「たんぽぽさんの詩」全3巻

西岸良平:著

双葉文庫

 

 

イラストレーターのたんぽぽ、カメラマンの慎平、娘のスミレ。

昭和の東京で、貧乏だけど明るく暮らす三人家族の生活を描いた短編集。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

父親が西岸良平氏の漫画を持っていて勝手に読んだのがきっかけです。最初は「三丁目の夕日」にはまり、その後父の本棚で「たんぽぽさんの詩」の一巻を見つけて、続きが気になって全巻買いそろえました。

 

 

★★★〈著者について〉★★★ 

西岸良平氏は一目でわかる独特の絵柄で、人情溢れるノスタルジックな作風の漫画家です。

代表作「三丁目の夕日」は1974年から連載されている長寿作品で、映画化され大ヒットを記録したので、映画で西岸氏の作品に触れた人も多いのではないでしょうか。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・西岸良平氏の作品が好きな人

・ノスタルジックな昭和の物語を読みたい人

・ほのぼのした家族の話を読みたい人

 

 

★★★〈登場人物〉★★★

山田たんぽぽ:フリーのイラストレーター。天真爛漫でおっちょこちょいな女性。

山田慎平  :駆け出しのカメラマン。穏やかな家族思いの男性。

山田スミレ :たんぽぽ・慎平の娘。優しい性格でしっかり者。

トラ    :お金持ちの飼い猫だったが一家が夜逃げして置き去りにされ、山田家の一員となる。

 

 

★★★〈ほのぼのした日常を描いた短編集〉★★★

フリーのイラストレーターのたんぽぽ、カメラマンの慎平、娘のスミレ。

貧乏だけど明るく暮らす三人家族の生活を描いた短編集です。

 

一話4ページという短編で一家の暮らしを描いています。内容は、

よもぎもちを作る、ハイキングへ行く、家でご馳走を作る、友人が遊びに来る、夜中に雪が降る、蚊帳を吊る、映画を見に行く、夜中に夫婦でコーヒーを飲む、セール品のミンクのコートに憧れる、十五夜にウサギが遊びにくる、読書にはまる、雷を怖がる、心霊写真が撮れた。

などごく平凡な日常生活を描いたものです。

 

びっくりするような出来事はあっても、大きな事件やドラマチックな展開もない、「三丁目の夕日」や「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のような、ほのぼのした日常を描いた短編集です。

 

 

★★★〈ノスタルジックな古き良き昭和時代〉★★★

作品の舞台は東京。1977~1986に連載された作品なので、思いっきり昭和の世界です。

 

障子やふすま、コタツのある和室、喫茶店、商店街(レジ袋が紙袋!)、ディスコでフィーバー、黒電話、ハンバーガー自販機(初めて知りました)、クリーニング屋のご用聞き、近所で凧揚げなど、昭和の時代には当たり前だった生活が描かれています。

それらは懐かしくもあり、逆に今では珍しく新鮮に感じます。

 

「三丁目の夕日」の舞台は昭和30年代なので、「たんぽぽさんの詩」とは生活は少し違いますが、ノスタルジックな昭和の雰囲気は共通しているので、「三丁目の夕日」が好きな人はきっとハマる作品だと思います。

 

個人的に好きなのがたんぽぽのファッションです。たんぽぽはお洒落な美人さんで、安物の服でも素敵に着こなすセンスの持ち主。彼女のレトロなファッションがとても可愛いのです。またたんぽぽお手製の刺繍や手編みのセーター、手作りのワンピースも可愛くて、昭和レトロが好きな人には魅力的に映ると思います。

 

 

★★★〈貧しいけど明るく楽しい一家〉★★★

4畳半のアパートから、4畳半2間の借家に一家が引っ越す話から始まります。

 

イラストレーターのたんぽぽとカメラマンの慎平。

若い二人にはあまり良い仕事がなく、忙しい時もあれば全く仕事の無いときもある、収入の安定しない貧しい暮らしです。たんぽぽは仕事が忙しい時には徹夜続きでお風呂にも入れず、慎平やスミレが家事をしてカップ麺生活が続くこともあります。

 

しかし3人とも明るい性格で、貧乏を苦にしません。

たんぽぽと慎平は夫婦喧嘩をすることもあるけど恋人同士のように仲が良く、時には新婚気分になって楽しむこともあります。

貧乏で多忙な夫婦の元に育ったせいか、娘のスミレはとてもしっかり者で、両親よりしっかりしているのではということもしばしば。両親譲りの優しい性格の女の子です。

 

お金が無くても、忙しくても、仕事で悩んでも、困ったことが起きても、家族で笑って支え合って前向きに生きていく。三人ともとても人柄の良い、本当に理想的な幸せな家族だと思います。

 

 

★★★〈ほのぼの、ほんわか、ほっとする物語〉★★★

「三丁目の夕日」もほのぼのした日常の物語ですが、時には不思議な出来事や事件が起きたり、切ない話もあります。

しかし「たんぽぽさんの詩」はほのぼの、ほんわかした作品ばかりです。お金や仕事のことで悩んだりトラブルに見舞われることはあっても、シリアスになりすぎることはありません。暗さも殺伐とした空気もなく嫌な人間も出てこない(少々面倒な人はいますが)ので、読んでいて安心感があり、疲れた時に読むとほっとします。

 

貧乏暮らしのたんぽぽ一家ですが、2人の頑張りで段々と仕事が軌道に乗って生活に余裕ができ、スミレも幼稚園に入り小学生になり、新しい家に引っ越して、と一家の暮らしも少しずつ良い方向へ変化していきます。

 

バブル崩壊前のためか不景気の悲壮感がなく、たんぽぽ一家も他の人物達も「頑張れば未来はきっと良くなる」という希望を持っているように感じます。

 

今とは全く違う生活ですが、「たんぽぽさんの詩」も「三丁目の夕日」も、時代が変わっても決して変わることのない普遍的な人間の幸せや生き方が描かれていて、それが多くの人を惹きつけているのだと思います。

殺伐とした時代だからこそ、貧しくとも明るく前向きに生きるたんぽぽ一家が眩しく見えるのかもしれません。

 

 

★★★〈もっと評価されても良い作品〉★★★

全巻揃えたいと思ってネットで探しましたが、ネット通販で見つかったのは古本と電子書籍ばかり。仕方なく古本で揃えましたが、いまだに古本しか検索にヒットしないので、絶版になっているのかと思います。

 

大きなインパクトのある作品ではないけれど、読んでいてほっとするとても良い作品です。このまま絶版で忘れ去られてしまうのはあまりに勿体ないので、ぜひとも再版して多くの人に読んでほしいと思います。

 

 

★★★〈終わりに〉★★★

昭和の東京で明るく暮らす一家の物語です。疲れた時に読むとほっとする作品です。