「農場の少年」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

恩地三保子:訳

ガース・ウィリアムズ:画

福音館書店

 

 

1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズの第5巻。

後にローラの夫となるアルマンゾ・ワイルダーの、農場での少年時代を描いた物語。

 

ニューヨーク州の北部、マローンの町の郊外にある農場。9歳の少年アルマンゾは、父さん、母さん、兄のローヤル、姉のイライザ・ジェインとアリスと暮らしている。

ワイルダー家は多くの馬・牛・豚・羊・鶏と広大な農場と、一帯で一番大きな納屋を持つ家だった。

学校へ行くよりも、父さんを手伝って牛や馬の世話や畑仕事をする方が好きなアルマンゾの一番の望みは、自分で子馬を仕込み、バギーにつけて自分で走らせること。しかし父さんは、幼いアルマンゾが子馬に触れることを許さなかった。

アルマンゾ9歳から10歳まで、農場での生活を描いた物語。

 

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・自給自足の生活を読みたい人。

・1800年代後半のアメリカの暮らしに興味がある人。

・DIY・ハンドメイドが好きな人。

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

第1章:学校

もうすぐ9歳になるアルマンゾは、兄のローヤル、姉のアリスとイライザ・ジェインと一緒に、初めて学校へ通う。

 

第2章:冬の日暮れ

第3章:冬の夜

学校から帰るとアルマンゾとローヤルは父さんと一緒に家畜の世話や乳しぼり、その後家族そろっての夕食。

夕食後は、アルマンゾとローヤルは革靴の手入れ、父さんは翌日の家畜の餌の用意。

9時まではストーブを囲んでポップコーンをリンゴやリンゴ液と一緒に食べながら、思い思いに過ごす。夜中、父さんは家畜が凍死しないよう、家畜を起こして体を温める。

朝は5時に起きて乳しぼりをした後に朝食をとる。

 

第4章:思いがけない出来事

学校には、教師に怪我をさせて追い出した悪童が5人いた。5人は今回も新たに着任したコアーズ先生を追い出すつもりだったが、コアーズ先生は牛に使う鞭を使って5人を追い出した。

 

第5章:誕生日

アルマンゾ9歳の誕生日プレゼントは、子牛用くびきと小型の橇。「子牛馴らし」ができる年齢になったのだった。

 

第6章:氷蔵の仕事

寒さが厳しい日、池の厚い氷を切り出して氷蔵へ運び、おがくずを詰め込んだ。おがくずに埋めた氷は、夏になっても溶けないのだった。

 

第7章:土曜の夜

土曜日は母さんが1日中パンやケーキ、パイを焼いたり、ドーナッツを揚げる日。そして夜に行水をする日。

 

第8章:日曜日

日曜日は安息日。晴れ着を着て教会へ行き、昼食のごちそうを食べた後は、ただずっと座っている日。

 

第9章:子牛ならし

子牛を馴らす訓練を再開したアルマンゾ。ある日フランス人の子どもが遊びに来た時、子牛に橇を曳かせてみた。

 

第10章:冬から春へ

雪が溶け始めると、カエデの樹液を煮つめてメープル・シュガーとメープル・シロップを作る時期。ある日ニューヨークからジャガイモの仲買人がマローンの町に来たので、皆でジャガイモを荷馬車に積みこんで出荷し、その後は家の中の大掃除をした。

 

第11章:春

春は種まきの季節。朝から日暮れまで、広い畑を耕してジャガイモやトウモロコシ、麦やニンジンなどの種をまく。

 

第12章:金物行商人

行商の金物屋がやってきた。金物屋は母さんが1年間ためておいた端ぎれやぼろ布と、牛乳用の大鍋とバケツ、水きりに網じゃくし、フライパンを交換した。そしてアリスとイライザ・ジェインには小さなケーキを焼く焼き皿、アルマンゾには赤塗りのラッパをくれた。

 

第13章:ふしぎな犬

仲買人に子馬を打った夜、やせた犬が迷い込んできたので、器に食べ物を入れてやった。朝になって、その犬が夜中に泥棒から守ってくれたのだと知る。

 

第14章:羊の刈りこみ

暖かい日、羊を川に入れて石鹸で洗って毛を刈り、毛束を麻ひもで巻いて屋根裏へ。

 

第15章:遅霜

春から夏にかけての仕事は多い。羊毛の染色。石鹸づくり。トウモロコシの種まき、ニンジンの間引き、畑の鍬入れ。いちご摘み。ある晩、7月なのに霜が降り、一家総出でトウモロコシの苗に水をかけた。凍ったトウモロコシを救うには、日の光が当たる前に水をかけるしか手段がないのだった。

 

第16章:独立記念日

7月4日の独立記念日。一家は正装して町へ出かける。

 

第17章:夏

アルマンゾは、父さんに教わったミルク仕立てのカボチャを作ってみた。

日曜はバターづくりのため、アルマンゾがミルクの攪乳する役。

夏の日の楽しみは釣りやベリー摘み。母さんと女の子たちはベリーでジェリー・ジャム・プリザーブ・ベリーのパイを作る。

 

第18章:るす番

父さんと母さんはおじさんの家へ行き、一週間子どもたちだけで留守番をすることになった。大量の砂糖を使ってアイスクリームを作ったり、パウンドケーキを焼いたり、畑のスイカを取って食べたり、客間で遊んだり。

2人が帰ってくる前日、アルマンゾはイライザ・ジェインと言い争いになり、客間の壁紙にストーブのつやだしの墨をつけてしまう。

 

第19章:はやい取り入れ

暑い季節の干し草づくりの時、母さんは冷たいエッグ・ノッグを作ってくれた。

干し草づくりが終わると麦や野菜の取り入れラッシュ。母さんと女の子たちはピクルスやプリザーブを作り、トウモロコシやリンゴを干したり、麦わら帽子作りのために麦わらを編んだり。誰も休む暇もないほど忙しい。

ある日バターの仲買人が来て、母さんの作った上質のバターを高値で買っていった。

 

第20章:おそい取り入れ

空気が冷たくなってくると、カボチャやリンゴ、玉ねぎ、カブ、ジャガイモ、ニンジンなどの取り入れ。いつになく寒さの訪れが早く、地面が凍る前に急いでジャガイモを取り入れた。

 

第21章:群博覧会

一家は晴れ着を着て群博覧会へ。博覧会ではたくさんの種類の馬を見たり、ゲームや催し物があったり、教会の食堂では昼食のごちそうが用意されていた。

3日間ある群博覧会の2日目、アルマンゾが出品したミルク仕立てのカボチャは一等賞をとった。

 

第22章:冬のおとずれ

冬の食料を蓄える時期。ブナの実を集め、豚と牛を殺して靴を作るための牛革を剥ぎ、塩漬け肉やソーセージ、ラード、ミンス・ミート、頭肉チーズを作り、週の最後には一年分のロウソク作り。

 

第23章:靴づくり

ローヤルとイライザ・ジェイン、アリスはマローンの町の高等学校へ行ってしまった。

ある日、毎年やってくる靴屋が来て、皆の足の寸法を測って新しい靴を作った。

靴の寸法を測るために家に帰ってきたローヤルは、自分は商人になるつもりだと言った。

 

第24章:小さな二連橇

父さんはアルマンゾに丸木を運ぶための二連橇を作ってくれた。

 

第25章:脱穀

吹雪の日の仕事は、からざおと唐箕で小麦やカラス麦、豆やブナの実を父さんと2人で脱穀すること。

 

第26章:クリスマス

クリスマスの前日は大掃除や料理、食器磨きなどの用意。クリスマスの朝、靴下には素敵なプレゼントが入っていた。おじさんおばさん、いとこ達もやってきて、一年で最高のごちそうの後は雪の中で遊びまわった。

 

第27章:丸木運び

初めて自分の小さな橇に自分の子牛をつけ、森の奥から丸木を運ぶ仕事をした。

 

第28章:トンプソンさんの財布

干し草を売りに父さんと町へ。アルマンゾは初めて干し草を売る交渉をした。町へ行く途中、アルマンゾは道端に落ちていたトンプソンさんの財布を拾う。

 

第29章:農場の少年

馬車を作っている店のパドックさんが、アルマンゾを馬車づくりの職人の見習いにする気はないか、と父さんに持ちかけた。

 

 

★★★〈ローラの夫となるアルマンゾ・ワイルダーの少年時代〉★★★

この巻の主人公はローラではなく、後にローラの夫となるアルマンゾ・ワイルダーで、彼が

生まれ育った農場での生活を描いた物語です。

 

アルマンゾがローラと出会った時、彼は馬を育てて走らせることが大好きな農夫でした。

ローラと結婚後も、苦労を重ねながら農場を切り盛りし、生涯を農夫として生きた人生の最初期。父さんのような立派な農夫になりたいと明確な意思を持ち、父さんの仕事を何でも覚えようとする少年の物語です。

 

 

★★★〈大規模農園での、自給自足の生活〉★★★

「農場の少年」は、「大きな森の小さな家」と印象が似ています。

どちらも一人の少年・少女を中心に農家の一年の暮らしを描いた作品で、物語でありながら、農家がどの季節に何をしているのかを記録した日誌のような、丹念な生活の描写が印象的です。

 

大きな違いは、ワイルダー家が育てている作物・家畜がとても多く、より自給自足に近い暮らしをしていることと、経済的に豊かであることです。

インガルス家は、森や草原などを開墾して小屋を建てて畑を作り、よりよい土地を求めて移住してまた土地を開墾する、という開拓民で、生活は貧しい方でした。

一方でワイルダー家は大規模な農場を経営し、そこで取れた作物・家畜、母さんが大量に作ったバターなどを売って大きな利益を上げている裕福な家庭です。

 

 

★★★〈裕福な暮らしが伺える、かなり豪勢な食事。〉★★★

ワイルダー家の広大な農地、育てている穀物・野菜・家畜の数の多さ、広い家や納屋、家具・調度、母さん自慢のきれいな客室、3人の子どもを高等学校へ入れていることなどから、両家の生活の違いがはっきりと見て取れます。

 

それが如実に表れているのが、物語に出てくる食事の違いです。

経済的余裕があることに加え、農場で取れる卵・ミルク・肉を存分に使えたこともあり、インガルス家より遥かに品数もボリュームも多い贅沢なメニューが並びます。

 

ワイルダー家の朝食は、

クリームとメープル・シュガーをかけたオートミール、炒めたジャガイモ、そば粉入りホットケーキ、ドーナッツ、アップルパイ、プリザーブ、ジャム、ジェリー。

 

アルマンゾが学校へ持って行ったお弁当は、

バタつきパン、ソーセージ、ドーナッツ、リンゴ、アップルパイ。

 

日曜日のごちそうは、

メンドリが三羽入ったチキンパイ、ライ麦パン、ベイクドビーンズ、ビーツのピクルス、カボチャのパイ、アップルパイ、チーズ。

 

クリスマスのごちそうは、

リンゴを口に咥えた豚と詰め物をしたガチョウの丸焼き、クランベリーのジェリー、マッシュポテト、大カブのマッシュ、焼いたカボチャ、パースニップの炒め物、リンゴと玉ねぎを炒めたの、砂糖煮のニンジン、パンプキンパイ、クリームのパイ、ミンスパイ、フルーツケーキ。

 

とにかく炭水化物・糖質・肉の多いことに驚きます。

群博覧会での食事も、肉や野菜のメニューに加えてパン屋か!と突っ込みたくなるほど多くの種類のケーキやパイが並んでいます。

厳しい労働に明け暮れる農家ではこのような食事が適していたのでしょう。

 

そして食事の中でよく出てくるのがアップルパイ。

ローラに関する本にあった、ローラとアルマンゾの娘ローズの言葉で、「アルマンゾは食事の仕上げにアップルパイを食べるのが好きだった」というものがありました。

アップルパイ=アメリカのイメージがありましたが、やはりアメリカの伝統的なお菓子(食事)だったようです。ワイルダー家の食事の場面を読むと、久しぶりにアップルパイが食べたい、パンやケーキを焼きたいと思ってしまいました。

 

物語に登場するおいしそうなメニューを見ると、アメリカが肥満体国になったのは、厳しいの作業・に暗い労働がなくなった今でもこのような伝統的食文化が残っているためでは・・・と思ってしまいます。

 

 

★★★〈女性の手仕事の描写も多い〉★★★

アルマンゾが主人公なので男性達の仕事を中心に語られますが、農作業を手伝いながら収穫した作物を干したりピクルスやプリザーブにして保存したり、カラス麦のわらを来年の帽子作りのために編んだりするのは女性達です。

農作業、炊事、掃除、洗濯、裁縫といった毎日の家事の他に、

・帽子や保存食を作る。

・羊毛から毛糸を紡ぎ、木の皮や根を煮出した液で染め、機織り機で布を織る。

・手織りの布や店で買った布で服を作る。

・ミトンや靴下、レースの衿、正装用の黒いレースの指なし手袋を編む。

・服やボンネットが新しく見えるよう、ほどいて汚れを取ってアイロンをかけてから裏返して縫い上げる。

 

等々、これだけの仕事をこなすなんて・・・と驚くばかりです。

恐ろしく大変な農場の女性の生活ぶりが伝わってきますが、それでも生活に必要な物を自分で作り上げる場面は、手芸好きの私には魅力的です。

 

 

★★★〈裕福でも贅沢はしない生活〉★★★

裕福なワイルダー家ですが、決して贅沢な生活をしている印象はありません。

インガルス家と共通するのは「自分たちでできること、作れるものは、お金で買わない」「決して無駄を出さない」「余計なものを欲しがらない」という一貫した姿勢。

 

必要なものは市販品に頼り、壊れたり汚れたり飽きたりしたら捨てるのが当たり前。そんな大量生産・大量消費の現代とは真逆の、節約・工夫し、ひとつひとつの物を無駄なく丁寧に長く使い続けるのが当たり前の「丁寧な暮らし」。

そういった生活スタイルも、このシリーズが長く愛されている理由の一つだと思います。

 

「夏の恵みのすべてを、すこしでもそまつにはできない。リンゴの芯までが、酢を作るためにとっておかれた」(261ページ)

 

決して浪費をしない生活にも憧れます。生活が厳しくなる一方の現代で生きる一般庶民のわが家も、この姿勢を見習わなければ、と思いました。

 

 

★★★〈ターシャ・テューダーと通じる生活〉★★★

アメリカの絵本作家ターシャ・テューダーは、1800年代の自給自足の生活を送り、その様子を描いた写真集や絵本を発表しています。ターシャの生活スタイルや手仕事、使っている道具はインガルス家・ワイルダー家とほぼ同じだと思います。

バターづくりの道具や機織り機、糸紡ぎの道具など、当時の暮らし・仕事ぶりを絵や写真で見たいという人は、ターシャ・テューダーの写真集・絵本もおすすめです。

 

 

★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★

多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合ってえると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。

 

1・大きな森の小さな家

2・大草原の小さな家

3・プラム・クリークの土手で

4・シルバー・レイクの岸辺で

5・農場の少年

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

福音館書店

恩地三保子:訳

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6・長い冬

7・大草原の小さな町

8・この楽しき日々

9・はじめの四年間

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

岩波少年文庫

谷口由美子:訳

 

 

★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★

「わが家への道」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

谷口由美子:訳

岩波少年文庫

 

 

「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」

ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ

ウィリアム・アンダーソン:文

レスリー・A・ケリー:写真

谷口由美子:訳

求龍堂