれに対する興味もない人がこの世にはいるのです。たぶん。

 

日本人すべてがプロ野球や高校野球を好きだと思うなよ。

 

ただ、元高校球児って石を投げると当たるほどそのへんにゴロゴロしてるし(僕の身近にもいる)野球ファンはさらに多いから下手なこと言うといろいろと気まずいことになるんで、こうやってブログの中だけで吠えてるんですが。

 

僕が野球、特に高校野球が嫌いなのにはわけがあって、それは高校時代、僕はたまたま野球に力を入れている学校にいたんですが、そこでの野球部の連中が軒並みクズ揃いだったから。

 

スポーツ推薦で入学してきた彼らは部活動を頑張らないと学校にいられないから必死だったんだろうけど、そんなこたぁ野球と無関係な俺の知ったことではないので、イガグリ頭でガニ股の野球部員たちがデカいツラして通学電車の車両を占拠したり校内を闊歩してる姿が目障りでしょうがなかった。

 

あすはが「野球部の人は何か偉そう」って言ってたけど、ほんとそうだもの。

 

自分たちのおかげで学校の知名度が保たれていて寄付金だって集まることを自覚している彼らは授業中は居眠りしてるかデカい声でクラスを仕切り、それでも教師たちからは大目に見られていて本当に威張っていたし、プロからのスカウトがどーのこーのといった話、金のことなど、僕は日本中の高校野球ファンの皆さんが抱いている「高校球児」たちのクリーンで熱血なイメージとはまったく異なる醜くて汚い面を間近で見てきたので。水泳の時間には水着姿のままでギンギンにおっ勃った自分の股間のブツを誇示してる基地外もいた。

 

あれだけ偉そうにしていた奴らが、その後プロで活躍したという話は一切聞かない(僕がいた高校で一応プロになった人は今から何十年も前に1人いただけ*。母校はいまだにそれを自慢にしている)。※すみません、最近は現役のプロで活躍中の卒業生がいるらしいけど、知らないので^_^;

 

硬式野球部の顧問の教師もどうかしている体育会系オヤジだった(授業前には男女ともに全員揃って両手を上げて「オイ~ッス」という声を出して挨拶させていた)し、僕はそういう金と欲にまみれた異常な集団を心底毛嫌いしていたので高校野球の応援など行くことはなかったけれど、他のみんなは学校がチャーターしたバスで甲子園まで熱心に応援に行っていた。彼らにとっては、“かちわり氷”で身体の火照りを抑えながら精一杯声援を送った、汗と涙のあの夏こそが青春だったんだろう。

 

僕も一応課外クラブの活動をしていた人間だし、みんなで協力し合って頑張るとか応援するとか抱き合って涙を流すとか、そういうことが人の心を打つものであることはわかってはいるんですが、体育会系のノリが嫌いなんだからしょうがない^_^; 高校野球なんてその最たるものなんだし。

 

スポーツパーソンだけど文化会の活動にも理解があって芸術的なことにも関心がある人のことは尊敬するけれど、そうじゃない奴らばかりだったんでね、俺のまわりでは。だからこの偏見はおそらくこの先も変わらないだろうと思う。

 

前置きが長くなりましたが、この映画『アルプススタンドのはしの方』の原作は先ほども述べたようにもともと高校演劇で上演されたお芝居だったのが、やがてオーディションで選ばれたプロの俳優たちが演じる商業舞台(浅草九劇)公演としてさらに内容がブラッシュアップされて、そこでの出演者たちが今回のこの映画でも同じ役を(登場人物が増えたり一部キャストが交代したりしているが)演じているのだそうで。

 

だからか、特にあすは役の小野莉奈さんとひかる役の西本まりんさんは初登場した時から「こういう子たちいるいる」感満載で(笑)、一見気が強くてズバズバものを言うように見えて、親友のひかるに言わせると意外と人見知りなところがあるあすは、誰よりもまわりに気を遣うが結構“天然”入ってるひかるなど、描写がリアルで女優さんたちの演技もお見事でした。

 

一方、成績優秀な宮下さん役の中村守里さんと、その宮下さんを学年の順位で追い越して1位になった吹奏楽部の久住さん役の黒木ひかりさんはいかにもアイドルっぽい容貌で、最初のふたりとの対比がとても鮮やか。このあたりももしかしたら高校演劇版よりも見た目がわかりやすいコントラストになっているのかも。

 

 

 

 

ただし、僕は原作の高校演劇版の方は内容だけでなく、そちらの出演者たちの演技についてもまったく覚えていないので(もともとは台詞が関西弁だったことすら忘れていた)残念ながら映画版と細かく比較することができないんですが。

 

劇場パンフレット(驚愕の¥1,200!!Σ(゚д゚;))に載っている原作の戯曲を読んで、映画との違いを知ることができたぐらい。

 

原作の登場人物は、あすはとひかる、藤野と宮下の4人だけ。映画版では、原作では台詞の中だけに登場していた久住が実際に出てきて宮下と絡む。久住の取り巻きみたいな女子二人(平井珠生、山川琉華)は映画のオリジナルキャラクター。

 

また、原作にはまったく出てこないが、その後の商業舞台版で付け加えられた教師の厚木が映画にも出てくる。

 

 

 

何かといえば「ほら、声出せよ!」「人生は送りバントなんだ」などと吠え続けて喉を潰す暑苦しくて押しつけがましい厚木先生は僕が嫌いな教師の要素を煮しめたようなキャラで、最初のうちはこいつがチョロチョロ出てくるたびにイライラしたんだけど、この人の経歴については英語の教師で現在「茶道部」の顧問であること以外語られない。

 

宮下さんが「本当はベンチで応援したかったんですよね?」と尋ねるように、厚木先生は野球部の顧問になりたかったのかもしれないし、もしかしたら藤野と同様、元野球部なのかもしれない。あすははやがて母校の教師になって演劇部の顧問を務めることになるので、厚木先生もこの学校の卒業生なのかも。

 

このように人物の背景を想像させて、最初はうるさくてうっとーしかった先生が、やがて野球が下手なのに野球部に所属していて誰よりも練習を続けている万年控えの選手“矢野”と重なっていくように描かれている。

 

“矢野”はちょうど『桐島、部活やめるってよ』でドラフトで指名されるあてもないのにひたすら練習し続けるあの“先輩”を思わせる。

 

原作では成績を競い合った宮下と久住の軋轢、というのは直接描かれずに、あすはの視点から語られるのみ。それが映画版では彼女たちが(具合が悪くなった宮下に付き添ってきたひかるの目の前で)対峙して、それぞれの気持ちをぶつけ合う。

 

原作では、あすはは宮下さんのことを「ずばぬけてすごい奴はまわりの人間なんてどうでもええんやろ」と、あまりよく思っていないようだが、映画版では彼女は宮下さんに対してとりたてて反感を持っているわけでもなく、授業で厚木先生にやらされたペアワークで宮下さんに声をかけて、互いに人見知りなためにうまく会話できなかったが、それでも宮下さんはあすはが自分に声をかけてくれたことに感謝の言葉を述べる。

 

そういう流れがあるので、そのあすはに宮下さんが「しょうがない、って言うのやめて」と苦言を呈するのが少々唐突に感じられる。それはインフルエンザで高校演劇の関東大会に出られなかったひかるの気持ちを代弁したものではあるのだが。

 

その前に宮下さんが野球部のエース、“園田”に好意を持っていて実は彼を応援しにきたことが藤野やひかるとの会話でわかる。

 

だから、宮下さんがちょっと色ボケこいた女子に見えてしまったんですよね。いや、ずっと勉強を頑張ってきた彼女が、同じく野球だけにしか興味がない“園田”に自分を重ねていたのだろうことや、だからこそ「しょうがない」という諦めの言葉を連発するあすはにイラッとしたんだろうことは伝わるんですが。

 

あすはとひかるの仲良し演劇部コンビが非常にリアリティを感じさせるのに対して、運動が苦手で友だちもおらず唯一得意な勉強を頑張ってきた宮下さんと、「部活、勉強、恋愛」と三拍子揃ってパーフェクトな久住さんの関係を描いたパートだけ妙に浮いてる、というか、こんな人たち漫画とかTVドラマでしか見たことがない。

 

久住さんとツルんでる二人の吹奏楽部女子は、ああいう嫌味っぽいこと言ったりやる気なさげな態度の子とかいましたけどね。試合が終わって二人のうちの一人が泣いてるとか、いたいた、こーゆー子って。ああいう脇の役者さんたちがドラマを固めていくんだよなぁ。

 

またまた映画と関係ないこと書きますが、僕が高校生だった時に同じ演劇部に学年でいつも成績が一番の女子生徒と同姓同名の女の子がいて、いつも人違いされて迷惑してる、と言ってたっけ。

 

学校で成績が上位の生徒の名前を公表してたことを、この映画観てて思い出した。頑張ってる人のことを称えるためもあるだろうし、他の生徒たちにハッパをかける意図もあるんだろうけど、成績上位の人とか僕は無縁だったので、成績を競い合っているような人たちの存在がまったく目に入ってなかったし、そういう人たちのことを想像したことすらなかった。

 

だから、僕が知らないだけで、宮下さんや久住さんのような人は現実にいるのかもしれませんが。

 

久住さんって、『桐島、部活やめるってよ』で山本美月さんが演じていた“桐島”のカノジョでクラスの女王様的な女子をイイ子ちゃんにしたような人で、宮下さんに意地悪を言う友人二人を「やめなよー」とたしなめたり、具合を悪くした宮下さんにペットボトルのアクエリアス渡そうとしたり、なのに宮下さんに無視されて「真ん中もツラいんだよ」みたいなこと言ったり、まるでアイドルグループの女の子みたいで。

 

演じる黒木ひかりさんは実際にアイドルグループの一員だったということなので、『幕が上がる』が一方では「アイドル映画」でもあったように、この映画版『アルプススタンド~』もそういう方向から見ることもできるってことですかね。

 

クライマックス近くで久住さんがまわりのみんなに「もっと音を出して!」と声を荒らげるのも、内気な宮下さんが声をふりしぼって声援を送るのも“園田”というパーフェクトな男のためだと思うとイラつくけれど、彼女たちは“園田”という画面には映し出されることのない野球部のエースに自分たち自身の想いだったり情熱のようなものを重ねているんだ、と思えば納得はできる。

 

高校球児“園田”を『桐島~』の“桐島”(桐島はバレー部だったが)として見ると、これはあの映画を視点を変えて描いたもののようにも思えてくる。ってゆーか、明らかにあの作品を意識してますよね?

 

僕は高校野球は嫌いだが(頑な)、でもなぜ多くの人々が試合や選手たちに声援を送り、涙を流すのか、その理由がちょっとだけわかった気はする。あれは自分に声援を送ってるんだ。

 

ただ、一方で個人的に引っかかるところもあって、この『アルプススタンドのはしの方』では、どこかに「成果」を求める部分があり(全国大会に行くとか就職先がどことか、「やることに意味があるかどうか」といったことを云々するところなど)、そこが僕がこの映画に完全にはのめり込めなかった一因でもある。「しょうがないって言うな」「腹から声を出せ!」というのも、ああいうことを教師だとか同級生たちに言われるのはしんどい。

 

自分の夢や目標から“降りて”別の生き方をすることは「しょうがないと諦めた人生」だ、と断罪するような叱咤激励がしんどい人間もいるんですよ。別に全国大会に行けなくたっていいじゃん、という気持ちを残しておきたい。生き方はそれぞれ。大声出さない人生だってある。

 

どうも巷ではすべてを「勝ち負け」で判断するような価値観が蔓延してるような気がしていて、そういう人々が「頑張れ」を連呼する。なんでもかんでも「勝敗」決めて順位つけなくていいじゃん。スポーツ競技である野球はともかく、演劇や茶道に勝ち負けが必要か?

 

『桐島、部活やめるってよ』の映画部の少年たちは、何か成果を出したのかどうかはわからない。でも映画が好きでみんなでゾンビ映画を作った。女の子たちからは笑われたり見下されても構わない。彼らは誰かに勝ったわけではないし、負けてもいない。ただそこにいる。そのことの素敵さを描いていた。

 

それに比べると、この『アルプススタンド~』にはなんとなく不純なものを感じる。何か不要なものに囚われているような。

 

たとえば、藤野はひかるから“園田”と久住さんが付き合ってることを教えられて「ムカつく」と腹を立てる。

 

 

 

だけど、別に藤野は久住さんのことを好きだったわけじゃないんだから、彼が腹を立てる理由なんかないんだよね。彼はただ、野球にしか興味がないと思っていた“園田”がよりによって学年の成績トップの久住さんと付き合ってるというのが妬ましいだけなのだ。

 

でも、それって久住さんをただの“トロフィー・ガール”としてしか見てない、ってことでしょう。

 

そうでないなら、妬む必要なんてないんだから。すげぇなぁ、さすが、と感心してりゃいいだけで。

 

久住さんは久住さんで、そういう「真ん中の自分」を維持し続けることの大変さを語っていたんですが。

 

で、映画の終わりで、その藤野はどうやら宮下さんとイイ感じらしいことがわかるんだけど、藤野は高校三年の時に宮下さんに気があったわけだから(甲子園で会う前から彼女の名前はしっかり覚えていた)、結局のところ、今度は宮下さんという“トロフィー・ガール”を「キャッチした」ってことですよね。

 

久住さんも宮下さんも藤野にとっては勝者の証明みたいな存在なんだよな。持ち物扱いなんだよ。モヤモヤするのは僕だけでしょうか。

 

あと、これは余分な難癖だけど、僕はこの映画の原作の戯曲というのは、てっきり高校生が書いたと思っていたんです。だからこそ、現役の高校生たちがこんな視点を持ってお芝居を作り上げたということに感動したんですが、この戯曲の作者の籔博晶さんって、生徒じゃなくて演劇部の顧問の先生だったのね。えっ、先生が書いたの?って。

 

劇場パンフでこの元顧問の先生(現在は別の学校で勤務)が誇らしげにこの『アルプススタンド~』が高校演劇の全国大会で最優秀賞を獲ったことを語られているんだけど、なんかガッカリしちゃって。

 

高校演劇って、「生徒」がやるもんじゃないの?と。

 

先生が戯曲書いて部員の生徒たちにやらせたわけだ。

 

それって、『桐島~』で映画部の顧問が自分が書いた「君よ拭け、僕の熱い涙を」通称「君拭け」とかいう金魚のウンコみたいなタイトルのシナリオで生徒たちに映画を撮らせようとしてたのと一緒じゃん。いや、そんなのと一緒にしたら失礼だけど。

 

それで、なんでこの作品では生徒たちがやたらと「勝ち負け」にこだわってるのかその理由がわかった。作者である先生自身がそういう価値観の人だからだ。

 

『幕が上がる』(原作はちょっと前に発言がもとで炎上した平田オリザ)を観た時にもやっぱり主人公が「勝つこと」にこだわっていて、演劇部の副顧問の先生は部活動の内容に細かく口を出してくる。先生も「全国大会に出場すること」が目的で生徒たちを教えていた。

 

そのことに僕はずっと違和感があったんだけど、つまり、全国大会に出場して優勝する、というのはそこまでやらないとできないということだ。偶然が入り込む余地などない。

 

受験勉強と同様に対策を練ってどうやれば「勝てるか」考える。勝てるための芝居をする。

 

だから勝負である「高校野球」とも親和性が高いんだな。なんか謎が解けた。

 

頑張り抜くからこそ完成度の高いものができて心から涙も流せる。そういう理屈なんだろう。

 

僕はやる気のない部員だったから、そんなふうに頑張らなかったし、三年生の春にはさっさと引退してしまったけど(そして僕のいなくなった演劇部はその夏に県大会まで進んだ…)、それでも特に一年生の夏は思い出深い。

 

僕たちが上演した創作劇(部員が書いた)はわりと評判はよかったけど、それでも県大会出場校には選ばれなくて、みんなで悔し涙を流したっけ。

 

あの時一緒に芝居を作って上演したメンバーの中でその後プロの演劇の世界に進んだ人はいないけど、じゃあ、“あの夏”は無駄だったのかといえば、そんなことはない。

 

ただあのひとときこそが貴重でかけがえのない時間だった。勝ち負けはどうでもいい。

 

なので、あくまでもこの映画の「高校野球」というのは、そしてそれを「応援する」という行為は、自分自身に向けられた「何もしないまま諦めてしまう前に一歩踏み出してみよう」という想いの喩えなのだと解釈して観て、かろうじて受け入れられる。

 

特に今年はコロナ禍で甲子園での夏の全国大会が中止になって悔しい思いをした人たちも大勢いるだろうから、簡単に「しょうがない」と諦めたくない、というこの作品のメッセージもより切実なものとして受けとめられてもいるだろうし。

 

たとえそこが“アルプススタンドのはじっこ”であっても、彼らはそこに集って一緒に「応援」した。

 

もしも、あすはや藤野が甲子園に来るのを思いとどまっていたら、彼らのあの時のあの出会いやさまざまな気づきはなかった。

 

そのことが描かれていれば充分で、だから映画版で付け加えられたというあの最後の数年後の場面は僕は蛇足だったと思うんです。あれから彼らがどんな道を歩んだのかは観客の想像に委ねるべきだったのではないか。

 

あの野球がヘタクソだった“矢野”がプロになれてよかったね、というのは物語としては救いがあっていいかもしれないし、あすはは母校の演劇部の顧問になって(ちょっと『ちはやふる』っぽいけどな)、藤野は野球用具を扱う仕事に就いて、宮下さんは藤野とイイ感じだし、それぞれの努力が実って好きな道を進むことができて、好意を持ってた人とも繋がれてよかったね、というのもそれはそれでいいかもしれないけれど、あの夏──ただひたすら応援したあの夏が切り取られたこの映画では、あの若者たちの未来は観客がそれぞれ胸に描けばよいのではないか。

 

試合には負けてしまったけれど、彼らにとってみんなで一緒にグラウンドを見つめて腹から声を出したあのひとときは忘れがたいものになったはずなのだから。

 

彼らがその後どのような人生を歩むのか、それはまた別の話でしょう。

 

 

いろんなことを考えさせられる映画でした。とてもシンプルな内容だからこそ、高校生が向き合っていることの大きさに気づかされ、成長して社会に出てもぶち当たるさまざまなこと、「生きる」ことについてなど、いくらでも自分の“現実”をそこに重ねられるから。

 

だけど、僕は言いたいね。

 

全国大会の決勝に出られなくたって演劇は楽しいものだと思うし、それは映画だってなんだってそうだ。グラウンドの外にだって青春はある。

 

人生には無数の解答がある。どれが正解なのかはわからない。正解なんてあるのかどうかも。

 

僕は今後も高校野球を観ることも応援することもないだろうけれど、それでもそれを必要としている人たちがいて、グラウンドの白球や選手たちの躍動に一喜一憂するその一人ひとりの姿の中にさまざまな想いが宿っていることを想像できるようにはなった。

 

あすはが「来てよかった」と呟いたように、僕もこの映画を観てよかったです。

 

 

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