とろろにするイモを山芋と呼ぶことがあります。しかし、山芋という名の野菜は存在しないようです。粘り気のあるイモ類はヤマノイモ科に属します。ヤマノイモ科という名称に山芋の字があてられ、そこから意味が混同されてしまったのだと思います。
ヤマノイモ科はナガイモの仲間とジネンジョの仲間に分けられます。ジネンジョはその名の通り、山に自生するイモです。一部では栽培されているようですが、流通量は限られています。一般に見かけることはないのではないでしょうか。
ジネンジョは、古くから日本に自生していて、日本が原産地です。もういっぽうのナガイモは大陸から持ち込まれた野菜で日本に広まり、各地で栽培されています。価格も安定していて、一年中手に入ります。
ナガイモの仲間として、丸型のツクネイモやイチョウイモがあります。イチョウイモは文字通りイチョウの葉のような形のイモで、平べったいかたまりをしています。大和芋ともよばれ、私にはこっちのほうが馴染みがあります。
大和芋をすりおろすと強い粘りをみせます。手に持つことができるくらいの粘りで、ご飯にかけたりするとろろには、大和芋がいいと思います。すりおろした大和芋はそのままでもおいしいですが、料理の材料としても重要です。
しんじょを作るときは、つなぎとして大和芋が使われます。しんじょの特徴といえる、ふわふわ感を出すのは、大和芋の力によるものです。ほかに、和菓子にもよく使われます。大和芋はクセがない素直な味なので、どんな料理に使っても邪魔をしません。色が白なのもいいところです。
なにかと使い勝手のいい大和芋ですが、ナガイモほど流通していませんし、値段もちがいます。ナガイモが身近すぎるというのもありますが、ナガイモのように普及してくれたらいいのにと思います。
手に入りやすいのはまちがいなくナガイモですから、ナガイモを大和芋の代用品として使えないものだろうか、と考えてしまいます。ナガイモと大和芋は同じ仲間なので、無理なわけではないと思うのです。
結論をいうと、ナガイモは大和芋の代用品にはなりません。大和芋のいちばんの特徴である強い粘りが、ナガイモにはないからです。
ナガイモは100gのうち80パーセントが水分なので、粘りが弱いのは仕方がないのです。大和芋の水分は65パーセントなので、はっきりとしたちがいがあるといえます。
密度が濃い分、ナガイモよりも大和芋のほうが、さまざまな成分が多く含まれることになります。とはいえ、ナガイモには、味がさっぱりしているとか、糖質やカロリーが低いといった良いところがあります。同じ仲間であっても得意不得意が分かれているということです。