「プラム・クリークの土手で」
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
恩地三保子:訳
ガース・ウィリアムズ:画
福音館書店
1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズの第3巻。
インディアン・テリトリイを旅立った一家は、ミネソタ州の大草原の中、プラム・クリークの土手に作られた横穴小屋・牡牛・土地を手に入れ、そこに落ち着いた。
そこは町に近く、ローラとメアリーは町の学校に通うことになる。
人の少ない土地で育ったローラにとって初めて、大勢の人間と関わる暮らしが始まった。
ローラ7歳から8歳まで、プラム・クリークの傍での生活を描いた物語。
★★★〈自分が読んだ動機〉★★★
子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。
★★★〈こんな人におすすめ〉★★★
・自給自足の生活を読みたい人。
・1800年代後半のアメリカの暮らしに興味がある人。
★★★〈登場人物〉★★★
ローラ:主人公。活発で行動力のある、インガルス家の次女。
メアリー:長女。
キャリー:三女
とうさん(チャールズ)
かあさん(キャロライン)
ジャック:賢いブルドッグ
第1章:土手に扉が
第2章:土の中の家
とうさんは馬と馬車の幌を、プラム・クリークに住んでいた人の家・土地・牡牛と交換した。
一家は壁と屋根に草花の生い茂る、横穴小屋へ引越す。
第3章:ラッシュとアヤメ
第4章:深い淵
クリークには遊ぶ場所がある。たくさんの草花や生き物のいる浅瀬では泥をはね上げて遊び、家族でクリークへ出かけた時には、ローラは深い淵を泳いで遊んだ。
第5章:きみょうな動物
とうさんがいない時に行ってはいけないと言われた深い淵へ行こうとしたローラは、奇妙な動物に遭う。
第6章:バラの花輪
ネルソンさんから牝牛を一匹譲ってもらい、スポットと名前を付けた。
第7章:屋根の上の牡牛
横穴小屋の屋根の上を牛が暴走し、屋根を踏み抜いて穴をあけてしまう。
第8章:わらづか
小麦を刈り取った後にとうさんが積み上げた麦わらのつか。ローラとメアリーはつかの上で遊んで崩してしまう。
第9章:イナゴ陽気
野生のプラムの茂みで、ローラとメアリーはプラムをもぎ、かあさんと干しプラム作り。
この時期にしては雪も降らずに暑いのを、年寄りは「イナゴ陽気」と言った。
第10章:干し草荒らしの牛の群れ
とうさんの干し草を食べに来た牛の群れを、ローラとメアリーとジャックは大草原まで追い立てる。
第11章:危機一髪
かあさんとキャリーを乗せた馬車を曳く牛が暴走し、土手からクリークに転げ落ちそうになったが、間一髪とうさんが食い止めた。
第12章:クリスマスの馬
第13章:メリイ・クリスマス
ローラとメアリーは、クリスマスの贈り物は馬がいいと言った。
かあさんが小さいころから集め続けたボタンをくれたので、ローラとメアリーは、キャリーへのクリスマスプレゼントにボタンネックレスを作る。
クリスマスの朝、靴下にはプレゼントが、そして家畜小屋には2頭の馬がいた。
第14章:春の出水
第15章:丸木橋
激しい雨が降り、クリークは増水して景色が変わってしまった。増水したクリークにかかる丸木橋の上で遊んでいたローラは、クリークに流されそうになってしまう。
第16章:すばらしい家
第17章:引っ越し
麦まきと種まきが終わった後、とうさんは板材を買い家を建てた。屋根裏部屋とガラス窓、そして料理用ストーブのあるすばらしい家へ一家は引っ越す。
第18章:ザリガニとヒル
第19章:魚とり罠
クリークには生き物がたくさんいる。ローラとメアリーは、ザリガニとヒルを初めて見た。
とうさんは魚とりの罠をつくり、ローラと一緒にクリークに仕掛けて魚を採った。
第20章:学校
第21章:ネリー・オルソン
ローラとメアリーは、初めて学校に通い始める。同じ学校に通うネリー・オルソンは、雑貨店を営む裕福な家の子であることを鼻にかける高慢な少女だった。
第22章:町のパーティー
第23章:村のパーティー
ネリーが家のパーティーに女の子全員を招待した。ネリーの家は家具も人形もおもちゃも、見たことがないほど立派なものばかり。振舞われたのは白砂糖のケーキとレモネード。
お返しにローラは女の子を家に招待した。振舞ったのはヴァニティー・ケーキと冷たいミルク。
かあさんに失礼なことを言ったネリーに腹を立てたローラは、ネリーをヒルのいるクリークの淀みに誘いこむ。
第24章:教会通い
町にできた新しい教会の日曜集会に通うことになり、日曜日は退屈な日ではなくなった。
第25章:ギラギラ光る雲
第26章:イナゴの卵
小麦の刈り入れの直前にイナゴの大軍が襲来し、小麦も草木も食べつくしてしまった。
その後大草原にはびっしりとイナゴの卵が産みつけられ、来年の小麦の収穫の望みがなくなったとうさんは、東部へ出稼ぎに行ってしまう。
第27章:雨
日照り続きの大草原に激しい雨が降り、枯れていた大草原に緑が芽吹き始める。
第28章:手紙
第29章:夜のいちばん暗いときは、夜明けのじき前
とうさんから手紙が届き、無事でいることが分かる。そして冬が近い寒い日の夜、とうさんは帰ってきた。
第30章:町へ行く
食料と日用品、靴と、新しい服を作る生地と組紐を買いに一家で町へ。
第31章:思いがけない事
クリスマスの説教のため夜の教会へ。そこにはクリスマスツリーがあり、大人も子どもも全員にクリスマスプレゼントが配られた。ローラにはミトンと陶器の宝石箱、キャンディーとポップコーン、そして毛皮のケープとマフという素晴らしいプレゼントが。
第32章:イナゴが歩きだした
イナゴの卵が孵り、また一面にイナゴだらけに。しかしある時、イナゴが一斉に西へと移動をはじめ、一匹もいなくなってしまった。
第33章:火の輪
とうさんは再び東部へ出稼ぎに行った。ある日大草原で火事が起き、火のついたタンブル・ウィードが枯草に火を移しながら次々に転がってくるのを、ローラはかあさんと隣人のネルソンさんと必死で消し止める。
第34章:石板のしるし
地面が凍る前にじゃがいもとカブを採り入れ。とうさんが帰ってくる日数を計算して石板に書き入れ、毎日ひとつずつしるしを消して、とうさんの帰りを待ち続ける。
第35章:おるす番
とうさんとかあさんが町へでかけ、子ども達だけで留守番していると、吹雪が近づいてきた。吹雪が来る前に、ローラとメアリーは外の薪置き場から必死に薪を運び込む。
第36章:大草原の冬
第37章:長い吹雪
第38章:ゲームの日
第39章:三日目
第40章:四日目
第41章:クリスマス・イヴ
外へ出て行けない吹雪の日は家の中で家事や勉強、キルトを縫ったりと、一日中忙しい。
吹雪の合間にとうさんは町へ行くが、帰ってくる前に吹雪がやってきた。吹雪の間、かあさんと子どもたちはいろいろなゲームをしたり窓の霜に絵を描いたりして帰りを待つが、四日目にようやく帰ってきた。吹雪で道を見失い、雪の穴の中に落ち込んで帰ってこられなかったのだった。
無事に帰ってきたとうさんとクリスマスを祝い、何もかもが満ち足りた気持ちになった。
★★★〈外の世界へ踏み出すローラとメアリー〉★★★
インガルス一家は町にほど近いプラム・クリークの近くで家と農地を手に入れ、ローラとメアリーは学校に通い始めます。
町から遠く離れた場所で育ち、ごく親戚や少数の隣人としか交流のなかったローラとメアリーは、初めての学校、町での生活、そしてシリーズをとおしてローラのライバル?となるネリー・オルソンの登場と、少しずつ家の外の世界へ出ていきます。
★★★〈ローラの宿敵、ネリー・オルソン〉★★★
裕福な家の娘のネリー・オルソンは、高価できれいな服やたくさんのおもちゃといった物質的な豊かさを自慢し、自分が一番でないと気が済まないという性格で、何かにつけてローラを貧しい村の子と馬鹿にします。
ネリーの両親は子どものわがままを止めようとしません。一方でローラのとうさんかあさんは人に意地悪をしてはいけないと教え込んでおり、ローラはネリーに腹を立てても手をあげたり汚い言葉を吐いたりしません。
生まれ持った性格もあるでしょうが、ローラやメアリーの行儀の良さは、とうさんかあさんの育て方の影響が大きいのでしょう。それを見ても、インガルス家の両親は強さと思いやりの他に礼儀と賢さも兼ね備えているんだなあと思います。
しかし意地悪をされて黙って水に流すほどお人よしではないのがローラ。
「あたしなら、もっとひどい意地悪をしてやれるわ、とうさんとかあさんがゆるしてくれれば、だけど」と腹の中で思い、事故に見せかけて仕返しをするローラは実に痛快です。
★★★〈イナゴ襲来という最大の危機〉★★★
物語の前半は、新しい土地・初めての環境で変化した一家の生活の様子が描かれています。後半ではイナゴの襲来という今までで一番の困難が一家を襲い、自然の中で生きることの厳しさとそれを乗り越える家族の力が描かれています。
現代日本ではあまり馴染みのないイナゴ襲来ですが、アメリカ・アフリカ・アジアなどでは古代から度々発生しています。外国でイナゴが大発生したニュースは見たことがありますが、実際にイナゴが襲来するとどうなるのか、物語を読んでその凄まじさに驚きました。雹のようにイナゴが降り注いで体も服もイナゴまみれ、作物も草木も食い尽くされて大草原が一面イナゴでびっしり、とは悪夢のような光景です。
イナゴに食い荒らされて畑が全滅し、東部へ戻っていく家族が出る中、家の支払いが済んでいないインガルス一家はプラム・クリークに留まり、とうさんが遠い東部の農場へ出稼ぎに行くことで生活を切り抜けます。
とうさんが東部へ出稼ぎに行った時、とうさんからの手紙が届くまで、残された一家にはとうさんがどこで何をしているのか、そもそも無事なのかも分かりませんでした。
大自然の前には人間はあまりに無力であること、それでも大自然の中で生きていく人間の逞しさが際立っています。
★★★〈危機を乗り越えるインガルス一家〉★★★
後半はとうさんが不在になることが多くあります。
かあさんと子どもたちは不安な気持ちでとうさんの帰りを待ち続けるのですが、彼女達も決して沈みこむことはありません。
とうさんが町へ仕事を探しに行った時には、ローラ達は「コテイジ・チーズの真っ白い玉、ゆでたジャガイモを薄く切り特別のソースをかけたもの、バタつきパンとミルク」という特別の夕食を考え、明るく楽しい食卓を用意してとうさんを元気づけます。
とうさんが不在の時は、かあさんと子どもたちは隣人の手を借りながら、畑仕事も家畜の世話も、家の仕事を女性だけでこなし、今までどおりの生活を崩さずにとうさんの帰りを待ちます。
インガルス一家は、強さと優しさを持った、本当に理想的な家族だと思います。
厳しい環境では心が荒んでしまう人たちもいますが、インガルス一家はどんなに困難な状況に陥っても決していがみ合うことなく団結して困難に立ち向かい、乗り越えていきます。
経済的にも苦しく先の見通しの立たない中、それでも笑顔を絶やさず前向きに生きる姿を見ると、理想的な家族とはこのような人達のことを言うのだろう、と思います。
★★★〈家族で暮らすことができる幸せ〉★★★
家に帰ってきたとうさんの「家っていいもんだなあ」という言葉や、クリスマスプレゼントがなくても、とうさんが無事に帰ってきたということが何より嬉しいと思うローラ。
居心地のいい家があり、家族が全員無事に暮らすことのできる幸せ、そしてそれは当たり前のことに思えて、ふとした瞬間に壊れてしまうかもしれないことが伝わってきます。
「幸せに生きること」を続けることの難しさと喜びが、幼いローラの視線から伝わってきました。
★★★〈手芸好きに魅力的な、裁縫の場面〉★★★
食事や家事、家作りなど、当時の生活の描写を楽しむことも当シリーズの魅力。本作でも当時の生活の様子が描かれる場面が多く登場しますが、手芸好きの私が特に惹かれたのが裁縫の場面です。
布製品は買わずに自分たちで作っていた時代、かあさんと女の子たちは、生活に必要なものを手縫いで作ります。
ローラが来ていた服をほどいてキャリーの服と帽子を作り、古いシーツからカーテンを、古い服からカーテンの縁飾りを作るかあさん。
ローラとメアリーの新しい服を作るため、生地と飾り紐を選ぶ一家。
幼いローラとメアリーもはぎれを集めてキルトを縫っています。
縫い物をしているのを見ると、自分も縫物をしたくなりました。
★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★
多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合ってえると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。
1・大きな森の小さな家
2・大草原の小さな家
3・プラム・クリークの土手で
4・シルバー・レイクの岸辺で
5・農場の少年
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
福音館書店
恩地三保子:訳
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6・長い冬
7・大草原の小さな町
8・この楽しき日々
9・はじめの四年間
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
岩波少年文庫
谷口由美子:訳
★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★
「わが家への道」
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
谷口由美子:訳
岩波少年文庫
「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」
ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ
ウィリアム・アンダーソン:文
レスリー・A・ケリー:写真
谷口由美子:訳
求龍堂