「森のおくから  むかし、カナダであった ほんとうのはなし」

レベッカ・ボンド:作

もりうちすみこ:訳

ゴブリン書房

 

 

100年ほど前、カナダの森の中で本当にあった不思議なお話。

 

 

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

県内の古本屋が集まるイベントで出会った絵本です。内容の素晴らしさに一目惚れして即購入しました。

 

 

★★★〈著者について〉★★★ 

レベッカ・ボンドはアメリカ・ヴァーモント州の自然に囲まれた小さな町に生まれ育った絵本作家です。彼女の絵本は本作をはじめ何冊も日本語訳されています。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・森の中、自然に囲まれた場所が舞台の絵本を読みたい人

・野生動物が出てくる絵本が好きな人

・本当にあった不思議な出来事を知りたい人

・子どもだけでなく大人向けでもある絵本を読みたい人

 

 

★★★〈本当にあったお話〉★★★

この話は、レベッカ・ボンドの祖父アントニオが5歳の時に体験した話です。

祖父から子どもたちへ、そして孫へと語り継がれてきた話の中で、作者が特にお気に入りの話を絵本化したのが本作です。

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

1914年のこと。アントニオは5歳で、カナダのゴーガンダという森の中の小さな町に住んでいました。アントニオの母がゴーガンダ湖のほとりでホテルを営んでいて、周りに子どもがいなかったこともあり、アントニオの友達はホテルで働く大人たちでした。

 

ホテルのまわりは深い森で様々な動物たちがいましたが、彼らは人間の立ち入らない森の奥に住んでいて、アントニオの前に姿を見せることがありません。

 

日照りが続いた夏の日、森で火事が起きました。あっというまに火が間に燃え広がり、ゴーガンダの町の人たちはゴーガンダ湖に逃げました。アントニオも母やホテルの人達と一緒に湖の中に逃げ込み、水の中に浸かっていました。

 

すると目の前で思議なことが起こりました。

燃え盛る森の奥から動物たちが次々に出てきて、湖の中に入ってきたのです。

 

キツネ、ウサギ、ヤマネコ、アライグマ、オオカミ、シカ、ヘラジカ、ヤマアラシ、リス、フクロネズミ、クマ・・・

 

人間と動物たちは湖の中でじっと立ち、火事がおさまるのを静かに待ち続けました。

 

 

★★★〈写実的な絵、少し暗い雰囲気。〉★★★

本作の絵は写実的で、雰囲気は少し暗めです。決して「かわいい」絵本ではなく、人によっては地味に感じるかもしれません。

 

しかし写実的な絵なのでホテルの中の様子や動物たちの姿がとてもリアルです。少し暗めの雰囲気も、電気のない当時の暮らしや薄暗い森の中の雰囲気が現れているように感じます。

 

写実的な絵の絵本が好きな人は、きっと好きになる作風だと思います。

 

 

★★★〈生き物の神秘〉★★★

火事に追われた動物たちが湖の中に逃げてきて、シカの隣にオオカミが、ウサギの隣にキツネが、そして人間の隣に多くの動物たちが、争うこともなくじっと立っている。肉食動物は他の動物を襲わない、草食動物も逃げない。そして人間を襲わない、怖がらない。

普段は絶対に近づくことのない動物たちが、湖の中で身を寄せ合って火事が収まるのを待ち、そして森へ帰っていく。

 

山火事という脅威を前に「生き延びる」という本能が動物たちを動かしたのでしょう。誰かに教えてもらったのでもないのに全く同じ行動をとるのは本当に不思議です。「本当にこんなことがあったの?!」と思ってしまう人間の想像を超える出来事に、動物たちの、自然の神秘を感じます。

 

炎が迫る真っ暗な空の下で、様々な動物たちが群れをなして湖に入り静かに佇んでいる様子は本当に神秘的です。

山火事は今でも世界中で起きていることなので、もしかすると本書のような光景が世界のどこかに広がっているかもしれません。

 

 

★★★〈人間と動物の境がなくなった日〉★★★

普段動物たちは人間の前に姿を見せません。漁師が罠を仕掛けたり木を切り倒したりするので、森のずっと奥にいるのです。アントニオは森で足跡や鳴き声など動物たちの痕跡を見つけることはあっても、姿を見ることはありませんでした。

 

しかし森の火事から逃れるため、動物たちは人間のいる湖に入ってきて、息遣いが分かるほど近い距離でずっと立っていたのです。

 

「人間と動物をへだてていたものが、あのあいだだけは、なくなっていたのです」

 

作者の言葉が印象的で、読み終わった後に深い余韻が残るお話です。

 

 

★★★〈当時の暮らしが興味深い〉★★★

アントニオの母が営んでいたホテルは木造3階建て。1階は大きな食堂、2階は旅人や釣りや狩りをしに来た人たちが泊る客室。3階はベッドがずらりと並ぶ仕切りのない広い部屋で、漁師や木こり・銀を掘る人など何カ月も森の中で働く人たちが寝泊まりしています。

 

料理用ストーブのある台所で料理する女性、広い食堂で大人数での食事、旅行鞄、銃や網、ずらりと並んだベッド、暖炉やランプ。

 

部屋の中の様子や生活小物、旅人の持ち物が細かく描かれていて、当時の時代を感じる良い雰囲気なので、カントリー好きな人はきっと興味を惹かれると思います。

 

 

★★★〈終わりに〉★★★

大自然の神秘を感じる、本当にあった不思議なお話です。作者の祖父から子どもたちへ、孫へと語り継がれていったように、いつまでも語り継がれてほしいと思うお話です。

子どもだけでなく大人にも読んでほしいと思う絵本です。