肉と同じように魚にも部位があります。小型の魚だと腹側の身と背側の身のふたつに分けられます。大型のマグロになると、腹側のトロだけでも3つに分けられます。

 背側の身も、頭にちかい身と尾にちかい身と真ん中の身の3つに分かれます。その下が赤身で、骨のまわりは中落ちといわれます。部位にはそれぞれ特徴があり、ちがいもあります。その特徴にあわせて、切り方を変えたり、調理法を考えたりするのが料理の醍醐味だといえます。

 部位による特徴は、マイナスポイントである場合もあります。そのときは、マイナスポイントを打ち消すような工夫をして、魅力的な料理に仕上げるようにします。仕入れた食材のすべてを使いきり、さまざまな商品をつくるのが調理師の仕事なのです。

 

 魚をさばくと、ふつうに調理できる身のほかにでてしまうのがアラです。アラは頭部や背骨、皮や内臓といった部分です。あんまり食べるところはないので、アラは捨ててもいい部分です。

 しかし、毒がないかぎり食べられる部分だともいえます。工夫しだいでりっぱな料理になりますし、その調理法を先人たちがきちんと残してくれています。

 

 アラのなかでも、カマは使いやすい部位だといえます。カマは頭部と胴体の境目にあり、胴体のいちばん先にあたります。

 魚を三枚におろして切り身にするときに、最初に切り落とすのがカマです。カマには胸ひれがついていて、それを支える骨やスジがあるので、切り身としては使えないからです。ふつうに切り身として調理することはできませんが、カマにも身があり、食べることができます。

 

 水中生活の魚にとって、胸ひれは重要なヒレです。左右のバランスの維持のために、つねに動いているのです。泳いでいるときはブレーキの役目をしたり、方向転換するときにも使われます。胸ひれを使って後退することもできるそうです。

 胸ひれが進化したのが陸上動物の前足であり、腕にあたります。そう考えると、いろいろな動きに用いられるのも納得がいきます。胸ひれがあるカマには、多くの筋肉がついているといえ、その分食べられる身も多くなるということです。マグロやブリのカマはとても大きく、捨てることなどできない部位なのです。

 

 カマは、そのまま塩焼きにしてもいいですし、煮つけにすることもできます。脂があるので、身はやわらかくフワフワしています。焼き物にすると、脂がふつふつとしみ出してきて、香ばしさを演出してくれます。

 煮つけにしたときには、脂が煮汁に溶けだして、うまみに変わります。それが生かされているのがブリ大根です。ブリ大根はカマなどのアラだけを用いて大根をおいしく仕上げる料理で、骨がやわらかくなるまで煮るのがポイントです。カマを含めたアラの良いところだけを利用した料理だといえます。