「綿貫の元秘書に聞いたんですが、どうやら、本当のようです。」
二人の驚きを尻目に、藤岡は落ち着いた声で答えた。
「天人のことを調べているうちに、運よく綿貫の元秘書と接触することができました。名前は言えませんが、その元秘書は、今では顔と名前を変えて、世間から隠れるように、ひっそりと暮らしています」
「何で、そないなことをするんや?」
「さあ、詳しい事情は語ってくれませんでしたが、何か、綿貫から逃れなければいけない事情でもあるんじゃないですか」
津村が、疑わしそうな顔をした。
「お前に見つかるくらいやから、綿貫の眼は誤魔化せんやろ」
「そうとも限りませんよ。俺が接触できたのは、本当に偶然なんですから。それに、その人は既に死んだことになっていますし」
藤岡が、涼しい顔をして言う。
「ほんまに、綿貫の元秘書やろうな」
津村は、ますます疑わしそうな顔をしている。
「間違いありません。しかるべき筋からの紹介ですから」
藤岡が自身を持って答えた。
「しかるべき筋って、どこや?」
「それは、言えません」
津村の問いを、藤岡がきっぱりと撥ねつけた。
「まあ、ええわ。それで?」
いくら藤岡が刑事として優秀だとしても、綿貫絡みの事でここまで調べられるものだろうか?
過去、綿貫の周辺を探ろうとして不慮の死を遂げた新聞記者を、津村は何人か知っている。それだけ、綿貫は危険な存在なのだ。
多分、藤岡の言っていることは真実なのだろう。でなければ、綿貫の名前など、気軽に出せるものではない。しかし津村は、藤岡がすべてをて語っているとも思えなかった。
この話には、何か裏がある。そう思ったが、藤岡を問い詰めることはしなかった。今の藤岡の答え方からして、これ以上追及しても、何も言うまいと思ったからである。
「ありがとうございます」
しつこく追及してこなかったことに感謝した藤岡が、軽く頭を下げた。
「それでですね、阿球磨家は代々時の権力者に仕え、日本を支配するのを、裏で支えてきたそうです。そのため、歴史の表舞台には決して登場することはありません。阿球磨の血を継ぐ者は、みな強力な力を宿していたそうでして、天人も例外ではなかったようです。天人は綿貫の指示で、彼に逆らう者たちを、闇に葬ってきたというんですよ」
「呪いをかけてか」
津村が鼻で笑った。
「そんな、アホな話を信じろってか」
「私も、聞いたことがあるわ」
津村とは対象的に、留美が真面目な顔で頷いた。
「阿球磨のことをか」
「いいえ、陰陽師の力のことよ。陰陽師については作り話も多いらしいけど、本物になったらそれはもう、凄い力を持っていたらしいわ。だから、明治政府も陰陽道を禁止したという話よ。表向きは、西洋文化に馴染むためとなってるけどね。私、思うんだけど、本物の陰陽師って、一種の超能力者じゃないかしら」
「超能力って、留美ちゃんまで、そないな漫画みたいなことを言うんか」
津村が苦笑したが、藤岡は真面目な顔をして聞いている。
「津村さん、留美さんの言うことも一理ありますよ。津村さんは漫画みたいだって言いますけど、アメリカやロシアや中国では、真面目に超能力の研究をしているそうです。テレパシーや念動力で、他国の主要人物を操るとか殺すとか、そういった研究をです。俺は、あながち留美さんの推理が間違っているとは思いません」
「そうだとすれば、コンピューターが、神人君の式神ってわけね」
津村は、留美と藤岡の二人についてゆけず、戸惑っていた。しかし世の中には、科学や理屈で解明できない謎が多くあることも事実だ。津村はそれ以上、二人の意見を否定することができなかった。
「もしもや、お前の話しがほんまやとしたら、神人の思惑がわからんな」
津村は、神人が電子の悪魔と決め付けている。
「どういうことです?」
「復讐にしては、度が過ぎとる。復讐なら、留美ちゃんが言うように、綿貫だけにすればええはずや。もしかしたら、神人も綿貫に仕えとって、綿貫の命令で動いてるんかもしれへんし、自分が天下を取ろうとしてるとも考えられる」
「そうですね。色々考えられますね」
「スマホにしても爆弾魔にしても、人間を意のままに操る実験かもしれんな。天下を取るためのな」
それきり、二人の間を沈黙が支配した。二人とも腕を組んで、なにやら考えている。
「そんなこと、どうだっていいわ」
突然、留美が沈黙を破った。
CIAが開発したカプセル型爆弾(コードネーム:マジックQ)が、内部の裏切り者の手により盗まれ、東京に渡る。裏切り者は、マジックQを赤い金貨という犯罪組織に売り渡そうとしていた。CIAの大物ヒューストンは、マジックQの奪回を、今は民間人の悟と結婚して大阪に住んでいる、元CIAの凄腕のエージェントであった、モデル並みの美貌を持つカレンに依頼する。
加えて、ロシア最強の破壊工作員であるターニャも、マジックQを奪いに東京へ現れる。そして、赤い金貨からも、劉という最凶の殺し屋を東京へ送り込んでいた。
その情報を掴んだ内調は、桜井という、これも腕が立つエージェントを任務に当てた。
カレンとターニャと劉、裏の世界では世界の三凶と呼ばれて恐れられている三人が東京に集い、日本を守るためにエリートの道を捨て、傭兵稼業まで軽軽した桜井を交えて、熾烈な戦いが始まる。
裏切者は誰か、マジックQを手にするのは誰か。東京を舞台に繰り広げられる戦闘、死闘。
最後には、意外な人物の活躍が。
歩きスマホの男性にぶつかられて、電車の到着間際に線路に突き落とされて亡くなった女性。早くに両親を亡くし、その姉を親代わりとして生きてきた琴音は、その名から逃げ去った犯人に復讐を誓う。
姉の死から一年後、ふとしたことから、犯人の男と琴音は出会うことになる。
複数の歩きスマホの加害者と被害者。
歩きスマホに理解を示す人と憎悪する人。
それらの人々が交差するとき、運命の歯車は回り出す。
2018年お正月特別版(前後編)
これまでの長編小説の主人公が勢揃い。
オールスターキャストで贈る、ドタバタ活劇。
大手の優良企業に勤めていた杉田敏夫。
将来安泰を信じていた敏夫の期待は、バブルが弾けた時から裏切られた。家のローンが払えず早期退職の募集に応募するも、転職活動がうまくいかず、その頃から敏夫は荒れて、家族に当たるようになった。
そんな時、敏夫は不思議な体験をする。
幻のようなマッサージ店で、文字のポイントカードをもらう。
そこに書かれた文字の意味を理解する度に、敏夫は変わってゆく。
すべての文字を理解して、敏夫は新しい人生を送れるのか?
敏夫の運命の歯車は、幻のマッサージ店から回り出す。
夜の世界に慣れていない、ひたむきで純粋ながら熱い心を持つ真(まこと)と、バツ一で夜の世界のプロの実桜(みお)が出会い、お互い惹かれあっていきながらも、立場の違いから心の葛藤を繰り返し、衝突しながら本当の恋に目覚めてゆく、リアルにありそうでいて、現実ではそうそうあり得ない、ファンタジーな物語。
ふとしたことから知り合った、中堅の会社に勤める健一と、売れない劇団員の麗の、恋の行方は?
会社が倒産し、自棄になっていた男の前に現れた一匹の黒い仔猫。
無二の友との出会い、予期せぬ人との再会。
その仔猫を拾ったことから、男の人生は変わっていった。
小さな命が織りなす、男の成長と再生の物語。
奥さんが、元CIAのトップシークレットに属する、ブロンド美人の殺し屋。
旦那は、冴えない正真正銘、日本の民間人。
そんな凸凹コンビが、CIAが開発中に盗まれた、人類をも滅ぼしかねない物の奪還に動く。
ロシア最凶の女戦士と、凶悪な犯罪組織の守り神。
世界の三凶と呼ばれて、裏の世界で恐れられている三人が激突する。
果たして、勝者は誰か?
奪われた物は誰の手に?