「世界のキッチンから 商品開発と写真の関係」

写真:高橋ヨーコ

美術出版社

 

 

キリンビバレッジの清涼飲料水、「世界のKichenから」シリーズ。

商品開発のために取材した、世界各国のキッチンの写真集。

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

高橋ヨーコさんの写真が大好きで購入しました。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・高橋ヨーコさんの写真が好きな人

・料理が好きな人

・キッチンインテリアに興味がある人

 

 

★★★〈本の概要〉★★★

キリンビバレッジから発売されている清涼飲料水のシリーズ、「世界のKichenから」。(私はこのシリーズ知りませんでしたが、ソルティライチは知っていました)

商品開発のために世界各国のキッチンを取材し、その記録を収めたのが写真家の高橋ヨーコ氏。

 

本書は、シリーズ始まってから12年分の取材の記録写真をまとめた写真集で、世界各国で取材された、多くの家庭のキッチンの写真が収められています。

 

キッチン、料理する人、テーブルに並んだ手作りの料理やお菓子、飲み物。

そして家の周りや、市場など町並みの景色も収録されています。

 

 

★★★〈読み物ではなく、写真集〉★★★

巻末には、商品開発に携わった人たちのインタビューが10ページと、飲み物6品のレシピが1ページ衆力されています。(1品あたり、説明はわずか1~4行。分量も載っていないので、レシピとしては不十分な内容)。他の約300ページは、全て高橋ヨーコさんの写真です。

 

本書は「読み物」ではなく、高橋ヨーコさんの「写真集」。商品開発の裏側などの情報を知りたい人には向きません。写真を堪能したい人向きの本です。

 

 

★★★〈日常をドラマチックに映し出す、高橋ヨーコさんの世界〉★★★

音楽雑誌に載っていた女性ミュージシャンの写真がとても素敵で、写真家の名前を見て高橋ヨーコさんの名前を知りました。

 

高橋さんの写真は、他の写真とは雰囲気が全く違いました。

 

高橋さんの写真にはどれも、「この写真は高橋さんっぽい。」と思うような独特の雰囲気があります。

 

色褪せた古い写真のような色合いは、懐かしさを感じさせます。

柔らかい光に溢れた写真は、夏の東南アジアでも、雪深い北欧でも、どんな場所でも暖かみがあり、どこか乾いた雰囲気です。

 

そして人物と風景の一体感が見事。ひとつの主役が特別目立っているのではなく、映っているもの全てが等しく主役、という印象です。

私が高橋さんを知ったミュージシャンの写真も、「女性の写真」というより、「女性がいる風景の写真」といった感じでした。

 

本書でも高橋ヨーコさんの魅力が詰まっています。

「普通の人の家の、普通のキッチン」なのに、高橋さんが撮ると、まるで映画のワンシーンのようにドラマチックです。

 

 

★★★〈国によって様々なキッチン〉★★★

収められている国は、

イタリア・ハンガリー・スペイン・フランス・キューバ・メキシコ・デンマーク・ベトナム・タイ・スウェーデン・マレーシア・モロッコ・ギリシャ・リトアニア・ドイツ・アイルランド・台湾・ベラルーシ。

 

アジア・アフリカ・ヨーロッパ・北欧・東欧・中南米と、あらゆる地域に渡ります。

表紙の写真は、ベラルーシの写真です。

 

キッチンの種類も、ミキサーなど家電が並ぶ近代的な造り付けのキッチンもあれば、便利な調理家電がなく薪を使って直火で調理するアナログなキッチンもあります。

カントリー調のウッディなものから、昭和の日本を彷彿とさせるタイル張りのものなど、国によって多種多様。

 

壁紙やテーブルクロス、食器のデザイン、調理道具の種類、料理、リビングのインテリアも様々です。ボウル一つとっても、ステンレス製の他にプラスチック製やガラス製・木製、陶器と実に様々。

 

どのキッチンも日本とは全く違っていて、インテリアに興味がある人にとっては、とても興味深くて面白いと思います。

 

 

★★★〈料理の写真も素敵〉★★★

料理の写真も多く収録されています。

どれも日本で見たことのないメニューばかりで、おかずかおやつか分からない料理もちらほら。どんな味なのか想像もできません。例に挙げると、

 

・皿に盛られたソーセージや魚料理。

・ご飯と肉料理、野菜を盛ったワンプレート料理。

・肉と野菜のスープ。

・フルーツのスープ。

・様々な形のパン。

・ケーキやクッキー、タルトタタンなどの焼き菓子。

・レモンやベリーなどの果実を漬けたり、絞ったり、煮込んだりして作られた飲み物。

・台湾の手作りミルク(ピーナッツミルク・黒豆ミルク、杏仁ミルク)。

・お手製のお茶。

 

手作りだけでなく、お店の料理や市場に並ぶ食材の写真もあります。

 

・キューバの有名なアイスクリームパーラーのアイス(店の内装も盛り付けも超シンプル)

・スペインのカフェのテーブルに並ぶケーキとドリンク。

・ガラスビーズのようにカラフルで可愛い、タイのローイゲーオ(塩水につけたイチゴとシロップと氷をガラスの皿に盛ったもの)。

・ハンガリーのパン屋(パンが大きい!)

・メキシコの店にずらりと並ぶ、袋に入った量り売りの豆?香辛料?

 

料理や盛り付けは、日本人から見ると大雑把に見えるものもあります。

・皿に山と盛られた肉や魚(レタスやトマトなどの付け合わせなし)。

・豪快に盛られたワンプレート料理(皿から零れそう)。

・素朴な手作りケーキ(ダイナミックなデコレーション)。

・茶色一色のスープ?お粥?(彩りに欠ける・・・)。

などなど。

 

高橋さんの料理や飲み物の写真は、料理本に載っている「美味しそうな写真」とは全く違います。(決して不味そうなわけではありません!)

どの料理の写真も、そのままポスターやポストカードになりそうなお洒落な雰囲気で、料理本の写真とはまた違った「美味しそうな写真」です。

 

日本の料理と比べると、大胆で彩りにかけると思うものが多いのですが、それが魅力となっているのが高橋さんの写真の凄さ。どんな味がするのか食べてみたい、自分で作ってみたい、と思うものばかりです。

 

食器の柄も日本では見たことがないものが多く、料理と盛り付けを見ているだけでも面白いです。

 

 

★★★〈料理の励みになる女性たちの姿〉★★★

生きるためには食べる事が必要。ですが食べるものが不味ければ、生きることはかなり辛くなると思います。美味しい食事を作る女性たちは、家族の人生を支えていると言っても過言ではないでしょう。

 

料理して皿に盛り付け、パンやケーキを切り分け、お茶を淹れる。料理をする女性達はとても素敵で、絵になります。

 

眺めていると料理がしたくなり、写真に写った女性たちのように料理上手になりたいと思います。

私はこの本を料理本と一緒の本棚に入れていて、時々眺めることで料理への意欲を呼び起こす燃料にしています。

 

 

★★★〈キッチンを見れば生活が分かると痛感〉★★★

「本棚を見ればどんな人か分かる」とはよく聞きます。

「キッチンを見れば、どんな暮らしをしているか分かる」と言えるのでないでしょうか。

 

収録されているのは、様々な調理道具や調味料の瓶が置かれた、雑然としたキッチンばかり。

インテリア雑誌に載っているような、「すっきり片付いて汚れのない、雑貨をバランスよく飾った、おしゃれなキッチン」はありません。

 

油汚れのついたガスコンロや煤けた鍋。年季の入った調理道具たち。果物の入った籠。ドライフルーツや調味料の入った瓶。タッパー。食材の乗った皿や手作りの瓶詰など。

キッチンにはそんなキッチングッズが並んでいて、職人の作業場や芸術家のアトリエのような、心地よく雑然とした雰囲気が漂っています。

 

使い込まれた調理道具や沢山の調味料のボトルが並ぶキッチンを見ていると、きっといろんな料理を作っているんだろうな、料理上手なんだろうな、お菓子もよく作っているんだろうな、と思います。

 

手作りの飲み物が入っている大きなガラス瓶のある家庭は、いつも飲み物をたくさん作って毎日飲んでいるんだろうな、と想像できます。

 

籠に山盛りのレモンを運び、大きなガラス瓶でレモンを漬けるイタリアのおばあちゃんは、レモンの季節に飲み物をたくさん作ることを長年続けているんだろうな、と思います。(テーブルクロスもレモン柄!)

 

森でベリーを摘んで保存食を作るスウェーデンの女性は、ジャムやケーキなどいろんな料理で一年中ベリーを楽しんでいるのでしょう。

 

キューバではパンが配給されていることを知り驚きました。(配給パンはちぎりパン。でもコッペパンみたいに硬そう・・・)

 

キッチンからは、その家の人がどんなものを食べているのか、どんな生活をしているのかが垣間見えると思いました。

 

 

★★★〈終わりに〉★★★

生活感に溢れた、それでいて映画のワンシーンのような場面を集めたようなキッチンの写真集です。

料理に興味のある人ならきっと、心に響く景色が見つかると思います。