原田コーチのブログ -13ページ目

PL

 「昨日、ちょっと母ともめてしまって、まあ私がだだを捏ねた


ってだけなんですけど、部活にも遅れて参加しました・・・・」


「えっ、もめたって何を」 


いつもと少し違った迷いのある表情だった。  


「あの、試験があったんですけど、それがあまり上手くいかな


くて、国語が特に酷くて、前はもっと得意だったんですけど、え


っとそれでテニスについても考えてしまって・・・・・」



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「そうなんだ。部活続けることとか。考えている・・・。今一番好き


なことって何なの・・・」


「あっ、将来なりたいものがあるんです」


えっ、すごいじゃない、自分の中三とは大違いだなこりゃ。


「何になりたいの」 


「演出家です。舞台とかの」


うえーっ、かっこいー。


「いいじゃない、演出家。舞台観に行ったりするんだ」


「はい、親も好きなので家族で一緒に」   最高だ・・・。


「どんなやつ観るの。ミュージカルとか」 


「えっと、キャッツって分かりますか。劇団四季の。他にも凄い


のはいっぱいあるんですけど、あれを観た時に凄いなぁって思


ってしまって」


「そっかー、観にいったことはないなぁ」


「あのキャッツってぇ、舞台をキャッツ用に造るんですよ。いま丁


度横浜に来てるんですけど、みなと未来のあたりに。猫の目線


になれるんです、観客の私たちが。それを初めて体験した時に


凄いなぁって・・・演出って凄いなぁって」


「感動したんだ」       


「そうなんです」 



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でも演出って、そこに意識が向くなんて何と聡明なんだ君は。国


語力も充分だよ。よく伝えられてるし、あなたの気持ち。


「舞台の脚本とかは読んだりしないの。本は読むほう」


「あっ、脚本ではないんですけど、太宰治とか芥川龍之介とか、


純文学は好きなんです。読んだりします」


またしても凄い・・・。


「そこで感じてることが国語力だからさぁ、国語の試験に一喜一憂


しないでいいよ。だって試験てさ、出題した人がどう答えて欲しいか


って面があるから。漢字の問題なんかは、まあすぐ答えのでるもの


だけど。文章読んでってやつはほら、出題者の気持ちになれるかど


うかだから・・・」 どこかで聞いたような処方箋。どれだけできたんだ


よ、自分は・・・。ついでに、英語は国際語だから、日本語の通じない


役者とのコミュニケーションツールとして必須だね。とか、数学は舞


台の空間演出の構築に欠かせない。幾何のセンスを磨く必要がある


のだとかなんとか。すべてあなたの向かっているところに結びついて


いることばかりなんだ。ってことで一時間のレッスンはすでに20分を


経過していた。



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 ここまで来てしまうともう勢いは止まらない。


「今のバックボレーはインパクトだけで打とうとしている。準備が充分


できてないから、慌てて本番に力が入り過ぎちゃった。自信がないか


ら演じた後の雰囲気を楽しめなかった。フォロースルーもバランスよく


姿勢を味わって!」


力が入っちゃってるのは僕のアドバイス。ついやってしまう状況説明、


現象の報告。アシスタントコーチに「見たことの報告(生徒の方のミス


の原因説明など)はいらないよ。もし何か声を掛けるなら技術を発見


できる導きを・・・」 なんてベテランぶっているのに。


まあまあ、そう言わずに。思いっきり学んでるのはコーチの自分。生


徒の方の感じていることに触れて、感心するばかりなのだ・・・。


大ちゃんへの手紙

 読書について。


あの、20年程前の自分、フライングソーサー(レンタルレコード店)で


CDを拭いたり、JO’S BARから石川町に歩いて、終電に乗り損ねて


再びJO’Sに戻ったりしていた時代。既にあの頃から大ちゃんは、僕(


大ちゃん)は文章の人と言っていた。はっきりと憶えているのは、そこに


憧れや嫉妬のようなものが混在していたからで、意識して本を手に取り、


いつか自分もOOの人って言ってみたいなぁ、なんて雲を見上げてそん


な気分に浸っていた。



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 ホテルの朝食はバイキング、みたいなもので手当たり次第に文章を読


んでみた。斉藤孝さんの本にもある通り、ヨガの先生方もおっしゃる通り、


沢山読んでも何の整理もされないまま、消化されない麦飯の上にクロワ


ッサンを重ねて押し込んでも、取り立てた効果が期待できるわけもなし。


そんな時代から比べれば、幾分落ち着いたかもしれません。ヨガの先生


は2冊くらいを持ってくださいとおっしゃられた。もちろん理想はそうなんだ


けど・・・。今の自分を認めてあげて。無知からの脱出に読書は助けになろ


うか。 



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 不安や迷いの心の拠り所。そんなどうしようもない癒しの空間の真ん中に、


読書を選んできたのだから、まずは感謝です。そうそう・・・。この助けがなか


ったら、今はないのだから。これからも一文字一文字、大切にしながら読ん


でいきます。「効果」なんて知りません。何の期待も、何の獲得も。それ以外


に何もない、澄み切った水と空気のバイキング。そんな風に雲を見上げて、


やっぱり本を手に取ってしまって、恥ずかしながら眼で追っています・・・。



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人生万歳

永 「民俗学のほうでいうと、最初に入ってきた人にやさしくする人


というのは、そこの集落の中で浮いている人で、皆が歓迎したら、


それは早く帰ってもらいたいから歓迎してるんだと。この二つを押


さえておかないとうまくいかないんですね」


      ・・・・「人生万歳」 永六輔 瀬戸内寂聴 ~新潮文庫~



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やっぱりそうか。僕は(ずうずうしい表現だ !)どちらかというと初め


て会う人に好意的で、それは悪いことではない、ぐらいに思ってい


たけど、むむむ・・・。浮いてるとか、空気が読めないとかって経験、


確かに多いかもしれない。


 でも、みんなが歓迎してくれたら、それは帰れの合図なのか。それ


は困った。ついつい歓迎ムードに任せて長居してしまったりして。宴


もたけなわ、気持ちよく過ごしている時間の内に、帰りのタイミングが


あるってことかな。それなら分からなくもないけど・・・。



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 ま、この永さんと瀬戸内さん。お二人の前向きトークを窺っていると、


歓迎ムードに甘えさせてもらいたくなっちゃいますよ、それは。読書っ


て、随分自分勝手に時間を使えちゃうもので、浮いているとか、KYと


かってことと無縁の、極楽浄土を覗かせてもらえるんだな。民俗学の


ほうでは・・帰ってください・・ってのも面白いではないの、と達観できて


しまうくらい他人事。今夜はちょいと長居させてもらいますよ・・・・!



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1988春

 雨上がりの湿った風が、草の馨りをはこんできた。


八王子市といってもかなり郊外、いや山間の斜面に


大学のキャンバスは広がっていた。駅からの道程は


半分が未舗装の獣道。鬱蒼と茂る草木の合間から、


やっと学部の校舎が顔を覗かせた。



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「あっ、山越え?」 「うん、この道が好きなんだよね」


チャーリーは同じ学科の同級、彼も山越えを気に入


っているのだろう。


ズッチャ、ズッチャ、ズッチャカズッチャ。粘りつく足


元から不規則なリズム。少年ナイフのたどたどしい


演奏を思わせる。チャーリーはコアな音楽博士。時


間があれば中古レコード店を徘徊し、鋭い分析でみ


んなを唸らせる。フリッパーズギターがメディアに紹


介された時に、「チャーリーだ・・・・!」と息を呑んだ。


まずは基本ね、ってことで今日の課題はネオアコー


スティック。オムニバスのカセットを渡されると、その


クレジットには・・・スミス、キュアー、エコー&バニー


メン、マイブラディーバレンタイン、ジョイディヴィショ


ンに至ってはそのニューオーダーまでの軌跡の解説


が、そうかと思えばB面は、エヴリシングバットザガー


ルから始まる和み系アコースティック。最早ネオアコ


は逸脱し、ヴェルヴェッツ、トム=ウェイツで締めくくり。


まるで映画を見た後のような満腹感。ノートを一冊使い


切った時の充実感。僕にとっての大学の授業とは、チャ


ーリーのオムニバステープ。次の課題はテクノポップ。


明日も山越えを正午前に行えば、きっと素晴らしい講義


と出会えるはず。至福の時を求めて、ズッチャ、ズッチャ、


歩みを進める音が続いてゆく・・・。



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1983冬2

 リックに何か名案があったとは思えない。この夜風の冷たい


季節に風呂上りの散歩とは、唐突な思いつきにしてもあまりに


侘しい選択だ。



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 しかし、リックはある種の賭けに出て、勝利を収めたかのよう


に笑顔だ。一緒に外を歩いている4人全員が足取りも軽く、その


表情はむしろ晴々としていた。日中もかなり気温が上がっていた


ようだが、夕方近くになってもまだ2月とは思えない程生温い風


が、ゆるやかに4人の間をすりぬける。散歩は正解だった。宿を


離れて間もなくは、自分達の部屋の灯りを探しては虚無感に襲


われていた。それがいつの間にか、いつも以上に近づいて見え


る満月、雪と枯れ木で浄化された空気に触れていると、身体の


中心から気持ち良さが充満していった。



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 4人はいつしか部屋のことなど忘れて、学校のこと、部活のこ


と、将来についてなど、生き生きと語り合っていた。招かれざる


僕らの妙な一体感。ひょんなことから心が解放された。満月の


縁取り部分が、ゆらゆらと温かく燃えているようだった。



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1983冬

 あれは確か群馬県だったと思う。例えば武尊とかなんとか。


中2の冬にみんなでスキーに行った。もんもんと浮かない顔


なのに、左右の頬にはニキビが浮かんでいる。レンタルの用


具もいま一しっくりいってない。それでもそこは友達同士の楽


園で、何者にも強制されない自由な旅、気持ちの開放感は何


にも代えがたいものがあった。雪面はキラキラで、リフトの錆


やスキー板のロゴが欠けていることなど、気持ちを落としてし


まいそうな材料までもが、澄んだ空気と眩い日差しのもとで楽


しげに映る。この明るさはなんだろう。そんな思いつきの哲学


体験。普段の何倍も自然の中にいて、生きて呼吸することを


はじめて意識した。



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 もうそろそろ宿に帰るかって頃、山根とイッソンが何やらリフ


トの隣に女の子をしたがえていた。とは言え何とも落ち着かな


い男に対し、女子のほうが話題を提供している様子。ふん、か


っこ悪いやつらめ・・・。いや、そうではなく、とても楽しそうだ。


民宿に戻ると、山根とイッソンはみんなよりちょっと遅れて部屋


に入って来た。その表情はどこか誇らしげで、その口ぶりは何


時にも増して慎重だった。「なあ、ちょっとお願いがあるんだけど、


ちょっと聞いてくれる。ま、大したことでもないんだけど」もったい


ぶらずにさっさと言っちまえ。イッソンが覚悟を決めた。「この部


屋今から3時間くらい俺達に貸してくれないか」3時間なんてか


わいいことを抜かしやがって・・・。「・・・・・」


 「別にいいよ、お前たち使って」リックがみんなを促した。「俺た


ちは風呂入ったら、みんなで散歩にでも行こうぜ」


                               ・・・・・・つづく


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1981秋

 少年野球チーム、我らがレッドスネークスは、ハッシの父さん


の強運な右腕によって引かれた抽選のくじにより、見事戸塚区


の代表に選ばれてしまった。何の事情かは忘れてしまったのだ


が、修学旅行の延期が相次ぎ、大会の日程と重なる学校が多く、


途中まで勝ち残っていた数十チームによる抽選が選択された。



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 「おいっ、回れ回れー」


かつて僕がこれ程まで熱く絶叫した試合があっただろうか。本大


会は横浜の代表を決める試合。僕らはラッキーが続き準決勝に


駒を進めていた。今考えれば相当無理な日程だった。本来内野


手でリリーフの僕のピッチングは今一歩安定しない。初戦、二回


戦と1イニングづつを投げたが、いよいよ切羽詰った準決の場面


では、エースのハッコウに頼るしかなかった。朝から連戦の三試


合先発。さすがに日没間近で、これが今日の最終であることは分


かっていた。元来コントロールとドロップボールの変化で勝負する


ハッコウのストレートは、明らかに精彩を欠いていた。1対3で迎え


た6回の表、ヒーのセンター前で一気にサードベースを蹴るオッカ


に対して、明らかに感情むき出しで絶叫している僕がいた。



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 「外野なんか見てんじゃねー、全力で駈け抜けろー」


みんな立ち上がって腕をぐるぐる回している。いつもはクールなコ


ンブまで、顔を真っ赤にして必死の形相だ。サノピンとクワバが引


越した後は、この6年生チームは9人で頑張ってきた。ユウゲが眼


をつぶって泣きそうな顔。ハッシはヘルメットを脱いで胸の前で抱え


ている。タッタが僕の肩に手をあて、そして叫んだ。


 「ヘッドで行けー、よけろー」 「アーウトー」 「・・・・・・・」


結果は3位だった。抽選会からの3週間、つかの間の夢を見ていた。


チームは一つになっていた。地球全体から見れば、埃のように微細


でローカルな大会。それでも僕らには輝いて感じられた。次の週末、


胸にはブロンズメダル。表彰の後レストランで、オレンジジュースの


乾杯をした。それからみんなとは、小学校の卒業以来縁遠くなって


しまった。あの時のみんなは何してるんだろう。何になったのかな。


久し振りに思い出したら、何だかいとおしく感じられた。



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大ちゃんへの手紙

 いやー、大ちゃん。元気、あまりないです。


な、何だこの始まりは。でも、手紙とかって、こんな風に息も絶え絶え


ってな時に、友達を頼って、書いたりするものなのかもしれない。


ほら、だんだん書いているうちに調子がでてきて、しまいには前向きに


なっちゃってる、ってなこと。あるんだよね。大ちゃんはどう。


そっか、ものすごく変だよね、こんな風に語りかけることが。


ま、仕方ないことなんだな。


最近僕は、呼吸が短い。深く吸ってー。ゆっくり吐いてー。


ヨガの呼吸で、温まるけど。深い瞑想には、遠く及ばず。


ちょこちょこ暮らして、ちょこちょこ進んで、ちょっくり友達のことを考え


たりして・・・・時が過ぎていくのを、後から必死に、追いかけていく。


ま、受け止めていきたいっすね。



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よし、行くぞー!2

 次の日帰りの新幹線で、二人の息子はスヤスヤ


寝息をたてている。スキー場も雪山も、彼らにとって


は初体験。ガーラ湯沢の駅からゲレンデにつながる


ゴンドラの中で、歓喜の雄叫びをあげていた。


「うわー、すげーな。あの人、すごいスピードでこっち


に降りてくるぞ。なあ、スキー借りてみるか」


「えー、ソリがいいな」 そうだな。


形に拘る大人な自分。子供たちの素直な心に便乗し、


こうなったら徹底的にソリ遊びを極めるぜい。幸いソリ


専用子供ゲレンデがあって、何度も何度もレースした。


アラスカ選手権の次はバンクーバーカップ、最後は全


日本選手権。すっかりアスリート気分を満喫して、温か


いお風呂にも入ったのだから、それは寝てもらわないと


困るくらいなのだ。結局この顔を見たい自分が、また次


の計画を立てるのだな。本日は拙者の勝ちである・・・!?



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よし、行くぞー!

 よし、明日行こう!



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「明日スキー行きたい人、手を挙げてー」


「はーい」 「はーい」 よし、じゃー行こう。


「えっ、明日って、明日のこと?」 「そうだよ」


妻は目が点に・・・。実は、不安があったのだ。


スキーに行きたい人・・・で無反応、或いは「ス


キー?別に行きたくなーい」の可能性も充分考


えられた。長男はこの春から小学生、時折こち


らの陽動策が見透かされ、冷めた反応の時も


ちらほら。40歳の大人風情が静かに落ち着き


はらって見せても、実子の顔色を伺ったりして。


我が子、などと言っても勿論全くの別人格。その


彼らがたまたま「やったー」となったのだから、行


かないわけにはいかない。一番喜んだのは、今


ほっと深い深呼吸をしている自分なんだな・・・。



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