「シルバー・レイクの岸辺で」
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
恩地三保子:訳
ガース・ウィリアムズ:画
福音館書店
1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズの第4巻。
プラム・クリークの傍に引っ越してから5年後。その間に妹のグレイスが誕生した。ローラ13歳の時に一家は猩紅熱にかかり、高熱のせいでメアリーは失明してしまった。
ローラはメアリーの目となり見たものをメアリーに伝え、かあさんの片腕として家の仕事を支えるようになる。
ある日ドーシアおばさんがやってきて、西部に鉄道を作る仕事をしている夫と一緒に働かないか、ととうさんを誘った。とうさんは鉄道工事現場の売店の管理と賃金計算の仕事に就くことになり、一家はプラム・クリークを離れてダコタ・テリトリイへ、シルバー・レイクの傍へ移る。
ローラ13歳から14歳の手前まで、シルバー・レイクの傍での生活を描いた物語。
★★★〈自分が読んだ動機〉★★★
子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。
★★★〈こんな人におすすめ〉★★★
・自給自足の生活を読みたい人。
・1800年代後半のアメリカの暮らしに興味がある人。
★★★〈登場人物〉★★★
登場人物(インガルス一家)
ローラ:主人公。活発で行動力のある、インガルス家の次女。
メアリー:長女。
キャリー:三女
グレイス:四女
とうさん(チャールズ)
かあさん(キャロライン)
ジャック:賢いブルドッグ
第1章:おもいがけないお客様
ある日ドーシアおばさんがやってきて、とうさんに西部のダコタ・テリトリイの鉄道工事現場で働かないかと誘った。メアリーが猩紅熱からまだ体調が回復していないため、とうさんだけが西部へ行き、ローラ達は2か月後に鉄道でとうさんの所へ向かうことになった。
第2章:ひとり立ち
とうさんが西部へ向かう日、年老いたジャックが天国へ旅立ってしまう。ローラは、一番の相棒のジャックを失いとうさんもいない中では、自分のことは自力でやりとおし、かあさんを助けていかなければならないと悟る。
第3章:汽車の旅
第4章:終点
晴れた9月の朝、一家は初めて汽車に乗り、ダコタ・テリトリイへ向かう。鉄道の終点トレイシイに降りてホテルで昼食をとり、とうさんの迎えを待つ。
第5章:鉄道工事現場
第6章:黒い小馬
とうさんの馬車に一日揺られてようやくたどり着いた鉄道工事現場。そこにはドーシアおばさんと夫のハイおじさん、いとこのレナとジーンがいた。翌朝ローラはレナと一バギーで洗濯物を取りにいき、午後にはレナとジーンと一緒に小馬に乗って大草原を駆け回った。
第7章:西部の始まり
一家は馬車に乗って、とうさんが働いているシルバー・レイクの工事現場へ向かう。工事現場では、ヘンリイおじさんといとこのチャーリイ・ルイザが働いていた。
第8章:シルバー・レイク
新しい家は工事現場の掘立小屋。近くのシルバー・レイクは、周辺に大沢地が広がり、野鳥が沢山住む美しい場所だった。とうさんは、あらくれ男の多い工事現場に近寄らないように、と娘たちに言った。
第9章:馬盗人
珍しく浮かない顔をしているとうさん。理由をきくと、鉄道工夫たちが馬泥棒狩りをすると言って殺気立っているのだという。
第10章:すばらしい午後
ローラはとうさんと鉄道を作っている現場を見に行く。自分の娘を淑女に育てたいかあさんは、あらくれ男と知り合いにならないよう、とうさんと一緒にそっと見に行くだけなら下工事現場に行って良い、と言った。
第11章:給料日
とうさんの仕事は売店の管理と工夫たちの賃金計算。工夫たちの給料は2週間分ずつ支払われるが、一か月分の給料を払うことを求める工夫たちは売店の周りを取り囲む。
第12章:渡り鳥の季節
湖にはたくさんの渡り鳥が下りてきた。とうさんとローラは渡り鳥のように西部へ飛んで行きたがったが、娘たちを学校に通わせ、ローラを先生にするためにここに定住することに決めたという。ローラは気落ちするが、メアリーは先生になれる望みがなく、ローラには先生になる以外にお金を稼ぐ手段はないのだった。
第13章:飯場のとりこわし
第14章:測量技師の家
第15章:最後の引きあげ
シルバー・レイクの鉄道工事が終わり、工夫たちが引きあげていく中、インガルス一家は測量技師たちの使っていた家で冬を越すことになる。機械や道具を春まで預かる代わりに、測量技師の家に住むことができ、家に蓄えられた食糧や石炭ももらえるという。
鉄道工事で働いていた最後の男が東部へ引き上げ、残ったのはインガルス一家のみ。一番近い人家からは40マイルも離れた大草原の真ん中で冬を過ごすことになった。
第16章:冬の日々
第17章:シルバー・レイクのオオカミ
家の仕事が終わるととうさんは罠の見回りや毛皮づくり、ローラたちは縫物や編み物、レース編みなどをして過ごし、晴れた日にはローラとキャリーは凍った湖の上で滑って遊んだ。
とうさんは板で碁盤と駒を作り、チェッカー(西洋碁)を教えてくれた。
月光が美しい夜、湖の上を滑りに行ったローラとキャリーは、大きなオオカミを見つける。
第18章:とうさん、土地を見つける
とうさんは開拓農地に最適な土地を見つけ、春になったら土地を申請することに決める。
第19章:クリスマス・イヴ
第20章:その夜の客人
第21章:メリイ・クリスマス
第22章:たのしい冬の日々
クリスマスの前には、皆家族へのプレゼントを手作りして家のあちこちに隠していた。
イヴの夜、鉄道工事現場で働いていたボーストさんと奥さんがやってきた。ボースト夫妻と迎えたクリスマス、朝にはお互いに贈りあったプレゼントを開け、夜には素晴らしいクリスマス・ディナー。
ボーストの奥さんはニュー・イヤーズ・ディナーを作ってくれたり、アイオワで流行している飾り棚の作り方を教えてくれたり、一緒に雪の中で遊んだり。ボースト夫妻と過ごす楽しい冬の日々。
第23章:「巡礼の道にあるもの」
ある日曜日の夜、プラム・クリークの教会にいたオルデン牧師がやってきた。オルデン牧師は、アイオワに盲人用の大学があることを教えてくれた。とうさんもかあさんもローラも、何とか費用を工面してメアリーを入学させたいと思う。
第24章:春のラッシュ
第25章:とうさんの賭け
3月になり、土地を手に入れるため入植者たちが押し寄せた。泊る所のない彼らのために、インガルス一家は食事代と宿代を取って毎日大勢の男を泊めることになり、ひどく忙しい毎日になる。とうさんも土地の申請に向かい、とうとう理想的な農地を手に入れた。数百人の男がごった返す事務所で、インディアン・テリトリイに住んでいた時の隣人エドワーズさんがとうさんの申請を助けてくれたのだった。
第26章:建築ブーム
第27章:町の暮らし
第28章:引越し
第29章:開拓小屋
入植者たちが建物を建て始め、たった2週間で新しい町ドゥ・スメットができあがった。一家はとうさんが町に建てた家に移る。しばらく町で暮らす予定だったが、土地泥棒が人を殺す事件が発生し、土地を盗られないよう、インガルス一家も急いで農地に開拓小屋を建てて引っ越す。
第30章:スミレのなかに
第31章:蚊
第32章:夜の闇のとざすとき
グレイスの姿が見えなくなり、皆必死に探すと、グレイスは草原の中の小さな窪地にいた。その窪地は、今はいなくなってしまったバッファローの泥浴び場だった場所だという。
暑い季節になると沢地で大量の蚊が発生した。窓に蚊よけ網を取り付けて網戸を作り、煙でいぶして対処する。夜にはとうさんがバイオリンを奏でた。
★★★〈大人になることを意識し始めるローラ〉★★★
プラム・クリークに移住してから5年後、一家はさらに西部へ移り、そこで農地を手に入れます。土地を求めて旅を続ける生活は終わり、農地の近くに新しくできた町ドゥ・スメットに定住することになります。
メアリーの失明、ジャックの死。メアリーの目に、かあさんの片腕になること。鉄道工事電場で初めて見るあらくれ男。将来のこと。新しくできた町に住むこと。
急激に環境が変化する中、13歳のローラは大人になることを意識し始めます。
ローラにも困難や責任がのしかかってくることで、とうさんかあさんに守られているばかりではなく、自分は何をするべきか、何ができるのかを考えるようになり、前作と比べて急速に成長していきます。とはいえまだまだ元気いっぱいのお転婆な女の子です。
★★★〈教師になるという将来の目標〉★★★
とうさんとかあさんは、ローラに教師になってほしいと言います。本当はメアリーを教師にするつもりで、メアリーもそれを望んでいましたが、失明してその道が絶たれたため、ローラを教師にすることを望んだのでした。
勝手に決められたローラの将来ですが、女性の働き口は限られていたのでしょう。物語に登場する女性の職業は、農家の主婦、雑貨店(夫婦経営)、服の仕立て屋、教師、ウェイトレス、工事現場の賄い担当くらいです。
町の暮らしが好きではなく、広々とした大自然の中で暮らしたい、さらに西部へ行きたいと思うローラはがっくりと気落ちしますが、それでもメアリーを盲学校へ入れる費用を稼ぐため、教師になろうと決意します。
現実を見据えて教師になると決めたローラは、目標に向けて生きるようになります。
★★★〈手作りのクリスマスプレゼント。素晴らしいハンドメイドの数々。〉★★★
手芸好きの私が最も印象的だったのが、クリスマスプレゼントを手作りする場面です。
材料は端ぎれ袋の中で見つけた布、手持ちの毛糸、使っていたものを再使用した布で、出来上がったプレゼントはどれも実用的なものばかり。
手編みのとうさんの靴下、キャリーのミトン、ボーストさんの手首はめ(リストウォーマー)。
絹の端ぎれから、とうさんのネクタイ。
以前使っていたカーテンから、ローラとかあさんのエプロン。
白いモスリンの端ぎれから、かあさんのハンカチ。
古い毛布から、メアリーの部屋履き。
白鳥のはぎ皮と、絹とウールの端ぎれからグレイスのコート。
布が高価だった時代は、どんな小さな布も無駄にせずに使っていたと言います。そのもったいない精神と、作るなら美しいものを作りたいという気持ちから生まれたのがパッチワーク。幼いローラとメアリーがキルトを縫う場面は今までもありましたが、13歳・14歳になった二人は裁縫・刺しゅう・編み物・レース編みといった手仕事ができるようになっています。メアリーは目が見えなくても縫い物・編み物ができるようになるのです。
お金をかけなくても素晴らしいプレゼントを用意できる、と教えてくれるインガルス一家のクリスマス。丁寧な手仕事・針仕事で素敵なプレゼントを作り上げる場面を見ると、端ぎれや使い古した布製品が宝の山に見えます。
こんなだから端ぎれを捨てられずに溜まっていく一方なんですけどね・・・
手作り・ハンドメイドが「生活に欠かせないスキル」から「一部の人の趣味」へと変わり、プレゼントも買うことが多くなった時代、手間をかけて手作りする機会は少ないでしょう。
市販品の方がずっときれいな仕上がりであることも多いのは事実ですが、贈る人のことを考えて手間と時間をかけて丁寧に作られたプレゼントは、市販品とはまた違う重みと暖かみがあると思います。
もちろん手作りのプレゼントが残念な仕上がりであれば、嬉しさより困惑の方が大きくなってしまうので、喜ばれるプレゼントを手作りするにはそれなりの技術と丁寧さが必要だ、とインガルス一家を見て改めて思いました。
クリスマスの場面は、手芸・ハンドメイドが好きな人にはとても魅力的に映ると思います。
★★★〈魅力的なクリスマス・ディナー〉★★★
シリーズの恒例となっているクリスマスもまた印象的です。ボースト夫妻と共に迎えたクリスマス・ディナーは、
「大きなウサギのローストとパンと玉ねぎのスタッフィング。マッシュポテト。グレイビー。ジョニィ・ケーキ。ビスケット。きゅうりのピクルス。干しリンゴのアップル・パイ。ポップコーン。」
ボーストの奥さんが用意した、型破りで珍しいニュー・イヤーズ・ディナーは、
「カキのスープ・クラッカー・ビスケット・蜂蜜と干しラズベリーの砂糖煮・ポップコーン。」
本作で初めて登場したのがアップル・パイとポップコーン。いかにもアメリカな食べ物ですが、この時代にはすでにメジャーなお菓子だったようです。読んでいると久しぶりに食べたくなってきました。
★★★〈一家が暮らす環境の変化〉★★★
挿絵を見ると分かりますが、新しくできた町ドゥ・スメットはアメリカの西部劇に出てくる町そのもの。人里離れた場所から村へ、村から町へと一家の暮らす環境は大きく変化し、この巻から食べ物をはじめ登場するものが段々と近代化・工業化したものが増えてくる印象です。
とうさんのスーパーマンぶりも健在。農作業、狩猟、売店の管理、労働者の賃金計算、家一軒を建てる大工仕事などあらゆる仕事をこなし、どんな場所に行っても逞しく生きていくとうさんを中心に、一家はまとまっています。
★★★〈ローラの未来の夫との出会い〉★★★
物語の終盤には、後にローラの夫となる青年アルマンゾ・ワイルダーも、ほんの一瞬だけ登場します。
★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★
多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合ってえると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。
1・大きな森の小さな家
2・大草原の小さな家
3・プラム・クリークの土手で
4・シルバー・レイクの岸辺で
5・農場の少年
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
福音館書店
恩地三保子:訳
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6・長い冬
7・大草原の小さな町
8・この楽しき日々
9・はじめの四年間
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
岩波少年文庫
谷口由美子:訳
★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★
「わが家への道」
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
谷口由美子:訳
岩波少年文庫
「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」
ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ
ウィリアム・アンダーソン:文
レスリー・A・ケリー:写真
谷口由美子:訳
求龍堂