【ネタバレなし感想】『幽霊塔』江戸川乱歩|財宝が眠る屋敷と謎の美女を巡る本格ミステリー


★★★〈作品情報〉★★★
書名:『幽霊塔』
著者:江戸川乱歩
出版社:創元推理文庫


財宝が隠されていると噂される古い屋敷。そこで謎多き美女に出会い、私は次第に彼女に惹かれていく。しかし屋敷では次々に事件が起きる。彼女への愛と疑念の間で揺れながら、私は事件の真相に近づいていく。
『幽霊塔』は、財宝が眠る屋敷と謎の美女を巡る、江戸川乱歩の本格ミステリー小説です。

最初に、作品情報をどうぞ。

 

 



★★★〈自分が読んだ動機〉★★★
江戸川乱歩氏の作品が大好きになり、彼の作品を手当たり次第に読み漁っていた時に出会った一冊です。


★★★〈著者について〉★★★ 
江戸川乱歩氏は大正から昭和初期にかけて活躍した、推理小説、恐怖・怪奇小説を得意とする作家です。児童向けから大人向けまで数多くの作品を発表し、現代でもドラマや派生作品が発表されるなど、時代を超えて愛されている作家です。
読んだことはなくとも名前は知っている、という人も多いのではないでしょうか。


★★★〈こんな人におすすめ〉★★★
・江戸川乱歩が好きな人
・ミステリー小説が好きな人
・三角関係の修羅場のある恋愛物語が好きな人
・大正時代が舞台のレトロな雰囲気の小説を読みたい人
・ミステリーと恋愛が組み合わさった物語が好きな人

もし少しでも気になった方は、作品情報をこちらから確認できます。

 

 

 


★★★〈主な登場人物〉★★★
北川光雄 :主人公の青年。26歳。
児玉丈太郎:光雄の叔父。幼い頃に両親を亡くした光雄の親代わりとなる。元判事。
三浦栄子 :光雄の許嫁。
野末秋子 :時計塔で出会った謎の美女。
黒川太一 :秋子に執着する弁護士。
肥田夏子 :秋子の同伴者。猿を連れた肥った婦人。
長田長造 :かつて時計塔に住んでいた老婆の養子。


★★★〈あらすじ〉★★★
大正時代のはじめ、私の叔父は老後の住まいとして徳川時代末期に建てられた大富豪の別荘を買い取った。
機械いじりの好きな大富豪が建てたその西洋館には大きな時計塔があり、どこかに秘密の通路があって莫大な財産が隠されているという噂があった。
しかしその大富豪本人は自分が作った迷路の中に迷い込んで命を落としてしまい、それ以来この時計塔は幽霊塔と呼ばれている。6年前には、当時幽霊塔に住んでいた老婆が養女によって殺される事件が起きていた。

そんな曰くつきの屋敷に叔父と私が引っ越す直前、私は幽霊塔で謎の美女、野末秋子と出会った。塔の時計の巻き方は誰も知らなかったのに、彼女は時計を巻いて針を動かして見せたのだ。
交流するうちに私は彼女に惹かれ、叔父も彼女の才気に惚れ込んで自分の秘書として雇い、やがて養女として迎え入れた。私も叔父も、私と秋子の結婚を望んでいたが、彼女には何やら深い事情があるようで、自分は結婚できる身の上ではないという。

やがて屋敷で様々な事件が起こる。
犯人は誰なのか、事件に秋子が関わっているのか、彼女は過去に一体何があったのか、疑念は深まるばかり。彼女を守るために動いた私も、事件に巻き込まれていく。


★★★〈原作は江戸川乱歩ではなく、翻訳小説〉★★★
原作はイギリス人作家ウィリアムソン氏の『灰色の女』という小説です。それを黒岩涙香氏が翻訳し『幽霊塔』として発表した小説を、さらに江戸川乱歩氏が書き換えたものが本作です。

『灰色の女』も黒岩涙香版『幽霊塔』も未読ですが本書の解説によると、物語の舞台をイギリスから長崎へ変更し、登場人物もイギリス人から日本人へ置き換えられています。またストーリーの骨格はそのままに、ところどころ江戸川乱歩氏らしいアレンジが加えられているそうです。

大量の蜘蛛を飼育している不気味な家や、佝僂病の少年、人間改造術など、江戸川乱歩氏独特の不気味さが随所で光っています。
オリジナルではなくリライト版でありながら、とても「江戸川乱歩らしい」物語となっています。


★★★〈『幽霊塔』の魅力:大正時代の古風な時代設定〉★★★
物語の舞台は大正時代のはじめ、長崎の田舎町です。

洋装だけでなく着物姿の人もまだ多い時代。
財宝が隠されているという古めかしい西洋館と時計塔。
地下の迷宮。
聖書に書かれた財宝の在りかを示す呪文。
人間を生まれ変わらせる「救い主」。
時代を感じる言葉遣い。

大正時代らしいレトロで古風な雰囲気が漂っています。また『幽霊塔』の発表は昭和12年のため、文体もやはり時代を感じさせます。現代小説とは一味違う、古風な雰囲気を楽しめる作品です。
それでも読みにくさを感じないのが江戸川乱歩氏の文章の特徴です。「昔の物語だから読みにくい」とならず、とても読みやすいのです。


★★★〈謎多き美女を巡るミステリー〉★★★
物語の語り手は青年:北川光雄ですが、物語の中心となるのは謎の美女、野末秋子です。
完璧な美貌、凛とした気品と知性を持ち合わせた女性で、いつも手袋や腕輪で左手首を隠しています。

「われとわが心に誓いを立てて、どうしても果たさなければならぬ使命を持っているのです。」(38ページ)
「いろいろ深い事情がありまして、人の妻になれる身の上ではないのです。」(175ページ)

複雑な過去を抱えていることを匂わせながら、自分の過去を一切語りません。何やら深い事情があると察しながら、光雄は秋子に惹かれていきます。
しかし屋敷で次々に事件が起き、秋子が事件に関わっているかもしれないと疑わざるをえない状況になり、さらに秋子の過去が明らかになることでますます疑念が深くなっていきます。

秋子は善人なのか、それとも悪人なのか。
彼女を守るために事件の真相を探る光雄ですが、立て続けに事件が発生して光雄自身も命の危険に晒されます。次々に事件が起こって登場人物たちが巻き込まれていく展開はドキドキ感があります。


★★★〈恋愛物語としても面白い〉★★★
次々に事件が起きるミステリー小説ですが、恋愛物語としても面白いです。
光雄が秋子に惹かれる一方で、秋子もまた光雄に好意を寄せています。

光雄は秋子に結婚を申し込みますが、「私には深い事情があり結婚はできない」と言われてしまいます。それでも「いつか結婚しても差し支えない状況になったら僕と結婚すると約束してくれませんか」と食い下がり、「そんな時は永久に来ないけれど、約束することであなたの気がすむのなら」と彼女は悲しそうに約束します。

強引に結婚を迫ることも、深い事情について問い詰めることもせず、いつまでも待つと言い切る。物語後半で秋子の数奇な人生を知り苦悩するものの、それでも彼女を守るために危険を顧みずに奔走し、最後には死を覚悟で秋子を救い出そうとする。
血気盛んな若者らしい無鉄砲さはありますが、光雄はとても一途で誠実な青年です(しかも美男子の設定です)。

若い二人の恋はとても純粋で、不気味な事件が連続する中で、二人の恋の純粋さが際立って感じられます。


★★★〈三角関係の修羅場もあり〉★★★
光雄と秋子が結ばれるためには、秋子の使命以外にも弊害があります。それは2人に執着する人物がいてそれぞれ三角関係になっていること。

光雄には栄子という許嫁がいますが、美人なものの性格が悪く、光雄が秋子に惹かれていることに気付くと露骨に嫉妬して嫌がらせを繰り返します。そして秋子の素性を怪しみ過去を暴こうとします。
さらに事故に見せかけて秋子を殺害しようとし、失敗して失踪した後は、幽霊塔で殺された老婆の養子の婚約者として幽霊塔に舞い戻り、それでもなお光雄に復縁を迫るという、実に分かりやすい悪女キャラです。

また秋子に執着する黒川という弁護士もいます。
秋子の過去を知る、彼女の「どうしても果たさなければならぬ使命」の協力者なのですが、秋子に恋するあまり理性が飛びつつあります。
手助けしている立場を利用して秋子に結婚を迫り、秋子が光雄に惹かれていることを知ると、「結婚できないなら不幸にしてやる、それが嫌なら秋子を渡せ」と光雄を脅迫する始末。まるでストーカーのような理性崩壊を見せます。

光雄と秋子がドロドロな三角関係にどう決着をつけるのか、こちらも見所です。


★★★〈江戸川乱歩の作品は、創元推理文庫がおすすめ〉★★★
江戸川乱歩氏の作品は多数の出版社から刊行されていますが、創元推理文庫が一番のおすすめです。理由は二つあります。

・言葉遣いが原文のまま掲載されている。
・作品が発表された当時の挿絵を掲載している。

今の時代では不適切とされる言葉遣いも、修正せずに原文のまま載せているので、当時の時代性が感じられます。また当時の挿絵があることで時代の雰囲気が一層強くなり、江戸川乱歩氏の世界観をそのまま味わうことができます。

創元推理文庫からは『乱歩傑作選』として20作品が刊行されています。
全て当時の挿絵を掲載し、言葉遣いも原文のまま修正していません。江戸川乱歩氏の作品を探している方には、創元推理文庫を断然おすすめします。

未読ですが、岩波書店からはジブリの宮崎駿監督が表紙・カラー口絵を描いたバージョンが発行されています。表紙に描かれた秋子がまさにジブリの美女です。時計塔の巨大な歯車など機械仕掛けの描写も素晴らしく、いつか手に取ってみたいと思っています。

 

 

 


★★★〈終わりに〉★★★
時代を感じるレトロな雰囲気、事件が連続する緊迫したミステリー、そして事件の中で芽生える恋。
ミステリーと恋愛が見事に組み合わさった、とても完成度の高い物語です。古風な言葉遣い、レトロな挿絵も相まって、現代小説とは違う魅力を味わうことができます。
江戸川乱歩氏のファンはもちろん、初めて読む方でもきっと楽しめる一冊です。
もし気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。