ほんのにちようび -4ページ目

ほんのにちようび

心に残った本のあらすじと感想をつづります。

(時に映画、マンガ、音楽などについても)

山田 詠美

姫君  ★★★

各所で大絶賛だった「風味絶佳」について書こうと思ったのだけど、読み終わってみたら前に読んだ「姫君」の方が良かったので、両方まとめて感想を。


「姫君」は、読んでいてちくちくする恋愛話が多い。一方の「風味絶佳」は少しぬるめの恋愛話。英語かぶれで自分のことをグランマと呼ばせるキュートなおばあちゃんの話や、離婚して実家に帰った親娘のもとに、母親の同級生が訪れるようになり、母とその同級生がいつまでも恋愛一歩手前で立ち止まっている状況を描いた話なんかは良かった。私は山田詠美の定番であるディープな大人の恋愛ものより、ちょっといびつな恋愛ものとか、恋愛どまんなかにはいない人々を描いた話のほうが好きみたい。その方が彼女の持ち味が際立つような気がする。


「姫君」は、表題作の「姫君」が圧倒的に良かった(ほかはあんまり覚えていない)。

店の裏でごみをあさっている「姫キャラ」の女こじき(?)を、その店のバイトくんが拾って帰るという話。この「姫」が最高。キャラが確立されていてすがすがしい。でも、姫がバイトくんに愛情を持ちはじめるにつれて、姫でいられなくなる瞬間が出てくる。ときどき、ほんの一瞬、姫は少女になる。

この話だけなんどか読み返した。


BGM:歓びの種/YUKI


on our island

わたしたちの島で

リンドグレーン 作

岩波書店 ★★★☆


[あらすじ]

メルケルは、4人の子どもをつれてウミガラス島で夏を過ごすことに決めた。とはいっても、島の名前が気に入って家を借りただけなので、借りる家は見たこともない。長女で兄弟の母親代わりをしているマーリン、わんぱくなユーハンと二クラス。そして動物が大好きな末っ子のペッレ。別荘にたどりついて、素敵なお隣さんがあたたかい肉シチューを持ってきてくれたときから、彼らの素晴らしい夏がはじまった。


「長くつしたのピッピ」「やかまし村のこどもたち」に続いて読んだ、3冊目のリンドグレーン作品。どの本を読んでも思うのが、「私もこんな遊びをしたかった!」ということ。夏を離れ島の別荘で過ごし、小船で魚をつかまえにいったり、浜に打ち上げられたアザラシをペットにしたり、読んでいるだけで楽しい気分になってくる。最後にこの別荘をめぐる事件が起きるのだけど、その解決法がなんとも素晴らしい。この作者は、子どもを幸せな気分にする天才だなあ。


私はいなか育ちだったから、近所の子と徒党を組んで森に探検に行ったり、ひみつ基地を作ったりしてよく遊んでいたけれど、今の子どもたちってそういうふうに遊んだりするのかしら。


BGM:団地のピアノ~ブルグミュラー~/原田郁子

アレクサンドル・デュマ, Alexandre Dumas, 生島 遼一
三銃士〈上〉
岩波書店 ★★★★

[あらすじ]

17世紀はじめのフランス、武人として出世の道を切り開くために青年ダルタニャンはパリにやってきた。そこで彼が出会ったのは、3人の近衛兵士アトス、ポルトス、アラミス。枢機卿リュシリューに目をつけられた4人はさまざまな危機に陥りながらも力を合わせてそれらをはねのけていくのだが、やがてダルタニャンが魔性の女性ミレディーの誘惑にはまり・・・


時に若者らしい暴走を見せる勇敢なダルタニャン、沈着冷静で女になびかないように見えるが実は重大な秘密を持つアトス、陽気で豪快なポルトス、聖職者志望で折に触れ僧になりたがる繊細な詩人肌のアラミスという4人のキャラクター造形が最高。なかでもアトスの重大な秘密が明かされ、それに関連する4人の強大な敵を追いつめていくくだりは圧巻だった。娯楽小説として完璧。これ以降に書かれた群像もの(特に3~4人の)のほとんどが影響を受けたんじゃないだろうか。

私にとっての海外版「三匹が斬る」(時代劇)だな。


あと、新たにいただいたおすすめの「岩窟王」「ああ無情」「おじいちゃんの休暇」も、ぼちぼちと読んでいきます。


以下、三銃士を薦めてくれた黒やぎさんへ私信。

あなたがリュシリューを好きだってことを、読んでとっても納得したわ。私の好みはアトスかな。


BGM:Turandot/Puccini  祝・荒川静香!

古川 日出男
中国行きのスロウ・ボートRMX
(↑これの文春文庫バージョン)★★★

2003年、メディアファクトリーにて、若い作家の手による村上春樹の作品のトリビュート(あるいはリミックス)を行うという試みがあった。発起人がこの古川日出男(ちなみにあと3作あるんだけど、あとの作家にはあまり興味が持てなかった)。ずっと読みたかったのだけどなかなか入手できず、ようやく文春から文庫で出たので読んでみた。


村上オリジナル版では、主人公が出会う3人の中国人が物語のモチーフになっているらしい(未読)んだけど、この古川版では、主人公が大人になるまでに失った3人のガールフレンドが登場する。また、この3人がみんな個性的。関連性のない出来事の羅列をとめどなく(病的に)しゃべりつづける1人目の女の子、胸のわっか(乳輪?)の片方が北海道の形をしていて、もう一方がどこの土地の形なのかを探し続ける2人目の女の子、主人公の経営するカフェ「ヘイトカ」に助っ人として現れた女子高生天才包丁人の3人目の女の子。2人目の登場ではけっこう笑えたけど、読み進めるうちにだんだんリアリティを帯びてくるから不思議。


カフェ「ヘイトカ」を立ち上げてからの部分と、最後で主人公が受け取る手紙のところがとてもよかった。

クロニクル~とかいう挿入話のあたりは面倒なので全部すっとばしたけど、その辺の構成も含めて村上春樹っぽいという気もするし、トリビュートとしてはなかなか成功しているんじゃないかと思う。


古川日出男を読んだのは「アラビアの夜の種族」「LOVE」「ベルカ、吠えないのか」に続いて4作目。

作品に応じて巧みに文章を使い分ける名手、みたいなことを言われていて、最初はなるほどそうかもと思っていたけど、ひょっとすると「アラビア」だけが結構特殊で、実はほかは結構どれも一緒じゃないかという気がする。みんなハイテンションでつっぱしって書いてる感じ(特に「LOVE」「ベルカ」)。

でも、これはそのハイテンションと、たぶん意識して織り交ぜている春樹調がなかなかうまくマッチしていて面白かった。


春樹オリジナル版も読んでみようっと。


BGM:恋の煙/チャットモンチー

松尾 スズキ
クワイエットルームにようこそ
★★★

芥川賞受賞作&候補作を読んでみました。


まずは絲山秋子の「沖で待つ」(★★)。

主人公(女)と太っちゃん(男)は会社の同期。恋愛感情はまったくないが、同じ営業所に配属されて親しくしている。ふたりは、どちらかが先に死んだら、お互いの家に忍び込んでハードディスクを壊すという約束をしており・・・、というもの。読みやすい作品ではあるものの、絲山作品に共通する「恋愛が成立していない男女関係のここちよさ」が、ここではいまいち感じられない。確かに、恋愛関係ではない男女を中心に描かれているのだけれど、ふたりの関係は特にうらやましくなるようなものでもないし、描かれる必然性を感じなかった。とはいえ、主人公の感情自体には共感できる部分も確かにあったけど。芥川賞は『袋小路の男』であげてほしかったなあ。


一方で、松尾スズキの「クワイエットルームへようこそ」。

こちらが予想外に面白くて驚いた。私は多方面で活躍をしている作家というものはあまり好きではないので(たぶん嫉妬?笑)彼の作品は敬遠していたけれど、登場人物のキャラクターや構成も(あざといぐらい)良くできていた。よく考えるとわりと重いことが描かれているのだけど、軽みのある文体なので気が重くならずにさらりと読める。主人公が女なのにときどき男目線になっているところがちらっと気になったけど、それも見逃せる範囲。なにより、ラストの持っていき方が見事だった。ちなみに、自殺未遂を図って精神病院に強制入院させられた主人公の話。


BGM:Bitter Sweet Symphony/The Verve

ケストナー, 高橋 健二
ふたりのロッテ
★★★☆

[あらすじ]

おてんばルイーゼが林間学校で出会ったのは、自分とまったく同じ顔をしたロッテという女の子。ロッテはお母さんとふたり暮らしで、ルイーゼはお父さんとふたり暮らし。最初は反発しあったふたりの女の子は、仲良くなるにつれて、自分たちが実は別れ別れになったふたごだということを発見する。


「エーミールと探偵たち」などでもそうだったが、ケストナーの本を読むとあたたかい気持ちになる。いつもハッピーエンドでまとめすぎなのでは?などと、すれた私は感じることもあるけれど、子ども向けの本はぜひともこうであってほしい。


そして、ケストナーの本には、いつも心に残る箇所がある。この本では、林間学校が終わって、ロッテと入れ替わりに母親のもとに戻ったルイーゼが、その正体を母に見破られて抱き合う場面。子どもたちの無邪気なたくらみが、どうかうまくいきますように・・・。そう願いながら読み進んできた読者の気持ちをぐっととらえる。


BGM:頼りない天使/フィッシュマンズ



アストリッド・リンドグレーン, 大塚 勇三
長くつ下のピッピ
★★★★

[あらすじ]

幼いときに父母を亡くしたピッピは、「ごたごた荘」と名づけられた家に、ニルソン氏(サル)、馬と自由気ままに暮らしている。船乗りだった父親と世界各地をまわっていたピッピは、ふつうの子どもが知らないようなことをたくさん知っているし、何よりとっても力持ち。隣の家に住むトミーとアンニカは、ピッピとすっかり仲良くなって・・・


これこそ、子どものころに読みたかった本!


ピッピの天衣無縫なキャラクターは、読んでいてとにかくわくわくする。力が強くて、警察や泥棒なんかも自分のペースに巻き込んで追い返してしまうピッピ。サーカスを見に行けば、サーカス団よりもすごい芸を披露するピッピ。トミーとアンニカに誘われて試しに学校に行っても、あまりのマイペースっぷりに先生の目を白黒させてしまうピッピ。こういう、見ているだけでも楽しくなるような元気な子どもっていたよなあ。最近はどうなんだろう。


小学校にあがる前、近所の子どもたちと森に探検に行ったり、つくしをつんだりして、日が暮れるまで遊んでいたことが一気によみがえってきた。


余談だけど、学校の先生がピッピに掛け算の九九を教えようとして、「竹さんの靴ですって?そんなもの私には必要ないわ!」というようなことを言い返されていたが、この「掛け算の九九」「竹さんの靴」って、原文ではどんな風になっていたのだろう?こういう掛けことばみたいなものをうまく訳せる訳者さんってすてき。


さて、おすすめの本を教えてくれた方、どうもありがとう。予約本リストに新しく「フリスビーおばさんとニムの家ねずみ」「トムは真夜中の庭で」「三銃士」「わたしたちの庭で」「5月35日」「ふしぎをのせたアリエル号」「冷たい心臓」などを追加しました。ちょっとずつ読んでいきます。


BGM:メランコリニスタ/YUKI

ジュール ベルヌ, 太田 大八, 朝倉 剛
二年間の休暇(上)
福音館書店 ★★☆

[あらすじ]

夏の休暇を、船でニュージーランド一周をして過ごす予定だった15人の少年は、子どもたちだけ船で待機しているところを波に流されてしまう。その後、船は嵐に巻き込まれたすえ、無人島に漂着した。その島の周囲はいっこうに船が通らず、助けを求めることもできないまま、彼らはその島に住み着くのだが・・・


「十五少年漂流記」という名で知られている作品の完全版。この本を読んで多くの人が考えるのは、おそらく「自分が遭難したらどうなるだろう?」ということではないだろうか(違うかな?)。私が読みながら一番考えたのはそのことだった。主人公である15人の少年たちは、ほら穴に住み着き、島に地名をつけながら地図を完成させ、いかだを作り、猟や採集をし、家畜を飼い、青空学校を開き、大統領を選出し、人が乗れる凧を作り、侵略者を殺す。ただ生き延びているだけではない。そこには新たなコミュニティが形成されていくのだ。さらには、15人のあいだのいさかいや、人種間の差別的な感情も余すところなく描かれている。コミュニティ形成の過程は読んでいてわくわくするが、ときに(特に侵略者を殺戮するところなんかは)背筋が寒くなるような場面もある。


現代では、いろんなものがあまりに便利になりすぎて、生きる力が失われていっているように思う(前に感想を書いた『カヌー犬・ガク 』でも、作者が同じようなことを言っていた)。私がもし同じ状況下に置かれても、きっと彼らのようには生きられないだろう。何をどのようにとって食べたらいいかわからないし、道具を作り出す方法も知らない。でも、実はちょっとこういう体験をしてみたいとも思う。自分の生きる力がどこまであるか試してみたい。そういうテレビ番組とかつくらないのかな。昔の電波少年とか、そういうニュアンスがあったのだろうか。



なお、月のなかばの非常に中途半端な時期ですが、「海外名作児童書強化月間」と称してこれから少し集中的に海外児童ものを読んでいこうと思います(ほとんど読んだことがないので)。おすすめがある方は、ぜひ教えてください。

今控えている作品は、「長くつしたのピッピ」「やかまし村のこどもたち」「不思議を売る男」「ふたりのロッテ」。


BGM:この坂道の途中で/UA

宮崎 駿
風の谷のナウシカ
徳間書店 ★★★★★

先週の金曜ロードショーはナウシカだったので、なんとなくビデオにとって見てしまった(何度目だ)。


そしたら、ふと原作が読みたくなったので一気に読んでみた。初めて知ったけど、映画になっているのは、原作の全7巻中2巻の途中ぐらいまでだった。原作は映画と異なる点も多く、トルメキアの対抗勢力として土鬼(ドルク)という集団が登場する。というか、トルメキア対土鬼の戦いが物語の軸になっている。その中でナウシカは遊軍的存在であり、途中からは戦いに与せず、もっと大きな目的のために突き進んでいく。映画の中ではちょっとやなヤツ(だけど根は悪くない?)なクシャナも、原作では、ナウシカとキャラがかぶってるんじゃないかってぐらい正義感にあふれている。


この原作は、正直言ってどう感想を書いていいかわからないぐらい完成された作品だった。未来への警鐘、絶望感が安易に描かれている本は世の中にごまんとあるだろう。でも、この本では、未来への絶望感や、人間の持つ業の哀しみみたいなものが、完璧に構築された物語世界のなかに凝縮されていて、「私たちの未来って、本当にこうなるのでは?」と思ってしまうほどのリアリティがあった。そして、その世界では、ナウシカはおおいなる母性だった。

宮崎駿の言いたかったことは、たぶんすべてこの作品につまっている。


BGM:風の谷のナウシカ/久石譲

    「久石譲」が芸名だということを最近知った。

麻野 一哉, 飯田 和敏, 米光 一成
日本文学ふいんき語り
★★★☆

「あの有名な文学作品を、もしゲームにしたらどうなる?」

そんなテーマで、現代の有名ゲーム作家3人がいろいろな名作・ベストセラー本を肴に語り合っているのが本書。ゲーム化しよう、という名目のもとに小説の骨格を解き明かしていく(?)。


もう、この本はコンセプト勝ち。面白くないわけがない。

ウェブでテキストの一部が無料公開されているのを(いまさら気づいて)読んで、翌朝即本屋へ。

こういう、まったく違う方向から本を楽しむっていうコンセプト大好き。

さぞや有能な編集者がついているのでしょう。


ゲーム作家のお三方は、読書経験が豊富だけど、(なんかこの人たち、異様に本読み過ぎててマニアック・・・)というほどではない、程良い「本好き」さんたち。一見、その辺で巷の「本好き」さんたちがしている雑談のように見せかけながら、しかし、鋭い視点で本の要所要所をえぐりとり、それをうまくゲームに落とし込むさまはやはりただものではない。


普段、友達と結構本の話で盛り上がる、というような人におすすめの本。


内容の一部が無料で読めるサイト→http://media.excite.co.jp/book/game/008/


追記:この本の第1弾『ベストセラー本ゲーム化会議』を読了。しかし、3人の会話が雑談寄りなのと、テーマになっている本のセレクトが悪かったので、いまいち乗り切れず。決してつまらなくはなかったんだけど、『日本文学・・・』に比べると落ちるなあ。


BGM:Jerk It Out/Caesars