「手縫いの旅」

森南海子:著

新潮社

 

 

角巻き、ドンザー、手拭いかぶり、千人針など、かつて使われ時代と共に姿を消しつつある布物たちを訪ねた旅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

県内の古本屋が集まるイベントで見つけました。ハンドメイドが好きなので目に留まり、その内容を見て即購入しました。

 

 

★★★〈著者について〉★★★ 

森南海子氏は服飾デザイナーです。日本にリフォームという言葉を定着させた方で、布の蒐集家でもあります。また体の不自由な方の服や、高齢者向けの燃えにくい繊維を開発するなど様々な方面で活躍されています。

森氏が新聞の家庭面に連載した手作りに関する記事をまとめたのが本書です。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・ハンドメイドが好きな人

・古布が好きな人

・日本の伝統的な服や布小物に興味がある人

 

 

★★★〈本の概要〉★★★

衣服、帽子、袋物など、生活や仕事に欠かせない布物たちはかつて全て手縫いで仕立てていました。時代の変化とともに姿を消しつつある布物たちを、かつて使っていた、今も使っている人の体験談と共に紹介した手縫いを巡る旅。

 

 

★★★〈目次〉★★★

・伝統をまとう

前掛け、角巻き、丹前、紙布、ドンザー、ドンザ2、手甲、ウエスト・コート、作務衣、米袋、身代わり猿、輪下げ

 

・暮らしを着る

割ぽう着、手拭いかぶり、ねんねこ、ちゃんちゃんこ、夏羽織、もんぺ、道修町シャツ、野良着、行商袋、ゆかた、合羽、腹巻き、マイター、ロシアン・ブラウス

 

・布と針目

座ぶとん、雑巾、酒袋、針と糸、ショーツ、千人針、タオル、リフォーム、古布、背守り、年始袋、刺し子、サリー、ポツ絣、針供養

 

・老いを飾る

カラー、ベスト、防寒着、エプロン、パジャマ、さんや袋、おしめ、とげぬき地蔵、残念模様、帽子

 

 

★★★〈生活の知恵が詰まった布物ばかり〉★★★

丹前、ちゃんちゃんこ、手縫いの雑巾・・・かつて当たり前に使われていた、今ではほとんど見ることのない布物たちを紹介した本です。

 

本書では様々な布物が紹介されていますが、ほとんどが使いやすさを重視した実用品です。

(当時の)おしゃれ・ハイカラを求めたデザインもありますが、まずは機能性が第一。山仕事・農作業・漁業・行商などの仕事に適したもの、強い日差しや厳しい寒さから身を守るためなど、様々な知恵が詰め込まれた形をしています。

 

例えば割ぽう着。「割ぽう着」の章には一年中割ぽう着を愛用している女性の話が載っています。彼女は夏用・冬用・合着と使い分け、家事や農作業の邪魔にならないようウエストや袖にゴムを入れたり、季節や用途に応じて袖の形や身幅・着丈を変えるなど様々な工夫を凝らしてします。また自分の好きな柄を選んで自分らしい着こなしをしています。

 

米袋は布を斜めに巻いて折りたたんで縫い繋いで仕立てられています。そうすることで布全体が斜めになり、米を入れて背負う時に自然と体に沿う形になるのだとか。

 

他にも綻びないよう補強したり、ポケットの中の物が落ちないよう形や位置を工夫したり、動きやすい形に仕立てるなど、細かい気配りが随所に見られます。

 

刺し子で生地を補強したり、かちかちに目の詰まった裂き織で仕立てるなど、現代ではなかなかお目にかかれない手法も多いです。一方で使いやすさを追求したデザインには、現代のものにも取り入れられる知恵が盛り込まれています

 

時代と共に使われなくなったもの、時代が変わっても変わらないもの、それぞれ興味深い内容が満載です。

 

 

★★★〈ハンドメイド好き必見!作り方も多数掲載〉★★★

掲載されているほとんどのものに作り方が掲載されています。伝統的な作り方もあれば、現代でも使いやすいデザインにアレンジされたものもあります。機能性を重視したものばかりなので、普段の手作りに役立つヒントがたくさん載っています。

ハンドメイド好きの方なら「あ~なるほど」「このアイデアはあれを作る時に役立ちそう」と思うことが多数見つかるはずです。

 

着物生地を使ったジャンパースカートや前掛け、割ぽう着や手提げなどは今でも使えそうで、着物以外の生地で作っても可愛いと思います。

 

私が気になったのは正月の晴れ着に合わせて持つ「年始袋」。正方形と三角形の布をはぎ合わせて作る、いわばパッチワークの巾着袋ですが、星形の底がとても可愛いのです。布選びによって全く違う印象になりそうなので、リネンや可愛い柄布で作ってみようと思っています。

 

 

★★★〈姿を消しつつある古布を惜しむ〉★★★

古布が好きな人にも興味深い内容だと思います。

化学繊維のない時代に使われているのは綿・麻・毛などの天然素材ばかり。着物の生地・絣・刺し子・裂き織など今では中々見られない素材や手法もあります。

 

「古布」の章で、森氏が京都の市で古布や古い着物を探したエピソードが紹介されています。その時参加した市では古い着物は姿を消して新しい布が増え、古布は小さな端切れの束となって売られていたそう。

 

家庭の中に眠っている古い着物や布は捨てられてしまうものも多いと思います。今でも全国のあちこちで古布を売るイベントが開かれていて、ネットでも買うことが出来ますが、段々と姿を消していくでしょう。

 

私の祖母は私のハンドメイド好きを知って、古い着物や着物を作ったあとの残り布など様々な古布を沢山くれました。使い古された布は柔らかくしなやかで新しい布とは全く違う味わいがあり、私の宝物です。

 

昔と比べ着物を着る人は激減しましたが、ハンドメイド作家やハンドメイド好きの中には古布で洋服やパッチワーク等の作品を作る人もいます。

祖母からもらった古布を大事に活かしたいと改めて思いました。

 

 

★★★〈縫い物の歴史は女性の歴史〉★★★

縫い物は女性の仕事でした。各章には布物を使っていた女性達の話も掲載されていて、人生の喜びや矜持、そして苦労が垣間見える体験談となっています。

 

幼い日の旧正月に、年始袋に祝い餅やするめを入れた思い出。

昼間は山や田畑で働き、夜になると布の綻びを繕っていた生活。

酒粕を絞るのに使う酒袋の破れを繕う役割を担っていた酒造の女性達。

戦争で夫を亡くした後、幼子を抱えて農業や行商で生計を立て、高齢となってもその生業を続ける女性。

 

様々な仕事や家事・育児をこなしながらの縫い物はさぞかし大変だったと思います。

しかし生活に必要なものとはいえ、針目の美しさを競い、刺し子の模様に個性を出し、単なる継ぎ接ぎにならないデザイン性を高めたというエピソードもあります。

見た目の良さや自分らしさを発揮しようとするのは女性の性なのかもしれません。

 

必要に迫られたこととはいえ完成度を追求した女性達の姿から、手仕事の素晴らしさを教えられました気持ちになりました。

 

 

★★★〈昔は布を大切に使っていた〉★★★

女性たちの話からは、布物の扱い方が昔と今では大きく違うことが分かります。

修繕を重ねながら使い続け、古くなったらほどき、小さくなった布も再利用する。布が貴重だった時代には簡単に捨てず徹底的に使うことが当たり前でした。

 

布が貴重という感覚は今ではすっかりなくなりましたが、簡単に捨てるのはもったいないと言う精神が消えたわけではありません。

 

「リフォーム」の章では東京都立川市の団地で手持ちの服をリフォームする女性たちの集まりが、「防寒着」の章では衣服をリメイクして防寒着を作る取り組みをしている岩手県盛岡市の高校生たちが、それぞれ紹介されています。

 

物が溢れる時代でも物を大切に使おうとする精神がまだ生きていることに安堵感を覚えました。

 

 

★★★〈本当のおしゃれとは何かを考えさせらる〉★★★

布を大切に使うことを考えた時すぐに思い浮かんだのが、今では1シーズン使い捨ての服がなんと多いのか、ということ。

 

流行に合わせて毎年服を買い足し、飽きたり汚れたら捨てる。毎年服を買い足しておしゃれを楽しむことは私も大好きですが、着なくなった服を捨てることに罪悪感を覚えるのもまた事実。

大量生産・大量消費がもてはやされた時代もありましたが(今もそうかもしれませんが)、資源を無駄に浪費することが美徳とはとても思えません。

 

そんな服に関して、昔の服をリメイクして着こなす94歳の女性の言葉が印象的です。

 

「なじみのない新しい洋服より、昔のものをあれこれ工夫していまのものに作りかえるのが本当に楽しい。もういらないなどとうっかり判断をしないで、しばらく持ち続けると、いつかきっと役に立つことがあるものですよ。」(147ページ)

 

丈の短い服にヨーク風に足し布をし、昔のスーツにスパンコールを付け、ニット生地で取り外しできる襟を作るなど、様々な方法でおしゃれを楽しんでいた女性は96歳で亡くなる前夜までお元気で、手持ちのスカーフや帯あげで作ったターバンで頭部を飾っていたそうです。

 

祖母はよく、「昔の服は生地が良かった。最近の服は生地が悪い。」と言っています。

確かに祖母の古い服は生地がしっかりしていて、何十年前の服を祖母は今でも着ています。長袖を切って半袖にしたり、ワンピースを短く切ってブラウスにしたり、着なくなった服はほどいてエプロンなどに作りかえています。

 

今は様々なファッションを手軽に楽しめる一方、中には耐久性が無さそうなもの、着心地の悪いもの、縫製が荒いものもあります。安価な製品だと特に。

 

流行のファッションを好むスタイルを否定するつもりはありません。しかし私は本当に気に入った服を、その時の自分の体形や時代に合わせて自分の好きなようにリメイクして着続けるスタイルに惹かれました。

 

気に入った服は長く着たい、まだ着られる服を捨てるのはもったいない、買い替えるよりはるかに安上がり、というのが理由ですが、ハンドメイド好きの性でしょうか、自分でリメイクするセンスと器用さを持ち合わせた女性に憧れる気持ちが大きいです。

 

庶民の生活が厳しくなる一方の現在では、低コストで自分らしい着こなしをするのが身の丈に合ったおしゃれなのかな、と思います。

自分に合わせてリメイクして自分らしいおしゃれを楽しめる女性になりたい、ハンドメイドの腕を上げたいと改めて思いました。

 

 

★★★〈終わりに〉★★★

時代と共に使われる衣服も布物もすっかり様変わりしました。昔を偲ぶ資料として、ハンドメイドのヒント集として、そして物を大切に扱うことを教えてくれる実話として、とても面白く興味深い本です。